有価証券報告書の「初度適用」注記を開いたものの、移行日の資本に対する調整表をどこから読めばよいのか分からず、そこで手が止まる方は少なくありません。表示組替と認識及び測定の差異が別の列に並んでいる意味がつかめず、内訳を足しても資本合計の増減額に届かないからです。
結論を先に言えば、IFRS移行による大きな資本差の主因を探すときは、まず「認識及び測定の差異」を確認するのが実務的です。今回原文を確認した8社では、「資本合計」行の表示組替は5社がゼロ、残る3社も91〜779百万円にとどまりました。ただし、表示組替でも資本と負債の区分をまたぐ場合などには資本合計が動くため、必ずゼロになるわけではありません。
この記事では、IFRSを初度適用した64社の開示から、
- 2つの区分が実際にいくらなのか
- 1社の調整表を資本の構成要素まで分解して読む手順
- 利益剰余金の調整項目の合計が資本合計の差と一致しない理由
を整理します。
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スライド解説







結論:まず「認識及び測定の差異」を見る。ただし表示組替がゼロとは限りません
押さえる点は3つです。
- 今回確認した8社では、資本合計行の表示組替は小さい金額にとどまりました
5社がゼロ、残る3社も91百万円・100百万円・779百万円です。純資産3兆円超のINPEXでも100百万円でした。ただし資本と負債の区分をまたぐ組替では資本合計が動くため、ゼロを前提にはできません。 - 利益剰余金の調整項目の合計は、資本合計の増減額と一致しないのが普通です
多くの会社の項目別内訳は、利益剰余金に対する調整の内訳だからです。グローリーを資本の構成要素まで分解すると、その理由が一目で分かります。 - 読む順番は「資本合計行の両端 → 2つの調整区分 → 内訳 → 差額」です
細目から入ると迷います。
移行日の資本に対する調整表とは何と何を突き合わせた表か
IFRSを初めて適用する会社は、IFRS第1号「国際財務報告基準の初度適用」に従い、それまでの会計基準とIFRSの差額を調整表で開示します。
求められるのは、
- 資本に対する調整表(移行日と比較年度末日の2時点)
- 純損益および包括利益に対する調整表(比較年度の1年分)
の2種類です。
なお、従前の会計基準でキャッシュ・フロー計算書を表示していた場合には、キャッシュ・フロー計算書の重要な調整についても説明が求められます。
表の形は多くの日本企業で共通しています。
各行が科目で、横方向に「日本基準 → 表示組替 → 認識及び測定の差異 → IFRS」と並ぶのが一般的です。
つまり移行日という同じ一時点の同じ会社の財政状態を、日本基準で測った場合とIFRSで測った場合で突き合わせた表です。時系列の比較ではありません。
ただしこの2列の区分自体をIFRS第1号が指定しているわけではありません。第25項は重要な調整を理解できる十分な詳細を求めているだけで、表示様式は会社ごとに異なります。
2列に分けるのは日本企業に広く見られる実務です。
この注記が載るのは原則として適用初年度の有報です
翌年度以降の有報はIFRSどうしの比較になります。
初度適用年度の有報は、日本基準とIFRSの差を体系的に確認できる貴重な開示です(IFRS第1号第32項により、適用初年度に含まれる期中財務報告にも一定の調整表またはその参照が求められます)。
EDINETで有報を開き、連結財務諸表注記の末尾付近にある「初度適用」を探してください。どの会社の適用初年度がいつなのかは、当サイトのIFRS移行影響ナビから調べられます。
表示組替と認識及び測定の差異はどう違うのか
2つの列は性質がまったく異なります。
表示組替は、金額を変えずに載せる科目を組み替える調整です。
日本基準の「投資その他の資産」をIFRSの「その他の金融資産」へ振り替えるような作業で、資産の中・負債の中・資本の中での移動であれば資本合計は動きません。
これに対し認識及び測定の差異は、計上するかどうか(認識)と、いくらで計上するか(測定)の違いから生じます。
有給休暇に係る債務の認識、のれんの償却停止と移行日の減損テスト、有形固定資産へのみなし原価の適用などが該当し、資産または負債の額が変わるため差額が資本合計に効きます。
【実額】8社の「資本合計」行で見た2区分の金額
有報の原文を照合できた8社について、「資本合計」の行に立つ2区分の実額を並べます。
次の表は原文の単位である百万円のまま掲載します(他の表は億円換算)。四捨五入で行の合計が1〜2百万円ずれる箇所がありますが、原文どおりです。
| 会社(証券コード) | 適用初年度 | 日本基準の純資産 | 表示組替 | 認識及び測定の差異 | IFRSの資本 |
|---|---|---|---|---|---|
| INPEX(1605) | 2023年12月期 | 3,312,633 | 100 | △67,830 | 3,244,904 |
| 大同特殊鋼(5471) | 2024年3月期 | 367,423 | 0 | △8,014 | 359,408 |
| エレマテック(2715) | 2024年3月期 | 59,645 | 0 | △56 | 59,588 |
| メルカリ(4385) | 2024年6月期 | 37,657 | 91 | 464 | 38,214 |
| イーレックス(9517) | 2025年3月期 | 73,953 | 0 | △1,720 | 72,232 |
| スズキ(7269) | 2025年3月期 | 2,508,620 | 0 | 234,912 | 2,743,533 |
| グローリー(6457) | 2026年3月期 | 223,147 | 779 | △35,209 | 188,717 |
| オプティマスグループ(9268) | 2026年3月期 | 23,125 | 0 | △829 | 22,295 |
単位はいずれも百万円です。
8社中5社は表示組替がゼロ、残る3社も91百万円から779百万円です。一方の認識及び測定の差異はスズキで234,912百万円のプラス、INPEXで67,830百万円のマイナスと桁が違います。
資本が大きく動いた原因を探すなら、まず認識及び測定の差異の列を見るのが実務的です。
表示組替がゼロにならない会社もあります
組替が資本の内側で完結せず、資本と負債の境界をまたぐ場合には、表示組替でも資本合計が動きます。
グローリーの+779百万円は資本剰余金に入っており、実際に資本合計を増やしています。「表示組替は必ずゼロ」という前提は置けません。
ただし今回の8社では、いずれも資本合計の増減額に比べて小さい水準にとどまりました。これはあくまで原文を確認できた8社についての結果で、64社全体の傾向ではありません。
【教材】グローリーの調整表を通しで読む
1社を通しで読むと構造が一気に見えます。
グローリー(6457)は移行日が2024年4月1日、適用初年度が2026年3月期で、2区分と資本合計のすべてが開示されており、教材として最適です。
まず「資本合計」行の両端を取ります。日本基準の純資産が223,147百万円、IFRSの資本が188,717百万円です。223,147+779-35,209=188,717という横方向の等式を自分の手で検算すると、表の構造が体で分かります。億円換算では資本が2,231億円から1,887億円へ、△344億円(△15.4%)の減少です。
認識及び測定の差異△35,209百万円を、資本の構成要素まで分解する
この記事でいちばん見てほしいのがここです。同社の調整表は資本の部を科目別に開示しているため、認識及び測定の差異△35,209百万円がどの構成要素に入ったのかを最後まで追えます。
| 資本の構成要素 | 日本基準 | 表示組替 | 認識及び測定の差異 | IFRS |
|---|---|---|---|---|
| 資本金 | 12,892 | — | — | 12,892 |
| 資本剰余金 | — | 779 | 9,475 | 10,255 |
| 利益剰余金 | 161,492 | — | 9,088 | 170,580 |
| 自己株式 | △8,097 | — | — | △8,097 |
| その他の包括利益累計額/その他の資本の構成要素 | 55,989 | — | △53,572 | 2,416 |
| 非支配株主持分/非支配持分 | 870 | — | △200 | 669 |
| 純資産合計/資本合計 | 223,147 | 779 | △35,209 | 188,717 |
単位は百万円です。
認識及び測定の差異△35,209は、
・資本剰余金+9,475
・利益剰余金+9,088
・その他の資本の構成要素△53,572
・非支配持分△200
の合計です。
利益剰余金への調整は+9,088ですが、資本合計行の「認識及び測定の差異」は△35,209となっています。
その差を作っている主役はその他の資本の構成要素△53,572です(なお資本合計の最終的な増減額は、表示組替+779を含めた△34,430百万円です)。
つまり、次に見る利益剰余金の調整項目一覧は、この+9,088を分解したものにすぎません。それをそのまま資本合計への影響だと読むと、桁を含めて結論を誤ります。

利益剰余金+9,088百万円の内訳
同社が開示している利益剰余金に対する調整(税効果調整後)の移行日列です。億円換算で示します。
| 調整項目(原文の項目名) | 移行日の金額 | 性質 |
|---|---|---|
| 在外営業活動体の換算差額 | +411億円 | 資本内の振替(資本合計は動きません) |
| 確定給付制度の再測定(資産上限含む) | △183億円 | 測定の差異 |
| 金融商品(公正価値測定・FVTOCI指定等) | △114億円 | 測定の差異 |
| 有給休暇に係る債務 | △42億円 | 認識の差異 |
| 無形資産(開発費の資産化) | +31億円 | 認識の差異 |
| リース | +4億円 | 認識の差異 |
| 賦課金(固定資産税等の費用認識時期) | △2億円 | 認識時期の差異 |
| 決算期変更 | △10億円 | 報告期間の統一 |
| 税効果 | +3億円 | 各項目の税効果 |
| その他 | △7億円 | — |
| 利益剰余金調整額(合計) | +91億円 | 上の分解表の「利益剰余金 9,088」と一致 |
最大項目は「資本合計を1円も動かさない」項目です
利益剰余金の内訳で最大なのは、在外営業活動体の換算差額+411億円(41,060百万円)です。
同社はIFRS第1号の免除規定により移行日の換算差額累計額をゼロとみなし、利益剰余金で認識しています。これは資本の中での振替なので、資本合計はまったく動きません。
上の分解表でその他の資本の構成要素が△53,572と大きくマイナスになっているのは、この振替がその一部を構成しているためです。
この1項目だけで、「利益剰余金の調整項目を足しても資本合計の増減にならない」理由の大半が説明できます。+411億円という最大項目が、資本合計への影響としてはゼロなのです。
在外営業活動体の換算差額を除いた利益剰余金調整のマイナス要因を見ると、確定給付制度の再測定△183億円(日本基準純資産の8.2%)、金融商品△114億円(同5.1%)が大きくなっています。ただし、これらはあくまで利益剰余金への影響額であり、その他の資本の構成要素への調整もあるため、各項目の資本合計への最終的な影響額と一致するとは限りません。実際グローリーでは、確定給付制度の再測定も金融商品もその他の資本の構成要素側に調整が生じ得る項目です。
プラス側は開発費の資産化による無形資産+31億円が最大で、日本基準で費用処理していた開発費のうちIFRSの資産化要件を満たす部分が資産計上された結果です。従業員給付が効き、開発費の資産化がプラスに働くのは、製造業で見られることのあるパターンです。
なお、本記事の他の集計表(64社の項目別集計)では、この換算差額のような資本内振替を集計対象から除外しています。資本合計への実質的な影響を把握する目的のためで、会社が開示していないという意味ではありません。
グローリーの場合、+41,060百万円は同社の利益剰余金調整表に明記されています。

内訳の合計が資本合計の差と一致しない理由
ここが最大のつまずきポイントですが、多くの場合、一致しないのが正常です。
各社が項目別に開示している内訳は、資本合計に対する調整の内訳ではなく利益剰余金に対する調整の内訳であることが多いためです。資本合計には次の3つが加わります。
- その他の資本の構成要素(その他の包括利益累計額)への調整
金融商品の公正価値測定や退職給付の再測定は、利益剰余金とOCIの双方に振り分けられます。 - 在外営業活動体に係る累積換算差額の資本内の振替
移行日にゼロとみなす免除規定を使うと換算差額累計額が利益剰余金へ振り替わります。資本合計は動きませんが、利益剰余金の内訳には大きく現れます。 - 非支配持分への影響
親会社持分への調整とは別に表示されます。
残差の大きさは会社ごとに桁が違います
| 会社 | 適用初年度 | 資本合計の増減 | 内訳合計と資本合計の差(残差) |
|---|---|---|---|
| グローリー(6457) | 2026年3月期 | △344億円 | △25億円 |
| スズキ(7269) | 2025年3月期 | +2,349億円 | △25億円 |
| INPEX(1605) | 2023年12月期 | △677億円 | △304億円 |
| TDK(6762) | 2022年3月期 | △439億円 | +994億円 |
| ソニーグループ(6758) | 2022年3月期 | +1兆2,100億円 | +1兆5,156億円 |
| 東京海上ホールディングス(8766) | 2026年3月期 | +2兆3,467億円 | △1,774億円 |
ここでいう残差は、「資本合計の増減額」から「本記事の集計対象とした利益剰余金の調整項目の合計(資本内振替を除く)」を差し引いたものです。
開示された利益剰余金調整額と資本差額の単純な差ではありません。グローリーとスズキは残差が△25億円で、内訳から資本合計をおおむね追えます。
これに対しTDKとソニーグループは残差が資本合計の増減額より大きく、内訳をそのまま読むと逆の結論になります。TDKの注記では、退職後給付の△95,893百万円がその他の資本の構成要素の+95,709百万円とほぼ相殺する構造が示されています。「退職後給付△959億円」を見て「資本が959億円減った」と読むのは誤りです。
差額の行き先を追える例:東京海上ホールディングス
同社の内訳合計2兆5,241億円に対し資本合計の増減は2兆3,467億円で、1,774億円のずれが残ります。
このずれは、その他の資本の構成要素への調整△1兆1,204億円、累積換算差額の振替+9,316億円、非支配持分+114億円でおおむね説明できます(詳細はIFRS第17号 保険会社への影響で扱っています)。
どの調整項目に注目すべきか
初度適用64社が開示した調整項目の集計です。収録は64社ですが、うち1社は資本の調整表の金額が未収録のため、金額集計・割合計算の母数は63社になります(社数を数える列は開示のあった会社数です)。
なお64社には日本基準からの移行60社に加え、米国基準からの移行4社が含まれます。
| 調整項目 | 開示社数 | 合計 | 中央値 | 符号 |
|---|---|---|---|---|
| 未消化有給休暇 | 48社 | △1,315億円 | △4億円 | 全社マイナス |
| 税効果 | 36社 | △21,282億円 | +1億円 | マイナス12/プラス24 |
| 有形固定資産 | 33社 | +1,596億円 | 0億円 | マイナス15/プラス18 |
| 金融商品 | 33社 | +8,124億円 | +1億円 | マイナス8/プラス24 |
| 退職給付 | 26社 | △5,261億円 | △20億円 | マイナス21/プラス5 |
| リース | 23社 | △49億円 | △0億円 | マイナス14/プラス8 |
| のれん等の非償却・移行日減損 | 17社 | △2,351億円 | △6億円 | マイナス14/プラス3 |
| 賦課金 | 11社 | △175億円 | △10億円 | 全社マイナス |
| 株式に基づく報酬 | 10社 | △105億円 | △2億円 | 全社マイナス |
| 開発費の資産化 | 7社 | +1,384億円 | +68億円 | マイナス1/プラス6 |
符号が一方向に固まる項目から見ます。
未消化有給休暇(48社すべてマイナス)、賦課金(11社)、株式に基づく報酬(10社)は例外なくマイナスです。いずれも債務や費用を追加的に認識する調整で、今回の63社集計では、これらの項目はいずれもマイナスでした。
逆に開発費の資産化は7社中6社がプラスです。
一方、有形固定資産・金融商品・税効果は会社によって符号が逆になります。有形固定資産はみなし原価の適用方法で結果が反転します。税効果の多くは他の移行調整に伴う一時差異から生じますが、繰延税金資産の回収可能性の見直しなど、他項目の単純な裏返しではない調整も含まれます(グローリーも注記で繰延税金資産の回収可能性の再検討に触れています)。
ここは注記本文を読む必要があります。
なお資本増減率の中央値は△1.7%(増加20社/減少43社)ですが、これはあくまで今回の63社における中央値であり、自社の影響を見る際の参考値として利用できます。
純損益の調整表との関係
資本の調整表を読み終えたら次は純損益ですが、期待しすぎないほうがよい実態があります。
当ナビの収録では、純損益について差異項目別の金額を拾えたのは64社中10社にとどまりました(うち数社は注記本文中の1項目のみで、内訳表の形にはなっていません)。
グローリーとスズキはいずれも純損益の項目別内訳表を開示していません。INPEXも限定的で、注記文中にのれんの非償却の影響(8,963百万円)が確認できる程度です。TDKは税引前の影響額のみです。
資本と同じ気持ちで純損益の内訳を探すと、存在しないものを探し続けることになります。純損益は「内訳の有無」を最初に確認し、なければ本文や決算説明資料に切り替えるのが効率的です。
また、資本の差と純損益の差は連動しません。64社では比較年度の当期利益が減少したのは29社/63社(46%)でほぼ半々です。資本の調整は移行日一時点のストックの差、純損益の調整は比較年度1年間のフローの差です。
両者は分けて読んでください。
移行日の資本に対する調整表を自分で読む5ステップ
ここまでを手順に落とします。慣れれば1社15分ほどで要点を押さえられます。
ステップ1:資本合計行の両端だけを取る
「資本合計」の行で、日本基準の純資産合計とIFRSの資本合計だけを書き出します。
グローリーなら223,147百万円と188,717百万円です。この時点で方向と桁が確定します。
ステップ2:表示組替と認識及び測定の差異に分ける
同じ行で2区分の金額を確認し、横方向の等式(日本基準+表示組替+認識及び測定の差異=IFRS)を検算します。
まず金額の大きい認識及び測定の差異から追うのが実務的ですが、表示組替も資本と負債の区分をまたぐ場合には資本合計を動かすため、金額が立っていたら注記本文で理由を確認します。
ステップ3:内訳を金額の大きい順に並べ替える
内訳は原文では科目順に並んでいることがあります。絶対値の大きい順に並べ替えると、上位2〜3項目で大半が説明できると気づきます。
上位項目の原文項目名は、自社との比較キーになります。
ステップ4:認識及び測定の差異を資本の構成要素まで分解する
調整表が資本の部を科目別に開示していれば、認識及び測定の差異が資本剰余金・利益剰余金・その他の資本の構成要素・非支配持分のどこに入ったかを確認します。
グローリーのように利益剰余金への調整が+9,088なのに、資本合計行の「認識及び測定の差異」は△35,209になることがあり、ここを見れば項目別内訳の位置づけが確定します。
科目別の開示がない場合は、内訳合計と資本合計の差を取り、その他の資本の構成要素への調整・累積換算差額の資本内振替・非支配持分の3つを注記の中で探します。差が資本合計の増減額と同程度なら、その内訳表は資本合計の説明には使えません。
ステップ5:純損益の調整表の「内訳の有無」を記録する
純損益の調整表を開き、項目別内訳があるかを記録します。ない場合は探索を打ち切ります。複数社を横断するときは、この記録が作業時間を左右します。
64社分の調整表はIFRS移行影響ナビから会社別・項目別に絞り込めます。
よくある質問(FAQ)
Q1. 表示組替の金額が大きい場合、開示の誤りを疑うべきでしょうか
誤りとは限りません。
資本と負債の境界をまたぐ組替が含まれると、表示組替でも資本合計に影響が出ます。実際グローリーの+779百万円は資本剰余金に入り、資本合計を増やしています。今回確認した8社では最大でもこの779百万円で、日本基準純資産223,147百万円に対してごく小さい水準でしたが、これは8社についての結果にすぎません。
まずは注記本文で、どこからどこへの移動なのかを特定してください。
Q2. 内訳の合計が資本合計の増減額と一致しません。計算違いでしょうか
多くの場合、計算は合っています。
開示されている内訳が利益剰余金に対する調整の内訳であるため、その他の資本の構成要素への調整、累積換算差額の資本内振替、非支配持分への影響が外に出ているのが原因です。
グローリーの例では、利益剰余金への調整が+9,088百万円なのに対し、資本合計行の「認識及び測定の差異」は△35,209百万円で、差の主役はその他の資本の構成要素△53,572百万円でした。差が大きい会社の内訳表は、資本合計の説明には使えません。
Q3. 移行日と比較年度末日の2時点があるのは、なぜですか
IFRS第1号第24項が、移行日と従前の会計基準による直近年度末の2時点について資本の調整表を求めているためです(同項は直近年度の包括利益についても調整を求めています)。
移行日の調整はそれまでの会計基準で積み上げた財政状態をIFRSに置き換えた影響を示し、比較年度末日の調整はその1年間の変動を含みます。本記事の金額はいずれも移行日時点です。
他社比較ではどちらの時点かを必ず揃えてください。
Q4. 認識及び測定の差異のうち、どの項目から確認すればよいですか
絶対値の大きい順です。
加えて業種から当たりをつける方法も有効で、製造業なら従業員給付と開発費の資産化、小売業ならみなし原価とのれんの減損、情報・通信業なら株式に基づく報酬と収益認識が確認候補になります(業種別に集計した結果ではなく、事業特性から想定される候補です)。
64社の開示社数で見ると、未消化有給休暇が48社で最多でした。
Q5. 表示組替と認識及び測定の差異を分けて開示していない会社もありますか
開示の様式は会社によって差があり、2つを別の列に分ける会社、注記本文で区分に言及する会社、区分を明示しない会社が混在しています。
本記事で実額を掲げた8社は、原文で「資本合計」の行に両区分の金額が立っていることを確認できた会社です。区分がない調整表では、各項目が科目の振替か金額そのものの違いかを自分で判別することになります。
まとめ:利益剰余金の調整項目を、資本合計への影響と読み違えないこと
移行日の資本に対する調整表は、慣れないうちは数字の壁のように見えます。骨格は単純で、2つの調整区分の性質を分け、認識及び測定の差異が資本のどの構成要素に入ったかを追うだけです。
- 大きな資本差の主因はまず認識及び測定の差異を見ます。
今回確認した8社では表示組替が5社ゼロ、残る3社も91〜779百万円でしたが、資本と負債の区分をまたぐ組替では資本合計が動くため、ゼロを前提にはできません。 - グローリー(2026年3月期)は223,147+779-35,209=188,717の等式に加え、認識及び測定の差異△35,209の内訳が資本剰余金+9,475/利益剰余金+9,088/その他の資本の構成要素△53,572/非支配持分△200と開示されており、教材として最適です。
- 利益剰余金の調整項目の最大は在外営業活動体の換算差額+411億円ですが、これは資本内の振替で資本合計を動かしません。項目別内訳をそのまま資本合計への影響と読むと結論を誤ります。
差の行き先は、その他の資本の構成要素、累積換算差額の資本内振替、非支配持分の3つです。 - 純損益の調整表は項目別内訳が開示されないことが多く、まず有無を確認してください。
- 資本増減率の中央値は△1.7%(増加20社/減少43社)、比較年度が減益だったのは29社/63社です。
いずれも今回の集計における参考値です。
次の一歩として、関心のある会社の適用初年度を確認し、その有報の調整表を上記の5ステップで読んでみてください。

参考一次情報
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