令和2年(2020年)に国税不服審判所が公表した裁決を25件収録し、税目・結論・争点を一覧で整理しました。裁判所に持ち込む前段階である「審査請求」で、この1年どんな処分が争われ、どこで納税者の主張が通ったのかを俯瞰できる年度版インデックスです。
裁決は匿名化されており、課税関係に加え徴収関係(公売・差押え等)も含みます。裁判所の判決をまとめた令和2年 課税関係 税務裁判例まとめ、滞納・徴収局面は令和2年 徴収関係判決まとめとは別シリーズです。
1. 数字で見る令和2年の裁決
裁判所より「審判所」のほうが納税者は救済されやすい
同じ令和2年でも、裁判所の判決と審判所の裁決では結果の傾向が大きく異なります。
令和2年は、裁判所の約8%に対し審判所は約76%。公表裁決は原処分が見直された事例が多く採録される傾向があり、審査請求が訴訟より納税者の主張が通る余地が大きいという実務上のセオリーがこの年も表れています。※いずれも公表・収録分に基づく数値です。
2. 税目別の内訳
| 税目 | 件数 | 全部取消 | 一部 | 棄却等 |
|---|---|---|---|---|
| 共通・通則・徴収 | 9 | 1 | 5 | 3 |
| 所得税 | 5 | 1 | 3 | 1 |
| 相続税・贈与税 | 4 | 2 | 1 | 1 |
| 法人税 | 5 | 1 | 3 | 1 |
| 消費税 | 2 | 1 | 1 | 0 |
3. 処分が覆った19件
令和2年の裁決のうち、全部または一部で原処分が取り消された事例です。「どんな主張が審判所で通ったのか」は実務の指針になります。
土地等の譲渡収益は誰に帰属するか(実質所得者課税)
裁決 令和2年12月15日
原処分庁が、請求人及び請求人以外の法人が行った土地等の譲渡等に係る収益は全て請求人に帰属し当期に計上すべきなどとして、青色申告承認の取消処分及び更正処分等を行った事案。審判所は、土地等の譲渡に係る収益の一部は他法人に帰属し、本件4項売買に係る収益は請求人に帰属しないとして、各処分の全部又は一部を取り消した(実質所得者課税)。
取締役は使用人兼務役員か(役員賞与の使用人職務分の損金性)
裁決 令和2年12月17日
取締役に支給した給与の一部を使用人兼務役員に対する使用人職務分として損金算入したことについて、原処分庁が、当該取締役は使用人兼務役員に該当せず損金算入されないとして更正処分等をした事案。審判所は、当該取締役は使用人としての職制上の地位を有していた平成27年3月31日までの間は使用人兼務役員に該当し当該期間の賞与は使用人職務分に該当するが、同年4月1日以後は使用人として…
元代表者への退職金と「退職の事実」(役員退職給与の損金性)
裁決 令和2年12月15日
元代表取締役に支給した退職金を損金算入して申告した請求人に対し、原処分庁が、元代表取締役は登記上退任後も経営に従事しており実質的に退職したとは認められないとして損金不算入とし更正処分等を行った事案。審判所は、元代表取締役には退職の事実が認められ、当該金員は退職給与として平成25年3月期の損金の額に算入されるとして、原処分の全部を取り消した。
役務提供のない支払手数料の計上と重加算税の「仮装」該当性
裁決 令和2年9月4日
不動産の取得に係る役務提供の対価として計上していた支払手数料について、損金算入できないとの指摘に従い法人税等を修正申告したところ、原処分庁が当該支払手数料の計上に事実の仮装があったとして重加算税を賦課した事案。審判所は、本件金員の計上に関して故意に事実をわい曲したと認めるに足る証拠はなく、その他仮装と評価すべき行為も認められないとして、通則法68条1項の重加算税を賦課…
所得拡大促進税制と「他の者から支払を受ける金額」(診療協力金)
裁決 令和2年7月7日
雇用者給与等支給額が増加した場合の所得税額の特別控除(所得拡大促進税制)を適用して申告したところ、原処分庁が当該特別控除の適用がないとして更正処分等を行った事案。争点は、診療所が勤務医を別病院の診療に従事させたことに伴い当該別病院から支給を受ける協力金が、旧措置法10条の5の3第2項3号括弧書きの「その給与等に充てるため他の者から支払を受ける金額」に該当するかであり…
遺留分の価額弁償金と代償財産の価額(相基通11の2-10(2))
裁決 令和2年8月11日
遺留分減殺請求に基づく価額弁償金について、取得財産の価額に算入した金額に相基通11の2-10(2)の適用漏れがあったとして更正の請求をしたところ、原処分庁が不動産の評価誤りのみを認める更正処分をした事案。審判所は、価額弁償金の具体的な申告額について当事者間で協議した事実が認められないとして、取得財産に算入する価額弁償金の額は相基通11の2-10(2)に定める方法により…
無償譲渡による第二次納税義務(徴収法39条)と受けた利益の範囲
裁決 令和2年7月9日
国税を滞納している納税者から無償で財産を譲り受けたとして、原処分庁が国税徴収法39条に基づく第二次納税義務の納付告知処分を行った事案。審判所は、請求人が受けた利益の一部について、本件滞納法人に係る売上げであると断定するに足りる証拠が認められないとして、滞納法人の売上げでない部分は無償譲渡の基礎とならないとし、第二次納税義務の額を是正して原処分の一部を取り消した。
不実の登記と「第三者に利益を与える処分」(第二次納税義務・徴収法39条)
裁決 令和2年7月28日
滞納法人が請求人を所有者とする不実の登記がされている不動産を請求人に取得させた行為が第三者に利益を与える処分に該当するとして、原処分庁が第二次納税義務の納付告知処分を行い、督促・差押えをした事案。審判所は、当該不動産の所有権は売買契約により滞納法人が取得したと認めつつ、不動産があたかも請求人所有であるかのような会計処理が行われていることをもって滞納法人が請求人に所有権…
相続放棄と法定単純承認(民法921条)・納税保証人の納付義務の承継
裁決 令和2年4月17日
滞納法人の納税保証人が死亡し、その配偶者である請求人が納付義務を承継したとして不動産が差し押さえられた事案。請求人は相続放棄をしたと主張し、原処分庁は請求人が相続財産を処分したから民法921条の法定単純承認事由に該当し相続放棄は効力を生じないと主張した。審判所は、相続人である請求人の口座に振り込まれた被相続人の顧問料相当額を引き出した事実は法定単純承認事由となる相続財…
賃料収入の認定と青色申告承認の取消し(不動産所得)
裁決 令和2年4月21日
土地の賃料及び賃料相当損害金等の収入があったのに確定申告をしなかったとして、所得税等・消費税等の決定処分及び無申告加算税の賦課決定処分、帳簿不備による青色申告承認の取消処分を受けた事案。審判所は、帳簿書類の提示がなく青色取消事由があるとした上で、請求人と同人が代表である法人との賃貸借契約について、契約書記載の契約期間後まで契約書記載の賃料収入が維持されていたとは認めら…
居住用財産3000万円控除の対象土地と「一構えの一の家屋」
裁決 令和2年6月19日
譲渡した家屋及び土地に係る譲渡所得について居住用財産の譲渡所得の特別控除を適用して申告したところ、原処分庁が土地の一部については特例を適用できないとして更正処分等を行った事案。審判所は、譲渡した土地上の甲家屋・乙家屋の2棟は独立しており一構えの一の家屋とは認められないとして、措置法35条1項の特例対象土地は家屋の建築面積の割合に従って算定した居住用家屋(甲家屋)の敷地…
騒音により利用価値が著しく低下している宅地の評価減
裁決 令和2年6月2日
相続により取得した土地について、広大地該当及び鉄道騒音により利用価値が著しく低下している宅地該当を理由に更正の請求をしたところ、原処分庁が広大地は認める一方、利用価値が著しく低下している宅地には該当しないとして更正の請求の一部を認めない減額更正処分をした事案。審判所は、本件土地は鉄道騒音による価値下落の影響を斟酌すべきであり、利用価値が著しく低下している宅地として減額…
輸入貨物(個人的使用)の課税価格と税関告知書記載価格の誤り
裁決 令和2年5月7日
外国からの郵便物に添付された税関告知書記載の価格に基づき消費税の課税標準を算出して賦課決定処分が行われた事案。審判所は、本件郵便物の内容品は請求人が電子商取引サイトで購入した本件商品(中古のミニカー)であったと認められ、その価格は明らかであるとして、課税価格は税関告知書記載の価格ではなく請求人が実際に購入した価格を基礎として算定すべきであるとし、原処分を全部取り消した…
軽種馬取引と課税仕入れの支払対価(通謀虚偽表示・仕入税額控除)
裁決 令和2年5月19日
取引先から取得した軽種馬の代金を課税仕入れに係る支払対価の額に計上して消費税等を申告したところ、原処分庁が、当該軽種馬の各取引に係る売買契約は通謀虚偽表示により無効で、代金の一部は課税仕入れの支払対価とは認められないとして更正処分等及び重加算税を賦課した事案。審判所は、本件各差額は請求人の課税仕入れに係る支払対価の額に該当するとし、これを仕入税額控除したことに隠蔽又は…
無申告と重加算税の「隠蔽し、又は仮装し」(通則法68条2項)
裁決 令和2年2月13日
調査を受けて法人税等・消費税等の期限後申告をしたところ重加算税を賦課された事案。審判所は、請求人が法定申告期限までに納税申告書を提出しなかったことについて、通則法68条2項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実はなく、同項の重加算税の賦課要件を満たさないとして、重加算税相当部分を取り消した(無申告加算税相当額は維持)。
修繕費の計上時期と重加算税の「仮装」(完了日の仮装の有無)
裁決 令和2年3月10日
建物の修繕工事費用を事業年度終了の日付で修繕費に計上して損金算入したところ、原処分庁が、当該工事は事業年度終了の日までに着工すらしておらず、施工業者に請求書を発行させて損金算入したことは事実の仮装に当たるとして重加算税を賦課した事案。審判所は、請求人に当該修繕費を当該事業年度の損金に算入できないことの認識や過少申告の意図があったとは認められないとして、通則法68条1項…
カフェテリアプランの人間ドック補助と源泉徴収義務(換金性)
裁決 令和2年1月20日
被合併法人E社が、福利厚生の一環として設けたカフェテリアプランの人間ドック等補助メニューに係る経済的利益は給与等として課税されないとしていたところ、原処分庁が、E社が付与するポイントには換金性があるから使用人が受ける経済的利益は全て給与等として課税されるとして源泉所得税等の納税告知処分等をした事案。審判所は、本件におけるカフェテリアプランは換金性のあるプランとは認めら…
輸入取引の仕入額(税関申告価格)と過大計上・重加算税・青色取消
裁決 令和2年2月5日
輸入取引に係る仕入額について総勘定元帳に計上した額に基づいて法人税等を申告したところ、原処分庁が、真正な仕入額は税関での申告価格であり、これを上回る金額(差額)は損金算入できないなどとして更正処分・重加算税・青色申告承認取消処分を行った事案。審判所は、本件輸入取引に係る仕入額は本件輸入申告額(税関申告価格)であるとはいえず、損金算入された仕入額が過大であったとは認めら…
広大地該当性と「一体使用が経済的に最も合理的」な土地の評価
裁決 令和2年3月17日
相続により取得した複数の土地について、その一部は広大地に該当するなどとして相続税の更正の請求をしたところ、原処分庁が広大地に該当しないなどとして更正をすべき理由がない旨の通知処分及び更正処分等を行った事案。審判所は、商業施設の敷地等として一体で使用(又は潰れ地が発生しないように区分して使用)することが経済的に最も合理的な土地は公共公益的施設用地の負担が不要で広大地に該…
4. 令和2年の争点トレンド
重加算税・加算税の賦課要件に加え、令和2年は財産評価・推計課税・国際課税や、徴収関係(公売・差押え)の論点が目立ちました。
5. 令和2年 公表裁決 全25件 一覧
全25件の一覧(税目順)を開く/閉じる
関連まとめ
まとめ
令和2年の公表裁決25件のうち、原処分が一部以上で取り消されたのは19件(約76%)。裁判所より高い救済率は、審査請求という手続の特性と、公表裁決の採録傾向を示しています。重加算税の賦課要件、財産評価、徴収手続(公売・差押え)が令和2年の主な論点でした。本ページは新たな公表分を反映して更新していきます。

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