令和3年(2021年)に国税不服審判所が公表した裁決を30件収録し、税目・結論・争点を一覧で整理しました。裁判所に持ち込む前段階である「審査請求」で、この1年どんな処分が争われ、どこで納税者の主張が通ったのかを俯瞰できる年度版インデックスです。
裁決は匿名化されており、課税関係に加え徴収関係(公売・差押え等)も含みます。裁判所の判決をまとめた令和3年 課税関係 税務裁判例まとめ、滞納・徴収局面は令和3年 徴収関係判決まとめとは別シリーズです。
1. 数字で見る令和3年の裁決
裁判所より「審判所」のほうが納税者は救済されやすい
同じ令和3年でも、裁判所の判決と審判所の裁決では結果の傾向が大きく異なります。
令和3年は、裁判所の約5%に対し審判所は約90%。公表裁決は原処分が見直された事例が多く採録される傾向があり、審査請求が訴訟より納税者の主張が通る余地が大きいという実務上のセオリーがこの年も表れています。※いずれも公表・収録分に基づく数値です。
2. 税目別の内訳
| 税目 | 件数 | 全部取消 | 一部 | 棄却等 |
|---|---|---|---|---|
| 共通・通則・徴収 | 7 | 0 | 7 | 0 |
| 所得税 | 9 | 0 | 7 | 2 |
| 相続税・贈与税 | 13 | 4 | 8 | 1 |
| その他 | 1 | 1 | 0 | 0 |
3. 処分が覆った27件
令和3年の裁決のうち、全部または一部で原処分が取り消された事例です。「どんな主張が審判所で通ったのか」は実務の指針になります。
賃貸不動産の売却に伴う解約金相当額は、譲渡所得か不動産所得か(臨時所得・平均課税の可否)
裁決 令和3年10月8日
賃貸不動産を売却した請求人が、売却代金のうち賃貸借契約の解約金相当額について、所得区分は譲渡所得であり、また臨時所得として平均課税が適用できるとして更正の請求をした事案。当該解約金相当額は「賃貸人の地位」の譲渡対価で貸付けに起因する不動産所得に該当し、かつ臨時所得に該当して平均課税の適用があるとされ、一部取消しとなった。
海苔養殖業の全自動乾海苔製造装置は、食料品製造業用設備(10年)か水産養殖業用設備(5年)か
裁決 令和3年12月17日
海苔養殖業を営む請求人が、全自動乾海苔製造装置等の減価償却費を「水産養殖業用設備(耐用年数5年)」として計算したのに対し、原処分庁が「食料品製造業用設備(耐用年数10年)」に該当するとして更正した事案。当該設備は水産養殖業用設備(耐用年数5年)に該当するとされ、審判所認定額により一部取消しとなった。
相続した土地が土壌汚染地の場合、評価額から浄化・改善費用相当額を控除できるか
裁決 令和3年12月1日
相続財産である土地は土壌汚染地であるとして、浄化・改善費用相当額を控除して相続税申告をしたところ、原処分庁が、土壌汚染対策法の要措置区域等に指定されておらず浄化費用の負担が確実に発生するとはいえないとして更正した事案。当該土地は土壌汚染地と認められ、浄化・改善費用相当額(見積額の80%相当額)を控除すべきとして全部取消しとなった。
資産負債増減法による事業所得の推計は適法か(資産の認定の誤り)
裁決 令和3年8月4日
魚のあらの回収を業とする請求人の事業所得を、原処分庁が資産負債増減法による推計で算定して更正した事案。調査手続に違法はなく、推計の必要性及び資産負債増減法による推計の方法に合理性は認められたが、純資産の増加額の算定の基礎とした資産(預貯金・売掛金等)の認定に一部誤りがあるとして、審判所認定額により一部取消しとなった。
未成年の子名義の預金は相続財産か、また被相続人名義預金の解約に隠蔽はあるか
裁決 令和3年9月17日
相続税の修正申告をした請求人について、被相続人保管の現金や相続開始前3年以内の贈与財産の申告漏れ、被相続人名義預金の解約による隠蔽等が問題となった事案。現金は相続財産に含まれ、未成年の子(M)名義の預金は子に帰属し相続財産に含まれないとされ、被相続人名義預金の解約等に隠蔽仮装行為が認定され、一部取消し(一部却下)となった。
未成年の子名義の預金は相続財産に含まれるか(124-02と同一相続の関連事案)
裁決 令和3年9月17日
124-02と同一の相続に係る別の相続人(請求人)についての事案。被相続人保管の現金や相続開始前3年以内の贈与財産の申告漏れが問題となり、現金は相続財産に含まれる一方、未成年の子(M)名義の預金は子に帰属し相続財産に含まれないとされ、一部取消し(一部却下を含む)となった。
妹名義・子名義の預金は相続開始前3年より前に贈与済みか(相続財産への加算の可否)
裁決 令和3年9月17日
124-02と同一の相続に係る関連事案。請求人は、修正申告で課税価格に加算した請求人・妹名義の普通預金は相続開始日の3年より前に被相続人から贈与されたもので課税対象でないとして更正の請求をした。M(子)名義の預金は口座開設当初から子に帰属し相続財産に含まれないとされ、一部取消しとなった。
請求人名義の預金は相続財産に含まれるか(124-02と同一相続の関連事案)
裁決 令和3年9月17日
124-02と同一の相続に係る別の相続人(請求人)についての事案。請求人・兄名義の普通預金は相続開始日の3年より前に贈与されたもので課税対象でないとして更正の請求をした。現金は相続財産に含まれる一方、請求人名義の預金は口座開設当初から請求人に帰属し相続財産に含まれないとされ、一部取消しとなった。
夫名義の口座から妻名義の口座に移した資金は、みなし贈与(相続税法9条)か
裁決 令和3年7月12日
夫名義の預金口座から出金され妻(請求人)名義の口座等に入金され投資信託・株式の購入に充てられた金員について、原処分庁が相続税法9条のみなし贈与に該当するとして贈与税を決定した事案。財産的な移転はなく請求人は利益を受けていないとして、みなし贈与に該当せず全部取消しとなった。
相続した土地は広大地(評価通達24-4)に該当するか
裁決 令和3年8月3日
相続により取得した土地(地積993.37㎡)が広大地(財産評価基本通達24-4)に該当するかが争われた事案。当該土地は標準的な宅地の地積に比して著しく地積が広大で、開発行為を行う場合に公共公益的施設用地の負担が必要と認められる等、広大地の要件をいずれも満たすとして広大地に該当するとされ、各更正処分が全部取り消された。
共同相続人に預けられた現金は相続財産か、それとも共同相続人へのみなし贈与か
裁決 令和3年6月24日
亡母名義の預貯金口座から出金された現金の一部が請求人以外の共同相続人(H)に預けられていたとして相続税の更正がされた事案。当該入金額は被相続人がHに対して有する金銭債権として相続財産に含まれ(請求人主張のみなし贈与=相続税法9条には該当しない)、申告漏れの一部について過少申告加算税の正当な理由が認められ、一部取消しとなった。
存在しない借入金を債務控除した行為に、重加算税の「仮装」が認められるか
裁決 令和3年6月3日
相続税の債務控除をしていた借入金(500万円)が存在しないとして、金銭借用証書を作成して仮装したことが仮装行為に該当するとして重加算税を賦課された事案。借入金は存在しないものの、仮装をした事実や意思があったとまでは認められず、通則法68条1項の「仮装」に該当しないとして重加算税相当部分が取り消された。
相続財産(共済契約の権利)の一部不申告に、重加算税の「隠蔽」が認められるか
裁決 令和3年6月25日
相続税の修正申告をした請求人に対し、原処分庁が相続財産の一部(共済契約に関する権利)を申告していなかったことに隠蔽の行為があるとして重加算税を賦課した事案。当初から過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をしたとは認められず、隠蔽の行為に該当しないとして重加算税相当部分が取り消された。
隠蔽仮装行為の始期や存在の証拠がない場合、重加算税は維持できるか
裁決 令和3年6月22日
飲食業を営む請求人が所得税等・消費税等の修正申告をしたところ、原処分庁が過少申告に隠蔽又は仮装の事実があるとして重加算税を賦課し、その後の更正の請求にも理由がない旨の通知処分をした事案。隠蔽仮装行為の始期を認める証拠も隠蔽仮装行為がなされた証拠もないとして、隠蔽仮装に該当する事実は認められず、主文は却下・棄却・一部取消しの混合となった。
帳簿を提示しなかった事業者の青色承認取消しと推計課税は適法か
裁決 令和3年6月23日
内装工事業を営む請求人が調査で帳簿書類を提示しなかったとして、青色承認を取り消された上で事業所得を推計(同業者平均必要経費率)で算定して更正された事案。青色承認取消事由があり、推計の必要性及び推計の方法の合理性は認められたが、交通費等の消費税課税標準等の計算について審判所認定額により一部取消しとなった。
帳簿を提示しない事業者への推計課税と仕入税額控除の不適用は適法か
裁決 令和3年6月23日
林業を営む請求人が帳簿書類等を提示しなかったとして、事業所得を推計(類似同業者平均所得率)で算定して所得税等を更正され、課税仕入れの消費税額控除を適用せず消費税等を更正された事案。調査手続に違法はなく、推計の必要性及び合理性は認められ、帳簿不提示により仕入税額控除は適用されないとされたが、所得の認定額について一部取消しとなった。
持分の定めのない法人への資金移動と相続税法66条4項の「相続税の不当減少」要件
裁決 令和3年5月20日
宗教法人の前住職が自己名義の預金口座から法人名義口座へ金員を移動させたことについて、原処分庁が、持分の定めのない法人に対する財産の贈与で前住職の親族の相続税負担を不当に減少させるとして、相続税法66条4項により法人を個人とみなして贈与税を決定した事案。審判所は、資金移動は財産の贈与に該当するものの、相続税の負担が不当に減少する結果となるとは認められないとして、贈与税の…
相続の債務控除と相続税法14条1項「確実と認められるもの」の判断
裁決 令和3年6月17日
亡父の相続税の申告で債務控除の対象とした借入金について、原処分庁が債務控除の対象とならないとして更正処分等を行った事案。請求人は調査手続の違法・理由提示の不備も主張したが、審判所は手続上の取消事由はないとした上で、当該債務が相続税法14条1項の「確実と認められるもの」に該当する部分があるとして、審判所認定額により原処分の一部を取り消した。
相続の債務控除と相続税法14条1項「確実と認められるもの」(123-08の関連事案)
裁決 令和3年6月17日
亡父の相続税の申告で債務控除の対象とした借入金について、原処分庁が債務控除の対象とならないとして更正処分等を行った事案。123-08と同一の相続に係る関連事案(請求人が異なる)であり、争点・判断枠組みは共通する。審判所は手続上の取消事由はないとした上で、当該債務が相続税法14条1項の「確実と認められるもの」に該当する部分があるとして、審判所認定額により原処分の一部を取…
登録免許税の課税標準と登記官認定額が過大な場合の還付通知
裁決 令和3年6月25日
土地の所有権移転登記に係る登録免許税の額が過大であったとして、所轄税務署長への還付通知を求めた請求に対し、原処分庁が還付通知をすべき理由がない旨の通知処分をした事案。審判所は、課税標準とされた登記官認定額が本件土地の価額として過大であるとして、当該通知処分の全部を取り消した。
源泉所得税の期限後納付と「告知の予知」(不納付加算税)
裁決 令和3年1月20日
非居住者に支払った土地の購入代金に係る源泉所得税等を法定納期限後に納付した請求人に対し、原処分庁が不納付加算税の賦課決定処分を行った事案。審判所は、期限後納付に正当な理由は認められないとしつつ、当該納付は調査により告知があるべきことを予知してされたものでないとき(通則法67条2項)に該当するとして、不納付加算税の賦課決定処分の一部を取り消した。
共済金(みなし相続財産)の申告漏れと重加算税・配偶者軽減(19条の2第5項)
裁決 令和3年2月5日
被相続人の死亡により取得した共済金(みなし相続財産)の申告漏れについて、原処分庁が、二男に重加算税を賦課し、配偶者である妻には相続税法19条の2第5項を適用して配偶者軽減を制限する更正処分等をした事案。審判所は、二男が殊更に共済金の存在を秘匿したとまでは認められず重加算税の賦課要件を満たさないとし、これに伴い妻についても19条の2第5項は適用されないとして、二男は重加…
生命保険金の申告漏れと重加算税の「隠蔽又は仮装」該当性
裁決 令和3年3月1日
被相続人の死亡により受領した生命保険金2口のうち1口を課税価格に含めずに相続税を申告したことについて、原処分庁が隠蔽又は仮装に当たるとして重加算税を賦課した事案。審判所は、当初から過少に申告する意図を外部からもうかがい得る特段の行動をしたとはいえず、その他隠蔽又は仮装と評価すべき行為も認められないとして、通則法68条1項の重加算税の賦課要件を満たさないとし、重加算税相…
死亡保険金の申告漏れと重加算税の「隠蔽又は仮装の行為」
裁決 令和3年3月23日
相続税の期限内申告で申告していなかった死亡保険金について修正申告をしたところ、原処分庁が、当該保険金を申告しなかったことは隠蔽に基づくとして重加算税を賦課した事案。審判所は、請求人が本件保険金を申告しなかったことについて通則法68条1項の隠蔽又は仮装の行為があったとは認められず、重加算税の賦課要件を満たさないとして、重加算税相当部分(過少申告加算税相当額を超える部分)…
第三者が作成した試算表と「過少申告行為とは別個の隠蔽仮装行為」(重加算税)
裁決 令和3年3月24日
請求人から確定申告書の作成を依頼された第三者Hが事実を仮装して確定申告書を提出した行為について、原処分庁が、Hの行為は請求人の行為と同視できるとして重加算税を賦課した事案。審判所は、Hの行為を請求人の行為と同視できるとした上で、源泉徴収税額の過大計上に係る部分は重加算税の賦課要件を満たすとする一方、事業所得の必要経費の過大計上については、根拠のない必要経費を記載した試…
第三者の試算表と「別個の隠蔽仮装行為」(重加算税・複数年分/122-06関連)
裁決 令和3年3月24日
請求人から確定申告書の作成を依頼された第三者Hが事実を仮装して確定申告書を提出した行為について、原処分庁が、Hの行為は請求人の行為と同視できるとして重加算税を賦課した事案(平成29年分・平成30年分)。122-06と同一の枠組みで、審判所は、Hの行為を請求人の行為と同視できるとした上で、源泉徴収税額の過大計上に係る部分は重加算税の賦課要件を満たすとする一方、事業所得の…
同業者率による推計の合理性と抽出基準・抽出方法(業種業態の相違)
裁決 令和3年3月4日
自動車整備業等を営む無申告の請求人が、調査時に帳簿書類等を提示しなかったため、原処分庁が推計の方法により事業所得を算定して所得税等・消費税等の決定処分等をした事案。審判所は、調査終了の際の手続に取消事由はないとし、推計の必要性と、原処分庁が採用した類似同業者の抽出基準・抽出方法及び同業者平均所得率による推計の方法に一応の合理性を認めた上で、基礎数値等の補正により一部の…
4. 令和3年の争点トレンド
重加算税・加算税の賦課要件に加え、令和3年は財産評価・推計課税・国際課税や、徴収関係(公売・差押え)の論点が目立ちました。
5. 令和3年 公表裁決 全30件 一覧
全30件の一覧(税目順)を開く/閉じる
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まとめ
令和3年の公表裁決30件のうち、原処分が一部以上で取り消されたのは27件(約90%)。裁判所より高い救済率は、審査請求という手続の特性と、公表裁決の採録傾向を示しています。重加算税の賦課要件、財産評価、徴収手続(公売・差押え)が令和3年の主な論点でした。本ページは新たな公表分を反映して更新していきます。

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