はじめての方へ ── 設例の前提と、この記事で扱わないこと
設例:架空の製造小売(グロース上場・3月決算・子会社3社・経理財務部8人)。店舗等の賃貸借契約は80件で、多くは普通借家。新リース会計基準は2028年3月期(2027年4月1日に始まる事業年度)の期首から適用します。設例の数字(抜き取りの割合・経理に届く期限など)は学習用の目安です。
扱わないこと:一件ずつの計算と判定はラボとハルカの基礎編・応用編・設例編に任せます。台帳をExcelで作るかシステムを入れるかの選び方は、この記事では方針(期首をどう迎えるか/2年目以降をどう回すか)の一行にとどめます。
登場人物は学習用のキャラクターで、解説内容は公認会計士・税理士が監修しています。製品名・サービス名は本文に出てきません。
一つの経営課題を、三つの視点で
ハルカの基礎編・応用編が「一件の契約を正しく判断する」記事なら、この部長編は「80件の判断を、組織でそろえる」記事です。
判断基準書に何を書き、誰が当てはめ、部長はどこを見るか
判断の材料と見直しのきっかけを、誰がいつ経理に渡すか。ぶつかったら誰が決めるか
影響額を一つの数字にする前に、何を判断してもらうか
自部門の管理者として ── 判断基準書に何を書き、誰が当てはめるか
新リースの計算は、ラボで一通り確かめました。
心配なのは、計算より判断のほうです。
計算より判断、と最初に言えるのはいいですね。
どの判断が、一番ばらつきそうですか。
判断ひとつで、約2倍変わります。
判断基準書には、何を書くつもりですか。
識別も、リース期間も、割引率も。
基準が決めていること、会社が選ぶこと、契約ごとに判断すること、の三つですね。
会社が選ぶのは、短期・少額の扱いや、リースとサービスを合算するかどうか。
そこは会計方針として、一度選んだら首尾一貫して使います。
注記が必要になるものもありますよ。
リース期間と、割引率の当てはめです。
路面店、商業施設の中、倉庫、のようにね。
区分に当てはまらない契約が、部長の見る「例外」になりますね。
そろえるのは年数ではなく、見る要因と証拠と手続です。
重要性や内装の投資が違えば、同じ区分でも5年と10年に分かれることはありますよ。
私は例外の全件と、通常の契約の抜き取りを見る。
ずれは、基準書の穴が見つかった印ですよ。
最初の10件は2人で別々に。
ずれた理由は、基準書の第2版に戻す。
①契約から事実を拾える ②区分に当てはめられる ③例外に気づいて上げられる ④根拠を監査法人に説明できる。
最初は2割、④まで届いたら1割。
この割合は、うちの規模での目安です。
それなら、部長が全件を見直す形に戻らずに済みますね。
監査法人は会社がどう判断したかを先に聞きますから、区分の考え方と根拠をそろえて持っていくといいですよ。
シミュレーションの「開始日の計上」で、事例「店舗:年払い前払い・原状回復あり」を開いてください(年24,000千円・期首払い・割引率4%)。期首払いなので、開始日に第1回の24,000千円を支払います。借手のリース期間が10年のとき、支払後に残るリース負債は178,448千円です(ラボの「リース負債(開始日)」202,448千円は、第1回の支払を含めた現在価値です。支払った第1回分は負債に残らず、使用権資産の側に入ります)。期間を5年にすると支払後の残高は87,117千円、2年(契約書の期間だけ)にすると23,077千円に変わります。同じ契約でも、期間の判断ひとつで負債が約2倍・約8分の1になることを確かめてください。
ラボのシミュレーションを開く ▶全社の調整役として ── 判断の材料と見直しのきっかけを、誰がいつ渡すか
内装の投資も、更新の意向も、店舗開発部が知っています。
契約期間、解約の予告、内装と原状回復、賃料の改定……。
更新が重なる月は、相手の部署には一枚では済みませんよ。
写しから経理が読める項目は、こちらで読む。
回付票は、写しに書いていないことだけにします。
期首のあと、リース期間を見直すきっかけは何でしょう。
大規模な改装、閉店や集約の決定など。
市場の変化だけでは見直しません。
その「決めた」は、どこで起きますか。
統制下の重要な事象や状況が生じ、延長や解約の判断に影響したら、見直しが要るかを検討しますね。
閉店・移転・大規模改装・集約を決めたら、経営企画から3営業日以内に経理へ。
決定の前でも、延長や解約の判断に影響する事象が起きていれば、見直しが要るかをその時点で検討します。
検討した結果と理由も残しておくといいですね。
決定があっても、再測定が要らない場合もありますよ。
同じ性質の取引に、親会社と子会社で違う会計方針を使わないように。
区分の当てはめまで子会社の担当に任せるかは、別に決めることですよ。
店舗開発部は「項目が多い」、経理は「足りない」と言ったら。
契約管理の所管にかかわることは、経営会議で確認します。
決め方が決まっていないと、期首の直前で止まりますよ。
経営層に説明する側として ── 影響額を一つの数字にする前に
社長に一枚、と考えると、まず影響額を出したくなります。
リース負債が何億円増える、と。
期間の判断で、負債は約2倍変わりましたよね。
判断が固まる前の一つの数字は、後で動きますよ。
区分ごとの期間の考え方を前提に置き、まだ決めていない判断は、未決として並べる。
社長は、たぶん何を聞くでしょう。
それと、銀行です。
賃借料が、減価償却費と支払利息に変わります。
利息法なので、費用は初めの年ほど大きくなりますよ。
一方で、総資産と有利子負債が増えます。
財務制限条項や中計の指標の定義を今のままにするかは、会社と銀行が決めることですね。
銀行と事前に話すか、指標の定義を見直すか。
旧オペレーティング・リースの使用権資産を、負債と同額にするか、開始日から適用した額にするか。
リース1件ごとに選べますよ。
ただ、期首の利益剰余金が動く選び方をするなら、その影響は先に伝えておきます。
あとは何でしょう。
台帳をExcelで迎えるか、仕組みに予算をつけるか。
それと、試算をいつ更新するか。
この順に並べます。
経営課題:80件のリース期間が、担当ごとにばらつく。判断を三つに分けて文書にし、当てはめと確認の分担、情報の入口、経営層への説明の順番を決める。
- 自部門:判断基準書を「基準が決めていること/会社が選ぶこと(会計方針)/契約ごとに判断すること」の三つに分ける。リース期間は物件の区分ごとに考え方を書き、区分に当てはまらない契約を「例外」とする。そろえるのは年数ではなく、判断要因・証拠資料・判断手続。当てはめは担当2人、部長は例外の全件と通常の契約の抜き取り(最初は2割、④まで届いた担当の分は1割=設例の目安)
- 最初の10件は2人が別々に判断し、ずれた理由を基準書の第2版に戻す
- 担当の到達条件:①契約から事実を拾える ②区分に当てはめられる ③例外に気づいて上げられる ④根拠を監査法人に説明できる
- 基準書の第1版で、普通借家の期間の考え方と主な例外を監査法人と事前に協議する
- 全社:契約の写しと回付票を入口にする(回付票は写しに書いていない項目だけ)。経営会議で閉店・移転・大規模改装・集約を決めたら、経営企画から3営業日以内に経理へ(設例の目安)。ただし見直しの要否は決議に限らず、統制下の重要な事象・状況が延長・解約の判断に影響したときに検討し、要らないと判断した理由も残す。検討段階の関係者限りの情報は部長が受ける。子会社3社も同じ基準書を使う。項目の案は部長が決め、契約管理の所管にかかわることは経営会議で確認する
- 経営層:影響額は一つの数字ではなく、区分ごとの考え方を前提にした幅と未決事項で出す。一枚に載せるのは、判断の方針/影響額の幅と未決事項/財務制限条項と中計の指標の扱い(銀行との事前の相談)/期首の迎え方(期首の利益剰余金への影響を先に伝える)/体制と予算/試算の更新時期
実務のひな形 ── 判断基準書の骨子・情報の入口・経営層向け一枚(Excel)
以下はすべて架空の会社の記入例です。Excelテンプレートでは記入例を残したまま配り、自社の状況に上書きして使います。
① 判断基準書の骨子 ── 基準が決めていること/会社が選ぶこと/契約ごとに判断すること
| 区分 | 項目 | 当社の内容(記入例) | 根拠 | 決める人・見直し |
|---|---|---|---|---|
| 基準が決めていること | 借手のリース期間の定義 | 解約不能期間+延長オプションを行使することが合理的に確実な期間+解約オプションを行使しないことが合理的に確実な期間 | 第34号 第31項 | —(基準の改正時に見直す) |
| 基準が決めていること | 「合理的に確実」の判断要因 | 契約条件、大幅な賃借設備の改良、解約コスト、事業上の重要性、行使条件の5つを、区分ごとに検討する | 適用指針第33号 第17項 | — |
| 基準が決めていること | リース期間の見直し | 借手の統制下にある重要な事象または重要な状況が生じ、延長・解約オプションの判断に影響するときに見直す(経営会議の決定は主なきっかけだが、決議だけが条件ではない)。市場の変化だけでは見直さない | 第34号 第41項 | — |
| 会社が選ぶこと(会計方針) | 短期リース | 原資産の表示科目ごとに適用するかを決める(記入例:器具備品・車両は適用。建物も表示科目の単位で適用の有無を決め、契約ごとには選ばない) | 適用指針第33号 第20項 | 部長が案、経営層に報告 |
| 会社が選ぶこと(会計方針) | 少額リース | (1)購入時に費用処理する基準額による方法か、(2)①1件300万円以下等 ②新品時の価値およそUS$5,000以下 による方法かを選ぶ(記入例:(1) 固定資産の計上基準と同じ額) | 適用指針第33号 第22項 | 部長が案、経営層に報告 |
| 会社が選ぶこと(会計方針) | リースとサービスの合算 | 科目・グループごとに選ぶ(記入例:店舗はリースとサービスを区分、複合機は保守と合算) | 第34号 第29項 | 部長 |
| 会社が選ぶこと(会計方針) | 適用初年度の経過措置 | 期首の利益剰余金で調整する方法を使うか。旧オペレーティング・リースの使用権資産は、負債と同額(前払・未払リース料を調整)か開始日から適用した額かをリース1件ごとに選ぶ | 適用指針第33号 第118項・第123項 | 部長が案、経営層に先に伝える |
| 会社が選ぶこと(会計方針) | 割引率の決め方 | 追加借入利子率を期間帯別のレート表で見積もる(記入例:5年以下/5年超10年以下/10年超の3段) | 適用指針第33号(ラボ 応用A4) | 部長 |
| 契約ごとに判断すること | リース期間(区分ごと) | 下の「区分ごとの考え方」に当てはめる。当てはまらない契約は例外として部長へ | 基準書の区分 | 担当が当てはめ、部長は例外と抜き取り |
| 契約ごとに判断すること | 割引率の当てはめ | リース期間の帯に対応するレートを当てる | レート表 | 担当 |
| 契約ごとに判断すること | 例外(部長が見るもの) | 区分に当てはまらない/戦略上の重要店舗/閉店・移転の検討対象/建設協力金・サブリースを含む/判断が分かれた契約 | — | 部長が全件 |
物件の区分ごとの考え方(記入例)
| 物件の区分 | リース期間の考え方 | 主な判断材料 |
|---|---|---|
| 路面店(自社で内装を投資・普通借家) | 区分の考え方を出発点に、店舗ごとの重要性や内装投資などの経済的インセンティブを個別に確かめる。内装の使用可能期間と次の大規模改装の予定までを見る(記入例:5年) | 内装の投資額・改装の周期・撤退のしやすさ |
| 商業施設の中(定期借家) | 更新がないので契約期間が基本 | 契約に延長・再契約の権利があるか。再契約の実績だけでは期間に入れない |
| 本社・事務所(普通借家・設備投資なし) | 考慮すべき要因が特になければ解約不能期間のまま | 代替の立地があるか |
| 倉庫(集約の検討対象) | 未決。材料と期日を書く(記入例:集約の方針が決まる時期まで) | 集約の決定は見直しのきっかけ |
項の番号は、企業会計基準第34号(第34号)と適用指針第33号の該当箇所です。会計方針として選んだ内容には、注記が必要になるものもあります。区分ごとの年数は記入例で、基準が決めた年数ではありません。
② 情報の入口と見直しのきっかけ ── 判断の材料は経理の外にある
| 事象 | 情報の持ち主 | 経理に届く形と期限 | 経理がすること |
|---|---|---|---|
| 新規の契約・更新 | 店舗開発部(子会社は各社の担当) | 契約の写し+回付票(写しにない項目だけ)。締結後5営業日以内 | 区分に当てはめて台帳に登録 |
| 内装・設備の投資 | 店舗開発部・固定資産の担当 | 月次の固定資産の増加一覧 | リース期間の判断材料にする |
| 閉店・移転・大規模改装・集約の決定 | 経営会議(経営企画) | 決定から3営業日以内(設例の目安) | 見直しの要否を判断し、必要なら再測定。要らない場合も理由を残す |
| 閉店・集約の検討(決定前) | 経営企画 | 関係者限りで部長へ | 延長・解約の判断に影響する事象・状況が生じていれば、見直しの要否をその時点で検討 |
| 賃料の改定・面積の変更 | 店舗開発部 | 覚書の写し | 契約条件の変更か、変更を伴わない見直し(当初の条件による指数・レートの変動など)かを判断して処理 |
| 子会社の契約 | 子会社3社 | 同じ回付票・同じ基準書 | 連結で会計方針をそろえる |
| 部署の事情がぶつかったとき | — | — | 項目の案は部長が決める。契約管理の所管にかかわることは経営会議で確認 |
リース期間の見直しは、借手の統制下にある重要な事象または重要な状況が生じ、延長・解約オプションの判断に影響するときに行います(第34号 第41項)。経営会議の決定は情報の届け方の起点で、決議だけが条件ではありません。賃料の改定には、契約条件の変更に当たるものと、当初の条件による指数・レートの変動など変更を伴わない見直し(適用指針第33号 第46〜49項)に当たるものがあります。期限の日数は設例の目安です。
③ 経営層向け一枚 ── 一つの数字の前に、判断の方針を見てもらう
| ブロック | 載せること | 判断してもらうこと |
|---|---|---|
| 1 判断の方針 | 判断基準書の三区分。リース期間は物件の区分ごと。最初の10件は2人が別々に判断して基準書を直す | 方針の承認 |
| 2 影響額の幅と未決事項 | 区分ごとの考え方を前提にした幅(同じ契約でも期間の判断で負債が約2倍変わる例がある)。未決の判断は材料と期日 | 一つの数字ではなく幅で受け取ってもらう |
| 3 利益と指標 | 賃借料→減価償却費+支払利息。費用は初めの年ほど大きい。営業利益・EBITDAは増える方向、総資産・有利子負債は増える | 財務制限条項(銀行との事前の相談)と中計の指標の定義 |
| 4 期首の迎え方 | 経過措置の方法。使用権資産を開始日から適用した額にすると、期首の利益剰余金が減る場合がある(契約条件・経過期間による) | 影響の了承 |
| 5 体制と予算 | 台帳の仕組み(期首をどう迎えるか/2年目以降をどう回すか)。外部に確認する範囲 | 予算と人の承認 |
| 6 試算の更新時期 | 試算を更新する時期(記入例:12月と3月)と、判断を見直す条件 | 報告の時期 |
会計方針を決めるのは経理財務部(会社)です。経営層に判断してもらうのは、方針の承認・指標と銀行への対応・予算と人・報告の時期です。
今日のふりかえり
自部門は「判断を三つに分けて、ずれを基準書に戻す」。
全社は「材料の入口と、見直しのきっかけの届け方」。
経営層の視点は、どうなりますか。
期首のあとも同じ判断が続けば、それが仕組みなんでしょうね。
一次情報・ラボ・前後の回
一次情報
- 企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」・企業会計基準適用指針第33号「リースに関する会計基準の適用指針」の公表ページ(企業会計基準委員会、2024年9月13日公表)。2027年4月1日以後開始する事業年度の期首から原則適用。
- 適用指針第33号(2025年10月16日までの修正を反映した版・PDF)と設例(PDF)。リース期間の判断要因(第17項)、短期・少額の取扱い(第20項・第22項)、経過措置(第118〜125項)、設例8(普通借家・普通借地のリース期間)・設例20(適用初年度)。
ラボ・ツール
- リース会計ラボ(図解・全設例の1ステップ解説・シミュレーション)
- ラボのシミュレーション(店舗の例でリース期間を変える)
- 会計方針書ジェネレーターβ(リース編)── 判断基準書のたたき台
- リース管理台帳・仕訳ジェネレーターβ
- 新リース基準(第34号)まとめ
