「上場前の株式移動」「上場直前の第三者割当」と検索すると、投資家向けに「上場前に安く株を持てた人が得をする」という切り口の記事が目立ちます。
しかし、IPO準備の現場で発行体が実際にどのような目的で、誰から誰へ、いくらで株式を動かし、それが届出書にどう開示されるのか──その「実務の実態」を示すデータは、ほとんど公開されていません。
そこで本記事では、2021年11月以降にEDINETへ提出された有価証券届出書(新規公開時)387社分を全量集計し、第四部「株式公開情報」に記載された株式移動・第三者割当の状況を調査しました。詳細は当サイトのIPO資本政策データベース(387社収録)で確認できます。
なお本記事で「IPO前」「上場直前」という場合、直前の数か月だけでなく、第四部の記載対象となる基準事業年度末日の2年前の日から上場日前日までの期間を指します(基準事業年度末日と上場日の間隔によっては上場の2年以上前の取引も含まれ、実際に後掲の網屋の例は上場約25か月前です)。
本記事はIPO準備会社のCFO・管理部門と、支援する会計税務専門家向けの実例研究です。
- 株式移動の移動先の実体属性と目的
- 移動・割当の時期と価格の記載状況
- みなし譲渡・みなし贈与・資産管理会社スキームなど税務上の論点
の3つをデータで押さえます。
投資判断のための記事ではなく、発行体側の資本政策設計と開示実務の視点で整理します。
結論:株式移動は314社・第三者割当は316社に記載、移動先は特定属性に偏らない
結論は次の4点です。
- 上場前の株式移動の記載がある会社は314社(81.1%)
記載のない会社は70社、機械抽出上の判定が困難な会社が3社で、合計387社です。大多数の会社が上場までに何らかの株式移動を経ています。 - 移動先は特定の属性に偏らない
移動の記載3,449件を移動先の実体属性で分類すると、創業者・役員・親族(個人)23.9%、従業員・元従業員(個人)20.9%、事業会社・その他法人20.6%、VC・ファンド・金融投資家19.9%と、個人・事業法人・投資家にほぼ4分されます。VC等への移動は約2割にのぼり、「発行体内部だけの再配置」とは言えません。 - 第三者割当の記載がある会社は316社(81.7%)、うち増資(普通株・優先株)を伴う会社は161社(41.6%)
優先株式(種類株式)による調達を行った会社は75社です。 - 移動・割当の価格や算定根拠は、同一の届出書内で公開価格と比較できる形で開示対象となる
移動3,449件のうち単価を数値として取得できたものは1,814件。低廉譲渡・みなし贈与や資産管理会社への移動など、税務専門家が関与すべき論点が可視化されます。
以下、制度の仕組み、集計の中身、届出書の実例、専門家が押さえる論点を順に整理します。
なぜ株式移動・第三者割当が届出書に載るのか──第四部「株式公開情報」の仕組み
上場時の有価証券届出書には「第四部【株式公開情報】」という、通常の有価証券報告書にはないセクションがあります。ここには原則として基準事業年度末日の2年前の日から上場日の前日までの、特別利害関係者等(役員・大株主・これらの資産管理会社等)による株式等の移動状況と、第三者割当等の状況が、価格・算定根拠とともに記載対象となります。
本記事でいう「株式等の移動」は、東証の開示ルール上の区分です。特別利害関係者等による株式・新株予約権の譲受けまたは譲渡のほか、新株予約権の行使も含まれます。既存株主間の株式譲渡では発行体に資金は入りませんが、新株予約権の行使では行使価額が会社へ払い込まれます。したがって、すべての「株式等の移動」で会社に資金が入らないわけではありません。
一方、「第三者割当等」は、会社が募集株式または新株予約権を特定の相手に割り当てる行為で、増資であれば会社に資金が入ります。
第四部ではこの2つが別の注記として記載され、原則として移動価格・発行価格と、その算定根拠が開示されます。
つまり、
上場申請期を含む直近2年強の資本異動は、誰が・誰に・何株を・いくらで動かしたかが、上場後に誰でも検証できる形で開示されます。
株式移動が「上場前にこっそり安く配る」ものではなく、算定根拠とともに開示される前提で設計される実務であることが、この制度の出発点です。価格の算定方式そのものの分布は、姉妹記事未上場株式の株価算定方法|IPO387社で見るDCF法・純資産法の実務で詳しく扱っています。
【387社集計】上場前の株式移動の実態
調査の概要
- 調査対象:
2021年11月〜2026年7月にEDINETへ提出された新規公開時の有価証券届出書の対象候補のうち、第四部「株式公開情報」の記載がある387社。TOKYO PRO Market上場は対象外。本記事の「全量」とは、この対象範囲に該当する387社すべてを指します - 集計箇所:
第四部「株式公開情報」の「株式等の移動状況」および「第三者割当等の状況」の注記(訂正届出書はセクション単位で最新の記載を採用) - 集計単位:
移動先・理由の分布は移動レコード単位、会社の有無は会社単位で数えています - 移動先の分類方法:
移動先は1レコードにつき、移動先の名義(属性)に基づき一つの代表カテゴリへ排他的に分類(重複計上なし)しています。分類の優先順位は、①従業員持株会(移動先が持株会そのもの)②発行会社(自己株式取得等)③VC・ファンド・金融投資家④個人(役員→従業員→その他の順)⑤法人(資産管理会社→事業会社)です。届出書で付される「特別利害関係者等(大株主上位10名)」という区分は属性を問わず付されるため、移動先属性とは別のフラグとして扱っています(後述) - 留意事項:
機械抽出・分類を含むため、個別案件の判断ではEDINET原文の確認を推奨します。資産管理会社は届出書に「議決権の過半数を所有する会社」等の記載がない場合、事業会社・その他法人に含まれることがあります
移動先の内訳──役員・従業員・事業会社・VCの4属性にほぼ均等に分散
移動の記載3,449件を移動先の実体属性で分類すると、次のとおりです。
| 移動先の実体属性 | 件数 | 構成比 |
|---|---|---|
| 創業者・役員・親族(個人) | 824件 | 23.9% |
| 従業員・元従業員(個人) | 721件 | 20.9% |
| 事業会社・その他法人 | 711件 | 20.6% |
| VC・ファンド・金融投資家 | 685件 | 19.9% |
| その他の個人株主 | 206件 | 6.0% |
| 発行会社(自己株式取得等) | 96件 | 2.8% |
| 従業員持株会(移動先が持株会) | 93件 | 2.7% |
| 資産管理会社 | 77件 | 2.2% |
| その他・不明 | 36件 | 1.0% |
移動先は、創業者・役員・親族などの個人、従業員、事業会社・その他法人、VC・ファンド等の投資家に、ほぼ4分される形で分散しています。
VC・ファンド・金融投資家への移動が約2割(685件)を占める点は重要で、「上場前の株式移動=発行体内部の再配置」という単純化は実態に合いません。会社単位では、VC・ファンド等への移動があった会社は143社、資産管理会社への移動があった会社は53社、創業者・役員・親族への移動があった会社は170社でした。
なお、届出書で「特別利害関係者等(大株主上位10名)」の区分が付された移動は3,449件中2,116件(61.4%)にのぼります。これは移動先が上場準備企業のコア株主であることを示す別軸のフラグで、上表の実体属性(個人か法人か、VCか事業会社か)とは異なる観点です。
したがって「大株主上位への移動が多い」ことと「VCへの移動が少ない」ことは同義ではありません。
移動の理由──持株会運用・インセンティブ・資産管理が三本柱
移動理由の記載を分類すると、上位は次のとおりです(レコード単位・代表的な区分のみ抜粋)。
| 移動理由の区分 | 件数 |
|---|---|
| 従業員持株会の解散・退会にともなう移動 | 432件 |
| 投資回収・保有方針の変更による売却 | 193件 |
| 従業員持株会からの持分引き出し | 172件 |
| 経営参画意識の向上・インセンティブ目的 | 168件 |
| 新株予約権の権利行使にともなう取得 | 100件 |
| 資産管理会社への移動 | 46件 |
| 相続 | 20件 |
| 贈与 | 14件 |
持株会がらみの移動(解散・退会・引き出し)が大きな塊を占めるのは、上場準備の過程で持株会制度を整理・再編する会社が多いためです。これらの移動は移動先が元会員(個人)となるため、上の移動先分類では個人(従業員・元従業員等)に計上されています。
一方、経営参画目的の移動、資産管理会社への移動、相続・贈与にともなう移動は、いずれも税務上の時価と譲渡価格の関係が論点になる類型で、後述します。
移動の時期──中央値は上場の14か月前、大半が24か月以内に集中
移動の記載を上場日からの月数でみると、中央値は上場の14か月前、4分の1が上場前5か月以内に行われています。
第四部の記載対象が上場の約2年前からであることも影響し、移動の77.5%が上場24か月以内に集中します。上場が近づくほど、移動価格は公開価格と近い時期の水準として比較されやすくなり、価格設定の説明責任が増していきます。
移動価格──数値取得できた移動は1,814件、価格記載の実態には幅がある
移動レコード3,449件のうち、データベース上で単価(移動価格)を数値として取得できたものは1,814件でした。残る1,635件には、原文上単価の記載がないもの(当事者間の協議により決定・注記参照等)のほか、複数価格が一つの欄に記載されているもの、文字列表示などにより機械的に数値化できなかったものが含まれます。
したがって、この1,635件をすべて「原文に価格の記載がない」と解釈することはできません。価格が記載される場合、その算定根拠として「DCF法により算出した価格を参考に当事者間で協議のうえ決定」といった注記が付されます(算定方式の分布は株価算定方法の記事を参照)。
価格が同一の届出書内で公開価格と比較できる以上、低い価格での移動は「なぜその価格なのか」の説明が事実上求められるのが実務です。
【387社集計】第三者割当の実態
第三者割当等の記載がある会社は316社(81.7%)。その中身を種類別にみると、次のとおりです。
| 第三者割当の種類 | 記載のある会社数 | 記載件数 |
|---|---|---|
| 新株予約権(ストックオプション)の割当 | 296社 | 985件 |
| 普通株式の増資(第三者割当増資) | 98社 | 211件 |
| 優先株式(種類株式)の発行 | 75社 | 219件 |
※会社数は種類間で重複します(同一社がSOと優先株式の双方を行う例が多いため)。普通株式または優先株式による増資を伴う第三者割当を行った会社は、重複を排除して161社(41.6%)です。
件数でみるとストックオプションの割当が最多で、これは上場準備企業の多くがインセンティブ設計としてSOを複数回発行するためです(SO比率の全量調査は近日公開の別記事で扱います)。
一方、増資(普通株・優先株)を伴う資金調達型の第三者割当を行った会社は161社(41.6%)。とくに優先株式による調達は75社にみられます。発行・保有・普通株式への転換のいずれかの形で種類株式が届出書に記載された会社は、全体で130社に及びます。
第三者割当(発行年月日ベース)の種類別の時期をみると、中央値は
・優先株式の発行が上場の約23か月前
・普通株式の増資が約21か月前
・ストックオプションの割当が約18か月前
で、いずれも株式移動全体(約14か月前)より早い段階に分布します。
優先株式による資金調達が最も早く、株式移動が最も直前に寄る、という時系列がデータから読み取れます。
実例でみる株式移動・第三者割当の型(データベース収録事例から)
代表的な型を実例で紹介します。
引用は届出書の記載の趣旨を一部整形して転記したもので、書類管理番号でEDINET原文を確認できます(縦覧期間経過後は閲覧できない場合があります)。個人株主はダッシュボードと同一方針で属性表記に匿名化しています。
各社の資本政策の全体像はIPO資本政策データベースの個社カルテで確認できます。
📈 IPO資本政策データベースβ 新規上場企業の届出書「第四部 株式公開情報」を構造化。資本政策・株式異動・新株予約権・大株主・初値を横断比較 →型1:資産管理会社への移動──網屋(4258)、イメージ・マジック(7793)
創業者・役員が個人で保有する株式を、自身が支配する資産管理会社へ移す型です。
網屋では、上場の約25か月前(2019年11月20日)に代表者側の資産管理会社へ1,456株が単価50,000円で移動した旨が記載されています。
イメージ・マジックでは、上場の約4か月前(2021年10月28日)に「代表取締役等が議決権の過半数を所有する会社」へ50,000株が単価1,200円で移動しています。
資産管理会社への移動は、個人から法人への非上場株式の譲渡であり、譲渡価格と税務上の時価との関係(後述の低廉譲渡・みなし譲渡)が典型論点になります。
型2:新株予約権の権利行使にともなう移動──Recovery International(9214)ほか
役員・従業員が付与済みのストックオプションを行使し、新株予約権が株式に変わる型です。
Recovery Internationalでは、上場の約4か月前(2021年10月8日)に代表取締役社長がSOを権利行使し株式を取得した旨が単価50,000円で記載されています。権利行使による取得は移動理由として100件記録されており、権利行使では通常、行使価額が会社へ払い込まれます。
行使時の課税(税制適格か非適格か)が論点になります。税制適格SOの要件は税制適格ストックオプションの解説および要件判定ツールを参照してください。
型3:優先株式ラウンドによる第三者割当──ネットプロテクションズHD(7383)、JDSC(4418)、エクサウィザーズ(4259)
VC等から種類株式で調達する型です。
ネットプロテクションズホールディングスはA種優先株式を1株1,000円で、JDSCはB種優先株式を857円で、エクサウィザーズはB種優先株式を31,500円で発行した旨が記載されています。
優先株式は上場前に普通株式へ転換されるのが一般的で、ラウンドごとの発行価格の連続性や、直近取引価格を参照した価格設定が算定注記に表れます。
優先株式の転換実務は個別事例としてタイミー(215A)の資本政策でも扱っています。
型4:上場直前期の移動──スマートドライブ(5137)
上場の約1.6か月前(2022年10月28日)に「当社資本政策のため」として単価400円の移動が記載された例です。
公開価格の決定時期に近い移動は、公開価格との水準差が誰の目にも明らかになるため、価格の合理性と目的の説明が最も問われる類型です。直前期の移動は、件数としては全体の一部ですが、審査・開示の両面で注意が要ります。
税務上の論点──「移動価格」と「時価」の距離が生むリスク
株式移動・第三者割当の価格が第四部で開示されるということは、税務上の時価との乖離も可視化されるということです。専門家が押さえるべき論点を整理します。
いずれも一般論であり、個別の課税判断は税理士への相談が必要です。
論点1:個人から法人への低廉譲渡・みなし譲渡(所得税法59条)
個人が法人(資産管理会社を含む)へ非上場株式を譲渡し、その対価が時価の2分の1未満である場合には、原則として時価で譲渡があったものとみなされ、譲渡所得が計算されます(みなし譲渡課税、所得税法59条1項、所得税法施行令169条)。
ここでいう株式の「その時における価額」は、原則として所得税基本通達59-6により同通達23〜35共-9に準じて算定し、一定の条件の下で財産評価基本通達178から189-7までの例によることとされています。
資産管理会社への移動(移動先が資産管理会社と分類されたもの77件・53社)は、この論点の代表例です。
論点2:個人間の低額譲渡とみなし贈与(相続税法7条)
個人間で著しく低い価額により財産の譲渡が行われた場合、時価と対価の差額について贈与があったものとみなされます(みなし贈与、相続税法7条)。
相続税法7条の「著しく低い価額」には、所得税法59条における時価の2分の1未満という一律の基準はなく、個々の事情に基づいて判断されます。役
員・親族間の株式移動や、相続・贈与にともなう移動(相続20件・贈与14件が記載)では、譲渡価格と相続税評価額(会社規模判定を起点とする類似業種比準価額・純資産価額)との関係が問題になります。
論点3:資産管理会社スキームは「当事者以外」の課税も検討する
資産管理会社へ株式を移す動機には、事業承継・議決権集約・相続対策などがありますが、個人から資産管理会社への低額譲渡では、一般論として、譲渡者個人のみなし譲渡課税(論点1)だけでなく、譲受法人側で時価と対価の差額について生じ得る受贈益や、譲受法人に他の個人株主がいる場合の株式価値の増加(相続税法9条の問題)も検討対象になり得ます。
取引当事者だけでなく、資産管理会社の株主構成を含めて課税関係を確認する必要があります。移動が上場に近いほど、移動価格と公開価格の差が説明対象になりやすくなります。
論点4:新株予約権の権利行使に伴う課税
SOの権利行使にともなう移動(100件)では、税制適格要件を満たすかどうかで課税関係が大きく変わります。
税制適格SOでは権利行使時に課税されず株式譲渡時まで繰り延べられますが、要件を満たさない場合は行使時に給与所得等として課税され得ます。要件の詳細は国税庁ストックオプションQ&Aの解説を参照してください。
IPO準備会社・専門家のための実務チェックポイント5つ
ポイント1:第四部の記載対象期間の移動・割当を棚卸しする
第四部には基準事業年度末日の2年前の日から上場日前日までの移動・割当が、価格・算定根拠とともに記載対象となります。
申請期に価格の根拠を遡って整えるのは困難です。取引の都度、算定書・議事録・株価算定メモを残しているかを確認してください。
ポイント2:資産管理会社への移動は時価と譲渡価格の距離を検証する
個人から資産管理会社への移動は、対価が時価の2分の1未満であればみなし譲渡課税の対象になり得ます。
移動価格が所得税基本通達59-6の例による時価と乖離していないか、乖離する場合の根拠を、移動の実行前に検討しておくことが重要です。譲受法人側・他の株主の課税も併せて確認します。
ポイント3:役員・親族間の移動はみなし贈与の観点も併せて確認する
個人間の低額譲渡はみなし贈与課税の対象になり得ます。
みなし贈与には所得税法59条のような2分の1の一律基準がなく個別判断となるため、特に相続・事業承継の文脈がある移動では、譲渡所得課税とみなし贈与課税の双方の観点から価格を確認してください。
ポイント4:上場直前の移動は公開価格との乖離説明を準備する
上場直前1〜2年の移動価格・割当価格は、同一の届出書内で公開価格と比較できる形で開示されます。
低い価格での役員への移動や、公開価格に近い時期の割当は、目的と価格の合理性を説明できる状態にしておく必要があります。
ポイント5:注記文言は「公開される前提」で設計する
移動・割当の注記には定型の型があります。
他社387社分の文言が参照できる以上、自社だけ目的・価格根拠の説明が粗い注記は目立ちます。移動先の属性・目的・算定方式・決定プロセスの記載は、型に沿って整えておくべきです。同市場・同業種の先行事例はIPO資本政策データベースで絞り込めます。
よくある質問(FAQ)
Q1. 上場前の株式移動は、投資家が安く株を持つための仕組みなのですか?
そのように単純化するのは実態に合いません。
本調査では、移動先の約2割(19.9%)はVC・ファンド等の投資家、約2割(20.6%)は事業会社・その他法人で、投資家・事業法人への移動も相当数あります。
一方、残りの約半分は創業者・役員・親族、従業員・元従業員、資産管理会社など発行体の関係者間の移動で、目的も持株会の再編、インセンティブ、資産管理・事業承継など多様です。
いずれの移動も、価格や算定根拠は同一の届出書内で公開価格と比較できる形で開示対象となります。
Q2. 移動価格はどのように決まり、どこまで開示されますか?
移動価格は、DCF法・純資産方式・類似会社比準方式・直近取引価格などを参考に、当事者間の協議で決定されるのが一般的です。
第四部では、原則として移動年月日・移動株数・移動価格と、その算定根拠が開示対象となります。ただし、記載形式には幅があり、複数価格や注記参照など、単価を機械的に数値化できない場合もあります。本調査では3,449件の移動のうち1,814件について、単価を数値として取得できました。
Q3. 資産管理会社への移動で特に注意すべき税務論点は何ですか?
個人から法人への非上場株式の譲渡になるため、対価が時価の2分の1未満であればみなし譲渡課税(所得税法59条)の対象になり得ます。時価は原則として所得税基本通達59-6の例により算定します。
さらに、譲受法人側の受贈益や、他の個人株主がいる場合の株式価値の増加(相続税法9条)も検討対象です。
移動が上場に近いほど、移動価格と公開価格の差が説明対象になりやすいため、価格の根拠を事前に固めておくことが重要です。
Q4. 第三者割当と株式移動はどう使い分けられていますか?
資金調達が目的なら会社が新株を発行する第三者割当(増資)、既存株主間の再配置が目的なら株式移動、という使い分けが基本です。
ただし株式等の移動には新株予約権の行使も含まれ、この場合は会社へ行使価額が払い込まれます。
時系列では、種類別の中央値が優先株式の発行約23か月前、普通株式の増資約21か月前、SOの割当約18か月前、株式移動約14か月前で、資金調達型の第三者割当ほど早く、株式移動ほど直前に寄る傾向がみられました。
Q5. 移動・割当の記載がない会社はどういうケースですか?
株式移動の記載がない70社は、主に記載対象期間に該当する移動がなかった会社です(このほか機械抽出上の判定が困難な会社が3社あります)。
創業者が一貫して株式を保有し、持株会も持たず、VC調達も対象期間外という会社では、第四部の移動記載が乏しくなります。記載がないこと自体は問題ではなく、資本政策がシンプルであることの表れである場合もあります。
まとめ:移動先・価格・税務の3点を「先行387社の型」と照らして設計する
本記事の要点を整理します。
- 上場前の株式移動の記載がある会社は314社(81.1%)、第三者割当は316社(81.7%)。大多数の会社で、上場前の資本異動が第四部に記載されている。
- 移動先は創業者・役員・親族(個人)約24%、従業員・元従業員(個人)約21%、事業会社・その他法人約21%、VC・ファンド等約20%と、特定属性に偏らず分散する。VC等への移動も約2割あり、「発行体内部だけの再配置」という理解は正確ではない。
- 移動の中央値は上場14か月前、割当は19か月前。直前期の移動ほど公開価格との水準差の説明責任が増す。
- 資産管理会社への移動・役員親族間の移動・SO権利行使は、みなし譲渡(所得税法59条・2分の1未満基準)・みなし贈与(相続税法7条・一律基準なし)・受贈益や相続税法9条・SO課税など、税務専門家の関与ポイント。
次の一歩として、IPO資本政策データベースで自社(または支援先)と同じ市場・業種の会社の移動・割当の注記文言と価格水準を確認し、自社の資本政策設計と税務検討の比較材料にしてください。
387社の先行事例は、移動先の設計・価格根拠・開示文言の最も具体的な参照点になります。
📈 IPO資本政策データベースβ 新規上場企業の届出書「第四部 株式公開情報」を構造化。資本政策・株式異動・新株予約権・大株主・初値を横断比較 →参考一次情報
- 金融庁 EDINET(有価証券届出書の原典検索)
- 国税庁 タックスアンサーNo.4638 取引相場のない株式の評価
- 国税庁 タックスアンサーNo.4423 個人間の低額譲渡におけるみなし贈与の一般的な取扱い
- 国税庁 ストックオプションに対する課税(Q&A)(令和6年11月最終改訂)
- 日本取引所グループ 有価証券上場規程・同施行規則
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