舞台の会社について(開く)
🎬 動画で見る第23話「解約できる部屋を、この春も出なかった」
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土曜の朝更新のご案内
2026年10月31日、土曜。
ハルカは8時に起きて、郵便受けから封筒を一つ持って上がった。
管理会社からだった。
木曜に事前相談があって、金曜は部長と社外から入れるシステムを数えた。
昨日の夜は、何も読まずに寝た。
封筒の中は、一枚の紙だった。「建物賃貸借契約 更新のご案内」。
契約満了、2027年2月28日。
更新しない場合は、
2027年1月31日までにご連絡ください。
契約書には、途中で出るときも一か月前に言えばいい、
と書いてある。
二年契約でも、出ようと思えば出られる部屋。
何もしなければ自動で更新されて、更新料は家賃の1か月分。
ハルカは紙を机に置いて、部屋の奥を見た。窓際に、天井近くまである棚。いちばん上の段から、モンステラの葉が垂れていた。
今年の春も、引っ越そうと思っていた。
前回の更新のときも、そう思っていた気がする。
一か月前に言えば出られる部屋なのに、出なかった。
……なんでだっけ。
スマホが鳴った。ミキからだった。
今日11時、駅前の不動産屋さんね。
二つ見せてもらえるって。
ちょうど今、更新のお知らせが来てた。
あ、棚の幅、測ってきなよ。
大学のときから、
あれのせいで引っ越せないって言ってたでしょ。
……言ってた。
ハルカは、引き出しからメジャーを出した。棚の幅は160センチ。高さは、天井まであと10センチだった。
二つの部屋10センチ足りない壁
一つ目は、駅から5分の新しい建物だった。南向きの窓が大きくて、床が明るかった。
日当たり、今の部屋の倍くらいない?
……モンステラ、ここなら喜ぶと思う。
ハルカは窓と反対側の壁にメジャーを当てた。ミキが端を押さえた。
二人は、しばらく壁を見ていた。ほかの壁には、窓とクローゼットの扉があった。160センチの棚を置けそうな場所は、ほかになかった。
いちばん気に入った部屋の、いちばん大事な壁が、
10センチ足りない。
二つ目は、駅から12分の、築25年の建物だった。壁は広かった。自転車置き場には、屋根があった。
自転車も濡れない。
鍵を返す途中、ミキのスマホが短く震えた。ミキは画面を見て、足を止めた。
通販のアプリ。
私、何も新しくしてないんだけど。
アプリを自分で開いて、そこから確かめた方がいい。
ミキはアプリを開いた。ログインの履歴に、知らない地名が一つあった。ミキはその場でパスワードを変えて、二段階の認証をオンにした。
帰ったら全部変える。
昨日、異動した人と退職した人のアカウントを二つ止めた。
画面に出ていた最後のログインは、半年以上前。
でも、その間に不正な利用がなかったかは、まだ分からない。
分からないことは、分からないと書いた。
……ミキには言えない。
言わなくていい。
ミキは、もう自分で止めた。
川沿いのカフェ契約書に書いていない棚
二年契約で、自動更新で、
途中でも一か月前に言えば出られる。
出なかった理由は、棚だった。
あの棚が入る部屋が見つからなかったから、
前回の更新のときも、今年の春も、引っ越すのをやめた。
契約の年数と、何年いるつもりかは別、って。
すぐには出ない前提で見ろって言われる。
出るときに捨てるものが大きいからね。
個人の部屋に、会計の基準は当てはめない。
でも、考え方の練習にはなる。
会社の店なら、契約書に書かれた期間だけでは決められない。
内装にかけたお金や、移転するための費用。
そういう事情も考えて、契約を延長すること、
途中で解約しないことが「合理的に確実」かどうかを判断する。
私の部屋で、それに当たるのは棚だった。
契約書には一行も書いていない棚が、私の期間を決めていた。
今週も、店の契約書を読んだ。
……あの「二年」の向こうにも、
棚に当たるものが置いてあるのかもしれない。
ハルカは、その先を言わなかった。会社の店のことは、ミキには話さない。
異動の希望を書く紙が来た。
台帳の担当、今四人いて、私の入力がどこに効いてるのか、
正直よく分からない。
先週のことは、何も言えない。
850のことも、事前相談のことも、昨日の一覧のことも。
……全部、見える。
見えすぎて、怖い日もある。
聞きたいのは、楽しいかどうかだけ。
怖いけど。
じゃあ私、その紙、もうちょっと寝かせとく。
夜のノート決めない日に、書くこと
今日は、申し込まない。
あの明るい部屋は、2月にはもう空いていないかもしれない。
それでも、今日は決めない。
ハルカはノートを開いた。決めないなら、せめて、決める日を書く。
通知の期限は1月31日。
その前の週末に決める。
決める材料は、三つ。
棚の幅と、壁の幅。
更新料と、引っ越しの費用。
それから、自転車で通える距離かどうか。
棚を手放す、という選択肢も、一応書いておく。
……一応。
モンステラの葉が、エアコンの風で少しだけ揺れた。
月曜からまた、会社の契約書を読む。
「二年」と書いてある契約の、
その向こうに何が置いてあるかを、もう少しちゃんと見よう。
ハルカは、ノートの一番下に一行だけ書いた。
土曜日の終わり置いたものが知っている
土曜日が終わる。
更新のご案内は、机の上で、ノートの下になった。
二年と書いてある部屋に、ハルカは「出ない理由」を一つ置いていた。
契約書には書いていない、160センチの棚。
契約に「二年」と書いてあっても、
何年いるかは、そこに置いたものが知っている。
明日、11月1日は日曜。
大野部長の休日。
月曜から、人的資本の週が始まる。
- 部屋の更新 ── 契約満了 2027年2月28日・自動更新・更新しない場合は2027年1月31日までに連絡。決めるのは1月の下旬(材料:棚の幅・更新料と引っ越しの費用・通勤)
- ミキ ── 春の面談で異動の希望を出すか、紙を「寝かせとく」。続きは12月
- 850が残った原因・「調」の列の全件見直し ── 来週月曜から(部長とハルカ)
- 未払の表示区分の経緯 ── 続きは来週(ハルカ)
- 社外から入れるシステムの一覧 ── 停止した2アカウントの不正利用の有無は未確認(情報システムがログで確認)。多要素認証の導入を来週、情報システムと検討。半期報告書の提出期限は11月16日
- 第22話からのその他の持ち越し(読み合わせ・抜き取り・620の伝票・止まる仕事の一覧・年末調整のクラウド)は継続
この話の学びと、ミキの言葉
この話に出てきた知識・前後の話
- 「契約の年数」と「何年いるつもりか」は別 ── リース期間と「合理的に確実」 ── 「合理的に確実」の見方 ── リース会計ラボ 応用編
- 使用権資産とリース負債 ── 「店を借りると資産が増える」の基本 ── リース会計ラボ(図解・設例・シミュレーション)
- 80件のリース期間を、担当ごとにばらつかせない(判断基準・役割分担) ── リース会計ラボ【部長編①】
- 社外から入れるシステムとアカウントを数える ── 前日の話 ── 経理財務部の物語 第22話「経理部に、社外から入れるシステムはいくつあるか」
前の話:第22話(2026年10月30日)|【情報セキュリティ】経理部に、社外から入れるシステムはいくつあるか / 次の話:第24話(2026年11月1日)|手帳に何も書かないと決めた日曜日 / 記録ページ(年表・会社のいま・話数一覧) / ハルカの学習ノート(リース会計ラボの章)
この物語は、上場企業の経理財務部の実務をモデルにしたフィクションです。登場する会社・人物・団体は架空のもので、特定の監査法人・企業・製品の手続や見解を描くものではありません。会計・税務の記述は公認会計士・税理士が監修しています。製品名・サービス名は本文に出てきません。個人の住まいの契約に会計基準は適用されません。本文の「何年いるか」は考え方の練習です。
