取引相場のない株式(非上場株式)の相続税・贈与税評価では、計算式に入る前に「会社規模の判定」が必要です。
会社規模が大会社・中会社・小会社のどれになるかで、使う評価方式も、類似業種比準価額に掛ける斟酌率も、純資産価額方式との併用割合(Lの割合)も変わります。
本記事では、財産評価基本通達178・179に沿って、会社規模の判定基準と斟酌率を実務目線で整理します。判定は評価額を左右する出発点なので、ここを正確に固めることが重要です。
結論
会社規模は「従業員数・総資産・取引金額」で大中小を判定し、斟酌率と併用割合を決める
会社規模判定の要点は、次の3つです。
- 判定の3要素は、従業員数・総資産価額(帳簿価額)・取引金額
従業員数70人以上は無条件で大会社、70人未満は総資産・従業員数の区分と取引金額の区分の上位で判定します。 - 規模で斟酌率が変わる
類似業種比準価額に掛ける斟酌率は、大会社0.7・中会社0.6・小会社0.5です。 - 規模で評価方式と併用割合(Lの割合)が変わる
大会社は類似業種比準方式が原則、中会社は併用、小会社は純資産価額方式が原則です。
本記事では、この判定基準・斟酌率・Lの割合を順に整理します。なお、具体的な判定や評価額は、必ず税理士・公認会計士にご確認ください。
会社規模判定とは何か(なぜ最初に必要か)
会社規模判定とは、
評価会社を大会社・中会社・小会社のいずれかに区分する手続き
です。財産評価基本通達178に定められています。
なぜ最初に必要かというと、会社規模によって次の3つが連動して決まるからです。
第一に、原則的評価方式(類似業種比準方式・純資産価額方式・その併用)のどれを使うか。
第二に、類似業種比準価額に掛ける斟酌率(0.7・0.6・0.5)。
第三に、中会社・小会社で併用する場合のLの割合です。
つまり、同じ会社でも規模区分の判定を誤ると、評価方式・斟酌率・併用割合のすべてがずれ、評価額が大きく変わります。
会社規模の判定は、株式評価の最初の分岐点です。
会社規模判定の前に:株主区分の判定
会社規模の判定とあわせて押さえておきたいのが、株主区分の判定です。
取引相場のない株式は、取得者が「同族株主等」かどうかで評価方式の枠組みが分かれます。
同族株主等が取得した株式は、本記事で扱う原則的評価方式(類似業種比準方式・純資産価額方式・併用)で評価します。
これに対し、同族株主以外の株主等が取得した株式は、特例的評価方式である配当還元方式で評価できます(財産評価基本通達188)。配当還元方式は配当をもとに評価する簡便な方法で、原則的評価方式より低い金額になることが多いのが特徴です。
実務では、取引相場のない株式(出資)の評価明細書の「第1表の1」で、株主区分の判定と会社規模の判定をあわせて行います。
まず株主区分で原則的評価か特例的評価かを決め、原則的評価となる場合に会社規模を判定する
という順序になります。
なお、評価会社が特定の評価会社(株式等保有特定会社・土地保有特定会社・比準要素数1の会社など)に該当する場合は、会社規模別の通常の評価ではなく、財産評価基本通達189以下の評価に進みます。
本記事は、特定の評価会社に該当しない原則的評価方式を前提に、その入口である会社規模判定を扱います。
会社規模の判定基準(財産評価基本通達178)
会社規模は、まず従業員数を見ます。
従業員数が70人以上であれば、それだけで大会社です。
70人未満の場合は、次の表の「総資産価額(帳簿価額)及び従業員数」による区分と、「直前期末以前1年間における取引金額」による区分を求め、いずれか上位の区分で判定します。
| 規模区分 | 業種 | 総資産価額(帳簿価額)及び従業員数 | 取引金額(直前期末以前1年間) |
|---|---|---|---|
| 大会社 | 卸売業 | 20億円以上(従業員35人以下を除く) | 30億円以上 |
| 大会社 | 小売・サービス業 | 15億円以上(従業員35人以下を除く) | 20億円以上 |
| 大会社 | その他 | 15億円以上(従業員35人以下を除く) | 15億円以上 |
| 中会社 | 卸売業 | 7,000万円以上(従業員5人以下を除く) | 2億円以上30億円未満 |
| 中会社 | 小売・サービス業 | 4,000万円以上(従業員5人以下を除く) | 6,000万円以上20億円未満 |
| 中会社 | その他 | 5,000万円以上(従業員5人以下を除く) | 8,000万円以上15億円未満 |
| 小会社 | 卸売業 | 7,000万円未満 又は 従業員5人以下 | 2億円未満 |
| 小会社 | 小売・サービス業 | 4,000万円未満 又は 従業員5人以下 | 6,000万円未満 |
| 小会社 | その他 | 5,000万円未満 又は 従業員5人以下 | 8,000万円未満 |
中会社はさらに、後述するLの割合によって「中会社の大」「中会社の中」「中会社の小」に細分されます。
総資産・従業員数による区分と取引金額による区分が異なる場合は、上位(評価上、類似業種比準方式の比重が大きくなる側)を採るのが原則です。
従業員数の数え方
従業員数は、単純な在籍人数ではありません。財産評価基本通達178では、次のように数えます。
まず、直前期末以前1年間を通じて継続勤務していた従業員(就業規則等で定める1週間の労働時間が30時間未満の人を除く)を「継続勤務従業員」として1人と数えます。
次に、それ以外の従業員(パート・短時間勤務など)については、その1年間の労働時間の合計を、従業員1人当たり年間平均労働時間1,800時間で割った数を加算します。
注意点として、社長・理事長や、法人税法上の使用人兼務役員とされない一定の役員は、従業員に含めません。役員を従業員に数えて70人を超えたと誤認しないよう、役員と従業員の区別を確認します。
業種区分(卸売業・小売サービス業・その他)の判定
判定表の業種区分は、直前期末以前1年間の取引金額に基づいて判定します。
複数の業種にまたがる場合は、取引金額が最も多い業種で判定します。業種区分によって金額基準が異なるため、自社がどの区分に当たるかを取引金額ベースで確定させることが必要です。
業種目の特定そのものは、業種目別株価等の早見表で日本標準産業分類を手がかりに確認できます。
会社規模で連動して決まる3つの要素
会社規模が確定すると、評価に関わる次の3つが連動して決まります。整理しておくと、判定結果がそのまま計算に直結することが分かります。
| 連動する要素 | 大会社 | 中会社 | 小会社 |
|---|---|---|---|
| 原則の評価方式 | 類似業種比準方式 | 併用方式 | 純資産価額方式 |
| 斟酌率 | 0.7 | 0.6 | 0.5 |
| Lの割合 | ―(類似原則・純資産選択可) | 0.90/0.75/0.60 | 0.50(選択時) |
このように、規模区分は評価方式・斟酌率・Lの割合の3点を一度に決める分岐点です。
以下で順に確認します。
規模区分で変わるもの①:斟酌率
会社規模が決まると、類似業種比準価額に掛ける斟酌率が決まります。
| 会社規模 | 斟酌率 |
|---|---|
| 大会社 | 0.7 |
| 中会社 | 0.6 |
| 小会社 | 0.5 |
斟酌率は、非上場株式の流動性の低さなどを踏まえた調整です。規模が小さいほど割引が大きくなります。自社の比準価額を試算する際は、判定した会社規模に応じた斟酌率を選ぶ必要があります。
類似業種比準価額シミュレーターでも、会社規模を選ぶと斟酌率が自動で反映されます。
規模区分で変わるもの②:評価方式とLの割合
会社規模は、使う評価方式も決めます。
大会社は類似業種比準方式が原則(純資産価額方式の選択可)、小会社は純資産価額方式が原則(L=0.50で類似業種比準方式の併用可)です。中会社は、次の式で併用します。
併用価額 = 類似業種比準価額 × L + 純資産価額 ×(1 − L)
このLの割合は、中会社の中でさらに区分され、総資産・従業員数による割合と取引金額による割合のいずれか大きい方を採ります。
| Lの割合 | 卸売業(総資産・従業員数/取引金額) | 小売・サービス業 | その他 |
|---|---|---|---|
| 0.90 | 4億円以上(従35人超)/7億〜30億円未満 | 5億円以上(従35人超)/5億〜20億円未満 | 5億円以上(従35人超)/4億〜15億円未満 |
| 0.75 | 2億円以上(従20人超)/3.5億〜7億円未満 | 2.5億円以上(従20人超)/2.5億〜5億円未満 | 2.5億円以上(従20人超)/2億〜4億円未満 |
| 0.60 | 7,000万円以上(従5人超)/2億〜3.5億円未満 | 4,000万円以上(従5人超)/6,000万〜2.5億円未満 | 5,000万円以上(従5人超)/8,000万〜2億円未満 |
総資産・従業員数による割合の判定では、各金額基準だけでなく、表中の従業員数の条件(0.90は35人超、0.75は20人超、0.60は5人超)も併せて満たす必要があります。
Lが大きいほど類似業種比準価額の影響が強くなります。
Lの割合は会社規模で決まり、納税者が自由に選べるものではありません。
同じ併用方式でも、純資産に比べて配当・利益の水準が低い会社では類似業種比準価額の比重が評価額を抑える方向に働くことがあり、含み益の大きい会社では純資産価額の比重が評価額を押し上げることがあります。
いずれも会社の状況によるため、両方式を試算して確認することが重要です。
会社規模判定の計算例(イメージ)
その他の業種で、
- 直前期末の総資産(帳簿価額)6億円
- 従業員数40人
- 直前期の取引金額10億円
の会社を考えます(数値は説明用の仮の例です)。
・従業員数は70人未満なので大会社の人数要件は満たしません。
・総資産・従業員数による区分は「その他5億円以上(従35人超)」に当たり大会社の基準を満たします。
・一方、取引金額10億円は大会社基準の15億円以上に届かず、中会社(8,000万円以上15億円未満)の範囲です。
・両区分のうち上位を採るため、この会社は大会社と判定されます。
・結果として斟酌率は0.7、評価方式は類似業種比準方式が原則となります。
会社規模判定でよくある誤りチェックリスト
- 役員を従業員に算入
社長・理事長や一定の役員は従業員数に含めません。 - 短時間勤務者の換算漏れ
パート等は労働時間合計を1,800時間で割って加算します。単純な頭数ではありません。 - 総資産を相続税評価額で計算
会社規模判定の総資産価額は帳簿価額です。相続税評価額ではありません。 - 業種区分の取り違え
業種は取引金額が最も多い業種で判定します。会社名の印象で決めません。 - 上位区分の採用漏れ
総資産・従業員数の区分と取引金額の区分が異なる場合は、上位を採ります。
実務担当者が迷わず判定するための5ステップ
- 従業員数を数える
継続勤務従業員に、短時間勤務者の労働時間合計÷1,800時間を加算します。役員は除きます。70人以上なら大会社で確定です。 - 業種区分を決める
直前期の取引金額が最も多い業種で、卸売業・小売サービス業・その他を判定します。 - 総資産・従業員数による区分を求める
直前期末の帳簿価額ベースの総資産と従業員数で、表の区分を当てはめます。 - 取引金額による区分を求める
直前期の取引金額で、表の区分を当てはめます。 - 上位区分で規模を確定する
3と4の上位を採って規模を確定し、斟酌率・評価方式・Lの割合を決めます。
判定が固まれば、あとは類似業種比準価額や純資産価額の計算に進めます。
よくある質問(FAQ)
Q1. 会社規模はどの数字で決まりますか?
従業員数・総資産価額(帳簿価額)・取引金額の3要素です。
従業員70人以上は大会社、70人未満は総資産・従業員数の区分と取引金額の区分の上位で判定します。
Q2. 斟酌率は規模でどう変わりますか?
大会社0.7、中会社0.6、小会社0.5です。
規模が小さいほど割引が大きくなります。
Q3. 中会社の「大・中・小」とは何ですか?
中会社の中での細区分で、Lの割合(0.90・0.75・0.60)に対応します。
Lが大きいほど類似業種比準価額の比重が高くなります。
Q4. 総資産は帳簿価額と相続税評価額のどちらですか?
会社規模判定では帳簿価額です。
純資産価額方式の計算では相続税評価額に洗い替えますが、規模判定の総資産は直前期末の帳簿価額を使います。
Q5. パート社員はどう数えますか?
その1年間の労働時間の合計を、従業員1人当たり年間平均労働時間1,800時間で割った数を、継続勤務従業員の数に加算します。
まとめ:判定を固めれば評価方式・斟酌率・Lが決まる
会社規模判定の要点は次のとおりです。
- 判定要素は従業員数・総資産価額(帳簿価額)・取引金額の3つ。
- 従業員70人以上は大会社、70人未満は総資産・従業員数の区分と取引金額の区分の上位で判定。
- 斟酌率は大0.7・中0.6・小0.5。
- 評価方式は大会社=類似原則、中会社=併用、小会社=純資産原則。
- 中会社のLの割合は0.90・0.75・0.60、小会社は0.50。
まずは自社の従業員数・総資産・取引金額を直前期末ベースで集計し、規模区分を確定してみてください。確定した斟酌率は、計算シートでの比準価額試算にそのまま使えます。
参考一次情報
- 国税庁「財産評価基本通達」178(取引相場のない株式の評価上の区分)、179(取引相場のない株式の評価の原則・Lの割合)
- 国税庁「財産評価基本通達」180(類似業種比準価額・斟酌率0.7/0.6/0.5)
- 国税庁 タックスアンサー No.4638「取引相場のない株式の評価」
- 国税庁「取引相場のない株式(出資)の評価明細書」(第1表の1 評価上の株主の判定及び会社規模の判定の明細書を含む)
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