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棚卸資産ラボ【部長編①】|「とりあえず残す」をやめる在庫管理 ── バックテスト・保有コスト・在庫責任を、三つの視点で経理財務部長が決める

棚卸資産ラボ【部長編①】|「とりあえず残す」をやめる在庫管理 ── バックテスト・保有コスト・在庫責任を、三つの視点で経理財務部長が決める
大野部長の学習ノート学ぶ世界部長編①棚卸資産ラボ
会話大野部長・先生設例架空の製造小売業(3月決算・店舗68・自社工場1・子会社3社・経理財務部8人)同じ図を学ぶ側からハルカの基礎編・応用編
はじめての方へ ── 設例の前提と、この記事で扱わないこと

設例:架空の製造小売業(3月決算・店舗68・自社工場1・子会社3社・経理財務部8人)。商品は自社で企画・製造し、店舗とECで販売する。期末の在庫は約24億円(商品・製品・原材料)。昨年度は期末に滞留品をまとめて切り下げ、評価損1.8億円を決算の直前に報告した。前期に切り下げた在庫がその後どうなったかは、誰も確かめていない。税務は原価法(低価法の届出なし)で、評価損を損金にできる事実(法人税法施行令第68条)には当たらないと判断し、会計の評価損を申告調整で加算している。数字はすべて学習用の設例です。

扱わないこと:評価方法や簿価切下げの計算の手順はラボとハルカの基礎編・応用編・設例編に任せます。別表の書き方はハルカの税務調整編。需要予測の手法、在庫管理システムの選定、連結の未実現利益、IFRSは扱いません。

登場人物は学習用のキャラクターで、解説内容は公認会計士・税理士が監修しています。製品名・サービス名は本文に出てきません。

📙 部長編① 三つの視点
1自部門管理者としてバックテストと不動在庫の見える化成果物:① バックテスト表2全社調整役として保有コストで比べ在庫の持ち主を決める成果物:② 不動在庫台帳3経営層説明する側として処分の判断と在庫責任をPDCAで成果物:③ 一枚経営課題は一つ:売れ残りを期末に初めて知り、「とりあえず残す」で積み上がる
はじめに

一つの経営課題を、三つの視点で

この記事について

ハルカの基礎編・応用編・設例編・税務調整編が「在庫を評価できるようになる」記事なら、この部長編は「評価の結果を、在庫を減らす管理に返す」記事です。

経営課題
売れ残りを期末の評価損で初めて知り、動かない在庫は「とりあえず残す」で積み上がる設例の会社では、前期に切り下げた在庫がその後いくらで売れたかを誰も確かめていない。動かない在庫がどこに、誰の判断で、いくら残っているかが見えず、倉庫の費用も在庫の金額には表れない。処分を決める人も決まっておらず、子会社ごとに評価のルールも違う。処分の話は「誰の責任か」になって後回しにされる。これを、評価減のバックテスト、不動在庫と保有コストの見える化、在庫の持ち主による処分の判断をPDCAで回す仕組みに変えるまでを検討します。
検討する三つの視点
1自部門の管理者として

評価減のバックテストを、自社の管理として回す。不動在庫を見える化する

2全社の調整役として

保有コストを見える化し、早期処分と比べる。在庫の持ち主を決める

3経営層に説明する側として

処分の判断と在庫責任をPDCAで回す。評価損と処分を「悪」にしない

到達点末尾の「決定事項」と、3つのひな形(評価減のバックテスト表/不動在庫・保有コスト台帳/経営層向け一枚)
📙 ラボの図 基礎 滞留品と原材料の代わりの方法

代わりの方法 ── 原材料は再調達原価、滞留品は処分見込価額か規則的な切下げ

正味売却価額がつかみにくい滞留品は、処分見込価額まで切り下げるか、回転期間に応じて規則的に切り下げます。率は収益性の低下を反映するよう決め、継続して使います。

5,000回転期間内切下 0%1,2001年超切下 20%8002年超切下 50%5003年超切下 100%300処分予定→処分見込 30赤い部分=切り下げる額 合計 1,410(帳簿価額 7,800 → 6,390)
一定の回転期間を超えたら、規則的に帳簿価額を切り下げる(第9項(2))

滞留期間が長いものほど高い率で切り下げる、という社内ルールを継続して適用する方法。

販売実績の把握さえ困難な場合、製造業の原材料等を除けば陳腐化が生じていることが多い(第49項)。

税務では、規則的な切下げ額は原則として損金にならない(税務調整タブ)。

🔬 原材料の再調達原価・処分見込品・回転期間の切下げの切替は、ラボで試せます ラボで開く ▶

視点1

自部門の管理者として ── 評価減を、バックテストで確かめる

設例:期末の在庫は約24億円。前期末の評価損1.8億円のうち、バックテストの対象にする在庫は帳簿価額3.9億円を2.7億円まで下げた分(1.2億円)。その後どうなったかは確かめていない。
大野部長
先生、お疲れさまです。
今日は在庫です。
昨年の期末に評価損が1.8億円出て、粗利の見通しが決算の直前に崩れました。
先生
お疲れさまです。
1.8億円は大きいですね。
その前の期末に切り下げた在庫は、その後どうなりましたか。
大野部長
……実は、追いかけていません。
切り下げたら、そこで終わりになっていました。
先生
監査法人は、前期の見積りがその後どう確定したかを振り返って確かめますよね。
在庫の評価でも、同じことを見られたはずですよ。
大野部長
ええ、監査法人から資料を求められて、慌てて集めました。
先生
求められてから集めるのは、もったいないですね。
会社のほうこそ、その結果がいちばん役に立つんですよ。
大野部長
バックテストを、自社の管理として回すということですね。
先生
ええ。
前期末に下げた在庫が、その後いくらで売れたか、捨てたか、まだ残っているか。
三つに分けて追いかけるといいですよ。
大野部長
下げた額より高く売れていたら、下げすぎ。
もっと安くしか売れなかったら、下げ足りなかった、ですね。
先生
ただ、結果が違ったからといって、前期の見積りが間違っていたとは限りませんよ。
前期末に手に入った情報で合理的に見積もっていたか、その後に何が変わったかを分けて確かめましょう。
大野部長
期末の後に市況が急に崩れた分は、見積りの誤りとは分けて記録します。
先生
ええ。
それと、下げなかった在庫の中から、後で大きな損が出ていないかも見てくださいね。
そちらのほうが、見落としやすいんですよ。
大野部長
下げなかった在庫からの損……。
去年、定番品の一部が型落ちになって、まとめて捨てたことがありました。
先生
それが、前期末の見積りに入っていなかった損ですね。
結果を年に一度まとめて、切下げ率と売価の見込みに返すといいですよ。
大野部長
毎年3月にバックテストをまとめ、率と見込みを見直します。
結果は商品部と工場にも返します。
先生
返す先が経理の中で終わらないのがいいですね。
仕入や生産の計画にまで届けば、来年の在庫が変わりますよ。
大野部長
もう一つ、動かない在庫がどこにいくらあるか、すぐに答えられません。
先生
不動在庫の見える化ですね。
何を軸に並べますか。
大野部長
最後に出庫してからの期間、品目、保管場所。
それに、その在庫を仕入れたか作ると決めた部署です。
先生
決めた部署まで載せるのは大事ですね。
金額だけでなく、量と置いている場所も並べておくといいでしょう。
大野部長
あわせて在庫回転も出します。
平均の在庫を年間の売上原価で割って365日を掛けると、「何日分の在庫を持っているか」になります。
先生
いいですね。
ただ、会社全体の回転だけだと、よく動く在庫に不動在庫が隠れてしまいますよ。
品目や部署ごとに見ると浮かび上がりますね。
大野部長
全体は約110日分ですが、品目別に並べ直します。
回転日数が長い品目と、最後の出庫から1年を超えた品目を、別々に抜き出します。
先生
回転日数は在庫の厚み、最後の出庫からの日数は動きの止まり具合で、別の物差しですからね。
両方の列を持つのがいいでしょう。
担当の方は、どこまでできるようにしますか。
大野部長
担当の到達条件にも入れます。
①実地棚卸の差の原因 ②評価の見積り ③バックテストと不動在庫の集計 ④経営層への報告。
④まで一人でできて「回せる」とします。
🔬 ラボで試す(30秒)

シミュレーション「滞留品」で、プリセット「部品在庫(回転期間ルール)」を選ぶと、切下額は 1,410 です。切下げ率の「1年超」を 30、「2年超」を 60 にすると 1,610 に、プリセット「滞留が多い・率を高めに」では 3,930 になります。バックテストで率を見直すと評価損が動き、滞留を放っておくと評価損が膨らむ。その両方が、ここで確かめられます。

ラボのシミュレーションを開く ▶
📙 ラボの図 基礎 正味売却価額の売価の決め方

正味売却価額の見積り ── 売価の決め方

売価は売却市場の時価です。市場価格が観察できなければ、期末前後の販売実績や契約で決めた売価など、合理的に算定した価額を使います。

売却市場の市場価格観察できれば最優先期末前後の販売実績合理的に算定された価額契約で決めた売価特定の販売先との契約将来販売時点の見込み加工後の販売見込額売価 −(見積追加製造原価+見積販売直接経費)
売価は売却市場の時価。市場価格が観察できなければ、合理的に算定された価額(第8・48項)

期末前後の販売実績に基づく価額や、契約で取り決めた一定の売価も含む(第8項)。

相対取引しかない場合も含め、売手が実際に販売できると合理的に見込む価格(第34項)。

正味売却価額は本来、期末に見込む将来販売時点の価額(第41・42項)。

🔬 複数の売却市場・突発的な売価の変動の切替は、ラボで試せます ラボで開く ▶

📙 部長編 情報の流れ
商品部仕入の判断・売価自社工場生産の判断物流保管・数量・面積経営企画期末後の販売実績経理財務部の不動在庫・保有コスト台帳四半期ごと:量・金額・場所・持ち主・保有コスト確かめる前期末の評価とその後の実績を比べる(年1回)在庫の持ち主(商品部・工場)が処分を決め、経理は評価・見える化・バックテストを受け持つ
視点2

全社の調整役として ── 保有コストを見える化し、在庫の持ち主を決める

設例:倉庫は外部の物流倉庫を借りており、保管料は占有面積で決まる。在庫の発注は商品部、生産は自社工場が決める。
大野部長
次は全社です。
滞留在庫の話をすると、商品部は「来シーズンにまた出すから残したい」と言います。
先生
残すこと自体は、悪い判断ではありませんよ。
問題は、残すのにいくらかかっているかが見えていないことでしょうね。
大野部長
倉庫の保管料、棚卸や移動の人手、保険。
在庫の金額には表れない費用ですね。
先生
ええ。
買った後の保管の費用は、ふつうは在庫の原価に入らず、毎期の費用として出ていきます。
だから帳簿の在庫を見ても、持ち続ける費用は見えないんですよ。
大野部長
在庫に眠っているお金の資金コストもありますね。
先生
そこまで並べると、「持ち続ける」と「今処分する」を、同じ物差しで比べられますね。
大野部長
季節が終わった商品で試算しました。
評価後の帳簿価額は3億円です。
今まとめて処分すれば2.8億円が戻ります。
先生
持ち続けた場合は、どうなりますか。
大野部長
商品部の見込みでは、来シーズンに3.3億円で売れます。
でも、バックテストでは見込みの8割しか売れていません。
先生
そこでバックテストが効いてきますね。
その8割は、単価ですか、数量ですか。
大野部長
売れた金額の合計で見て8割です。
販売の手数料や追加の値下げ、処分の費用の差は、この試算では入れていません。
先生
その前提を書いておけば十分ですね。
8割で見ると、いくらになりますか。
大野部長
2.64億円です。
そこから1年分の保管料と人手、資金コストで3,200万円を引くと、2.32億円です。
先生
今処分すれば2.8億円、1年待つと2.32億円。
差の4,800万円が、「とりあえず残す」の値段ですね。
大野部長
……数字にすると、残す理由がだいぶ弱くなります。
先生
それでも残すべき品はありますよ。
定番品や、来シーズンの売り場の柱になる品ですね。
だから、残すなら理由と期限を書いてもらうといいでしょう。
大野部長
残す判断には、理由と期限と責任者を付けます。
期限が来たら、もう一度同じ比較をします。
先生
責任者は、どの部署にしますか。
大野部長
その在庫を仕入れると決めた部署、作ると決めた部署です。
経理は評価と見える化、物流は保管と数量を受け持ちます。
先生
在庫の持ち主がはっきりすると、処分の判断を経理に預けられることがなくなりますね。
大野部長
もう一つ、子会社です。
製造の子会社とEC・物流の子会社で、切下げのルールがばらばらです。
率を持っていない会社もあります。
先生
同じ環境で行う同じ性質の取引なら、親会社と子会社の会計方針は原則としてそろえることになっていますね。
グループで同じ物差しにしていくのがいいでしょう。
大野部長
一度には難しいので、今期は各社の方針の違いを一覧にします。
来期から、評価の方針と判断の手順、見える化の台帳をそろえます。
先生
切下げ率まで同じ数字にする必要はありませんよ。
在庫の性質も売れ方も違いますからね。
率は各社の実績で決める、という手順のほうをそろえるといいでしょう。
大野部長
手順はそろえて、率は各社のバックテストで決める。
違いを一覧にするだけでも、連結の説明がしやすくなりますね。
先生
ええ。
手順がそろえば、各社の数字を同じ目で読めるようになりますよ。
📙 ラボの図 税務調整 会計と税務の違い

会計と税務の違い ── 会計は切下げを強制、税務は選んだ評価方法と「事実」で決まる

会計は収益性が下がれば必ず切り下げます。法人税は、届け出た評価方法(原価法か低価法か)と、評価損を損金にできる事実があるかで判断します。図の最下段「3年間の合計は同じ」は、ラボの設例で3年間に対象の在庫をすべて販売した場合の説明です。

📒 会計企業会計基準第9号
差
🧾 税務(法人税)法人税法第29・33条
評価方法:個別法・先入先出法・平均原価法・売価還元法から選ぶ(後入先出法・最終仕入原価法は原則不可)
≠
原価法(個別法・先入先出法・総平均法・移動平均法・最終仕入原価法・売価還元法)か低価法を選んで届け出る。届出がなければ最終仕入原価法による原価法
期末に正味売却価額が下がれば必ず切り下げる(第7項)
≠
低価法を選んでいれば期末時価で評価(損金)。原価法なら評価損は原則として損金にならない
滞留品の規則的な切下げも可(第9項)
≠
時価による評価ではないので、原則として損金にならない(廃棄・売却の年に損金)
前期の切下額:洗替え法か切放し法を選ぶ(第14項)
≠
低価法は毎期、原価法の価額と期末時価を比べ直す(切放し低価法は平成23年度改正で廃止)
3年間の費用の合計
=
損金の合計は会計と同じ(時期だけがずれる)

🔬 原価法・低価法・評価損の事実で別表がどう変わるかは、ラボの税務調整タブで試せます ラボで開く ▶

視点3

経営層に説明する側として ── 在庫責任を、PDCAで回す

設例:昨年度は期末に評価損1.8億円を計上し、決算の直前に報告した。税務は原価法(低価法の届出なし)。評価損を損金にできる事実には当たらないと判断し、全額を加算した。
大野部長
最後は経営層です。
昨年、評価損1.8億円を報告したら、「なぜ今になって」と言われました。
先生
経営会議で、在庫をどうするかを議論したことはありますか。
大野部長
ありません。
在庫は商品部の話で、評価損は経理の話になっていました。
先生
そこを一つの机に載せると、話が変わりますよ。
何を判断してもらいますか。
大野部長
一つ目は、処分の判断のルールです。
四半期ごとに不動在庫と保有コストを報告し、持ち主の部署が「売り切る・廃棄・期限付きで残す」を決めます。
先生
経営会議は、何を見ますか。
大野部長
金額の大きいものと、期限が来ても動いていないものです。
そこは経営会議で決めてもらいます。
先生
全部を経営会議に上げないのは、現実的ですね。
大野部長
ただ、処分の話になると、どうしても「誰の責任か」になって、後回しにされます。
先生
どの会社でも起きることですね。
処分を「失敗の後始末」と見る限り、誰も先に手を挙げませんよ。
大野部長
評価損を出すことや処分することは悪ではなく、会社の財務を健全にするために管理者がやるべき仕事だ、と位置づけたいんです。
先生
いい考えだと思います。
それを言葉だけでなく、仕組みにできるかどうかですね。
大野部長
問うのは、損を出したことではなく、見つけたのに先送りしたことにします。
早く見つけて判断した部署は、評価します。
先生
バックテストの結果も、誰かを責める材料ではなく、次の計画を直す材料として使う。
そう決めておくと、数字が正直に出てきますよ。
大野部長
二つ目は、PDCAです。
計画の段階で、仕入と生産の計画に在庫の目標と処分の予算を入れます。
先生
処分の予算を先に持っておくと、処分が「失敗の報告」にならずに済みますね。
大野部長
実行は四半期の処分、確認はバックテストと不動在庫の推移、見直しは発注の量と生産の計画です。
先生
見直しの先が、評価の率だけでなく発注と生産まで届いているのがいいですね。
大野部長
三つ目は、部署の目標です。
商品部と工場の目標に、在庫の回転と不動在庫の金額を入れてもらいたいんです。
先生
そこは経営層にしか決められませんね。
ただ、回転だけを追わせると、在庫を絞りすぎて欠品が増えませんか。
大野部長
……それは起きますね。
売る機会を逃したら、商品部は納得しないと思います。
先生
売上だけを追う目標だと在庫が増え、回転だけだと欠品が増える。
どちらか一つでは偏りますね。
大野部長
回転と不動在庫の金額に、欠品率と売上を並べて見ます。
一つの数字で評価しないようにします。
先生
組み合わせて見る形にしておけば、商品部とも同じ表で話せますね。
大野部長
最後に、損益と税務への出方です。
評価損は原則として売上原価で、粗利率が下がります。
工場の製造に関連して避けられないものは製造原価、臨時の事象で多額のときだけ特別損失です。
先生
税務のほうは、どう説明しますか。
大野部長
原価法なので、評価損は加算でした。
実際に処分や廃棄をした年に損金になります。
早く処分すれば、損金になる時期も早まります。
先生
もう一つ、原価法でも、季節商品の売れ残りのように著しく陳腐化した事実があれば、損金経理で評価損を損金にできる場合がありますね。
大野部長
去年は当たらないと判断しましたが、季節商品は毎期、その事実があるかを確かめるようにします。
先生
低価法への変更も、選択肢として並べておくといいでしょう。
変えるには、事業年度の開始の日の前日までの承認申請が要りますからね。
大野部長
……評価損は決算の数字だと思っていましたが、在庫を誰がどうするかの判断でした。
先生
判断が先に来れば、評価損はそれを確かめる数字になりますね。
決算は、驚く場ではなく確かめる場になりますよ。
決定事項 ── 一つの経営課題を、三つの視点で

経営課題売れ残りを期末の評価損で初めて知り、動かない在庫は「とりあえず残す」で積み上がる

答え
  1. 評価減をバックテストで確かめ、管理に返す
  2. 不動在庫と保有コストを見える化し、早期処分と比べる
  3. 在庫の持ち主が処分を決め、PDCAで回す
1 自部門評価減をバックテストで確かめ、動かない在庫を見える化する
バックテスト
  • 前期末に下げた在庫を「売れた・捨てた・残っている」に分けて追う
  • 結果の差は、見積りの誤りか期末後の変化かを分けて記録
  • 下げなかった在庫から出た損も拾う
  • 毎年3月にまとめ、切下げ率・売価の見込みに返す。商品部と工場にも返す
不動在庫
最終出庫からの経過日数・品目・保管場所・仕入や生産を決めた部署で並べる(金額・量・場所)
在庫回転
平均在庫÷年間売上原価×365日を品目・部署ごとに。経過日数とは別の列で持つ
到達条件
  • ①実地棚卸の差の原因
  • ②評価の見積り
  • ③バックテストと不動在庫の集計
  • ④経営層への報告 → ④まで一人でできて「回せる」
2 全社残す値段を見せて、在庫の持ち主を決める
保有コスト
保管料・棚卸と移動の人手・保険・資金コスト。在庫の金額には表れないので台帳で見せる
比べ方
「今処分した回収額」と「持ち続けた見込み(売却回収総額をバックテストの実績で補正)−保有コスト」。設例では差48百万円(追加の販売費用などは別途)
残すとき
理由・期限・責任者を付け、期限が来たらもう一度比べる
持ち主
  • 処分の判断:仕入や生産を決めた部署(商品部・自社工場)
  • 評価・見える化・バックテスト:経理
  • 保管と数量:物流
グループ
今期は違いの一覧。来期から方針・手順・台帳をそろえ、切下げ率は各社の実績で決める
3 経営層在庫責任を、PDCAで回す
処分のルール
四半期ごとに報告。持ち主が決め、金額が大きいもの・期限が来ても動かないものは経営会議
PDCA
  • 計画:在庫の目標と処分の予算
  • 実行:四半期の処分
  • 確認:バックテストと不動在庫の推移
  • 見直し:発注の量・生産の計画・切下げ率
部署の目標
商品部と自社工場の目標に在庫の回転と不動在庫の金額を加え、欠品率と売上と並べて見る
考え方
  • 評価損・処分は悪ではなく、財務を健全にする管理者の仕事
  • 問うのは損ではなく先送り。早く見つけて判断した部署は評価する
  • バックテストは責める材料ではなく、次の計画を直す材料
損益と税務
  • 評価損は原則として売上原価(製造に関連するものは製造原価、臨時・多額のときだけ特別損失)
  • 原価法では、著しい陳腐化などの事実がなければ処分・廃棄の年に損金
  • 低価法への変更は事前の承認申請
この一枚を経営会議で説明するためのPowerPoint(9枚・図解入り。判断事項・バックテスト・保有か早期処分か・在庫責任とPDCA・決議事項)PowerPointをダウンロード
ひな形

実務のひな形 ── 評価減のバックテスト表・不動在庫・保有コスト台帳・経営層向け一枚(Excel・PowerPoint)

📙 ひな形 テンプレートの構成
① 評価減のバックテスト表前期末の評価後/その後の結果/回収額+残存評価額/差/結果の見方/見直し② 不動在庫・保有コスト台帳(記入例)経過日数/回転日数/帳簿価額/占有面積/保有コスト/持ち主/処分案/期限③ 経営層向け一枚7ブロック:課題/処分のルール/保有か処分か/PDCA/目標と考え方/グループ/損益と税務Excel 3シート+経営会議用のPowerPoint。架空の会社の記入例入り。自社の状況に差し替えて使う

以下はすべて架空の会社の記入例です。Excelテンプレートでは記入例を残したまま配り、自社の状況に上書きして使います。

① 評価減のバックテスト表 ── 前期末の評価を、その後の実績で確かめる(単位:百万円・設例)

前期末の区分前期末の帳簿価額評価後(前期末)その後の結果実績(売却回収額+残存評価額)差(実績−評価後)結果の見方次の見直し
季節商品(切下げあり)180120値下げ販売で全量売却96−24実績が評価を下回った(期末時点の情報で合理的だったか、その後の変化かを確認)売価の見込みを過去の実績の8割で置く
滞留品 1年超(20%)150120一部売却・一部残存132(売却回収額+残存の評価額)+12おおむね妥当率は据え置き
滞留品 2年超(50%)6030大半を廃棄6−24実績が評価を下回った(廃棄の割合が想定より多い)2年超の率の引き上げを検討(50%→80%など)
定番品(切下げなし)3030型落ちで廃棄0−30見積りに入っていなかった損(型落ちの予定を経理が知らなかった)型落ちの予定を商品部から四半期ごとに受け取る

結果が違っても、前期の見積りが誤りだったとは限らない。期末時点で入手できた情報で合理的に見積もっていたかと、期末後の市況などの変化を分けて記録する。監査法人も、前期の見積りがその後どう確定したかを確かめる。会社としては、結果を切下げ率・売価の見込み・発注と生産の計画に返すために、毎年3月にまとめる。下げなかった在庫から出た損も必ず拾う。

② 不動在庫・保有コスト台帳 ── 量・場所・持ち主・保有コストを一つの表に(単位:百万円・設例)

区分最終出庫からの経過日数回転日数帳簿価額(評価後)占有面積年間の保有コスト持ち主(処分を決める部署)処分案期限
商品(季節が終わったもの)約240日約270日300倉庫の18%32(保管18・人手6・資金8)商品部値下げ販売で売り切る(今処分なら280回収)第4四半期中
商品(定番・来季も販売)約30日約120日520倉庫の22%35商品部期限付きで残す(理由:来季の売り場の柱)来季の第2四半期末に再比較
製品(作りすぎ)約400日約420日140工場倉庫の30%15自社工場一部をEC限定で販売、残りは廃棄第4四半期中
原材料(旧仕様)730日超出庫なし(算定不能)40工場倉庫の10%4自社工場廃棄(再利用の見込みなし)今期中
滞留品(回転期間ルールの対象)365日超〜1,095日超—(品目ごとに算定)63(切下げ後)倉庫の9%9品目ごとに一つ(商品部か自社工場)持ち主が品目ごとに判断四半期ごとに見直し
処分予定品——1(処分見込価額)倉庫の2%2商品部/自社工場(該当部署)処分は持ち主が決定済み。物流が処分業者への引渡しを実施今月中

回転日数=平均在庫金額÷年間売上原価×365日(在庫の厚み。設例の会社全体では約110日)。最終出庫からの経過日数=基準日−最後に出庫した日(動きの止まり具合)。二つは別の指標なので両方の列を持ち、回転日数が長い品目と経過日数が365日を超える品目を別々に抜き出す。保有コスト=保管料(占有面積×坪単価)+棚卸・移動の人手+保険+資金コスト(帳簿価額×社内の資本コスト率)。購入後の保管の費用は、ふつうは在庫の原価に入らず期間の費用になるため、帳簿の在庫金額には表れない。率・単価は設例。

③ 経営層向け一枚 ── 在庫責任をPDCAで回す

ブロック載せること判断してもらうこと
1 課題昨年度は期末に評価損1.8億円を決算の直前に報告。前期の評価減の結果は確かめておらず、動かない在庫の量・場所・持ち主が見えない課題の共有
2 処分の判断のルール四半期ごとに不動在庫と保有コストを報告し、持ち主の部署が「売り切る・廃棄・期限付きで残す」を決める。金額が大きいものと、期限が来ても動かないものは経営会議で決めるルールの承認
3 保有か早期処分か残すときは理由・期限・責任者を付け、「今処分した回収額」と「持ち続けた場合の見込み−保有コスト」を比べる(下の比較欄)比べ方の了承
4 PDCA計画:仕入・生産の計画に在庫の目標と処分の予算/実行:四半期の処分/確認:バックテストと不動在庫の推移/見直し:発注の量・生産の計画・切下げ率仕組みの承認
5 部署の目標と考え方商品部と自社工場の目標に、在庫の回転と不動在庫の金額を加え、欠品率と売上と並べて見る。評価損・処分は財務を健全にする管理者の仕事と位置づけ、問うのは先送り。早く判断した部署は評価する目標と考え方の決定
6 グループの方針子会社の在庫の評価の方針を、今期は違いの一覧にし、来期から評価の方針・判断の手順・見える化の台帳をそろえる。切下げ率は各社の在庫の性質と実績で決める整備の方針の了承
7 損益と税務への出方評価損は原則として売上原価(製造に関連して避けられないものは製造原価、臨時の事象で多額のときだけ特別損失)。税務は原価法で、著しい陳腐化などの事実がなければ処分・廃棄の年に損金。低価法への変更は事業年度の開始の日の前日までに承認申請説明の了承

比較欄 ── 季節が終わった商品を、今処分するか、1年持ち続けるか(単位:百万円・設例)

比較項目今処分する1年持ち続ける
売れる見込み280(処分セールで一括)330(商品部の見込み)→ バックテストの実績8割で 264
1年分の保有コスト0▲32(保管18・人手6・資金8)
手元に残る額280232(さらに値下がり・型落ちの危険)
差—▲48=「とりあえず残す」の値段

比較欄は、バックテストに基づき売却回収総額を8割に補正し、販売手数料・追加値下げ・処分費用などの追加差額はないものとした試算。数字はすべて設例。基準は具体的な切下げ率を定めておらず、会社が収益性の低下を反映するよう決めて継続して適用する。保有コストの率や単価は社内で決める管理上の数字。低価法への変更は、今の方法を採用して3年を経過していなければ原則として承認されない。

3シート入りのExcelテンプレート(評価減のバックテスト表/不動在庫・保有コスト台帳/経営層向け一枚)Excelをダウンロード
経営層向け一枚の説明資料(PowerPoint 9枚:判断事項・課題・不動在庫と保有コスト・バックテスト・保有か早期処分か・在庫責任とPDCA・損益と税務への出方・決議事項)PowerPointをダウンロード
切下げ率と滞留の量で評価損がどう変わるかは、ラボのシミュレーションで確かめられますラボを開く ▶
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ハルカ編基礎・応用理解するハルカ編設例・税務計算できる部長編①この記事管理の仕組みにする同じラボの図を、学ぶ側(ハルカ)と、決める側(部長)の両方から読む
おわりに

今日のふりかえり

大野部長
今日の三つの視点を、一言ずつにしておきます。
自部門は「評価減をバックテストで確かめ、動かない在庫を見える化する」。
全社は「残す値段を見せて、在庫の持ち主を決める」。
先生
さすがです。
経営層の視点は、どうなりますか。
大野部長
「在庫責任をPDCAで回す」。……評価損を正しく出すことより、来年の在庫を減らすことのほうが、本当の目的でした。
先生
そこに気づいたのは大きいですよ。
処分を責めない仕組みがあれば数字が早く上がり、評価損は少しずつ小さくなっていくでしょう。
参考

一次情報・ラボ・前後の回

一次情報

  • 企業会計基準第9号「棚卸資産の評価に関する会計基準」(企業会計基準委員会。2006年7月5日公表、2019年7月4日最終改正、2025年10月16日までの修正を反映)。正味売却価額(第5・7・8項)、滞留品の処分見込価額と規則的な切下げ(第9項)、表示と注記(第17・18項)。
  • 法人税法(第29条・第33条)、法人税法施行令(第28条〜第31条・第68条)、法人税基本通達 第5章第2節 第2款(5-2-11)・第3款(5-2-13)、第9章第1節第2款(9-1-4〜9-1-6)。
  • 日本公認会計士協会 監査基準報告書540「会計上の見積りの監査」(前年度の会計上の見積りの確定額を検討する手続を含む)。

ラボ・ツール

ハルカが同じ図を学んだ回(会話記事)

学ぶ世界|棚卸資産ラボ|部長編①
大野部長の学習ノートで、この回を見る / ハルカの学習ノートで棚卸資産ラボの章を見る
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この記事を書いた人

TaxJudge編集部|公認会計士・税理士(実務25年)による企画・監修。会計基準・税法・裁決・有価証券報告書などの一次情報をもとに、検索できるデータベースと計算・判定・文書作成ツールを制作しています。