潜在株式調整後1株当たり当期純利益は、有価証券報告書の「1株当たり情報」注記で最も手が止まる項目ではないでしょうか。基本のEPSは割り算1本で終わるのに、新株予約権や転換社債が絡んだ瞬間に、どこから手をつければよいのか分からなくなります。
結論から言えば、
計算そのものは「分母に何株足すか」と「分子をいくら戻すか」の2つしかありません。難しく感じるのは、この2つを求める過程に4つの分岐が仕込まれているからです。その4つを押さえれば、全体は一本の線でつながります。
この記事では、その4つを経理・監査の実務目線で1つずつ分解します。
あわせて、企業会計基準適用指針第4号の設例1〜13(設例2-2を含む)をすべて再現できる無料の計算ツールを用意しましたので、読みながら手元で数字を動かして確認できます。
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スライド解説









結論:潜在株式調整後EPSは「権利行使されていたら」を計算するだけ
潜在株式調整後1株当たり当期純利益(希薄化後EPS)は、希薄化効果を有する潜在株式について、期首(または発行時)に権利行使・転換されたと仮定して算定するEPSです。存在するものをすべて入れるのではなく、希薄化効果を有しないものは除きます(基準20〜23項)。やることは2つです。
- 分母:普通株式増加数を加える
権利行使・転換されていたら期中平均株式数は何株増えていたかを計算します。 - 分子:当期純利益調整額を加える
払わずに済んだ利息や配当を、普通株主の取り分に戻します。
つまずくのは計算そのものではなく、次の4か所です。
- 分岐1:方式が2つある
新株予約権は自己株式方式、転換社債や転換株式は転換仮定方式で、分母の求め方が違います。 - 分岐2:日数按分の起点と終点
「発行日の翌日から、行使日の前日まで」という1日単位のルールがあります(株式数については月割等の合理的な方法も認められます)。 - 分岐3:複数あるときの順番
増分EPSの小さい順に並べて、EPSが下がらなくなった時点で打ち切ります。 - 分岐4:連結と単体で3か所違う
分子・分母・純資産の控除項目が別のルールです。
以下、この4つを順に見ていきます。根拠は企業会計基準第2号と、企業会計基準適用指針第4号(いずれも2002年9月公表・その後改正)です。
なぜ潜在株式調整後EPSはこれほど分かりにくいのか
1つは計算手順が設例に委ねられていることです。
基準本体は考え方を述べるにとどまり、実際の手順は適用指針の設例が担っています。設例は新株予約権から転換社債、子会社の潜在株式、株式分割、中間会計期間まで実務論点をほぼ網羅していますが、最後まで数値で追える解説はほとんど見当たりません。
もう1つは年1回しか触らない論点だからです。1株当たり情報は開示直前にまとめて作るため、前任者のExcelを引き継いだものの、なぜその式なのか分からないまま数字を差し替えている——という状況は珍しくありません。
【分岐1】証券・契約の種類別・計算方法マップ
まず全体像です。種類ごとに、分母と分子の扱いは次のように分かれます。
1株当たり情報の実務で判断が要る証券・契約をまとめているため、潜在株式そのものではないもの(非転換型の参加型株式)も含めて掲げています。
| 証券・契約の種類 | 方式 | 分母(普通株式増加数) | 分子(当期純利益調整額) | 主な根拠 |
|---|---|---|---|---|
| 新株予約権・ワラント | 自己株式方式 | 株数 −(仮定の入金額 ÷ 期中平均株価) | 調整なし | 基準24〜26項 |
| ストック・オプション | 自己株式方式 | 同上(仮定の入金額に、公正な評価額のうち将来提供されるサービスに係る分を含める) | 調整なし | 指針22項 |
| 転換社債型新株予約権付社債 | 転換仮定方式 | 額面 ÷ 転換価格 | 支払利息+発行差額の当期償却額+利払いに係る事務手数料等の合計から、税額相当額を控除した金額を加算 | 基準27〜30項 (調整額は29項) |
| 転換株式(転換可能な優先株式) | 転換仮定方式 | 優先株式数 × 転換比率 | 優先配当額を加算(足し戻し) | 指針・設例4 |
| 条件付発行可能普通株式 | 条件充足の仮定 | 条件が充たされたとした株式数 | 調整なし | 指針・設例5 |
| 条件付発行可能潜在株式 | 条件充足の仮定+種類に応じた方式 | 条件が充たされたと仮定したうえで、自己株式方式等を適用 | 方式に応じる | 指針・設例6 |
| 子会社等が発行する潜在株式 (子会社等の株式に転換されるもの) | 持分比率の低下 | 増えない(分母は不変) | 親会社帰属分の減少額を控除 | 指針33項 |
| 親会社が発行する潜在株式 (子会社等の普通株式に転換されるもの) | 持分比率の低下 | 増えない(分母は不変) | 親会社帰属分の減少額を控除 | 指針33-2項 |
| 非転換型の参加型株式 (潜在株式ではありません) | 利益の配分 | 加えない | 基本EPSの分子(普通株式に係る当期純利益)を参加比率で按分 | 指針・設例8 |
最後の行だけ性質が違います。
非転換型の参加型株式は潜在株式ではなく、普通株式へ転換される余地もありません。ここで問題になるのは、基本EPSの分子である「普通株式に係る当期純利益」をどう配分するか(種類株式別EPS)であって、希薄化後EPSの調整ではありません。設例8の出力に潜在株式調整後EPSが出てこないのはこのためです。
2つの方式は「何を仮定するか」が違う
どちらの方式を使うかは、潜在株式の法的・経済的な性質に応じて基準が定めています。会社にお金が入るかどうかで選ぶわけではありません(無償で付与されたストック・オプションも自己株式方式です)。ただし何を仮定しているかを押さえると腹に落ちます。
自己株式方式は、行使に伴う仮定の入金額で期中平均株価により自己株式を買い戻したと仮定し、差し引きで増える株数だけを希薄化とみます。
だから、仮定の入金額が行使による払込額のみである通常の新株予約権・ワラントでは、行使価格が期中平均株価以上(アウト・オブ・ザ・マネー)なら希薄化効果を有さず、何株分あっても算定に加えません。
この「入金額」は行使価格の払込金額だけではありません。
ストック・オプションでは、公正な評価額のうち将来にわたり提供されるサービスに係る分も入金額に含めます(指針22項)。したがって行使価格がゼロや著しく低くても、仮定の入金額がゼロになるとは限りません。
権利未確定期間が残っているうちは、その将来サービス分だけ買い戻したと仮定する株数が増え、結果として普通株式増加数は抑えられます。
転換仮定方式は、期首(または発行時)に転換されたと仮定します。転換されると払わずに済むもの——社債なら支払利息、優先株式なら優先配当——が生まれるので、分母には転換後の株数を丸ごと足し、分子にはその金額を戻します。社債側は税額相当額を控除した後の金額で戻す点に注意してください。
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【分岐2】期間按分は設例では日割、合理的な基礎による月割等も認められる
期中に発行、または期中に行使・転換された潜在株式は、その期間分しか希薄化しません。指針20項は「期首または発行時から、消滅時・消却時・行使時または期末まで」の日数に応じて算定するとしています。
ただし日割だけが認められた方法ではありません。
株式数については、期中平均株式数(指針13項)も潜在株式の増加数(同20項)も、日数に応じて算定する方法のほか合理的な基礎に基づいて算定された平均株式数を用いることができます。月割はその一例です。前任者のExcelが月割でも、それだけで誤りとは限りません。
ここで混同しやすいのが期中平均株価です。
こちらは「期間を按分する」話ではなく「株価をどう平均するか」の話で、各営業日の株価の平均のほか、合理的な基礎に基づいて算定された平均株価(各週末や各月末の株価の平均など)が認められています(同21項)。株式数の按分方法と株価の平均方法は別々に定められているので、Excelを点検するときも分けて確認してください。
以下は設例が採用している日割での数え方です(本記事と計算ツールも設例に合わせて日割を採っています)。
| ケース | 数える期間 | 考え方 |
|---|---|---|
| 期首から存在し、期末まで未行使 | 期首〜期末(全期間) | 按分なし |
| 期中に発行し、期末まで未行使 | 発行日の翌日〜期末 | 発行日当日は含めない |
| 期首から存在し、期中に行使・転換 | 期首〜行使日(転換日)の前日 | 行使日以後は実際の株式として分母に入っている |
| 期中に発行し、期中に行使・転換 | 発行日の翌日〜行使日の前日 | 両端とも1日ずつ詰める |
「行使日の前日まで」なのは、行使日以後はもう実際の発行済株式として期中平均株式数に入っているからです。同じ日を両方で数えると、その1日だけ株式が二重にカウントされます。
金額は小さくても、設例の公表値と突き合わせれば確実に食い違いとして表面化します。
平均株価も、未行使と行使済で期間が違う
自己株式方式で使う期中平均株価は、未行使のものは発行時から期末まで、期中に行使されたものは発行時から行使時までの期間で算定します(基準26項(2))。
1つの発行回に未行使分と行使済分が混在するなら、同じ平均株価を使い回さず区分ごとに当てます。
なお、その区間の株価を「各営業日の平均で求めるか、各週末・各月末の株価の平均で求めるか」は、前述のとおり合理的な基礎に基づくものであれば選択できます。

【分岐3】複数あるときは「増分EPS」の小さい順に並べる
ここが最も誤解されている論点です。多くの解説は「希薄化効果を有しないものは除く」で終わりますが、実務で必要なのはどの順番で判定するかです。
増分EPSとは「その潜在株式だけを見たときの1株当たり利益」
増分EPSは当期純利益調整額 ÷ 普通株式増加数で求めます。その潜在株式だけを取り出したとき、1株あたりいくらの利益を持ち込むかを表す数字です。これが基本EPSより小さければ、混ぜたときに全体のEPSを引き下げる=希薄化する、ということです。
判定は種類をまたいで横断的に行います。
新株予約権も転換社債も転換株式も同じ土俵に並べ、増分EPSの小さい順に1つずつ仮に算入します。EPSが下がり続けるあいだは算入し、下がらなくなった時点でそれ以降はすべて除外します(指針18項)。
設例1を1行ずつ追う
設例1は、新株予約権・転換株式・転換社債2本が同時に存在するケースです。
・当期純利益500,000,000円
・優先配当15,000,000円
・期中平均株式数20,000,000株
基本EPSは(500,000,000 − 15,000,000)÷ 20,000,000 = 24円25銭。
ここに4本の潜在株式を増分EPSの小さい順に並べます。
| 順位 | 潜在株式 | 調整額(分子) | 増加数(分母) | 増分EPS | 仮算入後のEPS | 判定 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| — | 基本EPS | — | — | — | 24円25銭 | — |
| 1 | 新株予約権 | 0円 | 500,000株 | 0円00銭 | 23円66銭 | 算入(下がった) |
| 2 | 第1回転換社債 | 9,000,000円 | 750,000株 | 12円00銭 | 23円25銭 | 算入(下がった) |
| 3 | 配当優先株式 | 15,000,000円 | 625,000株 | 24円00銭 | 23円27銭 | 除外(上がった) |
| — | 第2回転換社債 | 12,000,000円 | 400,000株 | 30円00銭 | — | 除外(基本EPS超) |
見ていただきたいのは第3位の配当優先株式です。
増分EPS 24円00銭は基本EPS 24円25銭より小さく、単独なら希薄化効果を持ちます。ところが第2位まで算入した時点でEPSは既に23円25銭まで下がっているため、そこに24円00銭を混ぜるとEPSが23円27銭へ上がってしまう。この時点で打ち切り、第3位以降は除外します。答えは23円25銭です。
増分EPSの順に並べず、登録順や金額順で判定していたら答えは変わります。「単独で希薄化するか」ではなく「その順位まで算入した状態で、なお下がるか」で判定する——ここが指針18項の勘所です。
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【分岐4】連結と単体で、まず確認する3つの違い
連結と単体を両方作る会社では注記も2組必要です。
基本EPSとBPSについては、次の3か所を押さえれば差分を説明できます。潜在株式調整後EPSには、これに加えて連結固有の論点(後述)があります。
分子:親会社株主に帰属する当期純利益を使う
連結は、非支配株主に帰属する部分を除いた親会社株主に帰属する当期純利益が出発点です(指針7項)。
単体は当期純利益そのものを使います。
分母:子会社等が保有する親会社株式のうち、親会社等の持分相当分を控除する
連結では、子会社及び関連会社が保有する親会社等の普通株式数のうち、親会社等の持分に相当する株式数を自己株式に含めて控除します(基準17項)。保有株式数の全部ではなく持分相当分である点に注意してください。
単体の自己株式には含まれないため、連結と単体で期中平均株式数が食い違う原因の多くはこれです。取得日以後の日数だけ控除する点も忘れないでください。
1株当たり純資産額の算定でも同様に扱います(指針34項)。
純資産:新株予約権に加えて非支配株主持分も控除する
BPSの分子は期末の純資産合計から控除項目を引いて求めます。
連結では新株予約権に加えて非支配株主持分も控除します(指針35項(6))。優先株式があれば、その払込金額と優先配当額も控除対象です。
連結固有:子会社の潜在株式は、分母ではなく分子が動くことがある
直感に反しますが、実務で最も間違えやすいのがここです。
子会社が発行した潜在株式が子会社株式に転換されるものである場合、行使・転換で親会社の株式数は1株も増えません。増えるのは子会社の株式数で、その結果親会社の持分比率が下がるのです。
したがって分母は動かさず、持分比率の低下による連結上の利益の減少額を分子から控除します(指針33項)。
ただし、これは設例7のように子会社株式が増えて持分比率が低下する場合の話です。子会社等の潜在株式が親会社の普通株式に転換されるものなら、親会社の分母そのものが増えます。
もう1つ、発行主体で条文が分かれる点も押さえてください。
子会社等が発行する子会社等の潜在株式は指針33項、親会社が発行する「子会社等の普通株式に転換等が可能な潜在株式」は指針33-2項と、別の項に定められています。どちらも親会社の持分比率が下がって連結上の当期純利益が減る場合に考慮するという構造は同じですが、発行主体を取り違えると根拠の説明が通らなくなります。
連結固有の潜在株式が出てきたら、まず誰が発行し、どちらの株式が増えるのかを確認してください。
設例7では、親会社の持分比率が80.00%→79.15%(子会社の新株予約権のみ)→76.54%(+転換社債)へ低下し、当期純利益調整額は7,345,824円の控除になります。
分母の50,000,000株は最後まで動きません。基本EPS 14円00銭に対し、潜在株式調整後EPSは13円85銭です。
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有報「1株当たり情報」注記の3つの記載パターン
潜在株式調整後EPSを記載しない場合、但し書きは次の3パターンです。
| 状況 | 潜在株式調整後EPS | 但し書きの書き方 |
|---|---|---|
| 潜在株式が存在しない | 記載しない | 「潜在株式が存在しないため記載しておりません」 |
| 潜在株式はあるが1株当たり当期純損失 | 記載しない | 「潜在株式は存在するものの、1株当たり当期純損失であるため記載しておりません」 |
| 潜在株式はあるが希薄化効果を有しない | 記載しない | 「希薄化効果を有する潜在株式が存在しないため記載しておりません」 |
上表の文例は一般的な記載例であり、法定の定型文ではありません。実際の開示にあたっては、自社の従来の記載文言および監査人の確認を優先してください。
2番目は見落とされがちです。損失の期に潜在株式を分母へ加えると1株当たり損失が小さく見え、希薄化とは逆になるためです(基準20項・23項)。
また、希薄化効果を有しないため算定に含めなかった潜在株式は、その旨・潜在株式の種類・潜在株式の数を概要として注記します(指針38項(5)・39項)。条件付発行可能株式も対象です。
【独自】適用指針の設例1〜13を計算ツールで再現した結果
ここまでの説明を手元で確かめられるよう、1株当たり情報 計算ナビという無料ツールを用意しました。
設例1〜13(設例2-2を含む全15の読込パターン)を選ぶと、入力値・計算過程・注記ドラフトが同時に組み上がり、A4の算定調書としてPDF出力もできます。下表はEPS・BPSなどの主要計算値について、その出力と公表値を突き合わせた結果です。
1件だけ差が出た箇所も隠さず載せています。なお、同時に生成される注記ドラフトは参考用です。開示へ転記する前に、必ず原典と自社の従来文言、監査人の確認を経てください。
| 設例 | 論点 | 基本EPS | 潜在株式調整後EPS | 公表値との一致 |
|---|---|---|---|---|
| 設例1 | 潜在株式が複数(横断的な希薄化判定) | 24円25銭 | 23円25銭 | 一致 |
| 設例2 | ワラント(自己株式方式) | 39円49銭 | 37円87銭 | 一致 |
| 設例2-2 | ストック・オプション(サービスの評価額) | 40円00銭 | 36円37銭 | 一致 |
| 設例3 | 転換負債(転換仮定方式) | 39円49銭 | 35円96銭 | 一致 |
| 設例4 | 転換株式・期中転換の日数按分 | 5円82銭 | 5円56銭 | 一致 |
| 設例5 | 条件付発行可能普通株式 | 10円00銭 | 8円33銭 | 一致 |
| 設例6 | 条件付発行可能潜在株式 | 10円00銭 | 9円80銭 | 一致 |
| 設例7 | 子会社の潜在株式(分子だけが減る) | 14円00銭 | 13円85銭 | 一致 |
| 設例8 | 非転換型の参加型株式(種類株式別EPS) | 12円20銭 | 該当なし | 一致 |
| 設例9 | 期中の株式分割(期首への遡及) | 33円27銭 | 27円44銭 | 一致(注) |
| 設例10 | 時価より低い払込金額による株主割当て | 50円71銭 | 該当なし | 一致 |
| 設例11 | 1株当たり純資産額(BPS 360円) | — | — | 一致 |
| 設例12 | 種類株式別のBPS(289円29銭/307円14銭) | — | — | 一致 |
| 設例13 | 第二種中間財務諸表(中間会計期間) | 9円05銭 | 8円87銭 | 一致 |
| 設例13 | 同(事業年度) | 22円18銭 | 21円54銭 | 一致 |
(注)
設例9の期中平均株式数だけ、ツールの出力は30,060,274株、公表値は30,060,275株と1株異なります。延べ株式日数を合計してから割るか、区分ごとに丸めてから合計するかの差で、EPSはいずれも33円27銭で一致します。実務でもどちらを採るか社内で固定しておくことをおすすめします。
前期のExcelを検算する5つのステップ
引き継いだExcelを確かめるには、次の順で見ていくのが効率的です。
- 採用方法が一貫しているか
まず株式数について、期中平均株式数と潜在株式の増加数で、日割・月割など採用した合理的な算定方法が継続して適用されているかを見ます。日割なら「株数×在籍日数」の合計 ÷ 年間日数に分解でき、うるう年(366日)の扱いも確認できます。期中平均株価はこれとは別の観点で、各営業日・各週末・各月末のどの株価を基礎として平均しているかを確認します。株式数と株価で同じ単位をそろえる必要はありません。 - 日数の起点と終点
ここは実際の普通株式と潜在株式で扱いが違います。実際に発行された普通株式は、効力発生日から期中平均株式数に算入します。一方、潜在株式の増加数は、設例の日割では発行日の翌日から行使日の前日までで算定します。行使日以後はすでに実際の普通株式として算入されているので、同じ日を二重に数えていないかを発行回ごとに突き合わせます。 - 増分EPSの並べ替え
潜在株式が2つ以上あるなら、種類をまたいで増分EPSを昇順に並べ直します。株価や利益が動けば、前年と順位が入れ替わります。 - 転換証券の分子調整の中身
支払利息だけでなく、発行差額の当期償却額や利払いに係る事務手数料等が漏れていないかを確認します。 - 連結と単体の差の説明と、設例での答え合わせ
両者の差は分子・分母・BPSの控除項目で説明できるはずです。説明できない差が残るなら転記誤りを疑います。最後に自社に近い設例をツールで開き、同じ構造の入力で公表値を再現できるかを確かめます。
よくある質問(FAQ)
Q1. 潜在株式がない場合も注記は必要ですか
必要です。
潜在株式調整後1株当たり当期純利益の欄は記載しませんが、「潜在株式が存在しないため記載しておりません」という但し書きを注記します。1株当たり当期純利益と1株当たり純資産額は、潜在株式の有無にかかわらず記載が必要です。
Q2. 当期純損失のときはどう扱いますか
すべての潜在株式が希薄化効果を有しないものとして扱い、潜在株式調整後1株当たり当期純利益は記載しません(基準20項・23項)。
注記には「潜在株式は存在するものの、1株当たり当期純損失であるため記載しておりません」と書きます。
Q3. 期末後に株式分割をした場合、前期の数値も直しますか
直します。
当期に株式併合または株式分割が行われた場合、表示する財務諸表のうち最も古い期間の期首に行われたと仮定して算定します。したがって前期の1株当たり情報も遡及して修正されます(基準30-2項)。潜在株式調整後EPSの普通株式増加数についても同様です(基準30-3項)。
また、当期の貸借対照表日後に株式併合・株式分割が行われた場合も、同様に仮定して算定します(基準30-2項)。注記は対象で根拠が分かれ、1株当たり当期純利益および潜在株式調整後EPSについては基準31項、1株当たり純資産額については指針41項が、それぞれ「その旨および表示期間の金額を基準30-2項・30-3項に従い算定している旨」を注記するよう定めています。
Q4. 単体だけ潜在株式調整後EPSが変わることはありますか
あります。
分子も分母も連結と単体で異なるため、希薄化効果の判定結果そのものが分かれ、連結では算入した潜在株式が単体では除外される、という組み合わせも起こり得ます。
Q5. 中間財務諸表でも同じ計算ですか
考え方は同じですが期間が変わります。
第二種中間財務諸表では中間会計期間(期首から6か月)を対象に、期中平均株式数も期間按分も中間期間で計算します。分子の調整額は、原則として中間会計期間に実際に計上された支払利息・償却額等を用います。契約上均等に発生するなど合理的な場合に限り、年額を期間按分できます(設例13はこの前提です)。
まとめ:4つの分岐を押さえれば、あとは設例で答え合わせ
潜在株式調整後1株当たり当期純利益は、論点が多いだけで、1つずつ見れば難解ではありません。
- やることは「分母に何株足すか」「分子をいくら調整するか」の2つだけ。
- 方式は潜在株式の性質に応じて基準が定めている。自己株式方式は仮定の入金額での自己株式の買戻しを、転換仮定方式は転換により不要となる利息・配当等の調整を仮定する。
- 期間按分は設例では日割だが、株式数については合理的な基礎による月割等も認められる。設例の日割では発行日の翌日から行使日の前日までで数える。期中平均株価は別途、平均の求め方が定められている。
- 複数あるときは増分EPSの小さい順に仮算入し、EPSが下がらなくなった時点で打ち切る。
- 連結と単体は、基本EPS・BPSでは分子・分母・純資産の控除項目の3か所を確認する。潜在株式調整後EPSには連結固有の論点があり、子会社の潜在株式はどちらの株式が増えるのかで扱いが変わる。
まずは自社に近い設例を1つ選び、1株当たり情報 計算ナビで公表値を再現してみてください。そのうえで自社の数値に置き換えれば、表示される計算過程を検算資料の作成に利用できます。開示直前に慌てないために、決算日を待たず一度通しで動かしておくのが確実です。
🧮 1株当たり情報 計算ナビで試すEPS・潜在株式調整後EPS・BPS|適用指針の全設例つき・無料 →参考一次情報
- 企業会計基準第2号「1株当たり当期純利益に関する会計基準」|企業会計基準委員会
- 企業会計基準適用指針第4号「1株当たり当期純利益に関する会計基準の適用指針」|企業会計基準委員会
- 実務対応報告第9号「1株当たり当期純利益に関する実務上の取扱い」|企業会計基準委員会
- 有価証券報告書の作成要領(2026年3月期提出用)|公益財団法人財務会計基準機構・企業会計基準委員会(PDF)
