令和元年(2019年)に国税不服審判所が公表した裁決を29件収録し、税目・結論・争点を一覧で整理しました。裁判所に持ち込む前段階である「審査請求」で、この1年どんな処分が争われ、どこで納税者の主張が通ったのかを俯瞰できる年度版インデックスです。
裁決は匿名化されており、課税関係に加え徴収関係(公売・差押え等)も含みます。裁判所の判決をまとめた令和元年 課税関係 税務裁判例まとめ、滞納・徴収局面は令和元年 徴収関係判決まとめとは別シリーズです。
1. 数字で見る令和元年の裁決
裁判所より「審判所」のほうが納税者は救済されやすい
同じ令和元年でも、裁判所の判決と審判所の裁決では結果の傾向が大きく異なります。
令和元年は、裁判所の約6%に対し審判所は約72%。公表裁決は原処分が見直された事例が多く採録される傾向があり、審査請求が訴訟より納税者の主張が通る余地が大きいという実務上のセオリーがこの年も表れています。※いずれも公表・収録分に基づく数値です。
2. 税目別の内訳
| 税目 | 件数 | 全部取消 | 一部 | 棄却等 |
|---|---|---|---|---|
| 共通・通則・徴収 | 11 | 0 | 6 | 5 |
| 所得税 | 9 | 2 | 5 | 2 |
| 相続税・贈与税 | 7 | 1 | 5 | 1 |
| 法人税 | 1 | 0 | 1 | 0 |
| 消費税 | 1 | 0 | 1 | 0 |
3. 処分が覆った21件
令和元年の裁決のうち、全部または一部で原処分が取り消された事例です。「どんな主張が審判所で通ったのか」は実務の指針になります。
相続財産(預金)の申告漏れと重加算税の「隠ぺい」(税理士への不告知)
裁決 令和元年11月19日
被相続人の相続税の修正申告において、相続人(母)が関与税理士に伝えなかった預金について、原処分庁が、母がこれを隠ぺいして相続財産として申告しなかったとして重加算税を賦課した事案。審判所は、母が本件預金を申告の相続財産に含めなかったことについて隠ぺい又は仮装の行為があったとは認められないとして、通則法68条1項の重加算税の賦課要件を満たさないとし、母の死亡に伴い納税義務…
従業員の不正行為(架空外注費の詐取)と納税者本人の行為との同視(重加算税)
裁決 令和元年10月4日
損金算入した外注費のうち、下請業者への工事発注業務を担当していた従業員が親族名義の口座に振り込ませた金員について、原処分庁が、架空外注費であり当該従業員の行為は納税者による隠蔽又は仮装に該当するとして重加算税を賦課した事案。審判所は、従業員の行為は通則法68条1項の隠蔽仮装に該当するものの、これは従業員が私的費用を詐取するために独断で行ったもので業務に関連する行為とは…
山林売却の無申告と重加算税の「特段の行動」(通則法68条2項)
裁決 令和元年11月20日
法人税等の確定申告書を提出しなかった請求人に対し、原処分庁が山林の売却所得に係る法人税等の決定処分等及び重加算税の賦課決定処分をした事案。審判所は、請求人が費用と主張する金員の一部は損金の額に算入されるとした上で、当初から法定申告期限までに申告しないことを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をしたとは認められないとして、通則法68条2項の重加算税の賦課要…
相続税の無申告と重加算税の賦課要件(通則法68条2項)
裁決 令和元年12月18日
調査を受けて相続税の期限後申告書を提出した請求人に対し、原処分庁が、法定申告期限までに相続税の申告書を提出しなかったことにつき通則法68条2項の重加算税の賦課要件を満たすとして重加算税を賦課した事案。審判所は、無申告加算税の賦課要件は満たすものの、通則法68条2項に規定する重加算税の賦課要件を満たすとはいえないとして、無申告加算税相当額を超える重加算税相当部分を取り消…
相続取得した上場株式の取得費と「名義書換日の終値」による推定
裁決 令和元年11月28日
上場株式等を売却した請求人が、修正申告で源泉徴収選択口座の譲渡損失等を新たに計上したところ、原処分庁が当該損失は修正申告に計上できないとし、申告漏れの一般口座内株式は概算取得費を用いて譲渡所得を計算して更正処分等を行った事案。審判所は、相続により取得した上場株式の取得費について、被相続人への名義書換日を取得時期とし、その時期の相場(終値)によって取得価額を算定すること…
マンション適地と広大地非該当・土壌汚染地の浄化費用控除(見積額の80%)
裁決 令和元年11月12日
相続により取得した土地を広大地として評価し相続税を申告したところ、原処分庁が、当該土地は中高層の集合住宅の敷地に適しているから広大地に該当せず、控除すべき土壌汚染の浄化費用相当額は見積金額ではなく実際に負担した金額とすべきであるなどとして更正処分等をした事案。審判所は、本件土地はマンション適地と認められ広大地に該当しないとした上で、控除すべき土壌汚染の浄化費用に相当す…
検収書の検収日と重加算税の「仮装」(相手方との通謀の有無)
裁決 令和元年7月2日
手書の図面を電子データ化する費用を損金算入したことについて、原処分庁が、電子データ化が完了していないのに相手方と通謀して虚偽の証ひょう書類(検収書)を作成し費用を損金算入したことは事実の仮装に当たるとして重加算税を賦課した事案。審判所は、検収書には記録媒体が提出された日以降の日を施工完了日・検収日として記載すべきであったとはいえるものの、取引先と通謀して検収書に虚偽の…
賃借人所有建物の収去費用と不動産所得の必要経費
裁決 令和元年9月20日
不動産貸付業を営む請求人らが、賃貸していた土地上に存する賃借人所有の建物収去に要した費用を不動産所得の必要経費に算入したところ、原処分庁が当該費用は家事上の経費に該当し必要経費に算入できないとして更正処分等を行った事案。審判所は、当該収去のための支出は、客観的にみて請求人らの不動産所得を生ずべき業務と直接関係し、かつ業務の遂行上必要なものであったといえるとして、不動産…
青色事業専従者給与の「相当な金額」と類似同業者の平均額
裁決 令和元年9月6日
請求人が配偶者に支払った青色事業専従者給与を必要経費に算入したところ、原処分庁が労務の対価として相当と認められる金額を超える部分は必要経費に算入できないとして更正処分等を行った事案。審判所は、本件配偶者の労務の対価として相当と認められる金額は、請求人が必要経費に算入した青色事業専従者給与の金額ではなく、類似同業者の青色事業専従者給与額の平均額(類似同業専従者給与比準方…
相続財産の取得費加算と「課税価格の計算の基礎に算入された金額」
裁決 令和元年7月5日
相続により取得した貸家建付地に借地権を設定した対価として受領した権利金を分離課税の長期譲渡所得とし、相続財産に係る譲渡所得の課税の特例(取得費加算)を適用するに当たり、「当該譲渡をした資産の当該課税価格の計算の基礎に算入された価額」を当該土地の相続税評価額の全額として取得費加算額を計算したところ、原処分庁が、当該加算額は土地に設定された借地権の価額に対応する部分に限ら…
被相続人名義口座への入金と「贈与により取得した財産」の認定
裁決 令和元年9月24日
原処分庁が、被相続人Kがその配偶者Jから贈与により金銭を取得しており、JがKの死亡によりKの贈与税の納税義務を承継したとして、Jに対し贈与税の決定処分等を行った事案。Jの相続人である請求人らは、Kは贈与により金銭を取得していないなどとして争った。審判所は、被相続人名義の口座に入金された金員のうち一部は贈与により取得した財産と認められるが、入金された金員の合計額の一部は…
借地権の目的となっている宅地の該当性(賃貸借か使用貸借か)
裁決 令和元年9月17日
相続により取得した各土地が借地権の目的となっている宅地に該当しないとして相続税の更正処分等がされた事案。審判所は、被相続人と請求人らとの間の本件各土地の貸借は、固定資産税等相当額程度の支払にとどまる等から賃貸借ではなく使用貸借(民法593条)に該当するとして、本件各土地は借地権の目的となっている宅地には該当しない(自用地として評価する)と判断した上で、原処分の一部を取…
同族会社の借地権と土地の無償返還届出書・相当地代通達の適用
裁決 令和元年8月19日
亡父の相続により取得した宅地のうち法人に賃貸している土地について、請求人らが借地権の価額を控除した後の価額で申告したところ、原処分庁が、当該土地の一部には「土地の無償返還に関する届出書」が提出されているから相当地代通達8により評価すべきとして更正処分等をした事案。審判所は、本件病院敷地については無償返還届出書が有効で相当地代通達8により評価すべき一方、本件薬局敷地につ…
調剤薬品の課税仕入れの用途区分(共通売上対応分への区分)
裁決 令和元年7月17日
調剤薬局等を営む請求人が、個別対応方式により控除する課税仕入れに係る消費税額を計算するに当たり、調剤薬品等の課税仕入れを全て非課税売上対応分(課税資産の譲渡等以外の資産の譲渡等にのみ要するもの)に区分していたが、共通して要するものに区分すべきだったとして更正の請求をしたところ、理由がない旨の通知処分がされた事案。審判所は、本件調剤問屋仕入れは課税資産の譲渡等に要するこ…
運送業の所得計算(実額か推計か)と仕入税額控除・重加算税
裁決 令和元年6月24日
運送業を営む請求人に対する調査に基づく所得税等・消費税等・源泉所得税等の更正処分等について、請求人が、事業所得は推計の方法によるべき、妻の事業専従者控除を差し引くべき、帳簿不保存でも領収証保存で仕入税額控除を認めるべき、隠蔽仮装・偽りその他不正の行為はない、源泉徴収税額表の甲欄を適用すべき等として争った事案。審判所は、事業所得は所得税法156条の推計の方法によるべきも…
割引債に該当しない債券の差益の収入すべき時期と権利確定主義
裁決 令和元年5月30日
医療法人から発行を受けた割引債の償還差益は源泉分離課税により納税が完結するとして所得を申告しなかった請求人に対し、原処分庁が、取得したものは割引債に該当せず差益は時の経過とともに日々実現するから平成28年中に実現したものは同年分の雑所得に算入すべきとして更正処分等をした事案。審判所は、本件債券は措置法41条の12第1項にいう割引債に該当せず源泉分離課税の対象ではないか…
サンゴ漁の所得と変動所得・平均課税(漁獲から生ずる所得)
裁決 令和元年5月28日
サンゴ漁を営む請求人が、サンゴ漁に係る所得は変動所得に該当し平均課税制度の適用ができるとして更正の請求をしたところ、更正をすべき理由がない旨の通知処分を受けた事案。審判所は、サンゴ漁に係る所得は所得税法施行令7条の2に規定する「漁獲…から生ずる所得」に該当し、所得税法2条1項23号の変動所得に当たるから平均課税制度の適用があるとして、当該通知処分を全部取り消した。
従業員の窃取・転売収益の帰属と損害賠償請求権の益金算入
裁決 令和元年5月16日
請求人の元従業員が、請求人の仕入れた商品をインターネットオークションで販売して得た収益について、原処分庁が、当該収益は請求人に帰属し請求人が帳簿不記載で隠蔽したとして青色取消・更正・重加算税の各処分をした事案。審判所は、当該落札代金は元従業員が請求人の地位・権限に基づかず窃取した商品を私的に販売して得たもので請求人に帰属しないとしつつ、元従業員の窃取により請求人が取得…
親子間の資金移動と贈与事実の認定(交通費等の支弁目的)
裁決 令和元年6月27日
請求人の父の預金口座から出金され請求人の預金口座へ入金された金銭について、原処分庁が父からの贈与によって取得したものと認められるとして贈与税の決定処分等をした事案。審判所は、当該資金移動は父口座からの出金及び請求人口座への入金の各手続を同時に行っていること等から、当該資金移動によって請求人に実質的に贈与と同様の経済的利益が生じていたと認めることはできないとして、贈与の…
通達評価額の時価との推認と不動産販売業者の試算価格・債務控除
裁決 令和元年5月29日
相続取得土地を不動産販売業者の試算した価格で評価し、被相続人名義の預金の一部を相続財産に含めずに相続税を申告したところ、原処分庁が当該土地を財産評価基本通達により評価し預金を課税価格に加算するなどして更正処分等をした事案。請求人は、土地評価額に時価を上回る違法があるほか、被相続人の委任契約に基づく報酬未払債務・立替払費用償還請求権の債務を控除すべきと主張した。審判所は…
無償譲渡による第二次納税義務の「受けた利益の限度」と譲受不動産の価額
裁決 令和元年6月4日
相続により亡F4が納付すべき国税の納税義務を承継した亡F4相続財産の滞納国税を徴収するため、亡F4からその生前に不動産の贈与を受けていた請求人らに第二次納税義務の納付告知処分がされた事案。請求人らは、納付すべき限度額(受けた利益の額)の算定に誤りがあると主張した。審判所は、徴収法39条の「受けた利益の限度」又は「受けた利益が現に存する限度」の額は、無償譲渡等の処分時又…
4. 令和元年の争点トレンド
重加算税・加算税の賦課要件に加え、令和元年は財産評価・推計課税・国際課税や、徴収関係(公売・差押え)の論点が目立ちました。
5. 令和元年 公表裁決 全29件 一覧
全29件の一覧(税目順)を開く/閉じる
関連まとめ
まとめ
令和元年の公表裁決29件のうち、原処分が一部以上で取り消されたのは21件(約72%)。裁判所より高い救済率は、審査請求という手続の特性と、公表裁決の採録傾向を示しています。重加算税の賦課要件、財産評価、徴収手続(公売・差押え)が令和元年の主な論点でした。本ページは新たな公表分を反映して更新していきます。

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