移転価格税制ラボ【設例・基本の3パターン編】|先生と一緒に図で学ぶ設例A〜C レンジ外と文書化の判定
無料の学習ツール「移転価格税制ラボ」の読み方ガイドです。ラボの設例・基礎タブから、基本の3パターン(設例A〜C)を1つずつ、先生と生徒の会話形式で見ていきます。各行の図はラボの図そのものです。重要な節の最後には、ラボで30秒だけ手を動かす小さな実習を置いています。
今日の設例
日本の親会社P社(3月決算・2026年4月〜2027年3月期)。直前の最終親会計年度の連結総収入は800億円。前事業年度の国外関連取引は、タイの製造子会社T社と66.5億円(部品の販売・製品の購入の総額)、ドイツの販売子会社G社と32億円。無形資産取引はない。T社(売上高300億円)の売上高営業利益率は1.2%で、ベンチマークの四分位レンジは2.1%〜5.0%(中央値3.4%・平均値3.6%)。タイの法人税率は20%(例)。
事業年度/自社の立場2026年4月1日〜2027年3月31日 / 日本の最終親会社等
連結総収入(直前の最終親会計年度)800 億円
国外関連者(前事業年度の取引・無形資産)タイ製造子会社 T社 66.5億円/ドイツ販売子会社 G社 32億円
はじめに
今日の題材 ── 設例A・B・C
📍 ラボの場所:設例・基礎タブ
ハルカ
基礎編と応用編で、物差しと例外はひととおり分かりました。でも、実際に1社分を最初から最後まで判定したことがありません。
先生
今日はそれをやってみよう。設例・基礎タブの3つの事例は、どれも日本の親会社P社の話で、数字を1か所ずつ変えてあるんだ。Aが基本形、Bは無形資産、Cは1,000億円以上のグループだよ。
ハルカ
1か所だけ変えると、結論がどう動くかが分かるんですね。
先生
そういうことなんだ。まずは事例Aの状況から、判定の順番どおりに見ていこうか。
設例・基礎タブで事例Aを開きながら読むと分かりやすいですラボで開く ▶
📘 設例A ラボの画面
判定の順番| ステップ | 見るもの | 結果 |
|---|
| ① 企業グループか | 連結財務諸表を作る企業集団に属するか | 当たる |
| ② 多国籍企業グループか | 構成会社等の居住地国が二以上か | 当たる(国外関連者がある前提) |
| ③ 特定多国籍企業グループか | 直前の最終親会計年度の連結総収入 800 億円 ≧ 1,000億円 | 当たらない → 3つの報告・届出事項は提供義務なし |
| ④ 自社の立場 | 日本の最終親会社等 | - |
| ⑤ ローカルファイル | 国外関連者ごとに 合計50億円/無形資産3億円(前事業年度) | 義務あり 1 社・免除 1 社 |
ローカルファイル:国外関連者ごとの同時文書化義務(前事業年度の金額・百万円)| 国外関連者 | 国外関連取引の合計(相殺前の総額) | うち無形資産取引の対価 | 判定 | 調査で求められたら |
|---|
| タイ製造子会社 T社 | 6,650 66.5億円 | 0 0億円 | 同時文書化 義務あり 国外関連取引の合計 66.5億円 ≧ 50億円 | ローカルファイル:45日以内の指定日 重要な書類:60日 |
| ドイツ販売子会社 G社 | 3,200 32億円 | 0 0億円 | 免除 合計 32億円 < 50億円 かつ 無形資産取引 0億円 < 3億円 → 同時文書化は免除 | 相当する書類:60日以内の指定日 |
合計は受取・支払を相殺せず総額で(FAQ問70)。無形資産取引は科目名にかかわらず譲渡・貸付け・権利設定・使用許諾等を含む(問71)。事前確認を受けた取引の金額も含めて判定(問72)。
設例A
連結総収入800億円 ── グループの文書はなし、ローカルファイルはT社だけ
📍 ラボの場所:設例・基礎タブ 事例A ステップ2・3
ハルカ
P社の連結総収入は800億円なので、まずグループの判定で外れますね。
先生
そのとおり。ステップ2の判定表で、③の1,000億円に届かないから特定多国籍企業グループには当たらないんだ。届出事項・CbCR・マスターファイルの3つは要らないよ。
迷いポイント グループで外れたら、ローカルファイルの判定もしなくてよい?
先生
ステップ3の⑤が残っているんだ。T社とは66.5億円で50億円以上だから義務あり。G社とは32億円で無形資産もないから免除だよ。同じP社の中で、相手ごとに結論が分かれるんだ。
ハルカ
同じ会社なのに、T社には厳しくてG社には優しいんですね。えこひいきみたいです。
先生
基準が金額だから、えこひいきではないよ。それに、免除のG社も調査では説明を求められるんだ。
💡 そうだったのか!
800億円ならグループの文書はなし。ローカルファイルは国外関連者ごとに判定し、T社(66.5億円)は義務あり、G社(32億円)は免除です。
📘 設例A ラボの画面
※ Q1〜Q3に入っているだけで自動的に適正になるわけではありません。事務運営指針4-5・4-6の要件(比較対象取引が4以上、必要な差異調整、比較対象取引の選定の妥当性、定量的に把握することが困難な差異が残っていてもその影響が軽微であること等)を満たすことが前提です。レンジから外れた場合の算定は事務運営指針4-8(原則として平均値。分布状況等に応じ中央値その他の合理的な値)によります。
レンジ判定(Q1〜Q3の中か)レンジ下限を下回る検証対象:海外子会社(国外関連者)/売上高営業利益率
更正される国(レンジ外のとき)相手国側(国外関連者の所在地国が増額更正)検証対象の利益が低すぎる
調整点との差(平均値 3.6%)+2.4pt売上高 30,000 百万円に掛ける
利益率レンジ試算(参考) 単位:%・百万円| 項目 | 値 | メモ |
|---|
| 第1四分位(Q1) | 2.1% | |
| 中央値 | 3.4% | |
| 平均値 | 3.6% | 調整点の原則(事務運営指針4-8) |
| 第3四分位(Q3) | 5% | |
| 検証対象の実績 | 1.2% | レンジ下限を下回る |
| 参考:所得差額(調整点まで直した場合) | 720 百万円 | |3.6% − 1.2%| × 30,000 |
| 参考:税額の目安 | 144 百万円 | 所得差額 × 税率 20%(加算税・延滞税は別) |
相手国側で更正リスク:海外子会社の利益が低すぎるため、日本ではなく相手国で増額更正され、二重課税に。対応的調整は相互協議の合意が前提で、自動ではありません。 調整点は比較対象の分布等に応じ、平均値(原則)・中央値その他の合理的な値が用いられ、自動的に中央値になるわけではありません(事務運営指針4-8)。 利益水準指標(PLI)を切り替えると、同じ子会社でもレンジ内外が反転することがあります(総費用営業利益率・ベリー比は費用構造に依存)。 比較対象の選定・差異調整・独立企業間価格そのものは、このラボの射程外です。
設例A
T社の利益率1.2% ── レンジ外で、更正されるのはタイ側
📍 ラボの場所:設例・基礎タブ 事例A ステップ6
ハルカ
ローカルファイルを作る前に、T社の利益率が気になります。1.2%はレンジの外でした。
先生
画面のとおり、Q1 2.1%を下回っているね。子会社の利益が低すぎる=日本の親会社に利益が寄っていると見られるから、増額更正のリスクがあるのはタイ側なんだ。
迷いポイント 日本の親会社の利益が高いなら、日本の税務署は喜ぶだけ?
ハルカ
日本には利益がたくさんあるので、日本側は何も困らないですよね。
先生
タイで増額されても、日本で自動的に減額されるわけではないんだ。相互協議で合意するまでは、同じ利益に両方の国で課税されたままになるよ。平均値3.6%まで直すなら差は2.4pt、所得差額は720百万円、タイの税率20%で税額の目安は144百万円だね。
💡 そうだったのか!
子会社の利益率がレンジ下限を下回れば、更正のリスクが向くのは相手国(実際の扱いは相手国の法令と事実しだい)。日本で自動的には減額されないので、二重課税のリスクになります。
⏱ 30秒だけラボで試す
- シミュレーションを開く(事例Aが入っています)
- 右の「利益率レンジ」で、実績を 1.2 → 2.1% に変える
👀 上の数字の「利益率レンジ」が「下限を下回る」→「内」に変わります。Q1ちょうどでもレンジ内です。
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📘 設例B ラボの画面
ローカルファイル:国外関連者ごとの同時文書化義務(前事業年度の金額・百万円)| 国外関連者 | 国外関連取引の合計(相殺前の総額) | うち無形資産取引の対価 | 判定 | 調査で求められたら |
|---|
| タイ製造子会社 T社 | 6,650 66.5億円 | 0 0億円 | 同時文書化 義務あり 国外関連取引の合計 66.5億円 ≧ 50億円 | ローカルファイル:45日以内の指定日 重要な書類:60日 |
| ドイツ販売子会社 G社 | 3,200 32億円 | 350 3.5億円 | 同時文書化 義務あり 無形資産取引 3.5億円 ≧ 3億円 | ローカルファイル:45日以内の指定日 重要な書類:60日 |
合計は受取・支払を相殺せず総額で(FAQ問70)。無形資産取引は科目名にかかわらず譲渡・貸付け・権利設定・使用許諾等を含む(問71)。事前確認を受けた取引の金額も含めて判定(問72)。
設例B
G社に商標の使用許諾3.5億円 ── 免除から義務ありへ
📍 ラボの場所:設例・基礎タブ 事例B ステップ3
ハルカ
事例Bは、事例AのG社との32億円の中に、商標の使用許諾が3.5億円あった場合ですね。
先生
そう。合計は32億円のままだけれど、無形資産取引が3億円以上になるから、G社も義務ありに変わるんだ。画面の下段の棒が3億円の線を越えているよね。
迷いポイント 「経営管理料」という名目なら、無形資産取引にはならない?
ハルカ
契約書で「経営管理料」と書いてあれば、無形資産取引には入らないですよね。
先生
名目ではなく中身で判定するんだ。FAQ問71のとおり、経営管理料の中に商標やノウハウの使用許諾に当たる部分があれば、その部分は無形資産取引になるよ。
ハルカ
「経営管理料」って、名前だけ聞くと、とても真面目でおとなしそうなのに…。
先生
名前がおとなしくても、中身で判定するんだ。請求の内訳を分けておくと、判定も説明も楽になるよ。
💡 そうだったのか!
合計50億円未満でも、無形資産取引が3億円以上なら義務あり。無形資産取引かどうかは名目ではなく中身で判定します。
⏱ 30秒だけラボで試す
- シミュレーションを開く(事例Bが入っています)
- G社の「うち無形資産」を 350 → 250 百万円に変える
👀 G社は「義務あり(無形で)」→「免除」(無形資産取引 2.5億円 < 3億円)に戻ります。
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📘 設例C ラボの画面
3つの報告・届出事項(特定多国籍企業グループ) 自社の立場:日本の最終親会社等| 文書 | 要否 | 理由 | 期限・方法 |
|---|
最終親会社等届出事項 措法66条の4の4第5項 | ○ 提供する | 特定多国籍企業グループの構成会社等(全ての立場で○) | 2027年3月31日 最終親会計年度の終了の日まで |
国別報告事項(CbCR) 措法66条の4の4第1項・第2項 | ○ 提供する | 最終親会社等(代理親会社等)が提供 → 条約方式で各国へ情報交換 | 2028年3月31日 終了の日の翌日から1年以内・英語 |
事業概況報告事項(マスターファイル) 措法66条の4の5第1項 | ○ 提供する | 特定多国籍企業グループの構成会社等(全ての立場で○) | 2028年3月31日 終了の日の翌日から1年以内・日本語または英語 |
罰則:正当な理由なく国別報告事項・事業概況報告事項を期限内に提供しないと30万円以下の罰金(措法66条の4の4第7項・66条の4の5第3項)。最終親会計年度は自社の事業年度と同じと仮定しています。
事業年度2026年4月1日〜2027年3月31日
ローカルファイルの作成・取得期限(=確定申告書の提出期限)2027年5月31日決算日 + 2か月
保存期間7年間(2034年5月31日まで)提出期限の翌日から
最終親会社等届出事項2027年3月31日最終親会計年度の終了の日まで
国別報告事項2028年3月31日終了の日の翌日から1年以内
事業概況報告事項2028年3月31日終了の日の翌日から1年以内
別表17(4)(国外関連者に関する明細書)確定申告書に添付(2027年5月31日)国外関連者の名称・所在地・取引の種類と金額・算定方法など。同時文書化が免除でも添付
月末決算が前提:決算月の月末日を事業年度終了の日として計算しています。月末以外の日(例:6月15日)が終了の日なら、申告期限は終了の日の翌日から2か月以内(例:8月15日)となり、表示と異なります。
期限が土日・祝日・12月29日〜1月3日なら翌日以降の最初の平日に繰り下げて表示しています(国税通則法10条2項)。「1年以内」は終了の日の翌日から起算して1年後の応当日(=翌年の同じ月末)としています。
設例C
連結総収入1,200億円 ── 3つの報告・届出事項と期限
📍 ラボの場所:設例・基礎タブ 事例C ステップ3・5
ハルカ
事例Cは、取引は事例Aと同じで、グループが1,200億円になった場合ですね。
先生
1,000億円以上だから特定多国籍企業グループに当たって、P社は日本の最終親会社等として3つの報告・届出事項をすべて提供するんだ。CbCRは日本からタイやドイツへ情報交換で送られるよ。
迷いポイント 3つの報告・届出事項は、全部同じ期限?
ハルカ
3つまとめて、1年以内に出せばいいですよね。
先生
届出事項だけ早いんだ。最終親会計年度の終了の日までだから2027年3月31日。CbCRとマスターファイルは翌日から1年以内で2028年3月31日。ローカルファイルは申告期限の2027年5月31日だよ。
ハルカ
一番短い届出事項が、一番先に締め切られるんですね。私の夏休みの宿題と同じ並び方です。
先生
宿題と違って、届出事項は決算日の当日が期限なんだ。期末の前に、親会社の名前や所在地を確認しておくといいよ。
💡 そうだったのか!
1,200億円なら3つの報告・届出事項も必要。期限は届出事項が終了の日まで、CbCR・MFが翌日から1年以内、ローカルファイルが申告期限までです。
⏱ 30秒だけラボで試す
- シミュレーションを開く(事例Cが入っています)
- 「連結総収入」を 1,200 → 999 億円に変える
👀 提供する文書が 3件 → 0件 になります。ローカルファイル(T社は義務あり・G社は免除)は変わりません。
ラボを開く ▶
今日の内容を、ラボで確かめてみませんか?
この記事の図は、すべて移転価格税制ラボの画面そのものです。設例タブを開けば、同じ図を見ながら、ステップを1つずつ読み返せます。
移転価格税制ラボを開く ▶今日のまとめ ── 設例ごとの結論
おわりに
今日のふりかえり
先生
今日のまとめだよ。事例Aではグループで外れても取引の判定は続くこと、事例Bでは無形資産は中身で3億円、事例Cでは1,000億円を越えると3つの報告・届出事項が加わって、期限が3本に分かれることを見たね。
ハルカ
1か所だけ数字を変えると結論が動くので、判定の順番が体に入ってきました。前は表を上から眺めていただけだったけれど、今日は「次はどの物差しか」を自分で言えました。
先生
それが一番大事な力なんだ。一つ足すと、判定が終わったら、義務のある取引ごとに「どう説明するか」まで考えておくといいよ。
ハルカ
はい。T社の1.2%の説明は、まだ白紙です。
先生
白紙だと気づけたなら十分だよ。次の設例・外国親・期限・調査編では、外国の親会社の下の子会社や、12月決算の期限、調査で求められた後を解いていこうか。
参考資料
租税特別措置法66条の4(第6項・第7項・第12項・第14項・第17項・第18項)・66条の4の2・66条の4の4・66条の4の5/同施行規則22条の10・22条の10の4・22条の10の5/移転価格事務運営要領(事務運営指針)/国税庁「移転価格税制に係る文書化制度(FAQ)」(令和6年6月)・「ローカルファイル作成に当たっての例示集」(令和2年6月)・「同時文書化対応ガイド」・「移転価格税制の適用に当たっての参考事例集」/OECD移転価格ガイドライン第5章。ラボと記事の数値はすべて独自の学習用で、実際の申告・文書の作成には使えません。
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この記事を書いた人
TaxJudge編集部|公認会計士・税理士(実務25年)による企画・監修。会計基準・税法・裁決・有価証券報告書などの一次情報をもとに、検索できるデータベースと計算・判定・文書作成ツールを制作しています。