この記事で判断できること:海外勤務中に株式を譲渡した場合の課税
国税庁タックスアンサーの「No.1936 海外勤務中に株式を譲渡した場合」について解説します。
解説動画
海外赴任中の社員が日本の証券口座の株式を売ったとき、非居住者だから「日本の税金は関係ない」と思いがちですが、6つの例外に当たると日本で確定申告が必要になります。国税庁タックスアンサー No.1936 を、「原則は課税されない理由」「課税される6つの所得」「持分の割合で決まる2つの判定」の3点に絞って整理します。不動産の売却は No.1932、申告の手続は No.1926 で扱っています。
この記事の結論
1年以上の予定で海外に勤務する人はPEを有しない非居住者になり、日本で課税されるのは国内源泉所得だけです。海外勤務中の株式の譲渡は原則として日本では課税されませんが、買集め、事業譲渡類似、税制適格ストックオプションの特定株式、不動産関連法人の株式、日本に滞在する間の譲渡、国内のゴルフ会員権の6つのいずれかに当たると確定申告が必要です。当たっても租税条約で日本で課税されないことがあります。
非居住者だから、一時帰国中に売った株も日本の税金は関係ない
日本に滞在する間の譲渡は国内源泉所得。確定申告が必要
海外にいる間に、少数保有の上場株式をネット証券で売った
6つに当たらなければ日本では課税されない
- 11〜5は申告分離課税、6のゴルフ会員権は総合課税です。区分や計算方法は居住者と同じです(No.1463)。
- 2事業譲渡類似は25%以上の所有と5%以上の譲渡の両方、不動産関連法人は前年12月31日の持分が上場5%超・非上場2%超で判定します。いずれも特殊関係株主等の合計で見ます。
- 3実務で起きやすいのは一時帰国中の売却(5)と、赴任前の税制適格ストックオプションの株式の売却(3)です。
要点1 海外勤務中の株式譲渡は、原則として日本では課税されない
給与所得者が1年以上の予定で海外の支店などに転勤すると、一般的には国内に住所を有しない者と推定され、所得税法上の非居住者になります。非居住者が日本で課税を受けるのは国内源泉所得のみで、課税範囲や課税方法は、国内源泉所得の内容と恒久的施設(PE)の有無で異なります。
海外勤務中の給与所得者は、一般的には恒久的施設を有しない非居住者に該当します。その非居住者が株式等を譲渡した場合、国内源泉所得として課税されるのは、原文が掲げる1から6のいずれかに該当する所得に限られ、それ以外は日本の証券会社の口座で売却しても日本では課税されません(赴任先の国の課税は別)。確定申告の要否などは No.1926 を参照します。
要点2 課税されるのは6つ。実務で多いのは「日本滞在中の譲渡」と「税制適格ストックオプション」
6つのうち実務で出会いやすいのは、5の日本に滞在する間に行う内国法人の株式等の譲渡と、3の税制適格ストックオプションの権利行使により取得した特定株式等の譲渡です。一時帰国中にネット証券で売却すれば、非居住者でも5に当たります。赴任前に付与された税制適格ストックオプションを行使して取得した株式を海外勤務中に売却した場合は3に当たります。
1の買集めは、同一銘柄の内国法人の株式等を買い集め、所有者の地位を利用してその内国法人やその特殊関係者などに譲渡する所得、6は国内のゴルフ場の株式形態のゴルフ会員権の譲渡による所得です。課税方法は、1から5が上場株式等と一般株式等に区分して他の所得と分けて税額を計算する申告分離課税、6が総合課税で、区分や計算方法は居住者と同様です(No.1463)。
| 1 買集めによる株式等の譲渡 | 申告分離課税 |
| 2 事業譲渡類似の株式等の譲渡 | 申告分離課税 |
| 3 税制適格ストックオプションの特定株式等の譲渡 | 申告分離課税 |
| 4 不動産関連法人の一定の株式の譲渡 | 申告分離課税 |
| 5 日本に滞在する間の内国法人の株式等の譲渡 | 申告分離課税 |
| 6 国内のゴルフ場の株式形態のゴルフ会員権の譲渡 | 総合課税 |
要点3 「事業譲渡類似」と「不動産関連法人」は、持分の割合で判定する
2の事業譲渡類似の株式等の譲渡は、内国法人の特殊関係株主等である非居住者が行う譲渡で、2つの要件を両方満たす場合です。譲渡年以前3年以内のいずれかの時に、その内国法人の特殊関係株主等が発行済株式等の25%以上を所有していたこと、そして譲渡年に、その非居住者を含む特殊関係株主等が、最初に譲渡する直前の発行済株式等の5%以上を譲渡したことです。
4の不動産関連法人の一定の株式の譲渡は、まず法人の判定から入ります。不動産関連法人とは、譲渡の日から起算して365日前の日から譲渡の直前までのいずれかの時に、資産の価額の総額のうち国内にある土地等(および一定の株式)の価額の合計が50%以上を占める法人です。そのうえで、前年12月31日に特殊関係株主等が発行済株式等の5%超(上場株式等)または2%超(それ以外)を有し、かつ譲渡した人がその特殊関係株主等である場合の譲渡が対象です。どちらも特殊関係株主等の合計で見ます。
要点4 1億円以上の株式を持って出国するときは、売らなくても「国外転出時課税」がある
原文にはありませんが、海外赴任と株式の組合せで確かめておきたいのが国外転出時課税です。国外転出の時に所有する対象資産(有価証券など)の価額等の合計額が1億円以上で、原則として国外転出の日前10年以内に国内に住所または居所を有していた期間の合計が5年を超える人は、国外転出の時に対象資産を譲渡したものとみなして含み益に所得税が課税されます(No.1478)。
納税管理人の届出をしていれば国外転出をした年分の確定申告期限までに、届出をしなければ国外転出の時までに準確定申告で申告します。一定の手続で国外転出の日から5年間(延長の届出で最長10年間)の納税猶予を受けられます。国外転出の日から5年以内に帰国し、その時まで引き続き所有等している対象資産は、納税猶予を受けていなくても、帰国の日から4か月以内に更正の請求または修正申告をすることで一定の要件の下で課税を取り消せます。納税猶予の適用を受けて期限延長の届出をしている場合は、この期間が10年以内になります。
| 対象者 | 対象資産の合計額が1億円以上、かつ出国前10年以内の国内居住期間が合計5年超 |
| 課税のしかた | 出国時に譲渡したものとみなし、含み益に課税 |
| 納税猶予 | 納税管理人の届出・担保提供などで出国の日から5年間(延長で最長10年間) |
| 帰国したとき | 出国から5年以内(猶予+延長届出なら10年以内)の帰国で、引き続き所有する資産の課税を取消し(帰国から4か月以内に更正の請求または修正申告) |
設例で確かめる
| A:赴任先から日本の証券口座で上場株式(少数保有)を売却 | 6つに当たらない。日本では課税されない |
| B:一時帰国中に同じ上場株式を売却 | 5 日本に滞在する間の譲渡。申告分離課税 |
| C:赴任前の税制適格ストックオプションで取得した株式を赴任先から売却 | 3 特定株式等の譲渡。申告分離課税 |
| D:家族で30%を持つ同族会社の株式を、その年に6%分売却 | 2 事業譲渡類似。申告分離課税 |
| E:国内のゴルフ場の株式形態のゴルフ会員権を売却 | 6 総合課税 |
| F:Bで、赴任先の国との租税条約に日本で課税しない定めがある | 条約により課税されないことがある |
Aが原則で、B〜Eが6つの例外に当たる形です。Fのように、該当しても租税条約で日本の課税が制限される場合があります。Cは国内法上の整理で、実際に日本で課税される金額は租税条約や国内勤務期間等によって異なる場合があります。
例外と注意点、判定の流れ
- 租税条約に日本で課税しない定めがあるとき6つに該当しても、租税条約により日本で課税されないことがあります。赴任先の国との条約を確認します。
- 恒久的施設を有する非居住者は別の整理この記事はPEを有しない非居住者の場合です。日本に事業の拠点を持つ人は課税範囲が異なります(No.2883)。
- 出国の年は居住者期間の譲渡を忘れない出国前の株式譲渡は居住者として申告の対象です。納税管理人の届出の有無で申告の時期が変わります(No.1926)。
よくある間違い
- 非居住者だから株の売却はすべて日本では無関係と考えた6つに該当すれば確定申告が必要です。特に一時帰国中の売却は見落としがちです。
- 日本の証券口座で売ったから国内源泉所得だと思った口座の場所では決まりません。6つに当たるかで判定します。
- 事業譲渡類似を本人の持分だけで判定した25%・5%の判定は特殊関係株主等の合計で行います。
- 不動産関連法人の持分要件を上場・非上場で区別しなかった前年12月31日の持分が、上場株式等は5%超、それ以外は2%超です。
- 租税条約を確認せずに申告した6つに該当しても条約で日本の課税が制限されることがあります。
実務の確認手順
- 非居住者か、PEを有しないかを確認する1年以上の予定の海外勤務なら一般に非居住者(No.2875)で、PEを有しない。
- 日本滞在中の譲渡か、ストックオプションの株式かを確認する一時帰国中の譲渡(5)と税制適格ストックオプションの特定株式等(3)は国内源泉所得。
- 同族会社や不動産関連法人の株式なら持分を確認する事業譲渡類似は25%所有+5%譲渡、不動産関連法人は前年末の持分が上場5%超・非上場2%超(特殊関係株主等の合計)。
- 該当するなら租税条約を確認し、納税管理人を通じて申告する1〜5は申告分離課税、6は総合課税(No.1926・No.1923)。
- 出国時に対象資産が1億円以上なら国外転出時課税を確認するみなし譲渡課税。納税猶予と帰国時の取消し(No.1478)。
根拠と関連記事
結論欄の評価は TaxJudge 編集部の目安です。頻出度=給与・経理の実務でこの論点に出会う頻度(★5:ほぼ毎月〜★1:まれ)。難易度=基礎:原則を知れば判断できる/標準:例外や他の制度との関係まで見る必要がある/応用:個別事情の判断や複数制度の横断が必要。
根拠:国税庁タックスアンサー No.1936 海外勤務中に株式を譲渡した場合(令和8年4月1日現在法令等。所得税法2、5、7、161、164、165、所得税法施行令15、280、281、措法29の2、37の10〜37の12ほか)、No.1478 国外転出をする場合の譲渡所得等の特例(対象資産1億円以上・居住期間5年超・納税猶予5年〈延長10年〉・帰国時の取消し)、No.1463・No.1926(いずれも2026年10月確認)。先生とハルカは架空の人物で、会話は制度を理解するための学習用です。個別の判断は国税庁の原文と最新の法令・租税条約で確認してください。
Q&A
読んだ内容の確認用です。質問を押すと答えが開きます(全10問)。
Q1所得税法上、どのような場合に給与所得者は「非居住者」と推定されますか?答えを見る ▼閉じる ▲
給与所得者が1年以上の予定で海外の支店などに転勤した場合、一般的に日本国内に住所を有しない者と推定され、所得税法上の非居住者となります。
Q2非居住者が日本国内で課税を受ける所得の範囲について説明してください。答えを見る ▼閉じる ▲
非居住者の場合、日本で課税を受けるのは「国内源泉所得」のみに限定されています。国外で発生した所得については、日本の所得税の対象外となります。
Q3非居住者の課税方法を決定する上で、重要な判断基準となる要素は何ですか?答えを見る ▼閉じる ▲
非居住者に対する課税方法は、その者が日本国内に「恒久的施設(PE)」を有するか否かによって異なります。海外勤務中の給与所得者は、一般的に恒久的施設を有しない非居住者に該当します。
Q4非居住者が株式等を譲渡した際、申告分離課税の対象となる所得(1から5の区分)と、総合課税の対象となる所得(6の区分)の主な違いは何ですか?答えを見る ▼閉じる ▲
1から5に該当する所得(買集め、事業譲渡類似、税制適格SO、不動産関連法人、滞在中の譲渡)は、他の所得と区分して計算する「申告分離課税」となります。一方で、6に該当する「ゴルフ会員権の譲渡」による所得は「総合課税」の対象となります。
Q5申告対象となる「買集めによる株式等の譲渡による所得」の定義を説明してください。答えを見る ▼閉じる ▲
同一銘柄の内国法人株式を買い集め、その地位を利用して、その内国法人や特殊関係者などに対して株式を譲渡することで得られる所得を指します。これには、金融商品取引所等が異常な動きとして報告を求めた買集めなどが含まれます。
Q6事業譲渡類似の株式等の譲渡として課税されるための「25パーセント」と「5パーセント」の要件について詳しく説明してください。答えを見る ▼閉じる ▲
譲渡年以前3年以内のいずれかの時に、特殊関係株主等がその法人の発行済株式の25%以上を所有していたことが第一の要件です。その上で、譲渡年にその非居住者を含む株主グループが、合計で5%以上の株式を譲渡した場合に該当します。
Q7所得税法における「不動産関連法人」の定義を、資産価値の観点から説明してください。答えを見る ▼閉じる ▲
株式譲渡日から遡って365日以内のいずれかの時点において、法人が保有する資産価額の総額のうち、国内にある土地等および一定の株式等の価額の合計額が占める割合が50%以上である法人のことを指します。
Q8不動産関連法人の株式譲渡が課税対象となるための、特殊関係株主等の所有割合に関する条件(上場株式と非上場株式の違い)を述べてください。答えを見る ▼閉じる ▲
譲渡年前年末において、上場株式の場合は特殊関係株主等が5%を超える株式を保有していることが条件です。非上場株式(上場株式等以外)の場合は、保有割合が2%を超える場合に課税対象となります。
Q9日本国内に滞在している間に行う内国法人の株式譲渡は、どのように取り扱われますか?答えを見る ▼閉じる ▲
非居住者が日本に滞在している間に行う内国法人の株式等の譲渡による所得は、国内源泉所得として申告対象となります。これは、恒久的施設を有しない非居住者であっても課税される特定の所得区分に含まれます。
Q10日本の国内法で課税対象とされる所得であっても、税金が免除または軽減される可能性があるのはどのような場合ですか?答えを見る ▼閉じる ▲
日本と相手国との間で締結されている租税条約により、日本での課税が制限または免除される規定がある場合は、日本の国内法よりも租税条約が優先され、課税されないことがあります。
