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【合併】合併に関する特定資産に係る譲渡等損失|法人税法第62条の7(特定資産に係る譲渡等損失額の損金不算入)

法人税法第62条の7(特定資産に係る譲渡等損失額の損金不算入)をもとに合併に関する規定を解説します。

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概要

内国法人を合併法人とする特定適格組織再編成等(適格合併を含むが、共同で事業を行うための合併等に該当しないもの)が行われた際の、特定資産に係る譲渡等損失額(特定資産譲渡等損失額)の損金不算入について定めています。

この規定は、合併法人と支配関係法人との間に、特定組織再編成事業年度開始の日の5年前の日から継続して支配関係があったと認められる場合を除き適用されます

制限の対象となる特定資産譲渡等損失額とは、主に次に掲げる損失の合計額を指します。

1. 合併法人が支配関係法人から特定組織再編成により引き継いだ特定資産(支配関係発生日以前から保有されていたもの)の譲渡、評価換え等による損失。

2. 合併法人が支配関係発生日以前から保有していた特定資産の譲渡、評価換え等による損失。

これらの損失は、特定組織再編成事業年度開始の日から原則3年間(最長5年間)の対象期間において、合併法人の所得の計算上、損金の額に算入されません

また、支配関係にある被合併法人等同士の合併により法人を設立する特定適格組織再編成等が行われた場合についても、この損金不算入の規定が準用されます。この制度は、組織再編を利用した欠損金の利用を防ぐためのものです。

解説:支配関係がある法人間での合併と「資産の含み損」の税務上の取扱い

序文

本レポートは、会計事務所の新人スタッフやクライアント企業の経理を担当されている方々を対象に、法人税法における極めて重要な規定の一つである「特定資産に係る譲渡等損失額の損金不算入」(法人税法第62条の7)について、その核心を分かりやすく解説することを目的としています。

組織再編、特に法人間での合併は、事業の成長戦略として有効な手段ですが、税務の観点からは注意深い検討が求められます。特に、支配関係(親子会社関係など)のある法人間での合併においては、被合併法人(消滅する会社)が抱える資産の「含み損」を利用した租税回避行為が問題となることがあります。

具体的には、含み損のある資産を持つ会社を合併し、その資産をすぐに売却することで損失を実現させ、合併法人の利益と相殺して課税所得を不当に圧縮しようとする動きが考えられます。本規定は、こうした「損失の持ち込み」による租税回避を防止するために設けられたセーフティネットであり、その趣旨と内容を正確に理解することは、予期せぬ税務リスクを回避し、適正な申告を行う上で不可欠です。

この知識は、合併前のデューデリジェンスから合併後の税務処理まで、実務のあらゆる場面で皆さんの判断を支える確かな土台となるでしょう。

1. 導入:この規定はなぜ実務で重要なのか?

組織再編、特に合併は、事業規模の拡大やシナジー効果の創出といった経営上の目的だけでなく、税務上の影響も非常に大きい取引です。その中でも、私たちが特に関心を払うべきなのが、支配関係のある法人間での資産の移動です。

ここで、一つ具体的なシナリオを想像してみてください。

大きな利益を上げているA社(合併法人)があるとします。一方、A社が支配している子会社のB社(被合併法人)は、業績は好調ですが、過去に取得した土地の時価が大幅に下落し、帳簿価額との差額である「含み損」を多額に抱えています。

もし、何の規制もなければ、A社はB社を吸収合併し、B社が持っていた含み損のある土地をすぐに市場で売却することができます。そうすると、B社が抱えていた含み損は、A社の「実現した損失」となり、A社自身の利益と相殺することが可能になります。結果として、A社の課税所得は圧縮され、納めるべき法人税が不当に少なくなってしまうのです。

このような「含み損」を抱える法人をいわば「損失の器」として利用し、税負担を軽減する行為を防止することこそが、法人税法第62条の7に定められた「特定資産に係る譲渡等損失額の損金不算入」規定の制度趣旨です。

この規定を正しく理解していなければ、合併計画の初期段階(デューデリジェンス)で重大な税務リスクを見落としたり、合併後の税務申告で誤った処理を行ってしまったりする可能性があります。したがって、本規定の知識は、クライアントに適切なアドバイスを提供し、企業の健全な税務コンプライアンスを確保するために、私たち専門家にとって不可欠な武器となるのです。

2. 結論:結局、どのような処理になるのか?

複雑な条文の詳細に入る前に、まずはこの規定の結論、つまり「結局、どのような税務処理になるのか」を明確に理解しておくことが重要です。核心を先に押さえることで、後続の詳細な解説がスムーズに頭に入ってきます。

法人税法第62条の7が適用される場合、税務処理は以下のようになります。

• 基本ルール 
支配関係が発生してから5年以上継続している場合を除き、「特定適格組織再編成等」に該当する合併を行った場合、合併法人は、合併後一定期間、特定の資産から生じる譲渡損などを損金の額に算入できません

• 対象資産 
このルールが適用されるのは、支配関係が始まった日の属する事業年度の開始日よりも前から両社がそれぞれ保有していた資産(これを「特定資産」と呼びます)に限られます。

• 影響 
結論として、合併によって含み損のある資産を引き継いだとしても、それをすぐに売却等して損失を計上し、法人税を減らすという行為に「待った」がかかることになります。税務上、その損失は一定期間なかったものとして扱われるのです。

この結論が実務家にとって持つ意味は非常に大きいものです。

つまり、「合併を計画する際は、単に事業シナジーだけでなく、対象資産の含み損の有無、そしてその資産の保有期間や支配関係の発生時期といった税務上の時間軸を必ず確認しなければならない」ということです。

では、この結論を導き出すための具体的な要件について、次章で詳しく見ていきましょう。

3. 詳細解説:制度のポイント

結論で示したルールの適用には、いくつかの具体的な要件があります。これらの要件を一つずつ正確に理解することが、実務における適切な判断の基礎となります。

3.1. 適用対象となる合併とは?

本規定は、あらゆる合併に適用されるわけではありません。以下の要件を満たす合併が対象となります。

• 当事者:
「支配関係法人」との間の合併 本規定は、親子会社のように一方の法人が他方の法人を直接または間接に50%超保有するような「支配関係」がある法人間の合併が対象です。

• 合併の種類:
「特定適格組織再編成等」 税務上の「適格合併」だけでなく、「完全支配関係がある法人の間の非適格合併」なども含まれます。この規定は、適格合併だけでなく、適格分割や適格現物出資など、資産を簿価で引き継ぐ可能性のある組織再編を広く対象としています。本稿では特に実務で相談の多い合併に焦点を当てて解説します。

• 重要な除外要件 
以下のケースでは、本規定は適用されません

1. 共同事業目的の場合: 
複数の企業が共同で事業を行うための合併など、租税回避目的とは認められない一定の組織再編は対象外です。

2. 支配関係が5年以上継続している場合: 
支配関係が発生してから5年以上が経過している法人間の合併は、適用対象から除外されます。これは、長期間にわたる支配関係があれば、その後の合併が含み損の持ち込みを主目的とした租税回避行為である可能性は低い、と考えられるためです。実務上、この「5年ルール」は非常に重要な判断基準となります。

3.2. 損失計上が制限される「特定資産」とは?

損金不算入の対象となるのは、無差別にすべての資産ではありません。いつから保有していた資産か、という点が極めて重要です。対象となるのは、以下の2種類の「特定資産」に限定されます。

1. 特定引継資産
定義: 
被合併法人(消滅会社)から合併によって引き継いだ資産のうち、「支配関係発生日の属する事業年度開始の日」よりも前から被合併法人が保有していた資産を指します。

趣旨: 
まさに、グループ外から持ち込まれた含み損を実現させようとする行為を直接的に規制するものです。

2. 特定保有資産
定義: 
合併法人(存続会社)自身が、「支配関係発生日の属する事業年度開始の日」よりも前から保有していた資産を指します。

趣旨: 
これは一見不思議に思えるかもしれませんが、重要な租税回避防止策です。もしこの規定がなければ、合併法人が元々抱えていた含み損のある資産を、合併によって得た被合併法人の事業から生じる利益と相殺できてしまいます。つまり、被合併法人の事業を『自社の含み損を実現させるための利益の受け皿』として利用する行為を防ぐ目的があるのです。

なぜ「支配関係発生日」そのものではなく、「支配関係発生日の属する事業年度開始の日」という時点がこれほど重要なのでしょうか。これは、この規定が「元々は無関係だった第三者間で生じていた含み損」を、支配関係になった後にグループ内に持ち込んで利用することを防ぐためのものだからです。この日付の判定は非常に厳格ですので注意が必要です。

なお、事業活動で日常的に増減する「棚卸資産」や、金額的に重要性の低い「少額な資産」は、実務上の煩雑さを考慮し、この規制の対象から除かれています。

3.3. 損失が損金不算入となる「対象期間」

損失が損金不算入となる期間(対象期間)は、永久ではありません。以下の通り定められています。

• 原則 
合併があった事業年度の開始日から「3年を経過する日」まで。

• 上限 
ただし、上記の期間の終了日が、「支配関係を有することとなった日から5年を経過する日」を超える場合は、その「5年を経過する日」が上限となります。

この期間設定は、合併後すぐに含み損を実現させて租税回避を図るという短期的な行為を、最低でもこの期間は封じるという意図を明確に示しています。

3.4. その他の重要な例外規定

最後に、実務上まれですが重要な例外規定に触れておきましょう。合併の当事法人が、過去の赤字により多額の繰越欠損金を持つ「欠損等法人」に該当する場合、本規定の適用が調整されることがあります。

これは、欠損等法人については、別途、資産の譲渡損失に関する厳しい租税回避防止規定が設けられているため、それらの規定との調整を図るための措置です。このほか、合併後に欠損等法人に該当した場合や、連結納税(グループ通算)制度の適用を開始した場合などにも、本規定の適用関係に影響が生じる場合がありますが、これらは非常に専門的な論点となるため、ここでは割愛します。

これらの詳細な要件は、相互に関連し合っています。支配関係の有無、その発生時期、資産の保有時期、そして合併のタイミング。これらの一つでも見落とすと、税務上の判断を大きく誤るリスクがあります。次の章では、これらの知識を実務にどう活かすべきかを総括します。

4. まとめ:実務上の注意点

これまで解説してきた理論を、実際の業務に落とし込むためには、具体的なアクションプランが必要です。支配関係のある法人との合併を検討・実行する際に、経理担当者や我々会計専門家が留意すべき実務上の注意点を、以下に4つのポイントとして整理します。

1. 合併前のデューデリジェンスの重要性
・合併の検討段階で、相手方法人が保有する土地、有価証券、その他固定資産に大きな含み損がないかを徹底的に調査する必要があります。
・もし含み損のある資産が見つかった場合は、それがいつから保有されている資産なのかを必ず確認してください。これが「特定資産」に該当するか否かの最初のチェックポイントです。

2. 「支配関係発生日」の正確な把握
・本規定が適用されるか否かを判断する上で、すべての時間軸の起点となるのが「支配関係発生日」です。株式取得の契約書、株主名簿の異動履歴など、客観的な証拠に基づいてこの日付を正確に特定し、記録しておくことが極めて重要です。
・この日付を誤ると、「5年ルール」の判定を誤り、適用がないと思っていたのに後から指摘される、という事態に陥りかねません。

3. 合併後の資産管理体制の構築
・もし本規定の適用を受けることになった場合、損金不算入の対象となる「特定資産」と、それ以外の資産を明確に区別して管理する社内体制が必要です。
・固定資産台帳や管理帳簿上で「特定資産フラグ」を立てるなど、誰が見ても対象資産が識別できるような仕組みを整備することをクライアントに助言しましょう。

4. 税務申告時の留意点
・対象期間中に特定資産から譲渡損などが発生した場合、会計上は費用・損失として計上されますが、税務上は損金不算入となります。
・したがって、法人税申告書を作成する際には、別表四(所得の金額の計算に関する明細書)において、会計上の損失額を「加算」する申告調整が必要になることを絶対に忘れないでください。

この規定は一見複雑ですが、本日解説した『損失の持ち込み防止』という制度趣旨さえ掴んでいれば、各要件の意図が手に取るように理解できるはずです。皆さんの仕事は、この知識を武器に、クライアントが意図せず税務リスクを抱え込むことのないよう、合併の初期段階から的確なアドバイスを行うことです。

判断に迷う局面では、決して独断せず、必ず我々経験者に相談してください。それがクライアントを守り、ひいては皆さん自身を守ることに繋がります。

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