取引相場のない株式(非上場株式)の評価では、会社規模を判定する前に「特定の評価会社」に当たらないかを確認する必要があります。
特定の評価会社に該当すると、会社規模に関わらず、原則として純資産価額方式で評価することになり、類似業種比準方式が使えない、または制限されるからです。
本記事では、比準要素数1の会社・株式等保有特定会社・土地保有特定会社・開業後3年未満の会社等の判定基準と評価方法を、財産評価基本通達189に沿って実務目線で整理します。
結論
特定の評価会社は原則として純資産価額方式。
ただし清算中の会社は清算分配見込額で評価する
特定の評価会社の要点は、次の3つです。
- 6つの類型がある。
比準要素数1の会社、株式等保有特定会社、土地保有特定会社、開業後3年未満の会社等、開業前・休業中の会社、清算中の会社の6類型です。 - 原則は純資産価額方式(清算中を除く)。
比準要素数1の会社・株式等保有特定会社・土地保有特定会社・開業後3年未満の会社等・開業前・休業中の会社は、原則として純資産価額方式で評価します。清算中の会社は、清算分配見込額の複利現価で評価します。いずれも類似業種比準方式は使えない、または制限されます。 - 一部に選択肢がある。
比準要素数1の会社はLを0.25とした併用、株式等保有特定会社はS1+S2方式を選択できます。
本記事では、各類型の判定基準と評価方法を順に整理します。なお、具体的な判定や評価額は、必ず税理士・公認会計士にご確認ください。
特定の評価会社とは何か(なぜ先に確認するか)
特定の評価会社とは、
資産の保有状況や営業の状態などが通常の会社と異なるため、類似業種比準方式になじまない会社
をいいます。財産評価基本通達189に定められています。
類似業種比準方式は、配当・利益・簿価純資産という比準要素で上場会社と比べる方式です。
しかし、3要素のほとんどがゼロの会社、資産の大半が株式や土地である会社、開業直後の会社などは、上場会社との比準が実態に合いません。そこで、これらを特定の評価会社として切り出し、会社の保有財産そのものを測る純資産価額方式で評価します。
判定の順序として、特定の評価会社の確認は、通常の会社規模別評価に進む前に行います。特定の評価会社に該当すれば、会社規模が大会社であっても原則として純資産価額方式になるためです。ただし、土地保有特定会社の判定のように、会社規模区分を参照して該当性を判断する類型もある点には注意が必要です。
特定の評価会社の6類型と評価方法
財産評価基本通達189が定める6類型と、それぞれの評価方法は次のとおりです。
| 類型 | 判定の概要 | 原則の評価方法 |
|---|---|---|
| 比準要素数1の会社 | 直前期末で3要素のうち2つがゼロ、かつ直前々期末でも2以上がゼロ | 純資産価額方式(L=0.25併用の選択可) |
| 株式等保有特定会社 | 総資産(相続税評価額)に占める株式等の割合が50%以上 | 純資産価額方式(S1+S2方式の選択可) |
| 土地保有特定会社 | 土地等の保有割合が大会社70%以上・中会社90%以上等 | 純資産価額方式 |
| 開業後3年未満の会社等 | 開業後3年未満、または3要素すべてがゼロ(比準要素数0) | 純資産価額方式 |
| 開業前・休業中の会社 | 開業前または休業中 | 純資産価額方式 |
| 清算中の会社 | 清算中 | 清算分配見込額の複利現価 |
以下、実務で問われやすい4類型を詳しく見ます。
比準要素数1の会社
比準要素数1の会社とは、1株当たりの配当金額・利益金額・簿価純資産価額の3要素のうち、直前期末でいずれか2つがゼロであり、かつ直前々期末を基準に計算した場合にもいずれか2以上がゼロである会社をいいます。要するに、比準要素が1つしか残っていない状態が2期続いている会社です。
配当金額と利益金額の判定は、直前期末以前3年間の実績を反映して行う点に注意が必要です。単年度だけを見て判定するわけではありません。
評価方法は、原則として純資産価額方式です。
ただし、納税者の選択により、Lを0.25として類似業種比準価額と純資産価額を併用する方法も選べます。比準要素数1の会社では、類似業種比準価額を一部だけ取り込めるため、収益力のある会社では併用が有利になる場合があります。
比準価額の試算には類似業種比準価額シミュレーターが、業種目別の数値の確認には業種目・業種目別株価等の早見表が利用できます。なお、3要素すべてがゼロの会社は「比準要素数0の会社」として、後述の開業後3年未満の会社等に含まれ、純資産価額方式のみで評価します。
株式等保有特定会社
株式等保有特定会社とは、課税時期において、評価会社の総資産(相続税評価額)に占める株式・出資・新株予約権付社債(株式等)の価額の割合が50%以上である会社をいいます。いわゆる持株会社(ホールディングス)が典型例です。
評価方法は、原則として純資産価額方式です。ただし、納税者の選択により、保有する株式等の部分(S2の金額)とそれ以外の部分(S1の金額)を分けて評価する「S1+S2方式」を採ることもできます。
S1+S2方式は、株式等以外の事業部分について類似業種比準方式の考え方を一部取り込むため、事業の収益力がある持株会社では純資産価額方式より低くなる場合があります。
具体的には、
S1の金額:株式等を除いた事業部分を通常の原則的評価方式に準じて評価した金額
S2の金額:保有する株式等そのものを純資産価額方式で評価した金額
➡S1とS2の金額を合算します。
事業実態のある会社では、株式等以外の部分に斟酌率が効くため、評価額が抑えられることがあります。
土地保有特定会社
土地保有特定会社とは、課税時期において、総資産(相続税評価額)に占める土地等の価額の割合(土地保有割合)が高い会社をいいます。
判定基準は会社規模で異なります。
| 会社規模 | 土地保有割合の基準 |
|---|---|
| 大会社 | 70%以上 |
| 中会社 | 90%以上 |
| 小会社(一定規模以上) | 卸売業20億円・その他15億円以上の総資産で70%以上、一定規模で90%以上 |
評価方法は純資産価額方式です。
不動産賃貸業など土地が資産の大半を占める会社では、この判定に該当しやすいため、土地保有割合の確認が欠かせません。
開業後3年未満の会社等・開業前・休業中・清算中
開業後3年未満の会社等は、課税時期において開業後3年未満であるもの、または3要素(配当・利益・簿価純資産)がいずれもゼロであるもの(比準要素数0の会社)をいい、純資産価額方式で評価します。開業直後で上場会社と比準できる実績がない会社を、保有財産で評価する趣旨です。
開業前または休業中の会社も、純資産価額方式で評価します。
清算中の会社は、清算の結果分配を受ける見込みの金額を、分配を受けると見込まれる日までの期間に応じた基準年利率による複利現価で評価します。
資産構成の意図的な変動への防止規定
実務で注意すべきは、租税回避防止の規定です。
株式等保有特定会社・土地保有特定会社の判定において、課税時期前に合理的な理由もなく資産構成に変動があり、それが特定の評価会社と判定されることを免れるためのものと認められるときは、その変動はなかったものとして判定します。
たとえば、課税直前に株式や土地を一時的に他の資産に組み替えて保有割合を下げる、といった行為は、変動がなかったものとして扱われます。判定基準ぎりぎりの会社では、資産構成の変動の経緯と合理性を説明できるようにしておく必要があります。
特定の評価会社と事業承継対策の留意点
特定の評価会社の判定は、事業承継対策とも密接に関わります。
一般に純資産価額方式は、含み益の大きい資産を持つ会社では高い評価額になりやすいため、特定の評価会社に該当すると株価が下がりにくい傾向があります。
たとえば、事業会社を株式でまとめる持株会社化を進めると、総資産に占める株式等の割合が高まり、株式等保有特定会社に該当する可能性が出てきます。該当すると原則として純資産価額方式となり、想定した評価額にならないことがあります。組織再編や資産構成の見直しを検討する際は、特定の評価会社の判定基準を踏まえ、判定の境界線に近づいていないかを事前に確認することが重要です。
なお、こうした判定や対策は個別性が高く、租税回避防止規定の適用も絡みます。一般的な情報として基準を理解したうえで、具体的な実行は税理士・公認会計士と検討してください。
特定の評価会社でよくある誤りチェックリスト
- 特定の評価会社の確認漏れ
通常の会社規模別評価に進む前に、特定の評価会社に該当しないかを確認します。大会社でも該当すれば原則純資産価額方式になります。なお、土地保有特定会社のように、判定上、会社規模区分を参照する類型もあります。 - 比準要素数1を1期だけで判定
直前期末と直前々期末の両方で判定します。配当・利益は3年間の実績を反映します。 - 保有割合を帳簿価額で計算
株式等・土地等の保有割合は相続税評価額ベースで判定します。 - 選択肢の見落とし
比準要素数1はL=0.25併用、株式等保有特定会社はS1+S2方式を選べます。有利な方を検討します。 - 直前の資産組替え
合理的理由のない直前の資産構成変動は、判定上なかったものとされる場合があります。
実務担当者が迷わず判定するための5ステップ
- 株主区分を確認する。
同族株主以外の株主等が取得した株式は、配当還元方式の対象になり得ます。 - 特定の評価会社に該当するか確認する。
6類型を順にチェックします。該当すれば原則純資産価額方式です。 - 該当類型ごとの評価方法を選ぶ。
比準要素数1はL=0.25併用、株式等保有特定会社はS1+S2方式の選択を検討します。 - 純資産価額を計算する。
資産・負債を相続税評価額に洗い替え、評価差額に対する法人税額等相当額(令和8年4月1日以後に取得する株式等は38%)を控除します。 - 議決権割合を確認する。
純資産価額方式で評価する類型では、取得者と同族関係者の議決権割合が50%以下の場合に80%評価の適用可否を確認します。清算中の会社など、別途の評価方法による類型は個別に確認します。
特定の評価会社に該当しなければ、会社規模を判定して通常の原則的評価方式に進みます。
よくある質問(FAQ)
Q1. 特定の評価会社に該当すると類似業種比準方式は使えませんか?
原則として使えず、純資産価額方式で評価します。
ただし、比準要素数1の会社はL=0.25の併用、株式等保有特定会社はS1+S2方式という選択肢があり、類似業種比準方式の考え方を一部取り込めます。
Q2. 比準要素数1の会社と比準要素数0の会社の違いは何ですか?
比準要素数1は3要素のうち2つがゼロの状態が2期続く会社です。
3要素すべてがゼロの会社は比準要素数0の会社で、開業後3年未満の会社等として純資産価額方式のみで評価します。
Q3. 株式等保有特定会社の50%はどう数えますか?
総資産を相続税評価額で評価した合計額に占める、株式・出資・新株予約権付社債の価額の割合で判定します。
帳簿価額ではありません。
Q4. 土地保有特定会社の基準は会社規模で違いますか?
違います。
大会社は土地保有割合70%以上、中会社は90%以上が基準です。小会社は一定の総資産規模に応じて70%または90%の基準が適用されます。
Q5. 判定の直前に資産を組み替えれば回避できますか?
できません。
合理的な理由のない資産構成の変動で特定の評価会社の判定を免れようとしたと認められる場合は、その変動はなかったものとして判定されます。
まとめ:特定の評価会社は会社規模より先に確認する
特定の評価会社の要点は次のとおりです。
- 6類型あり、いずれも原則は純資産価額方式。
- 比準要素数1は直前期末・直前々期末の両方で判定し、L=0.25併用を選べる。
- 株式等保有特定会社は株式等50%以上で、S1+S2方式を選べる。
- 土地保有特定会社は大会社70%・中会社90%などが基準。
- 直前の合理的理由のない資産組替えは判定上なかったものとされる。
まずは自社が6類型に該当しないかを確認し、該当する場合は純資産価額方式を基本に、選択できる方法を比較してみてください。
判定の境界線にある場合は、税理士・公認会計士と詰めるのが安全です。
参考一次情報
- 国税庁「財産評価基本通達」189(特定の評価会社の株式)、189-2(比準要素数1の会社)、189-3(株式等保有特定会社)、189-4(土地保有特定会社・開業後3年未満の会社等)
- 国税庁 タックスアンサー No.4638「取引相場のない株式の評価」
- 国税庁 質疑応答事例「『比準要素数1の会社』の判定の際の端数処理」
- 国税庁「取引相場のない株式(出資)の評価明細書」(第2表 特定の評価会社の判定の明細書を含む)
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