インボイスと帳簿の保存 ── 仕入税額控除の要件
「インボイスがないと、仕入れの税は全く引けないの?」に、記載事項・帳簿・経過措置と、帳簿だけで控除できる特例で答えられるようになる回です。
📘 用語表と、この講座の読み方(クリックで開く)
| 適格請求書(インボイス) | 適格請求書発行事業者が交付する、登録番号・税率ごとの消費税額等などを書いた請求書。様式や名前(請求書・納品書・領収書)は問わない |
| 適格簡易請求書 | 小売業・飲食店業・タクシー業など、不特定多数に売る事業者がインボイスの代わりに交付できるもの。受け取る人の名前を書かなくてよい |
| 登録番号 | 「T」+13桁の番号。国税庁の公表サイトで、登録されているかを確かめられる |
| 帳簿の保存 | 仕入れの相手・年月日・内容・支払額を書いた帳簿を保存すること。インボイスとあわせて控除の要件 |
| 経過措置 | インボイスがない仕入れ(免税事業者・消費者など)でも、仕入れの日に応じて一定割合を控除できる取扱い。80%(2026年9月30日まで)→70%(2026年10月1日〜2028年9月30日)→50%(2028年10月1日〜2030年9月30日)→30%(2030年10月1日〜2031年9月30日) |
| 帳簿のみの保存で控除できる場合 | 少額特例(一定の事業者の税込1万円未満の仕入れ)、3万円未満の公共交通機関の運賃・自動販売機での購入、従業員に支給する出張旅費・通勤手当など。インボイスがなくても、帳簿の保存で全額を控除できる |
| 相手先ごとの上限 | 経過措置は、同じ相手からの仕入れの合計(税込・年額)が上限を超えた部分には使えない。上限は課税期間の開始日で決まる |
| 法令と数字 | この講座は令和8年度改正後の法令で解説しています。数字は改正で変わることがあり、改正のたびに差し替えます |
はじめに:今日のゴール
仕入税額控除には、原則として帳簿とインボイスの保存が必要。インボイスの6つの記載事項(レシートなら5つ)を読み取り、登録していない相手からの仕入れは、一定の要件を満たせば仕入れの日で決まる経過措置で税額の一部を控除できる――その計算ができるようになること。少額特例など、帳簿だけで全額控除できる例外があることも押さえる。
※ 入門の範囲として、適格返還請求書、媒介者交付特例、電子インボイス・電子帳簿保存の細部は名前だけ扱います。
図で見る:インボイスで控除できる仕組み(5ステップ)
STEP1〜5の会話をまとめて読む(文字だけ)
STEP 1 控除の要件
仕入税額控除の要件 = 帳簿 + インボイス(請求書等) の保存(原則7年間。6・7年目はどちらか一方でよい)
STEP 2 インボイスの6項目
インボイスの記載事項:①名前と登録番号 ②年月日 ③内容 ④税率ごとの合計と税率 ⑤税率ごとの税額 ⑥受け取る人の名前
STEP 3 レシート(簡易)
適格簡易請求書:⑥(宛名)がいらない。⑤は税額か適用税率のどちらかでよい(小売業・飲食店業・タクシー業など)
STEP 4 帳簿と保存
帳簿:相手・年月日・内容(軽減税率の対象ならその旨)・支払額。帳簿とインボイスの両方を保存(原則7年間。6・7年目はどちらか一方でよい)
STEP 5 インボイスがないとき
控除の割合は仕入れの日で決まる:80%(2026年9月30日まで) → 70%(2026年10月1日〜2028年9月30日) → 50%(2028年10月1日〜2030年9月30日) → 30%(2030年10月1日〜2031年9月30日)
さくら食品:インボイスがない仕入れと経過措置
さくら食品の課税期間(2026年4月1日〜2027年3月31日)の、登録していない相手からの仕入れです。仕入れの日で控除の割合が変わります。
相手先ごとの上限:さくら食品の課税期間は2026年4月1日に始まるので、上限は10億円(2026年10月1日以後に始まる課税期間からは1億円)。農家・由紀さんとも、遠く及びません。
帳簿だけで控除できる特例との関係:さくら食品は基準期間の課税売上高が1億円以下なので、少額特例を使える事業者です。ただし、農家への支払い(1回9万円)と由紀さんへの講師料(1回11万円)は、どちらも税込1万円以上なので少額特例に当たりません。公共交通機関などの特例にも当たらないので、経過措置で計算します。
やってみよう:仕入れの日で控除額はどう変わる?
仕入れの日・金額・相手の登録を変えて、控除できる仕入れの税を確かめましょう(割戻し計算・国の税額)。
よくある間違い
① 登録番号がない請求書なら、仕入れの税は全く引けない
登録していない相手(免税事業者・消費者など)からの仕入れでも、一定の要件を満たせば経過措置で税額の一部を控除できます。割合は仕入れの日で決まり、80%(2026年9月30日まで)、70%(2026年10月1日〜2028年9月30日)と下がります。さらに、少額特例・公共交通機関の運賃・出張旅費など、帳簿だけの保存で全額を控除できる例外もあります。② レシートには宛名がないので、インボイスにならない
小売業・飲食店業・タクシー業などは、適格簡易請求書(宛名なし・税額か税率のどちらか)を交付できます。登録番号が書いてあれば、仕入税額控除に使えます。③ インボイスを保存していれば、帳簿はいらない
仕入税額控除には帳簿とインボイスの両方の保存が必要です。保存期間は原則7年間で、6年目・7年目はどちらか一方の保存でよいとされています(実務では両方を7年間保存しても差し支えありません)。帳簿には、相手・年月日・内容(軽減税率の対象ならその旨)・支払額を書きます。ミニテスト(3問)
おわりに ── 今日のふりかえり
- 仕入税額控除の要件は、原則として帳簿とインボイス(請求書等)の保存。保存は原則7年間(6年目・7年目は帳簿かインボイスのどちらか一方でよい)。少額特例(2029年9月30日まで)・3万円未満の公共交通機関の運賃・出張旅費などは、帳簿だけで全額を控除できる。
- インボイスの記載事項は6つ:①発行者の名前と登録番号 ②取引年月日 ③取引内容(軽減税率の対象ならその旨) ④税率ごとの合計額と適用税率 ⑤税率ごとの消費税額等 ⑥受け取る人の名前。
- 適格簡易請求書(レシート)は、⑥がなく、⑤は税額か税率のどちらかでよい。消費税額等の端数処理は、1枚につき税率ごとに1回。
- 帳簿だけの特例に当たらず、インボイスもない仕入れは経過措置(要件あり):80%(2026年9月30日まで)、70%(2026年10月1日〜2028年9月30日)、50%(2028年10月1日〜2030年9月30日)、30%(2030年10月1日〜2031年9月30日)。割合は仕入れの日で決まる。
- 相手先ごとの上限は課税期間の開始日で決まる。さくら食品の経過措置の分は84,240円。
参照条文・出典
参照条文:消費税法30条7項(帳簿及び請求書等の保存)・8項(帳簿の記載事項)・9項(請求書等の範囲)、57条の4(適格請求書・適格簡易請求書の記載事項)、消費税法施行令49条1項(帳簿のみの保存で控除できる場合)・50条(保存期間)、所得税法等の一部を改正する法律(平成28年法律第15号)附則52条・53条(免税事業者等からの課税仕入れの経過措置。令和8年度改正で延長)・53条の2(少額特例)
参考資料:税務大学校『消費税法(基礎編)令和8年度版』第6章第2節3⑷「免税事業者等からの課税仕入れ(経過措置)」(p.44)・5「仕入税額控除の要件」(pp.45〜46)(国税庁ホームページ「税務大学校講本」で公開)/国税庁タックスアンサー No.6496(仕入税額控除のための帳簿及び請求書等の保存)・「インボイス制度に関するQ&A」(帳簿のみの保存で仕入税額控除が認められる場合・少額特例)・令和8年度税制改正(インボイス制度関係)資料
本教材は、上記講本を参考に、TaxJudgeが独自に構成・解説したものです。講本の基準日は令和8年1月1日で、その後の令和8年度税制改正(インボイス制度の経過措置の延長・3割特例など)は国税庁の資料で反映しています。講本(令和8年1月1日現在)では経過措置は「令和8年9月30日まで80%、令和11年9月30日まで50%」ですが、令和8年度改正で段階が変わったため、この講座は改正後の割合で計算しています。相手先ごとの上限の切替(2026年10月1日以後に始まる課税期間から1億円)も改正後の取扱いです。
本教材は国税庁による監修・保証を受けたものではありません。令和8年度改正後の法令に基づく学習用の解説・試算であり、個別の判断は税理士等にご確認ください。さくら食品・青山家の数字は学習用に設定した仮定の数値です。