【所得税|基本通達】第59条|贈与等の場合の譲渡所得等の特例

所得税法基本通達第59条「贈与等の場合の譲渡所得等の特例」について解説します。

目次

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詳細

所得税法第59条(贈与等の場合の譲渡所得等の特例)における、法人に対する低額譲渡などの取扱いのポイントは以下の通りです。

  1. 対価の判定:
    法人へ資産を移転する際、金銭だけでなく債務引受けなどの「経済的な利益」も対価に含まれ、これをもとに低額譲渡に当たるかどうかが判定されます。
  2. 同族会社への譲渡:
    法人に対し「時価の2分の1以上」の対価で譲渡した場合、原則として低額譲渡の規定(第59条第1項第2号)は適用されません。しかし、それが同族会社の行為計算否認に該当する場合は、税務署長の認定により時価で譲渡所得等が計算される可能性があります。
  3. 複数資産の一括譲渡:
    1つの契約で複数の資産を譲渡した際は、個々の資産ごとではなく契約全体の対価の合計額を基準に低額譲渡かを判定します。

このほか、借地の返還が資産の移転に含まれるケースや、株式譲渡・贈与時における詳細な時価(評価額)の算定ルールについても規定されています。

スライド解説

所得税法第59条(贈与等の場合の譲渡所得等の特例)の実務解説|法人への資産移転における「みなし譲渡」の判定と評価実務

1. 導入:所得税法第59条が実務において極めて重要である理由

資産税の実務において、個人から法人への資産移転は頻繁に検討されるスキームですが、ここには税務上の極めて重大な「落とし穴」が潜んでいます。それが所得税法第59条、いわゆる「みなし譲渡所得課税」の規定です。

この規定が存在する本質的な理由は、

含み益のある資産を法人という別の人格へ移転させることで、本来課されるべき譲渡益課税永久に回避することを防ぐ点にあります。

通常、所得税は「実現した利益」に対して課されますが、本条が適用されると、対価を受け取らない「贈与」や、時価よりも著しく低い「低額譲渡」であっても、税務上は「その時の時価で譲渡があったもの」とみなされ、個人側に多額の譲渡所得税が課せられることになります。

会計事務所のスタッフや経理担当者が、単に「お金が動いていないから課税されない」と安易に判断することは、クライアントに予期せぬ巨額の納税義務を負わせる致命的なミスに直結します。実務担当者は、単なる条文の表面的な理解に留まらず、当局が注視している「課税の公平性」という視点を持つべきです。

次のセクションでは、法人への資産移転においてどのような課税処理が結論付けられるのか、その全体像を詳述します。

2. 結論:法人への資産移転における課税処理の帰結

法人に対して資産を移転させる際、所得税法第59条第1項の規定に基づき、以下のケースでは移転時の「時価」を収入金額として譲渡所得を計算しなければなりません。

  • 贈与(法59条1項1号):
    対価を一切受け取らずに法人に資産を移転する場合です。ここでは個人から既存法人への寄附だけでなく、一般財団法人の設立を目的とする財産の拠出も含まれる(通達59-1)点を見落としてはいけません。
  • 低額譲渡(法59条1項2号):
    時価の2分の1未満の対価で法人に資産を譲渡する場合です。

これらの条件に合致した場合、たとえ現金収入がゼロであっても、含み益(時価と取得費の差額)に対して譲渡所得税が発生します。実務上の結論として、含み益のある資産を法人へ移転させる行為は、たとえ無償であっても「税務上の譲渡」を構成し、個人側に課税のインパクトが生じることを鉄則として銘記してください。

それでは、判断の分かれ目となる「低額譲渡」の判定基準や、資産ごとの複雑な評価実務について、基本通達の規定を深掘りして解説します。

3. 詳細解説:通達から読み解く実務上の重要ポイント

所得税法第59条の運用において、税務リスクを回避できるかどうかは、基本通達59-1から59-6に定められた細部を正確にコントロールできるかにかかっています。

(1) 低額譲渡の判定と経済的利益(通達59-2, 59-4)

低額譲渡の判定において、対価の額は単なる受領金額だけでは決まりません。

  • 経済的利益の算入:
    贈与名義であっても、移転に伴い法人に債務を引き受けさせるなどの利益がある場合は、その負債額を「対価」とみなします(通達59-2)。
    ここで注意すべきは、債務額が資産の取得費を上回る場合には即座に譲渡益が発生するだけでなく、その「ネットの対価」が時価の2分の1未満であれば、結局は時価課税が発動するという「ダブルパンチ」のリスクです。
  • 契約単位での判定:
    一つの契約で土地と建物など複数の資産を譲渡する場合、個別に判定するのではなく、「一の契約に含まれる全資産の対価の合計額」で判定します(通達59-4)。
    これは、一部の資産だけを時価に近づけて1/2枠をクリアさせようとする「チェリーピッキング」的な操作を封じるための規定です。

(2) 同族会社等に対する否認規定の適用(通達59-3)

「時価の1/2以上の対価なら安全」と考えるのは、実務家として極めて危険です。

たとえ1/2以上の対価であっても、その取引が不当に税負担を減少させていると認められる場合、所得税法第157条(同族会社等の行為又は計算の否認)が適用されます。この場合、1/2といった基準は無視され、税務署長の判断により時価(100%)で引き直して再計算されることになります。

ビジネス上の合理性がない取引は、常にこの否認リスクに晒されていると認識すべきです。

(3) 借地権の無償返還に係る取扱い(通達59-5)

借地権の返還は原則として「資産の移転」に含まれますが、以下の3つのケースに該当し、かつ実務上の証拠書類が整っている場合に限り、資産の移転とはみなされません。

区分資産の移転に含まれない(課税対象外となる)ケース
契約上の定め借地権設定時の契約書において、将来の無償返還があらかじめ定められている場合
土地の使用目的駐車場等の更地利用、または仮設店舗等の簡易な建物の敷地として利用している場合
物理的・経済的状況建物の著しい老朽化等により、借地権を存続させることが困難であると認められる事情がある場合

特に(1)については、「契約上の定め」の有無が客観的な証拠、すなわち書面で立証できることが不可欠です。

(4) 株式等の評価(通達59-6)の特例

非上場株式の評価は、財産評価基本通達を準用しますが、第59条特有の非常に厳しい修正ルールが存在します。

  • 判定時期の厳守:
    株主区分(50%判定)や「中心的な同族株主」の判定、会社規模の判定は、すべて「株式の譲渡又は贈与直前」の議決権数や状況に基づいて行います。
    このタイミングを誤ると評価額が根底から覆ります。
  • 読み替え規定:
    財産評価基本通達中の「取得した株式」を「譲渡又は贈与した株式」に、「株式の取得者」を「譲渡又は贈与した個人」と読み替えます。
  • 小会社判定の特例:
    譲渡した個人が「中心的な同族株主」に該当する場合、発行会社は常に「小会社」として評価されます。
  • 資産の時価評価:
    発行会社が土地や上場株式を保有している場合、1株当たりの純資産価額の計算において、それらは譲渡時の時価で評価し直す必要があります。
  • 【実務上の最重要点】法人税額等相当額の不控除:
    相続税評価(純資産価額方式)では通常、含み益の37%を「法人税額等相当額」として控除できます。
    しかし、法59条の評価においては、この「評価差額に対する法人税額等相当額」を控除することは一切認められません。

この不控除規定により、相続税評価額よりも著しく高い時価が算出されるため、相続対策の数字をそのまま流用することは絶対に避けてください。

4. まとめ:実務でのチェックポイントと注意点

個人から法人への資産移転を検討する際は、法59条が「原則として時価課税を求める規定」であることを前提に、以下のチェックリストを用いて慎重にスキームを検証してください。

  • 法人への譲渡対価が、適正な時価の2分の1未満になっていないか
  • 債務引受けなどの「隠れた対価(経済的利益)」を含めて判定したか。
  • 非上場株式の評価において、「株式譲渡直前」の状況で判定を行っているか。
  • 非上場株式の計算時、「評価差額に対する法人税額等相当額」を控除せずに計算しているか。
  • 同族会社間取引において、ビジネス上の合理性があり、所得税法157条の否認リスクを排除できているか。

最後に強調したいのは、「エビデンスとしての評価報告書の重要性」です。

法59条の時価判定は、後日の税務調査で最大の争点となります。相続税評価との違いを熟知した専門家による、取引時点の時価算定根拠を必ず書面で残しておくことが、クライアントを守る唯一の防衛策です。慎重かつ理論的な検討を怠らないようにしてください。

ガイド:Q&A

1. 一般財団法人の設立に関連して、法第59条第1項第1号の「贈与」にはどのようなものが含まれますか。

    法第59条第1項第1号に規定する贈与には、一般財団法人の設立を目的とする財産の拠出が含まれるものとされています(59-1)。

    2. 法第59条第1項第2号における「対価」の定義について、金銭以外に含まれる要素を説明してください。

    「対価」には、金銭だけでなく、金銭以外の物、権利、その他一切の経済的な利益が含まれます。これには法第36条第1項に規定する収入金額の概念が準用されます(59-2)。

    3. 資産の移転が「贈与」の名目であっても、法第59条第1項第2号(低額譲渡)の規定が適用されるのはどのような場合ですか。

    贈与名目であっても、移転に伴い債務を引き受けさせるなどの経済的な利益(収入)がある場合には、贈与の規定ではなく低額譲渡の規定に基づいて適用の有無が判定されます(59-2)。

    4. 法人に対して資産を譲渡した際、時価の何分の一以上の対価であれば、原則として法第59条第1項第2号の規定は適用されませんか。

    山林や譲渡所得の基因となる資産を法人に対し、時価の2分の1以上の対価で譲渡した場合には、原則として法第59条第1項第2号の規定は適用されません(59-3)。

    5. 法第157条(同族会社等の行為又は計算の否認)が適用される場合、譲渡所得の金額はどのように計算されますか。

    同族会社等の行為又は計算の否認規定が適用される場合には、税務署長の認めるところにより、当該資産の時価に相当する金額に基づいて所得金額が計算されます(59-3)。

    6. 一つの契約で複数の資産を法人に譲渡した場合、低額譲渡に該当するかどうかの判定はどのように行いますか。

    個々の資産ごとに対価の額が定められている場合であっても、個別に判定するのではなく、契約ごとに譲渡したすべての資産の対価の合計額を基に判定します(59-4)。

    7. 借地権等の設定は「譲渡所得の基因となる資産の移転」に含まれますか。また、借地の返還についてはどう扱われますか。

    借地権等の設定は資産の移転に含まれませんが、借地の返還は原則として含まれます。ただし、無償返還の定めがある場合や建物の老朽化などの特定事由がある場合は除外されます(59-5)。

    8. 借地の無償返還が「資産の移転」に含まれないとされる例外的な条件を一つ挙げてください。

    土地の使用目的が物品置場や駐車場としての更地利用、あるいは仮営業所などの簡易な建物の敷地利用であった場合、その返還は資産の移転に含まれません(59-5(2))。

    9. 取引相場のない株式を評価する際、譲渡人が「中心的な同族株主」に該当する場合の会社区分の扱いはどうなりますか。

    株式の譲渡直前に、その発行会社にとって「中心的な同族株主」に該当する個人が譲渡等を行う場合、その会社は常に「小会社」として評価されます(59-6(2))。

    10. 株式の「1株当たりの純資産価額」を計算する際、評価差額に対する法人税額等に相当する金額の控除は認められますか。

    法第59条第1項の適用における株式評価では、評価差額に対する法人税額等に相当する金額を控除することはできません(59-6(4))。

    用語集

    用語定義
    法第59条贈与、遺贈、または低額譲渡があった場合に、時価で資産を譲渡したものとみなして譲渡所得を計算する特例規定。
    低額譲渡時価に比して著しく低い対価(原則として時価の2分の1未満)で資産を譲渡すること。
    経済的な利益債務の免除や引受け、あるいは金銭以外の物や権利など、実質的に収入として認められる利益。
    同族会社等の行為又は計算の否認同族会社を利用した取引により所得税の負担を不当に減少させていると認められる場合、税務署長がその計算を否認し、正しい計算に引き直すこと。
    借地権等の設定土地の使用を目的として地上権や賃借権を設けること。本通達では「資産の移転」には該当しないとされる。
    中心的な同族株主株式の発行会社の議決権において、特定の株主グループの中で中核的な地位を占める株主。
    小会社財産評価基本通達において、会社の規模(従業員数や取引金額等)に基づき分類される区分の一つ。
    評価差額に対する法人税額等資産の時価評価額と帳簿価額の差額に対して課されると見込まれる税金相当額。法59条の評価ではこれを控除しない。
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