スポットワーク仲介の株式会社タイミー(215A)は、2024年7月26日に東証グロース市場へ上場しました。公募による新株発行を行わず、海外売出しを中心とする売出しのみで上場したこと、上場4か月前にA〜C種優先株式を一括転換したことなど、資本政策の面で参照価値の高い事例です。
本記事は、同社の有価証券届出書(新規公開時・訂正を含む)をもとに資本政策を読み解く、IPO準備会社の経営陣・管理部門と会計税務専門家向けの実例研究です。
- 上場までの1株当たり価格指標の推移
- 優先株式の転換と株主構成
- 資本政策に潜む会計税務の論点
の3つを押さえます。数値の元データはIPO資本政策データベース(387社収録)の個社カルテで確認できます。
📈 IPO資本政策データベースβ 新規上場企業の届出書「第四部 株式公開情報」を構造化。資本政策・株式異動・新株予約権・大株主・初値を横断比較 →IPOサマリー
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 上場日/市場 | 2024年7月26日/東証グロース |
| 公開価格 | 1,450円(仮条件1,350〜1,450円の上限) |
| 初値 | 1,850円 |
| 公開価格ベース時価総額 | 約1,379億円(公開価格1,450円×発行済株式数95,139,000株) |
| 公募/売出し | 公募なし/引受人の買取引受による売出し32,310,800株(国内・海外合計)+オーバーアロットメントによる売出し4,771,400株 |
| 主幹事 | 大和証券・三菱UFJモルガン・スタンレー証券・モルガン・スタンレーMUFG証券(共同主幹事会社兼ジョイント・ブックランナー) |
| 監査法人 | EY新日本有限責任監査法人 |
| 株価算定方式(届出書記載) | DCF法+純資産方式+類似会社比準方式(3方式の総合勘案) |
この会社の資本政策 3つの注目点
- 公募ゼロ・海外中心の大型売出型上場
新株発行を行わず、OAを含む最大売出株数37,082,200株は上場前発行済株式数の約39.0%に相当します。売出しは米国・欧州を中心とする海外市場向けが中心のグローバル・オファリングでした(内訳は本文参照)。直前期の純資産62億円・2期連続黒字という財務状況が、新株発行による調達を必要としなかった背景の一つと考えられます。 - 上場4か月前にA〜C種優先株式を1対1で普通株式へ転換
2024年3月12日付で取得条項に基づき自己株式として取得し、対価として優先株1株につき普通株式1株を交付・消却、定款の種類株式の定めも廃止しています(届出書注記より)。 - 潜在株式比率13.04%は収録387社中の上位9%
11回のSO発行で潜在株式14,265,000株を積み上げており、行使価額は調達の進行にあわせて階段状に上昇しています。
1株当たり価格指標の推移──株式移動価格・SO行使価額・公開価格
届出書から読み取れる1株当たり価格指標の推移(2024年3月末の1:3,000株式分割調整後)は次のとおりです。2021年4月のSO行使価額42円から、約3年で公開価格1,450円に至っています。
| 時期 | イベント | 価格指標(分割調整後) |
|---|---|---|
| 2021年4〜5月 | SO発行(第1・2・6回/取締役・従業員105名・社外協力者) | 行使価額42円 |
| 2021年10月 | SO発行(第3回) | 行使価額98円 |
| 2022年2〜4月 | 株式移動(VC・事業会社→MIXI、海外ファンド等) | 移動価格277円 |
| 2022年9月 | 役員から従業員持株会へ譲渡/SO発行(第8〜10回) | 255円 |
| 2023年10月 | SO発行(第11・12回/取締役へ大型付与) | 行使価額619円 |
| 2024年2〜4月 | SO発行(第13・14回) | 行使価額734円 |
| 2024年7月 | 上場 | 公開価格1,450円(初値1,850円) |
※各価格は株式の種類、取引条件、評価目的、付与対象、時点等が異なるため、単純に同一条件の株価推移を示すものではありません。本表では株式分割調整後の価格指標を時系列で整理しています。
この推移は、業績の立ち上がり(売上高は2019年10月期0.8億円→2023年10月期161億円、2022年10月期に黒字化)と歩調を合わせた水準で動いています。移動価格・持株会への譲渡価格・SO行使価額が同時期でほぼ同水準に揃っている点は、価格水準の整合を意識した運用と読むことができます。
価格の算定は「DCF法、純資産方式及び類似会社比準方式により算出した価格を総合的に勘案」する3方式型で、387社調査でみた最多パターン(83社)に該当します。
優先株式の転換と上場直前の資本政策イベント
上場直前の1年間には、資本政策上の重要イベントが集中しています。
時系列では、2023年10月にSO大型付与(第11回・取締役2名へ4,320,000株・行使価額619円)、2024年2月26日に優先株式の取得決議、3月12日にA〜C種優先株式のすべてを1対1で普通株式へ転換・消却、3月13日に種類株式の定款廃止、3月31日に1:3,000の株式分割、そして7月26日の上場という流れです。
優先株式で調達を重ねたスタートアップが、上場に向けて資本構成を普通株式に一本化し、分割で投資単位を調整する──グロース上場の直前工程が、この順序で確認できる事例です。
ストックオプションの設計
SOは2021年4月から2024年4月まで11回発行され、潜在株式は14,265,000株・潜在株式比率13.04%です(計算式は比較表の注記参照)。
設計面の特徴は3点あります。
第一に、行使価額が42円→98円→255円→619円→734円と調達・業績の進行にあわせて階段状に上昇しており、各回の水準は同時期の移動価格・算定価格と整合しています。
第二に、従業員向け回号は行使開始を付与の約2年後に設定しており、税制適格SOの権利行使期間に関する要件の一つとは外形的に整合しています(要件判定ツール参照)。
第三に、付与対象に「社外協力者」を含む回号があります。役員・従業員以外への付与は通常の税制適格SOとは対象者要件が異なりますが、一定の認定を受けた社外高度人材等が「特定従事者」として対象になる制度もあります。届出書の付与対象の表記だけでは税制適格・非適格、有償・無償の別までは判断できないため、同種の設計を参照する際は契約内容の確認が必要です。
売出し前の株主構成(届出書記載時点)
届出書に記載された売出し前の株主は51名。
属性別の内訳は、
・経営陣・安定株主38.2%(潜在込み・うち代表個人21.96%+資産管理会社の株式会社Recolle 8.27%)
・VC/ファンド29.5%
・事業会社等21.7%
・従業員/持株会2.8%
です。
事業会社にはMIXI(5.59%)、エン・ジャパン、サイバーエージェントと協業関係のある株主が並び、海外ファンド(Keyrock 7.27%、JEC2、Woodline)は2022〜2024年の上場前セカンダリー取引で参入しています。
なお、この構成は売出し前の時点のものであり、売出しにより各株主の持分は変動しています。上場前から既存株主間の株式流動化が活発だったことは、結果として売出型IPOという着地と整合的です。
公募・売出しの構成
公募はなく、引受人の買取引受による売出し32,310,800株と、オーバーアロットメントによる売出し4,771,400株が行われました。OAを含む最大売出株数は37,082,200株で、上場前発行済株式数95,139,000株の約39.0%に相当します。
売出しの大部分は海外向けで、届出書では国内売出6,353,300株・海外売出25,957,500株を目処とし、最終的な内訳は需要状況等を勘案して売出価格決定日に決定するとされています。OAは大和証券が株主のMIXI・サイバーエージェントから株式を借り受けて行う設計でした。
少なくとも、新株発行による資金調達を伴わず、発行体に資金が入らない設計であることは事実として読み取れます。ロックアップ(継続所有確約)・親引けの詳細は本データベースの構造化対象外のため、目論見書・取引所開示で確認してください。
収録387社との比較(2026年7月時点)
| 指標 | タイミー | 収録387社の中央値 | 位置づけ |
|---|---|---|---|
| 潜在株式比率 | 13.04% | 7.85% | 上位9% |
| VC・ファンド比率 | 29.53% | 4.8% | 上位23% |
| オーナー比率(個人+資産管理会社) | 30.23% | 34.64% | ほぼ中央値 |
| 公開価格ベース時価総額 | 約1,379億円 | 約63億円 | 384社中11位 |
※潜在株式比率=潜在株式数÷(発行済株式数+潜在株式数)。
比較は2026年7月時点の収録387社(時価総額は算出可能な384社)に対するものです。大型VC調達を重ねた会社としてはオーナー比率が中央値近辺に保たれており、SOによる経営陣・従業員のインセンティブと外部資本のバランスを取った構成になっています。
会計税務の視点
同社の届出書からは3つの論点が読み取れます。
①資本金1億円の維持
──経営指標等の推移をみると、大型の優先株調達(2021年9月の増資では資本金が一時21億円規模)を行いながら、各期末の資本金は一貫して1億円です。増資後に資本金を1億円へ戻す資本政策は、当時、外形標準課税や中小法人向け制度との関係から実務上みられた対応です。
ただし、その後の税制改正により、減資後も資本金と資本剰余金の合計額等によって外形標準課税の対象となる場合があるため、現在同様の対応を行う場合には最新制度に基づく判定が必要です。
②優先株式の転換スキーム
──取得条項に基づき優先株式を自己株式として取得し、対価として普通株式を1対1で交付・消却する方式です。
取得対価が株式のみの場合の課税関係(株主側のみなし配当・譲渡損益の取扱い)は交付条件により異なるため、同種のスキームを検討する際は原典の条件確認と税務専門家の関与が必要です。
③従業員持株会への譲渡価格
──2022年9月の役員から持株会への譲渡は255円で、同月のSO行使価額(255円)と同水準です。
役員・従業員関係の株式移転で価格の一貫性を保つことは、給与課税・贈与認定リスクの管理として参照価値があります。
まとめ
タイミーの資本政策は、
優先株式による大型調達
→上場前の株式流動化(セカンダリー)
→優先株転換・分割による資本構成の整理
→公募ゼロ・海外中心の大型売出型IPO
という一連の流れとして読むと一貫しています。
SO行使価額と移動価格の整合、資本金1億円の維持など、税務面の設計も含めて参照点の多い事例です。
同社の資本政策推移表・株主の全リスト・SO明細はIPO資本政策データベースの個社カルテで、株価算定方式の全社傾向は387社調査記事で確認できます。類似の資本政策(VC比率上位・売出型)の他社事例も、横断サマリーのランキングから絞り込めます。
📈 IPO資本政策データベースβ 新規上場企業の届出書「第四部 株式公開情報」を構造化。資本政策・株式異動・新株予約権・大株主・初値を横断比較 →出典・免責
- 本記事はEDINET提出の株式会社タイミーの有価証券届出書(新規公開時・2024年6月21日提出、訂正届出書4回・最終)の記載に基づく実例研究です
- 売出株式数・主幹事は訂正届出書の記載によります。
- 引用は記載の趣旨を一部整形して転記しています。
- 個人株主はダッシュボードと同一方針で属性表記に匿名化しています(役員・大株主個人A等)。
- 本記事は情報提供を目的としており、特定銘柄の投資勧誘ではありません。
- 個別の税務・会計判断は税理士または公認会計士にご相談ください。
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