すでに一部の株式を保有している会社について、追加取得や種類株式の転換、株式交換などにより支配を獲得して子会社化すると、「段階取得に係る差益(差損)」という損益が生じることがあります。
連結上、支配獲得日に、それまで保有していた持分を時価で評価し直すためです(企業会計基準適用指針第10号46項・46-2項)。当サイトの集計では、企業結合注記に記載のある2,122社のうち250社(11.8%)が段階取得の記載を持ちます(会社単位・重複なしで、収録期間中に一度でも記載があった会社を数えたものです)。
従来持分を実際には売却していないのに数百億円の利益(損失)が計上される——この直感に反する損益の実例を、有価証券報告書の注記から金額つきで読み解きます。
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結論:収録事例で確認できた差益の最大は2,948億円。差損も現実に起きている
当サイトが確認した収録事例で最大なのは、ソフトバンクのPayPay連結子会社化に伴う段階取得に係る差益294,843百万円(約2,948億円)です(2023年3月期・IFRS)。優先株式の転換等を経て支配を獲得した時点で、従来保有していた持分を公正価値で再測定した結果です。
これに、イオン(ツルハホールディングス、691億円・日本基準)、楽天グループ(Altiostar、595億円・IFRS)、近鉄グループホールディングス(近鉄エクスプレス、475億円・日本基準)など、大型の差益が続きます。
一方で、差損もあります。
オープンハウス(現オープンハウスグループ)はプレサンスコーポレーションの子会社化で差損11,095百万円を計上しました。従来持分の帳簿価額や持分法評価額が支配獲得日の時価を上回っていれば、差損になるからです。
▶ ダッシュボードで確かめる:
「企業結合注記ナビゲーター」で「段階取得」タグを選ぶと、該当会社の注記原文を確認できます。
実例:段階取得に係る差益・差損の大型案件
当サイト収録の有価証券報告書(2021年6月期〜2026年3月期・18,253本)から、段階取得に係る差益・差損を注記原文で確認できた主な案件です(単位:百万円、1案件単位)。
| 会社名 | 差益/差損 | 金額 | 相手先(子会社化した会社) | 年度・基準 |
|---|---|---|---|---|
| ソフトバンク | 差益 | 294,843百万円 | PayPay | 2023年3月期・IFRS |
| イオン | 差益 | 69,086百万円 | ツルハホールディングス | 2026年2月期・日本基準 |
| 楽天グループ | 差益 | 59,496百万円 | Altiostar Networks(米国・通信ソフトウェア) | 2021年12月期・IFRS |
| 近鉄グループホールディングス | 差益 | 47,536百万円 | 近鉄エクスプレス(取得原価276,890百万円) | 2023年3月期・日本基準 |
| 三菱電機 | 差益 | 28,497百万円 | 三菱電機ミドルイースト・アフリカ・アンド・シーアイエス(49%→100%) | 2026年3月期・IFRS |
| 亀田製菓 | 差益 | 20,598百万円 | TH FOODS(米国・菓子製造) | 2026年3月期・日本基準 |
| 商船三井 | 差益 | 18,997百万円 | Gearbulk Holding(ドライバルク海運) | 2025年3月期・日本基準 |
| 三菱瓦斯化学 | 差益 | 15,085百万円 | 三菱エンジニアリングプラスチックス、THAI POLYCARBONATEほか(樹脂製造) | 2024年3月期・日本基準 |
| シャープ | 差益 | 12,422百万円 | 堺ディスプレイプロダクト(株式交換) | 2023年3月期・日本基準 |
| 西武ホールディングス | 差益 | 11,628百万円 | NWコーポレーション | 2025年3月期・日本基準 |
| オープンハウスグループ | 差損 | 11,095百万円 | プレサンスコーポレーション(取得原価73,083百万円) | 2021年9月期・日本基準 |
| あいホールディングス | 差損 | 5,164百万円 | 岩崎通信機(株式交換) | 2025年6月期・日本基準 |
| 京成電鉄 | 差損 | 1,470百万円 | 新京成電鉄(株式交換) | 2023年3月期・日本基準 |
※集計方法とデータの限界
本記事の事例は、有価証券報告書「注記事項(企業結合等関係)」のテキストから「段階取得に係る差益(差損)」の金額を抽出し、本表掲載の全13件について取引概要ブロックまで遡って案件帰属を確認したものです。
ソフトバンクのPayPay案件のように語順が定型と異なる開示は機械抽出で漏れるため、本記事のリストは網羅ではありません。母集団統計(250社・11.8%)は当サイト集計記事の公開値で、会社単位(重複なし・収録期間中に一度でも段階取得の記載があった会社)で数えています。
正確な内容は各社の有価証券報告書原本をご確認ください。

仕組み:なぜ支配を獲得しただけで損益が出るのか
既存持分を保有する企業について、追加取得等——買い増しのほか、種類株式の普通株式への転換、株式交換、被投資先による自己株式取得などの態様があります——により支配を獲得すると、連結上は従来持分を支配獲得日の時価で再測定します。
日本基準では、各取引を企業結合日時点の時価で測定して算定した取得原価と、支配獲得に至った各取引原価の合計額との差を段階取得に係る差益(差損)とします(企業会計基準適用指針第10号46-2項)。従来持分が持分法適用関連会社であった場合は、企業結合日直前の持分法評価額と企業結合日時価との差額が対象です(同項)。計上先は、日本基準では原則として特別利益・特別損失です。
IFRSでは、IFRS第3号42項により純損益又はその他の包括利益(OCI)に認識されます。PayPayのように従来持分の公正価値が帳簿価額等を大きく上回っていれば再測定差額は巨額の差益になり、オープンハウスのプレサンス案件のように従来持分の帳簿価額等が支配獲得日の時価を上回っていれば差損です。
なお、再測定損益自体には対応する現金収支を伴いませんが、支配獲得のための追加取得取引には現金支出を伴う場合があります。この「利益と資金の乖離」が読み方の出発点になります。



読み方の注意:他のM&A損益との同時発生と表示場所
実例が示すとおり、段階取得の損益が他のM&A関連損益と同時に計上された事例があります。
- 商船三井のGearbulk案件は差益18,997百万円と負ののれん発生益が同じ注記に並ぶ
- 西武ホールディングス(NWコーポレーション)も差益11,628百万円と負ののれん54,096百万円を同時計上
- あいホールディングス(岩崎通信機)は差損5,164百万円と負ののれん14,296百万円という組み合わせ
※負ののれん側の詳細は「負ののれん発生益の実例」参照
また、表示場所にも差があります。
三菱電機の注記は差益28,497百万円(MMAC案件)を連結損益計算書の「持分法による投資利益」に計上したと明記する一方、同じ2026年3月期のNozomi Networks案件の差益26百万円は連結包括利益計算書のその他の包括利益(OCI)に計上しています。
楽天グループはAltiostarの差益59,496百万円を「その他の収益」に計上しました。
IFRSでは純損益かOCIか、純損益の中のどの科目かが案件により異なり、日本基準の「特別利益」表示とも見える場所が違います。M&Aの期の決算は、単一の科目ではなく注記全体で損益の全体像を掴む必要があります。

よくある質問(FAQ)
Q1. 段階取得に係る差益は現金収入ですか?
いいえ。
既存持分の再測定という会計上の評価替えであり、再測定損益自体には対応する現金収支を伴いません(ただし、支配獲得のための追加取得取引には現金支出を伴う場合があります)。キャッシュ・フロー計算書と合わせて読むと、利益と資金の乖離が確認できます。
Q2. 差益と差損はどちらが多いのですか?
差益になるか差損になるかは、従来持分の帳簿価額等と支配獲得日の時価の関係次第です。
本表で集計した大型事例の抜粋においては差益10件・差損3件でしたが、全体の構成比を示すものではありません。
Q3. 個別(単体)財務諸表でも差益が出ますか?
段階取得に係る差益・差損は連結上の処理です。
日本基準の個別財務諸表では、支配獲得に至った個々の取引原価を合計して子会社株式の取得原価とするため、連結上のような段階取得損益は原則として生じません(企業会計基準適用指針第10号46項)。
Q4. 段階取得の実例を自分で探せますか?
企業結合注記ナビゲーターの「段階取得」タグで該当会社を一覧できます。
制度の解説と全体統計は「数字が動くM&A:暫定・段階取得・条件付対価」をご覧ください。
まとめ
段階取得に係る差益・差損は、支配獲得日に既存持分を時価で測り直すことから生じる損益で、再測定損益自体には対応する現金収支を伴いません。
実例はPayPayの2,948億円から差損3件まで幅広く、負ののれんや通常ののれんと同時に計上された事例も本表で複数確認できます。
段階取得の差益が大きい期の利益は、経常的な収益力と切り分けて評価する——これが実例から導ける読み方の結論です。全体統計はスポーク記事、負ののれん側の実例は負ののれん発生益の実例をご覧ください。

出典・注記
- 本記事の事例・金額は、金融庁EDINETの有価証券報告書「注記事項(企業結合等関係)」を当サイトが機械抽出し、注記原文と突合した参考値です(2026年7月時点。対象は2021年6月期〜2026年3月期の18,253本、2021・2026年度は部分収録)。
- 母集団統計(記載あり2,122社・段階取得250社・11.8%)は当サイト集計記事の公開値です(会社単位・重複なし)。
- 会計基準は企業会計基準第21号・同適用指針第10号(46項・46-2項)及びIFRS第3号(42項)によります。
- 本記事は一般的な情報提供であり、記載企業の評価や投資判断の推奨を目的とするものではありません。

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