移転価格税制ラボ【応用編】|先生と一緒に図で学ぶグループ文書と実務の論点
無料の学習ツール「移転価格税制ラボ」の読み方ガイドです。ラボの応用タブから、実務で迷いやすい論点を選んで、先生と生徒の会話形式で見ていきます。基礎タブの内容は基礎編で扱っています。各行の図はラボの図そのものです。重要な節の最後には、ラボで30秒だけ手を動かす小さな実習を置いています。
📋 応用タブの早見表
📋 処理早見表 会社・取引の姿 × 4つの文書と利益率レンジ(学習用に要約。1,000億円以上の行だけ3つの報告・届出事項が出る)| 会社・取引の姿 | 届出事項 | CbCR | MF | ローカルファイル | ポイント |
|---|
| 連結総収入800億円の日本親会社、タイ子と66.5億円 | - | - | - | 義務あり(45日) | 3つの報告・届出事項はなしでもLFは別 |
| 同上、ドイツ子と32億円(無形資産なし) | - | - | - | 免除(相当書類60日) | 免除=対象外ではない |
| 同上、ドイツ子の32億円に使用許諾3.5億円 | - | - | - | 義務あり | 無形資産3億円で義務に |
| 連結総収入1,200億円の日本親会社 | ○ 終了の日まで | ○ 1年以内・英語 | ○ 1年以内 | 取引ごとに判定 | 3つの報告・届出事項+LF |
| 米国親の下の日本子会社(条約方式) | ○ | ×(情報交換で届く) | ○ | 取引ごとに判定 | 不要なのはCbCRだけ |
| 適格当局間合意のない国の親の下の日本子会社 | ○ | ○ 子会社方式 | ○ | 取引ごとに判定 | 3つの場合のどれかで子会社方式 |
| 租税条約等のない国の親の下の日本子会社 | ○ | ×(FAQ問47) | ○ | 取引ごとに判定 | 子会社方式の対象外。MF・届出は必要(問58) |
| 日本親の下の日本子会社(親も日本) | ○(代表可) | ×(親が提供) | ○(代表可) | 取引ごとに判定 | CbCRは親の仕事 |
| 設立初年度(前事業年度なし) | 立場で判定 | 立場で判定 | 立場で判定 | 当事業年度の金額で判定 | 措法66条の4第7項 |
| 子会社の利益率がレンジ下限を下回る | (文書とは別) | | | レンジ外の説明を準備 | 相手国側で更正リスク |
| 子会社の利益率がレンジ上限を上回る | (文書とは別) | | | レンジ外の説明を準備 | 日本側で更正リスク |
はじめに
今日の題材 ── 会社と取引の姿ごとの早見表
📍 ラボの場所:応用タブ 冒頭の処理早見表
ハルカ
基礎編で、1,000億円の物差しと50億円/3億円の物差しが別だと分かりました。でも実際の会社は、外国に親会社がいたり、グループに日本の会社が何社もあったりします。
先生
そこを整理するのが今日の応用編なんだ。早見表は「会社・取引の姿」ごとに4つの文書の要否を並べたものだよ。今日は、グループの範囲、外国親の下のCbCR、代表提供、閾値の数え方、マスターファイルの実務、それから1年の回し方と更正されたあとまで見ていこうか。
ハルカ
表の上段で「いいえ」になっても、下段は続くんですね。
先生
よく見ているね。グループの文書が要らなくても、ローカルファイルの判定は取引ごとに必ず続くんだよ。
📙 応用 A-1 ラボの図
応用 A-1
A-1 企業グループと構成会社等の範囲 ── 連結除外・持分法・ハイブリッド
📍 ラボの場所:応用タブ A-1
ハルカ
CbCRの「グループ」には、どこまでの会社が入るんですか。
先生
基準は連結財務諸表の範囲なんだ。図のとおり、連結される会社とPEに加えて、重要性を理由に連結の範囲から除いた会社も構成会社等に含めるよ。
ハルカ
重要性で外した子会社って、前に連結範囲ラボでやった非連結子会社ですね。会計では外せたのに、CbCRでは入るんですか?
先生
そう、ちゃんと覚えていたね。会計では「含めないことができる」だったけれど、CbCRの構成会社等には含めるんだ。逆に、持分法適用会社は含まれないんだ。FAQ問28に書いてあるよ。
迷いポイント 構成会社等と国外関連者は同じ範囲?
ハルカ
じゃあ、構成会社等と、移転価格の国外関連者は同じ会社のリストですよね。
先生
範囲が違うんだ。国外関連者は持株50%以上や実質支配で決まる移転価格の概念で、構成会社等は連結の範囲で決まる文書化の概念だよ(問27)。リストは別々に作るほうが安全なんだ。
💡 そうだったのか!
構成会社等は連結の範囲+重要性で除外した会社+PE(持分法適用会社は含まない)。国外関連者とは範囲が違います。
📙 応用 A-2 ラボの図
応用 A-2
A-2 条約方式と子会社方式 ── 3つの場合と代理親会社等
📍 ラボの場所:応用タブ A-2(数字は事例D・E)
ハルカ
外国に親会社がいる場合、CbCRはいつ日本の子会社が出すんですか。
先生
原則は条約方式で、親の国から情報交換で日本に届くから、日本側は要らないんだ。図の3つの場合だけ子会社方式になるよ。①親の国にCbCRの提供を求める措置がない、②適格当局間合意がない、③体系的不履行として指定されている、の3つだね。どれも親の国が条約相手国等であることが前提なんだ。
迷いポイント 代理親会社等がいても、子会社方式は変わらない?
ハルカ
親の国がCbCRを集めていないなら、日本の子会社が出すしかないですよね。
先生
代理親会社等が指定されていれば話が変わるんだ。親の国以外に住む構成会社等が代わりに提供して、その国から情報交換で日本に届けば、条約方式として扱われるよ。それから、親の国と租税条約等がそもそもない場合は、子会社方式の対象にもならないんだ。FAQ問47のとおり、日本の子会社のCbCR提供は要らないよ。
💡 そうだったのか!
外国親のグループのCbCRは原則、情報交換で届く条約方式。届かない3つの場合だけ子会社方式で、代理親会社等の国から届けば条約方式です。
⏱ 30秒だけラボで試す
- シミュレーションを開く(事例D:米国親の下の日本子会社)
- 右の「CbCRの入手経路」を 条約方式 → 子会社方式 に変える
👀 CbCRが「× 不要」→「○ 提供する(2028年3月31日まで・英語)」に変わり、提供する文書は 2件 → 3件 になります。
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📙 応用 A-3 ラボの図
応用 A-3
A-3 代表提供の特例 ── 1社が出せば他は不要、届出も同じ期限
📍 ラボの場所:応用タブ A-3(数字は事例G)
ハルカ
日本にグループ会社が10社あったら、10社とも届出事項やマスターファイルを出すんですか。
先生
原則は全員に義務があるんだ。でも、1社が代表して提供する届出をすれば、ほかの会社は要らなくなるよ。これが代表提供の特例なんだ。
ハルカ
クラスの代表が、みんなの宿題をまとめて出してくれる感じですね。
先生
近いね。ただし「代表が出します」という届出を、その文書の期限までにe-Taxでしておくことが条件なんだよ。
迷いポイント 代表提供の特例は、ローカルファイルにも使える?
ハルカ
代表がいれば、ローカルファイルも代表の会社にまとめて作ってもらえますよね。
先生
ローカルファイルには特例がないんだ。事例GのL社も、届出事項とマスターファイルは代表法人に任せられるけれど、香港のH社との取引のローカルファイルは自分の取引として判定するよ。
💡 そうだったのか!
届出事項・マスターファイル・子会社方式のCbCRは1社の代表提供で足ります。ローカルファイルには代表提供の特例がありません。
⏱ 30秒だけラボで試す
- シミュレーションを開く(事例G:代表提供の届出あり)
- 右の「代表提供」を 他の法人が代表して提供 → 自社が提供する に変える
👀 届出事項とマスターファイルが「○(代表法人が提供)」→「○ 提供する」に変わり、提供する文書が 2件 になります。CbCRは日本の親会社が出すので不要のままです。
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📙 応用 A-4 ラボの図
応用 A-4
A-4 無形資産取引・総額・APA ── 閾値の数え方の細目
📍 ラボの場所:応用タブ A-4(数字は事例G)
ハルカ
50億円の数え方で、ほかに気をつけることはありますか。
先生
3つあるんだ。①中身で:経営管理料の名目でも、無形資産の使用許諾に当たる部分は無形資産取引になる。②総額で:部品の輸出と製品の輸入を相殺していても、相殺前のそれぞれの額。③APAも含めて:事前確認を受けた取引の金額も数える。FAQ問70〜72の整理なんだ。
迷いポイント 事前確認(APA)を受けた取引は、同時文書化が免除される?
ハルカ
APAを受けた取引なら、もうローカルファイルは要らないですよね。
先生
義務そのものは免除されないんだ。ただ、申出書や報告書で同じような書類ができているから、問80では追加で作るのは原則不要とされているよ。
ハルカ
事例GのH社はちょうど50億円…。1百万円の差で運命が変わるなんて、ドラマみたいです。
先生
境界は「以上」だから、ちょうど50億円は義務ありなんだ。ドラマより条文で決まるんだよ。
💡 そうだったのか!
判定は中身で・相殺前の総額で・APAの取引も含めて。50億円ちょうどは義務ありです。
⏱ 30秒だけラボで試す
- シミュレーションを開く(事例G:H社とちょうど5,000百万円)
- H社の取引額を 5,000 → 4,999 に変える
👀 H社は「義務あり(合計で)」→「免除」(合計 49.99億円 < 50億円)に変わります。
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📙 応用 A-5 ラボの図
応用 A-5
A-5 マスターファイル・CbCRの実務 ── 条約と無関係・毎年・概観・翻訳
📍 ラボの場所:応用タブ A-5
ハルカ
マスターファイルは、CbCRと同じように条約で届くなら要らないんですか。
先生
マスターファイルと届出事項は、親の国の条約の有無に関係なく日本の構成会社等が提供するんだ(FAQ問58)。外国親で不要になるのはCbCRだけだよ。
迷いポイント 内容が去年と同じなら、マスターファイルは出さなくてよい?
ハルカ
組織も事業も去年と同じなら、今年は出さなくてもいいですよね。
先生
内容が変わらない見込みでも、最終親会計年度ごとに作って提供するんだ(問64)。詳しさは「グループの事業活動の概観」で、問61のとおり網羅的なリストまでは求められていないよ。
ハルカ
毎年同じ内容を出すのに、毎年きちんと作り直すんですね…。少しだけ切ないです。
先生
同じでも「今年も同じだ」と確かめること自体に意味があるんだよ。英語で出したら、調査で日本語訳を求められることもあるんだ。
💡 そうだったのか!
マスターファイルと届出事項は条約と無関係に日本で毎年提供。外国親で不要になるのはCbCRだけです。
📙 応用 B-1 ラボの図
応用 B-1
B-1 実務の年間サイクル ── 棚卸・判定・モニタリング・イヤーエンド調整
📍 ラボの場所:応用タブ B-1
ハルカ
移転価格の仕事って、申告の前に書類を作るのが中心ですよね。
先生
図のとおり、1年のサイクルで回すんだ。期首に取引の棚卸と義務の判定、期中に価格の設定と月次のモニタリング、期末前にイヤーエンド調整、申告期限にローカルファイルと別表17(4)だよ。
迷いポイント 期末を過ぎてから価格を直せば十分?
ハルカ
正直に言うと、申告期限の前の1か月だけ集中して頑張るつもりでした。
先生
その1か月で慌てて直せば済む、とは限らないんだ。期末後に価格を調整(価格調整金)するなら、事前の取決めがあるか、合理的な理由があるか、どの年度に計上するか、相手国の税務や関税でどう扱われるかを確かめる必要があるよ(事務運営指針3-21、参考事例集 事例29)。だから期中から管理して、レンジを外れそうなら期末前に調整しておくのが基本なんだ。
💡 そうだったのか!
棚卸・判定(期首)→ 価格設定とモニタリング(期中)→ イヤーエンド調整(期末前)→ 文書化と別表17(4)(申告期限)の1年サイクルで回します。
📙 応用 B-3 ラボの図
応用 B-3
B-3 更正されたら ── 相互協議・対応的調整・事前確認(APA)
📍 ラボの場所:応用タブ B-3
ハルカ
もしタイで増額更正されたら、日本ではどうなるんですか。
先生
自動では何も起きないんだ。図のとおり、二重課税は両国の当局の相互協議で解消して、合意して初めて日本で対応的調整(減額)が行われるよ。
迷いポイント 相互協議の結論が出るまで、更正の税金は払うしかない?
ハルカ
合意するまでは、増えた税金を払って待つしかないんですね。
先生
一定の要件のもとで、更正に係る国税の納税の猶予を受けられるんだ(措法66条の4の2)。そもそも更正を避けたいなら、算定方法を当局と先に合意する事前確認(APA)という道もあるよ。二国間APAなら相手国のリスクも同時に下げられるんだ。
💡 そうだったのか!
二重課税は相互協議で解消し、合意して初めて対応的調整。申立てをすれば納税の猶予の道があり、事前確認(APA)で先に合意しておく方法もあります。
📙 応用 B-5 ラボの図
応用 B-5
B-5 他の制度とのつながり ── GM課税・CFC・別表17(4)
📍 ラボの場所:応用タブ B-5
ハルカ
文書化で作った数字は、ほかの制度でも使うんですか。
先生
図のとおり、つながりは多いんだ。CbCRの数字はグローバル・ミニマム課税の移行期間CbCRセーフ・ハーバーの判定に使うし、ローカルファイルの取引金額と算定方法は別表17(4)と整合させるよ。機能・リスク分析は、外国子会社合算税制の経済活動基準の説明にも使えるんだ。
ハルカ
あ、過大支払利子税制のラボで「利子控除制限をクリアしても、利率が妥当かは移転価格で別に確認」と習いました。ここでつながるんですね。
先生
そのとおり、よく覚えていたね。グループ内貸付の金利も国外関連取引だから、利率の水準は移転価格で説明するんだ。制度ごとに見る角度が違うだけで、同じ取引を何度も見ているんだよ。
迷いポイント 1つの制度で問題なければ、ほかの制度も問題ない?
ハルカ
じゃあ、移転価格で問題がなければ、外国子会社合算税制も問題ないですよね。
先生
判定は別々なんだ。同じ国外関連者でも、合算対象になるかは租税負担割合などで別に判定するよ。資料は使い回せても、結論は制度ごとに出すんだ。
💡 そうだったのか!
CbCRはGM課税のセーフ・ハーバーに、ローカルファイルは別表17(4)に、機能・リスク分析はCFCの説明につながります。結論は制度ごとに出します。
今日の内容を、ラボで確かめてみませんか?
この記事の図は、すべて移転価格税制ラボの画面そのものです。応用タブを開けば、同じ図を見ながら読み返せます。
移転価格税制ラボを開く ▶今日のまとめ ── 迷いポイント早見表
おわりに
今日のふりかえり
先生
今日のまとめだよ。グループの文書は連結の範囲で考えて、外国親ならCbCRは原則、情報交換で届く。届出事項とマスターファイルは毎年日本で出して、代表提供で1社にまとめられる。ローカルファイルだけは自社の取引ごとなんだ。
ハルカ
基礎編では物差しが2本あると分かって、今日はその物差しを、外国親や代表提供の会社に当てはめられるようになりました。前に習った連結範囲や利子の制限ともつながって、地図が広がった気がします。
先生
いい整理だね。一つだけ足すと、つながっていても結論は制度ごとに出すんだ。そこだけは混ぜないようにしようね。
ハルカ
分かりました。地図は広げても、道は1本ずつ歩きます。
先生
その歩き方で大丈夫だよ。次の設例・基本の3パターン編では、事例A・B・Cを順に解いて、レンジ外と文書化の判定を手を動かして確かめていこうか。
参考資料
租税特別措置法66条の4(第6項・第7項・第12項・第14項・第17項・第18項)・66条の4の2・66条の4の4・66条の4の5/同施行規則22条の10・22条の10の4・22条の10の5/移転価格事務運営要領(事務運営指針)/国税庁「移転価格税制に係る文書化制度(FAQ)」(令和6年6月)・「ローカルファイル作成に当たっての例示集」(令和2年6月)・「同時文書化対応ガイド」・「移転価格税制の適用に当たっての参考事例集」/OECD移転価格ガイドライン第5章。ラボと記事の数値はすべて独自の学習用で、実際の申告・文書の作成には使えません。
このシリーズの記事:📗 基礎編/📘 設例・基本の3パターン編/📘 設例・外国親・期限・調査編/🧭 算定方法編/🧰 ローカルファイル作成編
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この記事を書いた人
TaxJudge編集部|公認会計士・税理士(実務25年)による企画・監修。会計基準・税法・裁決・有価証券報告書などの一次情報をもとに、検索できるデータベースと計算・判定・文書作成ツールを制作しています。