収益認識のKAM事例178社分析|監査人は何を見るのか【2026最新】

「収益認識がKAM(監査上の主要な検討事項)に選ばれたら、監査人は具体的に何を見に来るのか」

工事契約受注制作ソフトウェアを抱える経理部門にとって、切実な疑問です。ところが検索して出てくる事例分析は、2020〜2023年の制度適用初期のものがほとんどです。

結論から言えば、収益認識のKAM「進捗度×原価総額の見積り」という一点に驚くほど集中しており、監査人がやることも上位4つの手続にほぼ定型化されています。

本記事では、2025年7月〜2026年6月に提出された有価証券報告書178社の監査報告書KAMを全件収集した当サイト独自のデータから、

①契約類型別の傾向
②監査手続の言及率ランキング
③会社側が準備すべき資料

の3点を最新の数字で解説します。

178社のKAM原文はKAM事例ナビゲーター(収益認識・178社)で全文検索できます。

🔍 KAM事例ナビゲーター|進捗度に基づく収益認識(178社を収録)

直近1年の有価証券報告書から収益認識のKAM原文を全件収録。業種・契約類型・監査法人・監査手続・内部統制の視点・進捗度の測定方法で検索でき、監査手続の言及率や自社の監査対応チェックリストまで確認できるインタラクティブ・ダッシュボード。

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目次

結論

収益認識のKAMは「工事契約系が7割・論点は原価総額の見積り」に集中している

178社の集計から見えた全体像は、次の3点に要約できます。

  • 契約類型は工事契約系が71%(127社)、受注制作ソフトウェア系が21%(37社)
    建設業だけでなく、機械・電気機器・情報通信など幅広い業種で「一定の期間にわたる収益認識」がKAMになっています。
  • 論点はほぼ一点集中で「進捗度の前提となる原価総額の見積り」
    進捗度の測定方法としてインプット法(原価比例法)を明示した会社は40%(72社)、明示はなくても発生原価割合の記述がある会社を含めると約8割に達します。
  • 監査手続は「内部統制の評価100%・質問86%・証憑照合や再計算79%・見積りの見直しの検証72%」が標準セット
    一方で工事現場の視察は工事契約系54%に対し受注ソフトウェア系0%と、契約類型で監査の現れ方が大きく変わります。

つまり、自社の契約類型さえ特定できれば、監査人が何を見に来るかはかなりの精度で予習できます。以下、データの中身を順に見ていきます。

なぜ収益認識はKAM(監査上の主要な検討事項)に選ばれやすいのか

KAM(監査上の主要な検討事項)とは、監査人が当年度の財務諸表監査で「職業的専門家として特に重要」と判断した事項を監査報告書に記載する制度です。2021年3月期から上場企業等の金融商品取引法監査で強制適用されました(出典:日本公認会計士協会「監査上の主要な検討事項(KAM)の強制適用初年度における分析」)。

収益認識がKAMに選ばれやすい理由は、大きく3つあります。

理由1:不正リスクの推定が働く科目である

監査基準では、収益認識には不正リスクがあるという推定に基づいて監査計画を立てることが求められます。

売上高は経営者にも投資家にも最も注目される数字であり、業績プレッシャーが計上時期の操作につながりやすいためです。178社のKAMの中にも、この推定に正面から言及した記載が見られます。

理由2:進捗度に基づく収益認識は「見積りの塊」である

収益認識に関する会計基準(企業会計基準第29号)のもとでは、一定の期間にわたり充足される履行義務について、進捗度に基づいて収益を認識します。かつての工事進行基準(工事の進捗に応じて収益を計上する旧基準)の考え方は、この形で現行基準に引き継がれています。

進捗度の分母となる工事原価総額・見積総原価は、実行予算・工期・資材価格・工数といった不確実な要素の積み上げであり、経営者の判断に依存する典型的な会計上の見積りです。

理由3:既存の事例分析は2020〜2023年で止まっている

金融庁の「特徴的な事例と記載のポイント」(2022年)や日本公認会計士協会の分析レポート(2021〜2022年)は制度適用初期の貴重な資料ですが、その後の網羅的な事例集計は公表されていません。

本記事の基礎データは2025年7月〜2026年6月提出の有価証券報告書178社であり、「いま」の監査実務を反映している点が既存資料との最大の違いです。

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【178社データ】収益認識KAMの全体像:契約類型・業種・測定方法

当サイトでは、EDINETで「収益認識×進捗度×原価総額」に言及した監査報告書を特定し、直近1年に提出された有価証券報告書178社のKAMを全件収集・構造化しました。まず全体像です。

集計軸内訳社数割合
契約類型工事契約系(建設・プラント・造船など)127社71%
受注制作ソフトウェア系(受託開発・SES)37社21%
その他(コンサルティング・受託試験など)14社8%
進捗度の測定方法インプット法・原価比例法を明示72社40%
発生原価割合の記述のみ(実質インプット法)60社34%
原価回収基準に言及11社6%
測定方法の記載なし38社21%
業種上位建設業64社36%
情報・通信業40社22%
機械22社12%

注目すべきは、工事損失引当金・受注損失引当金とセットで論点化された会社が24社(13%)ある点です。原価総額の見積りを誤ると、進捗度(=売上高)だけでなく損失引当金の計上額も同時に狂うため、監査人はこの2つを一体で見ています

実際のKAMには何が書かれているか:記載例3パターン

178社のKAMタイトルを見ると、同じ論点でも切り口が異なります。典型的な3パターンを実例で挙げます(いずれもEDINET提出の有価証券報告書・監査報告書からの引用です)。

  • 大規模・多セグメント型
    日立製作所「長期請負契約等の原価総額の見積り」
    世界各地の長期請負契約について、四半期ごとに案件を抽出し、見積原価総額の明細と発注書の突合まで踏み込む監査対応が記載されています。
  • 建設業の標準型
    鹿島建設「一定の期間にわたり収益を認識する工事契約に関する収益認識」
    工事原価総額の適時な見直しが行われない場合に進捗度が適切に算定されないリスクを明示しています。
  • 受注ソフトウェア型
    キーウェアソリューションズ「受注制作のソフトウェア開発のうち進行中の案件について一定の期間にわたり履行義務を充足し認識する収益」
    進行中案件の見積総原価に監査の焦点が当たっています。

監査法人別の傾向:大手4法人で全体の6割超

監査法人別では、あずさ36社・トーマツ34社・EY新日本29社・太陽16社の上位4法人で178社の65%を占めます。

記載の骨格はどの法人も「原価総額の見積りの不確実性→内部統制の評価+実証手続」で共通していますが、現場視察や見積り実績差異分析への踏み込み方には法人ごとの濃淡があります。自社の監査人と同じ法人の事例を読んでおくと、監査計画の説明を受けるときに話が早くなります。

この3例を含む178社の原文全文は、KAM事例ナビゲーターで業種・契約類型・監査法人・監査手続などから絞り込んで読めます。自社と同業種・同規模の事例を3〜5件読むだけでも、監査人との対話の解像度が大きく変わります。

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監査人は何をするのか:監査手続の言及率ランキング【データ分析】

178社のKAM「監査上の対応」欄から、監査手続への言及を集計しました。これが「監査人が標準的に何をするか」の相場観です。

順位監査手続言及率(178社)補足
1内部統制の評価100%実行予算の策定・改訂、原価集計、進捗度算定の統制
2経営者・案件責任者等への質問86%進捗や採算悪化の兆候を管理資料に基づき質問
3証憑照合・再計算79%契約書・注文書・検収書との突合、進捗度の再計算
4見積りの見直しの適時性の検証72%設計変更・追加原価が原価総額へ適時に反映されたか
5実行予算との照合63%工事契約系に限ると76%
6見積りと実績の遡及的比較42%完成案件の当初見積りと実際原価の差異分析
7工事現場の視察・立会40%工事契約系54%、
受注ソフトウェア系0%
8趨勢分析・比較分析16%原価発生の推移と進捗度の整合
9損失引当金の検討13%原価総額の見積りと一体で検討

工事契約系:現場視察と実行予算が監査の主戦場

工事契約系127社では、実行予算との照合が76%、現場視察が54%に跳ね上がります。

監査人は帳簿上の進捗度と現場の実態が整合しているかを、工程表・出来高資料・現場視察で確かめに来ます。「実行予算が形式的で、現場の実感と乖離している」状態が最も突かれやすいポイントです。

受注ソフトウェア系:工数見積りと案件管理資料がすべて

受注ソフトウェア系37社では現場視察は0%で、代わりに案件管理資料への依存度が上がります。

作業工数の見積り根拠、進行中案件の採算会議資料、完成案件の見積り工数と実績工数の差異分析が監査の中心になります。プロジェクト管理システムのデータの信頼性(IT統制)に言及した事例もあります。

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会社側の準備チェックリスト:監査対応5ステップ

言及率の高い手続から逆算すると、会社側が期末前に準備すべき資料は次の5ステップに整理できます。

ステップ1:実行予算・見積総原価の承認記録を揃える(全社共通)

内部統制の評価は178社全社のKAMで言及されています。契約ごとの実行予算書(ソフトウェアならプロジェクト予算)と、その承認記録・改訂履歴が最初に見られます。

「誰がいつ承認したか」が追える状態にしておくことが出発点です。

ステップ2:原価総額の見直し履歴を残す(言及率72%への備え)

設計変更・追加工事・仕様変更が発生したとき、原価総額の見積りをいつ・どの根拠で見直したかの記録を残します。監査人は「見直しの適時性」を重点的に検証します。

期末に一括で見直す運用は、四半期ごとの見直しへ移行を検討する価値があります。

ステップ3:完成案件の見積り・実績差異分析を用意する(言及率42%への備え)

当初見積原価と実際発生原価の差異分析は、会社の見積り能力の通信簿として使われます。

差異が大きい案件について「なぜズレたか・翌期の見積りにどう反映したか」を説明できる資料があると、監査人の心証は大きく変わります。

ステップ4:現場・案件の説明体制を整える(工事系は視察54%)

工事契約系なら、監査人の現場視察に備えて工程写真・出来高査定資料を整理し、現場責任者への質問に答えられる段取りを組みます。

受注ソフトウェア系なら、案件管理月報と採算会議資料が現場視察の代わりに見られます。

ステップ5:同業他社のKAM事例で「聞かれること」を予習する

KAM事例ナビゲーターで自社の業種・契約類型に絞り込むと、該当事例の監査手続と準備資料リストが頻度順に表示されます。

監査法人ごとの記載傾向も比較できるため、自社の監査人が書きそうなKAMの型を事前に把握できます。

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5ステップと監査手続の対応関係を一覧にすると、次のとおりです。期末の3か月前を目安に、上から順に整備状況を点検してみてください。

準備する資料対応する監査手続(言及率)整備の目安時期
実行予算書・プロジェクト予算と承認記録内部統制の評価(100%)案件受注時から常時
原価総額の見直し履歴と根拠資料見積りの見直しの適時性の検証(72%)四半期ごと
契約書・注文書・検収書等の証憑一式証憑照合・再計算(79%)常時(案件フォルダで一元管理)
完成案件の見積り・実績差異分析見積りと実績の遡及的比較(42%)期末3か月前
工程表・出来高資料・案件管理月報現場視察・質問(40%/86%)期末2か月前
損失見込案件の一覧と引当金算定資料損失引当金の検討(13%)四半期ごと

よくある質問(FAQ)

Q1. 収益認識がKAMに選ばれるのは悪いことですか?

いいえ。

KAMは「問題があった」という指摘ではなく、監査人が特に重要と判断して重点的に監査した領域の開示です。工事契約や受注制作ソフトウェアが売上の大半を占める会社では、収益認識がKAMになるのはむしろ自然です。178社の顔ぶれにも、大手ゼネコンから中堅SIerまで幅広く含まれています。

Q2. 工事進行基準は廃止されたと聞きましたが、今も監査されるのですか?

旧・工事契約会計基準(工事進行基準)は、収益認識に関する会計基準(企業会計基準第29号)の適用に伴い廃止されました。

ただし「進捗度に基づき一定の期間にわたり収益を認識する」という考え方自体は現行基準に引き継がれており、監査の重点も従来と同じく原価総額の見積りにあります。名前が変わっただけで、実務の論点は続いています。

Q3. インプット法とは何ですか?他の方法もありますか?

インプット法は、発生した原価が原価総額に占める割合で進捗度を測る方法(原価比例法)です。

178社の集計では、インプット法・原価比例法を明示した会社が40%、明示はなくても発生原価割合の記述がある会社が34%で、実質的に7割超がこの方法でした。成果物の引渡量などで測るアウトプット法を明示した会社は178社中0社であり、日本の実務はインプット法にほぼ一本化されています。

Q4. 進捗度が合理的に見積れない案件はどうなりますか?

発生した費用の範囲でのみ収益を認識する原価回収基準を適用します(回収が見込まれる場合)。

178社中11社のKAMが原価回収基準に言及しており、受注直後や仕様が固まらない案件の扱いとして実務に定着しつつあります。適用の要否判断も監査人の関心事項です。

Q5. 非上場の会社にもKAMは関係ありますか?

KAMの記載義務は上場企業等の金融商品取引法監査が対象で、非上場会社の多くには直接の適用はありません。ただし、監査人が「何を重要とみなし、どんな手続をするか」はKAMから読み取れる普遍的な情報です。

会社法監査のみの会社でも、進捗度に基づく収益認識を採用しているなら、本記事のチェックリストはそのまま監査対応の予習に使えます。

まとめ

収益認識のKAM対応は「原価総額の見積りプロセス」を固めることに尽きる

178社の最新データから見えたことを整理します。

  • 収益認識のKAMは工事契約系71%・受注ソフトウェア系21%で、論点は進捗度の前提となる原価総額の見積りに集中している
  • 監査手続は内部統制100%・質問86%・証憑照合79%・見直しの適時性72%が標準セット
  • 契約類型で監査は変わる:工事系は実行予算と現場視察、ソフトウェア系は工数見積りと案件管理資料が主戦場
  • 会社側の備えは、実行予算の承認記録・見直し履歴・見積実績差異分析の3点セットから始める

まずはKAM事例ナビゲーター(収益認識・178社)で自社の業種に絞り込み、同業3社のKAM原文を読むところから始めてみてください。監査人が来期何を聞いてくるか、その輪郭がはっきり見えるはずです。

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参考一次情報

KAMから学ぶ論点シリーズ

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