IFRS第17号「保険契約」を適用すると、保険会社の財務諸表は具体的にいくら動くのでしょうか。基準の解説記事は数多くありますが、日本の保険会社が実際に開示した金額を並べた資料は、ほとんど見当たりません。
結論を先に言えば、
今回分析した保険4社(大手3社とライフネット生命保険)はいずれも移行日に資本が増えました。
増加率は31.4%から225.6%、東京海上ホールディングスの増加額は2兆3,467億円です。
ところが比較年度の当期利益は方向が揃わず、2社が減少、1社が増加、1社が赤字から黒字へ転換しました。
なお、ここで示す資本・当期利益の増減額はIFRS第17号単独の影響額ではなく、IFRS移行調整全体の差額です。IFRS第17号の影響については、利益剰余金の調整項目として別途確認します。
この記事では、有価証券報告書のIFRS第1号「初度適用」注記から、4社の実額と調整項目別の内訳を抜き出します。
IFRS第1号第23項・第24項は、移行日および直近の日本基準年度末の資本の調整表に加えて、直近年度の包括利益の調整なども求めていますが、本記事が主に扱うのはこのうち資本の調整表です。あわせて、IFRS初度適用64社全体の中で保険4社がどこに位置するのかを示します。
読み終えたときに手元に残るのは、
- 4社の資本と利益がいくら動いたかの実額
- その内訳のうち何が効いたのか
- 自社で有報の注記を読むときにどこを見るか
の3点です。
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スライド解説









結論:資本は全社増加、利益は方向が分かれるという「ねじれ」が起きている
先に全体像を示します。
- 資本は4社すべて増加した。
増加額は東京海上ホールディングス2兆3,467億円、MS&ADインシュアランスグループホールディングス1兆4,155億円、SOMPOホールディングス1兆655億円、ライフネット生命保険498億円です。 - 利益剰余金への調整で最大のプラス要因は、4社ともIFRS第17号による保険契約・再保険契約の再測定。
大手3社ではIFRS第17号の影響が1兆7,493億円から2兆9,196億円のプラス、税効果が5,770億円から8,805億円のマイナスでした(ライフネット生命保険は税効果を個別表示していません)。 - 比較年度の当期利益は方向が分かれた。
東京海上ホールディングスは6,222億円の減少(△59.1%)、MS&ADインシュアランスグループホールディングスは3,909億円の減少(△56.1%)、SOMPOホールディングスは1,137億円の増加(+27.2%)、ライフネット生命保険は赤字から黒字へ転換しました。
ただしこの差額はIFRS第17号だけによるものではなく、IFRS第9号、連結範囲、のれんなどを含む日本基準→IFRSの移行調整全体の差額です。
この「資本は増えるのに、利益は必ずしも増えない」組み合わせがなぜ起きるのか、順に見ていきます。
なぜ保険会社だけこれほど大きく動くのか
日本の保険会社の財務諸表も当然、財務報告として作成されるものです。
ただし責任準備金などの保険負債については、保険業法に基づく監督会計の考え方が強く反映されている、という点がまず特殊です。
金融庁自身も保険モニタリングレポート等で「監督会計」という表現を用いています(参考:金融庁「2026年 保険モニタリングレポート」)。
契約時の基礎率で固定するか、報告日時点で測り直すか
もう一つの差は測定のタイミングです。
特に長期の保険契約では、日本の責任準備金が契約時の基礎率を用いるのに対し、IFRS第17号の一般モデルでは履行キャッシュ・フローを報告日時点の見積りや現在の割引率を用いて測定します(IFRS第17号第32項〜第38項)。前者を「ロックイン」、後者を「アンロック」と呼ぶことがあります。
なお短期の損害保険契約などには、IFRS第17号にも保険料配分アプローチ(PAA)という簡便的な測定が用意されており、すべての契約が一般モデルで測定されるわけではありません。
それでも長期の契約を大量に抱える保険会社では、この違いが積み上がって巨額になります。契約獲得当時の前提で固定された負債と、報告日時点の割引率で測り直した負債は、大きく乖離するからです。
移行日には、その差が一度だけまとめて調整されます。
だから移行日の1回だけ、巨大な数字が出る
ここが実務上の要点です。年度の有価証券報告書でまとまった初度適用の調整表を確認できるのは、原則として適用初年度だけです(IFRS第1号第24項。なお第32項は、最初のIFRS財務諸表が対象とする期間中の期中財務報告にも一定の調整表またはその参照を求めています)。
翌年度以降の有報はIFRSどうしの比較になります。だからこそ、この注記は今のうちに読んでおく価値があります。
【実額】今回分析した保険4社のIFRS移行影響
4社が開示した資本の調整表から、日本基準の純資産合計とIFRSの資本合計を並べます。金額は有価証券報告書では百万円単位で開示されていますが、ここでは億円に換算しました。
| 会社(証券コード) | 移行日 | 適用初年度 | 日本基準の純資産 | IFRSの資本 | 増減額 | 増減率 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 東京海上ホールディングス(8766) | 2024年4月1日 | 2026年3月期 | 5兆1,833億円 | 7兆5,300億円 | +2兆3,467億円 | +45.3% |
| MS&ADインシュアランスグループHD(8725) | 2024年4月1日 | 2026年3月期 | 4兆5,136億円 | 5兆9,291億円 | +1兆4,155億円 | +31.4% |
| SOMPOホールディングス(8630) | 2023年4月1日 | 2025年3月期 | 1兆9,191億円 | 2兆9,846億円 | +1兆655億円 | +55.5% |
| ライフネット生命保険(7157) | 2022年4月1日 | 2024年3月期 | 221億円 | 719億円 | +498億円 | +225.6% |
次に、比較年度(移行日を含む事業年度)の当期利益です。こちらは方向が揃いません。
| 会社 | 日本基準の当期純利益 | IFRSの当期利益 | 増減額 | 増減率 |
|---|---|---|---|---|
| 東京海上ホールディングス | 1兆537億円 | 4,315億円 | △6,222億円 | △59.1% |
| MS&ADインシュアランスグループHD | 6,967億円 | 3,058億円 | △3,909億円 | △56.1% |
| SOMPOホールディングス | 4,181億円 | 5,317億円 | +1,137億円 | +27.2% |
| ライフネット生命保険 | △51億円 | +35億円 | +86億円 | 黒字転換 |
大手2社が5割超の減益、SOMPOホールディングスは増益、ライフネット生命保険は赤字から黒字へ転換しました。移行日が3年ぶんばらけているため、金利環境も含めて条件は同一ではありません。比較にあたっては割り引いて読む必要があります。
ここで一つ注意が必要です。
上の増減額は「IFRS第17号による影響額」ではなく、IFRS移行による比較年度利益への影響です。東京海上ホールディングスの△6,222億円、MS&ADの△3,909億円には、IFRS第17号のほかIFRS第9号「金融商品」、連結範囲の変更、のれんの非償却など、日本基準からIFRSへの移行調整がすべて含まれています。
今回の4社はいずれも純損益について差異項目別の内訳を開示していないため、このうちIFRS第17号がいくらを占めるのかは、開示からは切り分けられません。

ライフネット生命保険は日本基準列が単体である点に注意
ライフネット生命保険は、日本基準では連結財務諸表を作成していませんでした。そのため調整表の日本基準列は単体の数値です。増減率225.6%という数字は、母数が221億円と小さいことに加えてこの事情も乗っています。
開示は正確ですが、他3社と同じ意味では扱えません。
【内訳】利益剰余金を動かした主なIFRS移行調整
4社の資本の調整表から、項目別の金額を並べます。いずれも移行日時点、億円換算です。
各社が開示している項目別の内訳は、基本的に利益剰余金に対する調整額の内訳であり、資本合計の増減をそのまま項目分解したものではありません(その理由は後述します)。
| 調整項目 | 東京海上HD | MS&AD | SOMPO HD | ライフネット生命 |
|---|---|---|---|---|
| 保険契約・再保険契約(IFRS第17号) | +2兆9,196億円 | +2兆2,101億円 | +1兆7,493億円 | +417億円 |
| 税効果による影響 | △8,805億円 | △7,849億円 | △5,770億円 | 内訳に含む |
| 金融商品(分類・測定等) | △165億円 | +4,985億円 | +2,089億円 | △1億円 |
| 特別法上の準備金(価格変動準備金の取崩) | +1,403億円 | +2,319億円 | +1,109億円 | — |
| 連結範囲・報告期間の統一 | +3,962億円 | +934億円 | +785億円 | +5億円 |
| のれん(移行日の減損) | — | △272億円 | 0 | — |
| その他 | △349億円 | △1,375億円 | △291億円 | +39億円 |
利益剰余金への調整では、IFRS第17号が最大のプラス、大手3社では税効果が最大のマイナス
4社すべてで、利益剰余金への調整の単独最大のプラス要因はIFRS第17号による保険契約・再保険契約の再測定です。東京海上ホールディングスでは2兆9,196億円のプラスで、これは同社の日本基準純資産5兆1,833億円の56%に相当する大きさです。
一方、税効果による調整は△8,805億円と大きなマイナス要因でした。なお、この税効果はIFRS第17号だけに対応するものではなく、各調整項目に係る税効果が一括して計上されたものであるため、両者を差し引きして「IFRS第17号の正味の影響」を求めることはできません。
ライフネット生命保険は税効果を個別表示していないため、税効果を最大のマイナス要因として並べられるのは大手3社です。
価格変動準備金の取崩は日本固有のプラス要因
大手3社に共通して現れるのが「特別法上の準備金」、実質的には価格変動準備金の取崩です。
これは保険業法に基づいて負債計上されているものの、IFRSでは負債の定義を満たさないため資本に振り替わります。金額は1,109億円から2,319億円で、日本の保険会社に固有の調整です。海外事例の分析では出てこない項目なので、日本企業の開示を読む価値がここにあります。
内訳の合計が資本合計の増減額と一致しない理由
ここは有報を実際に開いた人が最初につまずくところです。
上の内訳を合計すると、資本合計の増減額と一致しません。
東京海上ホールディングスでは内訳合計が2兆5,241億円に対し資本合計の増減は2兆3,467億円で、1,774億円のずれが残ります。MS&ADでは6,689億円、SOMPOホールディングスでは4,759億円のずれです。
原因は、各社が開示している項目別の内訳が利益剰余金に対する調整の内訳である点にあります。資本合計には、これに加えて
- その他の資本の構成要素(その他の包括利益累計額)への調整
- 在外営業活動体に係る累積換算差額の資本内の振替
- 非支配持分への影響
が乗ります。
東京海上ホールディングスの場合、その他の資本の構成要素への調整が△1兆1,204億円、累積換算差額の振替が+9,316億円、非支配持分が+114億円で、これらを足し合わせるとおおむねずれの金額に一致します。
逆に言えば、内訳表だけを見て「IFRS第17号で資本が2.9兆円増えた」と読むのは不正確です。内訳は利益剰余金の話であり、資本合計はOCI側の調整と打ち消し合っています。
資本が増えても利益が増えるとは限らない「ねじれ」をどう読むか
まず前提として、移行日の資本増加額はIFRS移行調整全体の結果です。
そのうち利益剰余金への調整では、IFRS第17号による保険契約・再保険契約の再測定が最大のプラス要因となっています。
ただし、IFRS第17号は将来の未稼得利益を契約上のサービス・マージン(CSM)として保険契約負債に残す仕組みを採用しており(IFRS第17号第38項)、将来利益そのものを移行日に一括して資本計上するわけではありません。CSMは保険契約サービスの提供に応じて取り崩され、保険収益として認識されます。
加えてIFRS第17号は、保険サービスの損益と保険金融収益費用を区分して表示します。割引率変動の影響は、採用する会計方針に応じて純損益またはその他の包括利益(OCI)に反映されます(IFRS第17号第87項〜第90項)。
実際、東京海上ホールディングスは有価証券報告書で、割引率の変動による影響をその他の包括利益に含めていると説明しています。したがって、金利変動が単年度の当期利益にどう効くかは、各社の会計方針を確認しないと判断できません。
移行前後の当期利益を単純に比べても意味がありません。各社が独自に定義する修正利益や、CSMの残高と当期リリース額を並べて見る必要があります。

他業種と比べるとどれくらい特殊なのか
数字の大きさを実感するには相対化が必要です。日本でIFRSを初度適用し、資本の調整表を開示した64社を集計すると、次のようになります。
| 指標 | IFRS初度適用64社 | 保険4社 |
|---|---|---|
| 資本増減率の中央値 | △1.7% | +31.4%〜+225.6% |
| 資本が増加した会社の割合 | 20社/63社(32%) | 4社/4社(100%) |
| 資本増減率の順位 | — | 1位・2位・4位・5位 |
| 資本増加額の順位 | — | 1位・2位・4位・6位 |
| 比較年度が減益だった会社の割合 | 29社/63社(46%) | 2社/4社(50%) |
※収録64社のうち1社(AIフュージョンキャピタルグループ)は資本の調整表の金額が未収録のため、割合の計算では母数から除いています。このため分母が63社となっている行があります。
64社全体の中央値は△1.7%で、そもそもIFRSへの移行は資本を減らす方向に働くほうが多数です。製造業や小売業では、のれんの非償却と減損テスト、リース、退職給付、収益認識といった項目が相殺し合い、多くは1桁パーセントの範囲に収まります。
その中で保険4社は、資本増減率の上位5社中4社を占めています(3位は株式会社CLホールディングスの+53.2%)。
資本増加額でも保険3社が上位を占め、そこに割って入るのが3位のソニーグループ(+1兆2,100億円、+25.3%)です。同社も金融事業を抱えており、保険関連の影響を含みます。今回集計した64社では、資本増加率・増加額の上位に保険事業を持つ企業が集中している、というのがデータから直接言えることです。
64社の全データは、当サイトのIFRS移行影響ナビで会社別・調整項目別に絞り込んで確認できます。原文の注記もそのまま参照できるようにしています。
有価証券報告書の初度適用注記を読む5ステップ
自社や取引先の開示を実際に読むときの手順です。慣れれば1社15分程度で要点を押さえられます。
ステップ1:EDINETで有報を開き「初度適用」を検索する
EDINETで有価証券報告書を開き、連結財務諸表注記の末尾付近にある「初度適用」の注記を探します。
ステップ2:資本の調整表の「上端と下端」だけを先に見る
細目に入る前に、日本基準の純資産合計とIFRSの資本合計の2行だけを取ります。ここで全体の方向と桁を掴んでから内訳に降りると、迷いません。
ステップ3:「表示の組替」と「認識及び測定の差異」を分ける
調整表は通常この2区分に分かれています。前者は科目の振替なので資本合計を動かしません。金額の大小に驚く前に、どちらの区分に属する調整なのかを必ず確認します。
ステップ4:内訳の合計と資本合計の差額を突き合わせる
本記事で見たとおり、内訳の合計は資本合計の増減額と一致しないことが普通です。
差額が出たら、その他の包括利益累計額への調整、累積換算差額の振替、非支配持分の3つを探します。この作業をしないまま内訳を引用すると、数字を取り違えます。
ステップ5:純損益の調整表で「内訳の有無」を記録する
純損益についても資本と同様の調整表が求められますが、差異項目別の内訳まで開示している会社は多くありません。
今回の4社はいずれも純損益の項目別内訳を開示していませんでした。内訳がない場合、利益の増減理由は本文の説明や決算説明資料から補う必要があります。開示の有無自体を記録しておくと、後の分析で無駄な探索を避けられます。
よくある質問(FAQ)
Q1. IFRS第17号は保険会社以外にも適用されますか
適用されます。
IFRS第17号は「保険会社の会計基準」ではなく「保険契約の会計基準」で、IFRSは保険会社と一般企業を区別していません。定義に当てはまる契約を保有していれば、契約の名称が保険契約でなくても適用対象になります。
ただしIFRS第17号第7項は、製品保証、年金・ストックオプションに関する負債、リースやライセンスなど非金融項目の将来の使用に関する契約、残価保証、金融保証契約、企業結合の条件付対価、企業が保険契約者である保険契約、クレジットカード契約に含まれる保険契約を適用対象外としています。
実務上、一般企業が適用を強いられるケースは多くありません。
Q2. 資本が増えたのに利益が減るのは矛盾していませんか
矛盾ではありません。
移行日の資本増加額はIFRS移行調整全体の結果であり、そのうち利益剰余金への調整では保険契約・再保険契約の再測定が最大のプラス要因になっています。「将来稼ぐ利益を先に資本へ計上した」という説明は正確ではありません。
むしろIFRS第17号は、将来の未稼得利益をCSMとして保険契約負債に残し、初日に利益として認識しない仕組みを採っています。
一方、比較年度の当期利益の増減は、IFRS第17号に限らずIFRS移行調整全体が反映された結果であり、どの要因がいくら効いたかは差異項目別の内訳が開示されていない限り切り分けられません。なお割引率変動の影響を純損益に入れるかOCIに入れるかは会計方針の選択によります。
Q3. CSM(契約上のサービス・マージン)とは何ですか
CSMは、保険契約グループから将来認識される未稼得利益を表す、保険契約グループの資産または負債の構成要素です(IFRS第17号第38項)。
一般モデル等では、将来の未稼得利益をCSMとして負債に残し、保険契約サービスの提供に応じて利益認識します。一方、当初から損失が見込まれる契約グループ(不利な契約)では、その損失を直ちに認識します。また短期契約に用いられる保険料配分アプローチ(PAA)では、通常のCSMの仕組みをそのまま使いません。
CSMの残高は将来の未稼得利益を示す重要な指標、当期のリリース額は今期に認識された分、と捉えると読みやすくなります。移行後の保険会社の業績は、当期利益だけでなくCSMの残高と成長率を合わせて見るのが一般的です。
Q4. 4社の数字を同じ表で比べても大丈夫ですか
方向と桁を掴む目的なら有用ですが、厳密な優劣比較には向きません。
移行日が2022年4月1日から2024年4月1日まで3年ぶんばらけており、割引率の前提となる金利環境が異なります。またライフネット生命保険は日本基準列が単体の数値です。増減率の比較では、母数の規模差も効きます。
同一条件での比較が必要な場合は、移行日が同じ東京海上ホールディングスとMS&ADの2社に絞るのが安全です。
Q5. 初度適用の注記は毎年見られますか
見られません。
IFRS第1号第24項が要求する日本基準との調整表は、最初のIFRS財務諸表、すなわち適用初年度の有価証券報告書に掲載されます。翌年度以降の有報はIFRSどうしの比較になるため、年度の有報でまとまった調整表を確認できるのは原則として適用初年度だけです(第32項により、適用初年度に含まれる期中財務報告にも一定の調整表またはその参照が求められます)。
関心のある会社の適用初年度を把握し、その年度の有報を保存しておくことをおすすめします。
まとめ:基準の解説より、開示された金額のほうが多くを語る
IFRS第17号の解説は充実していますが、日本企業の適用結果を金額で示した資料はまだ乏しい状況です。
実際に開示は始まっており、有価証券報告書の初度適用注記を開けば、保険業法に基づく監督会計の考え方が強く反映された測定から、IFRS第17号に基づく測定へ切り替わったときに何が起きるかを、開示された実額で確認できます。
- 今回分析した保険4社(大手3社とライフネット生命保険)は移行日に資本が31.4%から225.6%増加し、増加額は最大2兆3,467億円でした。
- 利益剰余金への調整で最大のプラス要因は、4社ともIFRS第17号による保険契約・再保険契約の再測定です。
大手3社では税効果が最大のマイナス要因でした。
価格変動準備金の取崩は日本固有のプラス要因です。 - 資本が増える一方で、比較年度の当期利益は2社が減少(うち2社とも5割超の減益)、1社が増加、1社が黒字転換と方向が分かれました。
この差額はIFRS第17号単独ではなく、IFRS移行調整全体によるものです。 - IFRS初度適用64社の資本増減率の中央値は△1.7%で、保険4社は上位5社中4社(1位・2位・4位・5位)を占めます。
今回の64社では、資本増加率・増加額の上位に保険事業を持つ企業が集中しています。
次の一歩として、関心のある会社の適用初年度を確認し、その有報の初度適用注記を上記の5ステップで読んでみてください。64社分の調整表を横断して比べたい場合は、IFRS移行影響ナビから会社別・項目別に絞り込めます。
参考一次情報
- EDINET(金融庁)
- IFRS Foundation|IFRS 17 Insurance Contracts(履行キャッシュ・フローの測定は第32〜38項、CSMは第38項、不利な契約の損失の即時認識は第47〜49項、保険料配分アプローチは第53項以下、保険金融収益費用の純損益/OCI区分は第87〜90項)
- IFRS Foundation|IFRS 1 First-time Adoption(調整表の要求は第23〜24項、期中財務報告における取扱いは第32項)
- 金融庁|2026年 保険モニタリングレポート(保険負債に関する「監督会計」の位置づけ)
- 企業会計基準委員会(ASBJ)|IFRS第17号に関する審議・修正の経緯