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手帳に何も書かないと決めた日曜日|経理財務部の物語 第24話(2026年11月1日)

手帳に何も書かないと決めた日曜日|経理財務部の物語 第24話(11月1日)
経理財務部の物語第24話2026年11月1日(日)・部長の部屋・駅裏の喫茶店・川沿いの公園次:第25話(2026年11月2日)|【年末調整】人事の担当が辞める。年内は経理部長が人事も見る
この話の中心大野部長登場大野部長・喫茶店のマスター(部長が若い頃から通う店)前の話第23話(2026年10月31日)|【リース期間】解約できる部屋を、この春も出なかった
舞台の会社について(開く)
架空の製造小売。グロース上場・3月決算・子会社3社。店舗68・賃貸借契約80件・経理財務部8人。来期(2028年3月期)から新リース会計基準が強制適用になる。年表・会社のいま・話数一覧は 経理財務部の記録 に。会計の知識は各話の末尾「この話に出てきた知識」からラボと学習ノートへ。

🎬 動画で見る第24話「手帳に何も書かないと決めた日曜日」

この話を、声と絵で見られる動画です。クリックすると再生が始まります(YouTubeで開く)

PART 1物語
1

日曜の朝件名だけのメール

手帳(閉じたまま)日曜 8:02総務部 情報システム担当ログの確認について(月曜にご報告します)「急ぎ」とは書いていない開けば、返事を書きたくなる。

2026年11月1日、日曜。
朝8時。
部長は、机の上の手帳を開いた。

先週の日曜のページには、一行だけ書いてあった。
一週間分めくると、今日のページはまだ白かった。

日曜:手帳に仕事は書かない。今日は、仕事でない一行も書かない

部長は手帳を閉じて、湯を沸かした。
やかんが鳴る前に、机の上のスマートフォンが短く震えた。
画面に、件名だけが出ていた。

✉総務部 情報システム担当(日曜 8:02)
件名:ログの確認について(月曜にご報告します)
大野部長
心の声
木曜に事前相談があった。
宿題は六つ。
大野部長
心の声
金曜は、扉を数えた。
閉め忘れた扉が、二つあった。
大野部長
心の声
書こうと思えば、一ページでは足りない。
……だから、今日は書かない。
大野部長
心の声
日曜の朝8時に、送ってきている。
大野部長
心の声
情報システムは、一人だ。
総務と兼ねている。
金曜の夕方に頼んだことを、
週末のうちに見てくれたのだろう。
大野部長
心の声
開けば、中身が気になる。
中身を読めば、返事を書きたくなる。
大野部長
心の声
返事を書けば、彼はそれを読む。
……日曜に。

件名には「月曜に」と書いてあった。「急ぎ」とは、書いていなかった。

大野部長
心の声
急ぎなら、電話が来る。
電話が来るように、金曜に頼んでおいた。

部長は、メールを開かずに、スマートフォンを伏せた。

大野部長
心の声
月曜の朝いちばんに読む。
返事も、月曜に書く。
2

喫茶店六人の「いつもの」

土曜の朝の「いつもの」??????どこにも書いていない 6人辞めると聞いてから、あの子しか知らないことが分かる。
10時。駅裏の喫茶店の、カウンターの端の席。部長は、今日は手帳を鞄から出さなかった。
マスター
おはよう、大野くん。
……今日は、手帳を出さないんだね。
大野部長
今日は、何も書かない日にしようと思いまして。
マスター
それは、いちばん難しいやつだ。
大野部長
難しいですか。
マスター
何かしない日は、決めればできる。
何も考えない日は、決めてもできない。

マスターは笑って、カップを置いた。奥の焙煎機は止まっていた。日曜の焙煎は、もう終わったあとだった。

マスター
そういえば、土曜の朝に入ってる子がね、
今月いっぱいで辞めるんだ。
就職が決まって。
大野部長
それは、おめでとうございます。
マスター
めでたいよ。
四年いてくれた。
……辞めるって聞いてから、あの子しか知らないことが、
案外あるって分かってね。
大野部長
たとえば、どんな。
マスター
豆の棚の並びとか。
土曜の常連さんの、頼み方とか。
「いつもの」で通じる人が、六人いるんだ。
大野部長
心の声
六人の「いつもの」。
どこにも書いていない。
大野部長
心の声
一覧にしておくといいですよ、と言いかけた。
……十月の部会で、
私たちが数えた「止まる仕事」の一覧のように。

部長は、言いかけた言葉を、コーヒーと一緒に飲みこんだ。

マスター
大野くん、今、仕事の顔になったね。
大野部長
……なっていましたか。
マスター
なってた。
でも、言わなかった。
マスター
今月のうちに、あの子と一緒に土曜に立つよ。
わたしが覚えるんじゃなくて、娘が覚える。
玉金歩銀飛金日曜の朝の、詰将棋。
大野部長
お嬢さんが。
マスター
わたしが覚えたら、また一人に戻るからね。
大野部長
心の声
……会社のことは、聞かない。
店のことに、口は出さない。
それで、ちょうどいい。
3

川沿いの公園後ろに立つ人が、替わった

(腕を組んで、黙って見ている)「さっきの銀、なんで打った」先週は孫が後ろに立っていた。今日は、老人が後ろに立っている。
午後2時。部長は、川沿いを歩いて、先週と同じ公園まで行った。

ベンチの横の縁台で、また将棋が指されていた。先週と同じ顔ぶれだった。ただ、座っている人が違った。

盤の前には、孫が座っていた。相手は、近所の人らしい年配の男。老人は、孫の後ろに立っていた。

大野部長
心の声
先週は、孫が後ろに立っていた。
今日は、老人が後ろに立っている。

孫の手が止まった。老人は、何も言わなかった。腕を組んで、盤ではなく、孫の手元を見ていた。

大野部長
心の声
「黙って見てな」と言った人が、今日は自分で黙っている。

孫は長く考えて、銀を打った。先週、老人が打たなかった銀だった。

一局は、孫が負けた。駒を片づけながら、老人は孫に一つだけ聞いた。「さっきの銀、なんで打った」。

大野部長
心の声
先週と同じ問いだ。
……勝ち負けではなく、理由を聞いている。

部長は、ベンチに座ったまま、ポケットに手を入れた。ペンが一本、入っていた。手帳は鞄の中にあった。今日は出さないと決めていた。

大野部長
心の声
書きたい。
今のを、一行にしたい。
大野部長
心の声
……書かない。
書けば、明日の朝、ハルカさんに話したくなる。

部長は、ペンから手を離した。川の上を、先週より少し冷たい風が渡っていった。

4

夜の手帳白いままの一ページ

10月25日(日)(一行)11月1日(日)11月1日のページは、白いまま。
夜8時。部長は、朝と同じように手帳を開いた。11月1日のページは、白いままだった。
大野部長
心の声
今日、問いが三つ来た。
大野部長
心の声
一つ目。
日曜の朝8時にメールを送ってくる人は、一人で、
どれだけ抱えているのか。
大野部長
心の声
二つ目。
辞めると聞いてから見えてくる仕事が、うちの部にも、
まだあるのではないか。
大野部長
心の声
三つ目。
後ろで黙って見ている人は、いつ、問いを一つだけ聞くのか。
今日、来た問い(手帳には書かない)朝日曜の8時にメールを送る人は、一人でどれだけ抱えているか喫茶店辞めると聞いてから見える仕事が、うちの部にもまだあるか公園後ろで黙って見ている人は、いつ、問いを一つだけ聞くか月曜の朝まで置いておく(約束した仕事は、手帳の前のページに)書けば、三つとも明日の仕事になる。
大野部長
心の声
書けば、三つとも、明日の仕事になる。
大野部長
心の声
書かなければ、明日の朝には、
いくつか忘れているかもしれない。
大野部長
心の声
金曜までに約束した仕事は、
手帳の前のページに全部残してある。
今日来た問いは、それとは別だ。
大野部長
心の声
……それでいい。
月曜の朝まで残っていた問いから、拾う。
大野部長
心の声
忘れた問いが、大事でなかったわけではない。
大事な問いなら、月曜に、もう一度やって来る。

部長は、ペンを手に取って、キャップを外さずに、また置いた。

手帳を閉じる前に、部長はもう一度だけ、白いページを見た。

大野部長
心の声
白いページを見て、落ち着かないのは、私の方だ。
ページは、困っていない。
結び

日曜日の終わり残ったものだけを、拾う

手帳11月1日(日):(白いまま)明日、11月2日。人的資本の週が始まる。

日曜日が終わる。
手帳の11月1日のページには、何も書いていない。

メールは開かなかった。
マスターの店のことに、口は出さなかった。
公園では、ペンを出さなかった。

手帳(11月1日・日):(白いまま)

書かない日に来た問いは、月曜の朝まで置いておく。
約束した仕事は、前のページに残してある。

明日、11月2日。
人的資本の週が始まる。

次の話へ持ち越したこと
  • 情報システム担当のメール(日曜 8:02)── 停止した2アカウントのログの確認。月曜の朝いちばんに読み、返事も月曜に(部長)
  • 850が残った原因・「調」の列の全件見直し ── 月曜から(部長とハルカ)
  • 多要素認証の導入 ── 今週、情報システムと検討。半期報告書の提出期限は11月16日
  • 第22話・第23話からのその他の持ち越し(未払の表示区分の経緯・読み合わせ・抜き取り・620の伝票・止まる仕事の一覧・年末調整のクラウド)は継続
学び

この話の学びと、マスターの言葉

大野部長の反省と学び
1日曜のメールは、件名だけ読んで、月曜に返す
返事を書けば、相手はそれを日曜に読む。件名に「急ぎ」がなく、急ぎなら電話をもらう約束があるなら、開かなくていい。上の人の返事は、相手の休みを仕事の日に変えてしまう。
2辞めると聞いてから見える仕事がある
マスターの店の「いつもの」が六人分。どこにも書いていなかった。人が辞める前に数えておくのが「止まる仕事」の一覧のはずだった。うちの部の一覧は、まだ人の名前で止まっているところがある。
3書かなかった問いは、月曜の朝まで置いておく
金曜までに約束した仕事は、手帳の前のページに残してある。日曜に来た問いはそれと分けて月曜の朝まで置き、残っていたものから拾う。白いページを見て落ち着かないのは、自分の方。
マスターの言葉(駅裏の喫茶店から)
1何もしない日は決めればできる。何も考えない日は、決めてもできない
手帳を鞄から出さなかった大野くんに。それでも、言いかけた言葉を飲みこんだのは、見ていた。
2辞めると聞いてから、あの子しか知らないことが分かる
豆の棚の並び、土曜の常連さんの「いつもの」。四年いてくれた子が、今月で辞める。
3わたしが覚えたら、また一人に戻る
だから、覚えるのは娘。わたしは、一緒に土曜に立つだけ。
PART 2学ぶ世界へ・前後の話
→

この話に出てきた知識・前後の話

この話に出てきた知識(学ぶ世界へ)
経理財務部の物語|第24話|2026年11月1日(日)
前の話:第23話(2026年10月31日)|【リース期間】解約できる部屋を、この春も出なかった / 次の話:第25話(2026年11月2日)|【年末調整】人事の担当が辞める。年内は経理部長が人事も見る / 記録ページ(年表・会社のいま・話数一覧) / 人的資本可視化指針ラボ【部長編①】(二人目を育てる計画)

この物語は、上場企業の経理財務部の実務をモデルにしたフィクションです。登場する会社・人物・団体は架空のもので、特定の監査法人・企業・製品の手続や見解を描くものではありません。会計・税務の記述は公認会計士・税理士が監修しています。製品名・サービス名は本文に出てきません。

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この記事を書いた人

TaxJudge編集部|公認会計士・税理士(実務25年)による企画・監修。会計基準・税法・裁決・有価証券報告書などの一次情報をもとに、検索できるデータベースと計算・判定・文書作成ツールを制作しています。