舞台の会社について(開く)
🎬 動画で見る第29話「伝票二箱を数えたら、返品が1枚あった」
この話を、声と絵で見られる動画です。クリックすると再生が始まります(YouTubeで開く)
朝最後の一束
2026年11月6日、金曜。
朝7時50分。
経理財務部には、まだ部長しかいなかった。
机の横の二つの箱のうち、前々期の箱は昨日のうちに閉じてある。
3期前の箱に、最後の一束が残っていた。
3期前の3月。
あと三十枚ほどだ。
ドルの金額と出荷の月を、
ハルカさんの作った表に一枚ずつ入れていく。
束の真ん中あたりで、部長の手が止まった。伝票の右上に、赤い印が押してある。「返品」。金額の前に、マイナスの記号があった。
マイナス12千ドル。
……返品だ。
十日前、上限の出し方を書いたとき、
各月のドルは正の数だと置いた。
返品のようなマイナスはない、と。
パッケージの合計を見て、そう書いた。
合計は、返品を差し引いたあとの数字だった。
だから合計だけを見ても、返品は見えない。
部長は、その一枚を表の一番下に入れ、黄色の付箋を貼った。残りの伝票を最後まで入れ終えたのは、8時40分だった。
午前一番下の一行
二箱、数え終わった。
この表の、とくに一番下の一行を、
ハルカさんの目でもう一度確かめてほしい。
……前々期が196枚で、差がプラス1,610。
3期前が142枚で、プラス520。
3期前の3月、マイナス12千ドル。
十日前のメモで、私は返品はないと置いた。
3期前については、その前提が違っていた。
プラス520は変わらないですよね。
上限より、ずっと小さいです。
変わるのは、上限のほうだ。
返品のぶんだけ、上限は小さく見積もられていた。
小さな違いだ。
結論にも関係しない。
小さな違いで、結論にも関係しない。
それなら、書かなくてもいいのかもしれない。
部長は、そう言わなかった。
9時半。ハルカと2年目の部員は、読み合わせを続けた。今日は2件。二人で読む残りは、2件になった。
昼方法の穴を、方法を作った人が書く
ハルカさんは、どう思う?
と少し思いました。
上限の考え方そのものが、疑われるかもしれないので。
私もそれを考えた。
前々期も同じように間違っているんじゃないか、
と聞かれるかもしれない。
4期前は伝票を見ていないけれど、
パッケージの返品・値引き・取消の欄がどれもゼロで、
月別の金額にもマイナスがないことを確かめた。
それが、上限で範囲を決めた人の仕事だと思う。
十日前の部長は、上限が小さく出てほしいと願っていた。
今日の部長は、自分の方法の穴を、自分で書いている。
数えた年の差は、どれも営業利益の0.2%に届かない。
当期純利益と利益剰余金は変わらない。
ただし、それは当社の暫定の評価だ。
ご意見を伺ってから、会社として決める。
上限の前提が崩れたこと以外に、見ておくべき前提がないか、
聞いてみたいです。
それを足そう。
私の方法を、私以外の目で見てもらう。
夕方部の中の6つ、部の外の5つ
午後4時半。
部長は、三つの項目の書面を主査に送った。
予定より、四時間遅れていた。
620は、前々期・3期前を紙の伝票で算定しました。あわせて、10月27日のメモで置いた前提(返品がないこと)が3期前に当てはまらなかったため、上限を訂正しています。ご意見をいただけましたら、当社として判断いたします。
午後5時。
主査からは、短い受信の連絡だけが届いた。
「拝受しました。
来週中にご連絡します」。
部の中が6つ、部の外が5つです。
並べると、11になる。
でも、部の外の5つは、二人目が「未定」なだけで、
人事部の仕事です。
経理財務部の数に入れていいのか、迷いました。
採るか育てるかの材料は、来週の水曜までに私がそろえる。
今日は、手が回らなかった。
月曜の区分の決裁のあとで、続きを書きます。
……二箱、書庫に返してくるよ。
書庫二つの箱を返す
午後6時。
部長は二つの箱を抱えて、地下の書庫に下りた。
3期前の箱の一番上には、黄色の付箋を貼った返品伝票が、そのまま入っていた。
十日前に作った方法は、間違ってはいなかった。
前提が一つ、当てはまらない年があっただけだ。
そのことを、方法を作った本人が書いて送った。
前提が外れていたことも、
数えて分かったことの一つだ。
- 前々期以前の620 ── 伝票で算定を終えた(前々期+1,610・3期前+520千円)。当社の暫定評価:算定した年はどれも営業利益の0.2%に届かず、当期純利益・利益剰余金は変わらない → 過去の財務諸表は直さない(ご意見を伺ってから当社が判断)
- 上限の前提 ── 3期前に返品伝票1枚(3月・△12千ドル)。上限を15,340から15,623に訂正。前々期の伝票に返品・値引きなし。4期前は子会社のパッケージ(返品・値引き・取消の欄がゼロ・月別の金額にマイナスなし)で確認。メモを第1版に
- 書面で続ける3項目(新リース No.2・No.9、620)── 11月6日 16:30 に主査へ送付。返事は来週中
- 採用か育成か ── 材料は来週水曜(11月11日)までに部長。止まる仕事は、部の中6つ・部の外5つ(人事担当の退職による。人事部の仕事として分けて記載)
- 年末調整 ── 11月9日(月)に、入れてよい情報の区分と見られる人を決める。ハルカの言い換え表は37行のうち12行の案
- 読み合わせ ── 今日2件、二人で読む残り2件(期限11月中旬)
この話の、二人の反省と学び
前々期以前の換算差 ── 算定の結果と当社の暫定評価 全文金曜の夕方、部長が書面に添えて主査へ送った第1版
この物語の会社(架空)で、親会社と海外販売子会社のあいだの換算差(毎期「端数」として売上原価で調整してきた差)について、紙の出荷伝票で前々期と3期前を数え終え、結果と当社の暫定評価をまとめたメモです。第0版(10月27日)で置いた前提が一つ当てはまらなかったことも、そのまま書いています。実在の会社の文書ではありません。金額・レート・営業利益は架空です。ひな形として使うときは、自社に残っている記録と、置いた前提に合わせてください。
前々期以前の換算差 ── 算定の結果と当社の暫定評価 第1版
1 算定の結果
| 期間 | ドルの合計(千ドル) | 算定の方法 | 差(千円) | 連結営業利益(百万円) | 割合 |
|---|---|---|---|---|---|
| 前中間(2025年4〜9月) | ── | 出荷台帳(10月26日) | +480 | 450 | 約0.11% |
| 前期 | 2,380 | 出荷台帳(10月26日) | +1,140 | 1,050 | 約0.11% |
| 前々期 | 2,100 | 紙の出荷伝票・月別(196枚) | +1,610 | 980 | 約0.16% |
| 3期前 | 1,300 | 紙の出荷伝票・月別(142枚。うち返品1枚) | +520 | 760 | 約0.07% |
| 4期前(立ち上げ・1〜3月) | 180 | 算定しない(上限792) | ── | 310 | 上限でも約0.26% |
2 表の見方
- 差の+は、売上原価で調整していたために、営業利益が多く出ていた額
- 前中間・前期は当期の財務諸表の比較情報に表示される期間。前々期以前は表示されないが、過去に開示した営業利益に同じ違いがあったため算定した
3 第0版の前提が当てはまらなかったこと
- 3期前の3月に、返品の出荷伝票が1枚あった(△12千ドル)
- 第0版では、上限の前提を「各月のドル建ての金額が正(返品・値引き等のマイナスがない)」と置いていた。各年のパッケージの合計を見て置いた前提だったが、合計は返品を差し引いたあとの数字で、合計からは返品は見えなかった
- 3期前の上限を訂正する:(正の取引 1,312千ドル + 返品 12千ドル)× いちばん大きな開き 11.80円 = 15,623千円(第0版 15,340千円)
- 差は伝票から月別に直接算定しているため、3期前の差(+520千円)は上限の訂正の影響を受けない
- 訂正の差 283千円の内訳:パッケージの合計 1,300千ドルは、正の取引 1,312千ドルから返品 12千ドルを引いた純額。上限は「取引の大きさの合計」で出すため、正の取引に戻した 12千ドルと、返品の絶対額 12千ドルの計 24千ドルぶん大きくなる(24 × 11.80 ≒ 283千円)
- 前々期:196枚すべてを見て、返品・値引きの伝票はなかった。4期前:伝票は見ていないが、子会社のパッケージで返品・値引き・取消の欄がいずれもゼロで、月別の金額にもマイナスがないことを確かめた(上限 792千円の前提は当てはまる)
4 当社の暫定評価
- 算定した年は、いずれも差が連結営業利益の0.2%に届かない。算定しない4期前は、上限で見ても約0.26%(出荷は三か月のみ)
- 差は営業利益の段の違いで、当期純利益と利益剰余金の額は変わらない
- 同じ方法(売上原価での調整)が、子会社の立ち上げから続いていた。今期の中間からは、為替差損益(営業外)で処理している
- 以上から、当社としては、過去の財務諸表(比較情報を含む)は修正しない(重要性が乏しい)と考えている。最終的な判断は、ご意見を伺ったうえで当社が行う
5 伺いたいこと
- 上の評価で、当社が見ている観点(営業利益に対する割合・当期純利益と利益剰余金に影響しないこと・同じ方法が続いていたこと)に、不足している観点がないか
- 第0版の前提のうち、返品以外に当社が見落としている前提がないか(ハルカの提案で追加)
- 営業利益に対する割合だけでなく、売上総利益・セグメント情報への影響、ほかの未修正の誤りとの合計、定性的な事情などについて、追加で確かめるべき事項がないか
6 これからのこと
- 海外販売子会社の換算シートに「親会社との取引」の行を設ける(第3四半期のパッケージから。依頼済み)
- 親会社の社内レートの表(月ごと)を、毎月の出荷台帳と一緒に子会社へ送る
- 上限を出す方法を今後使うときは、合計だけでなく、返品・値引きの欄があるかを先に確かめる
この話に出てきた知識・前後の話
- 過去の誤謬の訂正と比較情報(重要性・修正再表示) ── 有報注記ナビ(会計方針の変更・誤謬の訂正)
- 親会社との取引は、親会社が使ったレートで ── 差は為替差損益 ── 内部取引消去ラボ【応用編】
- 為替差損益と外貨建取引の基本 ── 外貨建取引ラボ【基礎編】
- 上限を出した日 ── 十日前の話 ── 経理財務部の物語 第19話「過去の差は出せない。部長が計算した「上限」」
前の話:第28話(2026年11月5日)|【人的資本】連結を回せる人は1人。去年の施策一覧にあった一行 / 次の話:第30話(2026年11月7日)|私は施策の一つだった。少し悔しくて、かなり嬉しい / 記録ページ(年表・会社のいま・話数一覧) / ハルカの学習ノート
この物語は、上場企業の経理財務部の実務をモデルにしたフィクションです。登場する会社・人物・団体は架空のもので、特定の監査法人・企業・製品の手続や見解を描くものではありません。会計・税務の記述は公認会計士・税理士が監修しています。製品名・サービス名は本文に出てきません。数字・日程はすべて架空です。
