国税庁タックスアンサーの「No.4423 個人から著しく低い価額で財産を譲り受けたとき」について解説します。
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個人から著しく低い価額で財産を譲り受けた場合、その財産の時価と実際に支払った対価との差額は、「贈与」によって取得したものとみなされ、贈与税の対象となります。
「著しく低い価額」に該当するかどうかは、一律の数値基準ではなく個別の具体的事案に基づき判定されます。法人への資産移転時に用いられる「時価の2分の1に満たない金額」といった基準とは異なる点に留意が必要です。
なお、基準となる「時価」は、土地や借地権、家屋などの場合は通常の取引価額を用い、それ以外の財産では相続税評価額を用いることとされています。
ただし例外的に、譲り受けた人が資力を喪失して債務の弁済が困難な状況にあり、その弁済に充てる目的で扶養義務者から財産を譲り受けたケースにおいては、弁済が困難な部分の金額については贈与により取得したものとはみなされません。
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実務者のための「個人からの低額譲受」における贈与税課税の実務解説
1. 導入:低額譲受における「みなし贈与」の戦略的重要性と背景
資産移転における価格決定は、単なる契約当事者間の合意事項に留まるものではありません。税務実務において最も警戒すべきは、当事者が「適正」と信じて疑わない取引価格が、税務上の「時価」と乖離し、結果として「著しく低い価額での譲受」と判定されるリスクです。
このようなケースでは、たとえ当事者に贈与の意図が全くなかったとしても、客観的な価格差が存在するだけで相続税法第7条に基づく「みなし贈与」の規定が発動します。実務上のインパクトは極めて大きく、譲受人には予期せぬ多額の贈与税負担(および付帯税)が課されることになります。
事後的な税務調査でこの論点を指摘されることは、タックスプランニングの根幹を揺るがす重大な過失となり得ます。
本記事では、この課税リスクを回避するために不可欠な判定基準と、実務者が陥りやすい「評価の罠」について詳述します。まずは、本制度における最終的な課税の結論から確認していきましょう。
2. 結論:税務上の最終的な取り扱い
タックスアンサーNo.4423および相続税法第7条の規定により、個人から「著しく低い価額」の対価で財産を譲り受けた場合の課税関係は、以下のように定義されます。
個人間の取引において、支払った対価が「時価」に比して著しく低いと判定される場合、その財産の「時価」と「実際に支払った対価」との差額に相当する金額は、財産を譲渡した人から譲り受けた人へ贈与されたものとみなされます。
この構造において、納税義務者は譲受人(買い手)となり、時価との差額が贈与税の課税対象となります。実務家が肝に銘じておくべきは、この規定が「形式は売買であっても、実質的な経済的利益の移転を捕捉する」という強力な性質を持っている点です。
この結論を導き出すための前提となるのが、何をもって「著しく低い」とするかの判定基準と、算出の基礎となる「時価」の厳格な定義です。
3. 詳細解説:制度の骨子と重要判定基準
本制度を適正に運用するためには、条文および「平元直評5外」等の関係通達に基づく構成要素を、実務レベルで解体して理解する必要があります。
「著しく低い価額」の判定基準と実務上の危うさ
「著しく低い価額」に該当するか否かは、個々の具体的事案に基づき総合的に判定されるのが原則です。ここで多くの実務家が陥る誤謬は、所得税法における法人への譲渡(法人税法上の時価の2分の1未満)という数値基準を安易に流用することです。
本通達では、法人の基準(1/2ルール)とは異なるものであることが明示されています。
実務上、対価が時価の50%を超えていても、親族間の属性や資産の流動性を背景に「著しく低い」と認定される可能性は否定できません。特定の数値に固執し、安全圏を過信することは禁物です。
「時価」の定義:実務上の重大な落とし穴
計算の基礎となる「時価」は、財産の種類に応じて以下の2つに峻別されます。ここが実務上の最大の「評価の罠」です。
- 土地、借地権、家屋、構築物等
これら不動産関連の時価は、「通常の取引価額(実勢価格・マーケット価格)」を指します。実務者が慣例的に用いる「相続税評価額(路線価評価額等)」を時価として計算することは、本規定の適用においては明らかな誤りであり、税務調査における格好の指摘事項となります。 - 上記以外の財産
有価証券やその他の財産については、原則として「相続税評価額」を時価として取り扱います。
適用除外(資力喪失時)の特例と限界
例外的に贈与税が課されない「資力喪失時の特例」についても、その適用範囲を厳格に把握しなければなりません。
- 要件:
譲受人が資力を喪失して債務弁済が困難であり、かつ扶養義務者から債務弁済に充てる目的で譲り受けた場合。 - 免除の範囲:
贈与税が課されないのは、「債務を弁済することが困難である部分の金額」に限定されます。
つまり、時価と対価の差額が、返済困難な債務額を超過している場合、その超過分には依然として贈与税が課される点に注意が必要です。
4. まとめ:実務における留意点とリスク管理
本制度の運用において、会計事務所スタッフや経理担当者が最優先で取り組むべきは、「不確実性の排除」です。
相続税法第7条および関係通達(平元直評5外)には、客観的な数値によるセーフハーバーが存在しません。そのため、実務上のスタンスとしては以下の対応が不可欠です。
- 「通常の取引価額」の立証:
不動産の譲受においては、路線価等に頼らず、近隣の取引事例、複数の不動産業者による査定書、あるいは不動産鑑定士による鑑定評価など、客観的な時価を裏付ける資料を取引前に必ず備えておく必要があります。 - 事案ごとの慎重なリスク評価:
親族間の低額売買を検討する際は、法人税法上の基準を盲信せず、常に「みなし贈与」のリスクを最大値で見積もる姿勢が求められます。
個人からの低額譲受は、一見すると節税スキームのように機能し得ますが、適切な「時価」の把握と根拠資料の積み上げを欠けば、単なる「課税の繰り延べ」どころか、取り返しのつかない税務リスクへと変貌します。プロフェッショナルとして、常に当局との見解の相違が生じ得ることを念頭に置き、防衛的なエビデンス構築を徹底してください。
ガイド:Q&A
第1問: 個人から「著しく低い価額」で財産を譲り受けた場合、税務上どのような取り扱いになりますか。
財産の時価と実際に支払った対価との差額に相当する金額は、財産を譲渡した人から贈与によって取得したものとみなされます。この差額分に対して、贈与税が課されることになります。
第2問: 「著しく低い価額」に該当するかどうかは、一律の数値基準で判定されますか。
いいえ、一律の基準はありません。「著しく低い価額」にあたるかどうかは、個々の具体的事案に基づき、それぞれの状況に応じて判定されることになります。
第3問: 法人に対する譲渡所得の計算で用いられる「時価の2分の1」という基準は、個人間の譲渡にも適用されますか。
適用されません。法人への譲渡の際に時価譲渡とみなされる「資産の時価の2分の1に満たない金額」という基準は、個人間譲渡の判定基準とは異なるものであると明示されています。
第4問: 土地や借地権を譲り受けた場合の「時価」とは、何を基準とした金額を指しますか。
土地や借地権などの場合、時価とは「通常の取引価額」に相当する金額を指します。実勢価格に基づいた評価が必要となります。
第5問: 家屋や構築物を譲り受けた場合の「時価」の定義について説明してください。
家屋や構築物の場合も、土地と同様に「通常の取引価額」に相当する金額を時価として扱います。市場における一般的な取引価格が基準となります。
第6問: 土地や建物以外の財産を譲り受けた場合、その「時価」はどのように算出されますか。
土地、借地権、家屋、構築物以外の財産については、原則として「相続税評価額」を時価として扱います。これにより贈与相当額の計算が行われます。
第7問: 低額での譲渡であっても、贈与とみなされない例外的なケースはどのようなものですか。
譲り受けた人が資力を喪失しており、債務を弁済することが困難な状況にある場合が該当します。その債務弁済に充てる目的での譲受であれば、一定の範囲で贈与とはみなされません。
第8問: 債務弁済のための譲渡において、贈与税が免除されるための譲り渡し人の条件は何ですか。
財産を譲り渡す人が、譲り受けた人の「扶養義務者」である必要があります。困窮している親族を支援する形での取引であることが条件の一つです。
第9問: 資力を喪失した人が扶養義務者から低額で譲り受けた場合、全額が非課税になりますか。
全額ではありません。「債務を弁済することが困難である部分」の金額についてのみ、贈与により取得したものとはみなされないという制限があります。
第10問: 具体的な税務相談が必要な場合、どこに問い合わせることが推奨されていますか。
国税局電話相談センター等で相談を受け付けています。国税庁ウェブサイトの「税についての相談窓口」を確認し、電話相談を利用することが案内されています。
用語集
| 用語 | 定義・説明 |
| 贈与税 | 個人から財産を譲り受けた際に、その利益に対して課される税金。本稿の対象税目。 |
| 著しく低い価額 | 時価に比べて極端に安価な対価のこと。判定は個別の事案ごとに行われ、法人向けの「2分の1」基準とは異なる。 |
| みなし贈与 | 形式上は売買(譲渡)であっても、実質的に贈与と同じ経済的利益があると判断され、贈与税の対象となること。 |
| 時価(土地・建物等) | 土地、借地権、家屋、構築物における「通常の取引価額」に相当する金額。 |
| 相続税評価額 | 土地や建物以外の財産の時価を算定する際に用いられる基準額。 |
| 資力喪失 | 財産や収入を失い、自分の力だけでは債務(借金)を返済できない状態。 |
| 扶養義務者 | 親族などで、法律上互いに養う義務がある人。この者からの譲受には債務弁済の特例がある。 |
| 通常の取引価額 | 市場において不特定多数の間で成立すると認められる価格。不動産などの時価判定に用いられる。 |
| 相法7 | 相続税法第7条。贈与税の課税根拠となる法令の一つ。 |
| 債務弁済 | 負っている借金や義務を返すこと。資力喪失者の救済規定における重要な目的。 |

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