日本基準ののれんは「20年以内のその効果の及ぶ期間」で規則的に償却します(企業会計基準第21号32項)。当サイトの横断集計では、償却年数を把握できた1,088社の中央値は10年で、最頻値も10年(452件)。
では上限の20年を設定したのはどんな会社なのでしょうか。
当サイトの償却年数の観測(会社×年数)計1,937件のうち、20年は121件(6.2%)。少数派ですが決して例外ではなく、そこには数千億円級ののれんを抱える大型M&Aが並びます。
本記事は、有価証券報告書の企業結合注記から「20年償却」の実例を金額つきで紹介し、10年・15年組との違いを読み解きます。
結論:大型案件にも20年償却の実例がある——ただし金額だけでは決まらない
のれん発生額が大きい案件には、20年償却の実例が複数あります。最大のツルハホールディングス(ウエルシアホールディングスとの経営統合)はのれん4,431億円を20年で均等償却——年間ベースでは約222億円の償却負担となる単純計算で、効果の及ぶ期間を20年と見積もったことを意味します。
一方で、積水ハウスは1,254億円ののれんを10年、三井住友フィナンシャルグループは1,792億円を15年で償却しており、大型案件だから必ず20年になるわけではありません。
本記事で確認した発生額数百億円超の13案件でも、償却年数は10年から20年(および年数非開示・上限20年)まで割れており、金額の大きさだけで年数が決まるわけではないことが分かります。「効果の及ぶ期間」をどう見積もるかは個別の判断であり、その差が毎期の利益に直接効いてきます。
▶ ダッシュボードで確かめる:
「企業結合注記ナビゲーター」では、のれんの金額・償却年数を会社横断で検索できます。
実例:20年償却の大型案件と、年数非開示・上限20年の参考案件
当サイト収録の有価証券報告書(2021年6月期〜2026年3月期・18,253本)から、償却期間20年を注記原文で確認できた大型案件を掲載しています。
SGホールディングスは具体的な年数が非開示のため、「上限20年」の参考案件として併記しています。金額は各社の注記記載値(1案件単位・単位:百万円)です。
| 会社名 | のれん発生額 | 相手先・対象 | 償却期間 | 年度 |
|---|---|---|---|---|
| ツルハホールディングス | 443,066百万円 | ウエルシアホールディングス(株式交換による経営統合) | 20年均等償却 | 2026年2月期 |
| 日本郵船 | 210,858百万円 ※配分前 | MOVIANTO INTERNATIONAL B.V.(医薬品物流) | 20年均等償却 | 2026年3月期 |
| 三菱UFJフィナンシャル・グループ | 149,781百万円 | Link Administration Holdings(豪州・年金運営管理等) | 20年均等償却 | 2025年3月期 |
| イオン | 141,989百万円 | ツルハホールディングス(連結子会社化) | 20年均等償却 | 2026年2月期 |
| SGホールディングス | 81,792百万円 | Morrison Express(フレイトフォワーディング) | 年数非開示(効果の発現する見積期間・上限20年) | 2026年3月期 |
| 近鉄グループホールディングス | 64,947百万円 | 近鉄エクスプレス(連結子会社化) | 20年均等償却 | 2023年3月期 |
| イズミ | 56,318百万円(暫定) →36,434百万円(確定) | 西友の九州食品スーパー事業(吸収分割承継) | 20年均等償却 | 2025年2月期(2026年2月期に確定) |
| フジ | 26,966百万円 | マックスバリュ西日本(株式交換・逆取得) | 20年均等償却 | 2023年2月期 |
ドラッグストア・小売の経営統合、物流・フォワーディングの海外買収、金融グループの海外事業取得——20年償却を開示した案件では、各社が長期の効果発現期間を見積もったことが分かります。ただし、シナジーの具体的な回収期間まで開示から確認できるわけではありません。
なおSGホールディングスは具体的な償却年数を開示しておらず(「効果の発現する見積期間(20年以内)」との記載)、厳密な20年適用の案件とは区別されます。
日本郵船の210,858百万円は取得原価の配分が完了する前の金額で、確定時に修正され得ます。イズミは実際に翌期の確定でのれんが36,434百万円へ修正された実例で、暫定額がどれだけ動き得るかを示しています(仕組みは「暫定的な会計処理の確定の実例」参照)。
フジの案件は会計上の取得企業が逆転する「逆取得」の希少事例でもあります(逆取得の実例で詳述)。
対比:同じ大型案件でも10年・15年・19年を設定した会社
20年が「大型案件の標準」かというと、そうではありません。以下は同規模以上ののれんで、より短い償却期間を設定した実例です。
| 会社名 | のれん発生額 | 相手先・対象 | 償却期間 | 年度 |
|---|---|---|---|---|
| 第一生命ホールディングス | 200,592百万円 ※暫定 | ベネフィット・ワン(福利厚生代行) | 10年均等償却 | 2025年3月期 |
| 三井住友フィナンシャルグループ | 179,196百万円 | Fullerton India Credit Company(インド・金融) | 15年均等償却 | 2022年3月期 |
| 積水ハウス | 125,389百万円 | M.D.C. Holdings 他33社(米国・戸建住宅) | 10年均等償却 | 2025年1月期 |
| マツキヨココカラ&カンパニー | 119,500百万円 | ココカラファイン(株式交換による経営統合) | 19年均等償却 | 2022年3月期 |
| 商船三井 | 105,803百万円 | LBC Tank Terminals(欧米・タンクターミナル) | 16年均等償却 | 2026年3月期 |
マツキヨココカラ&カンパニーの「19年」や商船三井の「16年」という年数からも、償却期間が案件ごとに個別に見積もられていることが分かります。
ただし、その年数が投資回収計画とどのように対応するかまでは、開示からは確認できません。同じドラッグストア再編でも、ツルハ(20年)とマツキヨ(19年)で年数が分かれている点は、償却期間が個別の見積りであることの好例です。なお第一生命ホールディングスの金額は、注記時点で取得原価の配分が完了していない暫定値です。
🤝 企業結合注記ナビゲーターβ 有報「企業結合等関係」注記2,122社分を横断検索。のれん償却年数・取得対価をベンチマーク →20年償却は全体でどのくらいあるのか
当サイトの集計では、償却年数を把握できたのは1,088社(一括償却のみの22社を含めると1,110社)。分布の単位は「会社×償却年数」の延べ観測件数で、計1,937件のうち10年(452件)・5年(386件)・7年(165件)・8年(127件)・20年(121件)・15年(111件)の順、中央値は10年でした(1社で複数年数を使う場合はそれぞれ数えるため、件数は社数とは一致しません)。
🤝 企業結合注記ナビゲーターβ 有報「企業結合等関係」注記2,122社分を横断検索。のれん償却年数・取得対価をベンチマーク →20年は観測全体の6.2%と少数派ですが、121件という数字は「上限いっぱいはほぼ使われない」という通念を否定するには十分です。
分布の詳細と業種別の傾向は「のれん償却年数の実態」で解説しています。
毎期の償却負担で読む:20年設定の損益インパクト
償却期間の設定は、毎期のP/Lに直接跳ね返ります。
ツルハののれん443,066百万円を20年で割ると年約222億円。仮に10年で償却するとした場合は年約443億円と、営業利益(のれん償却は販管費)への影響は倍になります(いずれも年間ベースの単純計算です。実際の各期の償却額は、企業結合日や期中の月数により異なります)。
逆に言えば、長い償却期間は年間の償却額を小さくする一方、帳簿価額の減少が緩やかになるため、減損判定の対象となるのれんの残高が比較的大きく残る期間が長くなります。
投資家・分析者としては、
- 償却年数と会社の説明(効果の及ぶ期間の根拠)
- のれん残高と純資産の比率
- 被取得事業の業績モニタリング開示
の3点をセットで見るのが実務的です。
集計方法とデータの限界
本記事の事例は、有価証券報告書「注記事項(企業結合等関係)」の抽出テキストから、のれんの金額と償却期間の記載を案件単位で突合し、注記原文の文脈(被取得企業名・法的形式・償却方法の記載)を確認したものです。
分布統計は当サイト集計記事の公開値を引用しています。網羅リストではなく、抽出で捕捉できない開示形式の案件は含まれません。
※正確な内容は各社の有価証券報告書原本をご確認ください。
よくある質問(FAQ)
Q1. のれんの償却期間は自由に決められるのですか?
日本基準では「20年以内のその効果の及ぶ期間にわたって」定額法その他合理的な方法により規則的に償却します(企業会計基準第21号32項)。
投資回収期間や事業計画に基づく見積りであり、恣意的な設定は監査上も認められません。
Q2. IFRSでものれんを償却しますか?
IFRSではのれんを償却せず、少なくとも年1回、および減損の兆候がある場合に減損テストを行います。
日本基準との違いは「のれん償却 IFRSと日本基準の違い」で解説しています。
Q3. 途中で償却期間を変更できますか?
新たな情報の入手等に基づく合理的な見積りの変更であれば、会計上の見積りの変更として将来に向かって処理されます(企業会計基準第24号)。
変更が認められるかどうかを含めて個別の判断が必要なため、監査人にご確認ください。
Q4. 20年償却の会社を自分で探せますか?
企業結合注記ナビゲーターで償却年数フィルタを使うと、20年を含む各年数の適用会社と注記原文を確認できます。
まとめ
のれんの20年償却は、観測1,937件中121件(6.2%)と現実に使われており、本記事で確認した20年償却の実例はドラッグストア再編・物流の海外買収・金融の海外事業取得など、各社が長期の効果発現期間を見積もった大型案件でした。
一方で、同規模ののれんを10年・15年・19年で償却する会社も多く、金額の大きさだけで年数が決まるわけではありません。償却期間はあくまで個別の見積りです。年数の設定は毎期の償却費と、のれんの帳簿価額の残り方に影響します。
——注記の償却期間欄は、企業結合の効果を会社がどう見積もったかを示す情報です。全体分布はのれん償却年数の実態、案件の金額ランキングはのれん発生額ランキングをご覧ください。
出典・注記
- 本記事の事例・金額・償却年数は、金融庁EDINETの有価証券報告書「注記事項(企業結合等関係)」を当サイトが抽出し、注記原文と突合した参考値です(2026年7月時点。対象は2021年6月期〜2026年3月期の18,253本、2021・2026年度は部分収録)。
- 日本郵船の金額は取得原価の配分前、第一生命ホールディングスの金額は取得原価の配分未完了の暫定値です。イズミは2026年2月期の確定注記の金額を併記しています。
- 分布統計(観測1,937件・1,088社・中央値10年等)は当サイト集計記事の公開値です。
- 会計基準は企業会計基準第21号「企業結合に関する会計基準」によります。
- 本記事は一般的な情報提供であり、記載企業の評価や投資判断の推奨を目的とするものではありません。
コメント