逆取得の実例|有報18,253本からわずか4件の希少事例を全て読む

「逆取得」は、企業結合の会計で最も直感に反する論点かもしれません。

逆取得とは、企業結合の法的形式から通常想定される取得側と、会計上判定される取得企業・被取得企業の関係が逆転する企業結合です。

例えば、株式交換完全親会社や吸収合併存続会社が、会計上は被取得企業になることがあります。対価として自社株式を大量に交付した結果、相手方の旧株主が結合後企業の議決権の大きな割合を占める場合などに生じます。企業結合会計では典型的に扱われる論点ですが、実例は極めて稀です。

当サイト収録の有価証券報告書18,253本の企業結合注記のうち、「逆取得」への言及が確認できたのはわずか4本。本記事はその4件すべてを、注記原文ベースで読み解きます。

目次

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スライド解説

結論:4,579本中4本——株式交換から吸収合併・事業統合まで形は多様

実質的な記載のある企業結合注記4,579本のうち、「逆取得」への言及が確認できたのは4本、約0.09%でした。

件数は極めて少ない一方、

  • フジ×マックスバリュ西日本(株式交換による経営統合、のれん26,966百万円)
  • KYORITSU(持株会社化)
  • 日本創発グループ(吸収合併)
  • 沖電気工業×日立チャネルソリューションズ(会社分割を伴うATM事業統合の契約)

と、発生する法的スキームは多様です。

逆取得は「例外処理の練習問題」ではなく、対等に近い統合やグループ再編の現場で現実に使われる会計です。

▶ ダッシュボードで確かめる:
企業結合注記ナビゲーター」で「逆取得」を検索すると、4件の注記原文を確認できます。

集計方法とデータの限界

  • 本記事は、当サイト収録の有価証券報告書18,253本(2021年6月期〜2026年3月期、2021・2026年度は部分収録)の企業結合注記のうち、逆取得への言及をタグ検出した4本の全件について、注記原文(当事会社名・法的形式・会計処理の記載)を確認したものです。
  • 収録範囲外の年度・書類(適時開示や過年度の有報等)には他の逆取得事例が存在し得ます。
  • 沖電気の案件は契約締結段階の開示であり、完了後の内容は今後の開示をご確認ください。

実例①:フジ×マックスバリュ西日本——逆取得でものれんは出る

2023年2月期のフジの有報が、逆取得の最も分かりやすい実例です。

中四国の小売事業の統合で、株式交換の完全親会社はフジ側の枠組みでしたが、交付株式数48,565,394株の結果、注記は本件が「企業結合に関する会計基準における『逆取得』に該当」すると明記。被取得企業は株式会社フジ——法律上の親会社が会計上は買われた側です。

有報は「マックスバリュ西日本の株主が結合後企業の議決権比率のうち最も大きな割合を占めること等」を根拠に、マックスバリュ西日本を取得企業と判定しています。

その基準で処理した結果、のれん26,966百万円(20年間均等償却)が計上されました。

逆取得だからのれんが出ない、ということはありません。どちらが取得企業かが入れ替わるだけで、パーチェス法の枠組みは同じです(20年償却の他の実例は「のれん償却期間20年の実例」参照)。

実例②:KYORITSU——持株会社化に伴う逆取得

2023年3月期のKYORITSU(共立印刷グループの持株会社)の注記は「逆取得による企業結合」の見出しを持ち、被取得企業は「当社」、すなわちKYORITSU自身と記載されています。法的形式は「当社を株式交換完全親会社、共立印刷を株式交換完全子会社とする株式交換」

持株会社体制への移行で、新たに親会社となる会社が会計上は事業会社(共立印刷)側に「取得される」形になった事例です。グループ再編のスキーム次第で、親子の会計上の立場が形式と逆になることを示しています。

実例③:日本創発グループ——存続会社が「被取得企業」になる吸収合併

2024年12月期の日本創発グループの注記は「逆取得となる企業結合」として、グループ外の共同製本株式会社を吸収合併存続会社、連結子会社の成旺印刷株式会社を吸収合併消滅会社とする合併を開示しています。法形式上は共同製本が存続会社(=残る側)ですが、日本創発グループは共同製本を被取得企業とし、本件を「逆取得となる吸収合併」として処理しています。

取得原価は135百万円で、負ののれん発生益60百万円が計上されました。吸収合併によって存続する共同製本が会計上は被取得企業となる——法形式と会計実質の逆転をよく示す実例であり、株式交換だけでなく吸収合併でも逆取得が起きることを教えてくれます。

実例④:沖電気工業×日立——ATM事業統合の契約段階開示

2026年3月期の沖電気工業の注記には「逆取得による企業結合」として、日立製作所との間でATMを含む自動化機器事業を統合する経営統合契約の締結が開示されています。沖電気の対象事業を会社分割(吸収分割)で日立チャネルソリューションズに承継させたうえで、沖電気が同社株式を取得して議決権の60%を保有する予定——注記は沖電気工業を取得企業、日立チャネルソリューションズを被取得企業とする逆取得と明記しています。

効力発生日は2026年10月1日または別途定める日。

本記事執筆時点では完了前の取引であり、取得原価やのれん等の具体的な会計処理は、実行後の開示で確認する必要があります。締結段階から逆取得への該当が注記される点も、開示実務として参考になります。

仕組み:なぜ「買った側が買われた側」になるのか

企業結合の会計では、「どちらが支配を獲得したか」を実質で判定します。

株式を主な対価とする企業結合では、結合後企業における各当事会社の旧株主の相対的な議決権比率が、取得企業を判定する重要な要素になります。

ただし、議決権比率だけで機械的に決まるわけではなく、最も大きな議決権比率を有する株主の存在や株式交換条件など、他の要素も含めて総合的に判断されます。

その結果、法的形式上は完全親会社や存続会社となる会社が、会計上は被取得企業となることがあります。

この場合、連結財務諸表は会計上の取得企業(法形式上は子会社側や消滅会社側)を基準に作成され、のれんも会計上の被取得企業(法形式上の親会社側)について計上されます。

逆取得では、法的形式会計上の取得・被取得の関係が逆転するため、特に連結財務諸表における取得企業の考え方や取得原価の配分など、通常の企業結合以上に判断が複雑となります。

よくある質問(FAQ)

Q1. 逆取得だとのれんは出ないのですか?
出ます。

フジの実例では逆取得該当と明記のうえ、のれん26,966百万円(20年償却)が計上されました。取得企業と被取得企業が入れ替わるだけで、パーチェス法の枠組みは変わりません。

一方、日本創発グループの実例のように負ののれん発生益が生じることもあります。

Q2. なぜこんなに事例が少ないのですか?
逆取得は、株式対価の結合で相手方の旧株主が結合後企業の議決権の大きな割合を占めるなど、支配が相手方に移ったと判定される場合に生じます。

一般には、法的な取得側が会計上も取得企業となるケースが多いため、有報で「逆取得」と明示される例は限られます。

Q3. 個別財務諸表でも逆取得の処理をするのですか?
逆取得の考え方が正面に出るのは連結財務諸表です。

個別財務諸表では法形式に沿った処理(株式の取得等)が行われ、連結との差が生じます。詳細は企業会計基準適用指針第10号の定めと各社の開示をご確認ください。

Q4. 逆取得の注記を自分で読めますか?
企業結合注記ナビゲーターで「逆取得」をキーワード検索すると、本記事の4件の原文を読めます。

まとめ

逆取得は18,253本中4本という希少事例ですが、フジ(株式交換・のれん26,966百万円)、KYORITSU(持株会社化)、日本創発グループ(吸収合併・負ののれん発生益60百万円)、沖電気工業(会社分割を伴うATM事業統合・契約段階)と、発生する法的スキームは多様です。

共通するのは法形式ではなく実質の支配で取得企業を決めるという企業結合会計の原則。この原則を最も鮮明に示すのが逆取得だと言えます。株式交換の通常型は「株式交換による買収・経営統合の実例」、注記全体の地図は「企業結合注記の読み方ガイド」をご覧ください。

出典・注記

  • 本記事の事例は、金融庁EDINETの有価証券報告書「注記事項(企業結合等関係)」を当サイトが抽出し、注記原文と突合した参考情報です(2026年7月時点。対象は2021年6月期〜2026年3月期の18,253本、2021・2026年度は部分収録)。
  • 沖電気工業の案件は経営統合契約の締結段階の開示です。
  • 会計基準は企業会計基準第21号「企業結合に関する会計基準」・同適用指針第10号によります。
  • 本記事は一般的な情報提供であり、記載企業の評価や投資判断の推奨を目的とするものではありません。
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