舞台の会社について(開く)
🎬 動画で見る第24話「手帳に何も書かないと決めた日曜日」
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日曜の朝件名だけのメール
2026年11月1日、日曜。
朝8時。
部長は、机の上の手帳を開いた。
先週の日曜のページには、一行だけ書いてあった。
一週間分めくると、今日のページはまだ白かった。
部長は手帳を閉じて、湯を沸かした。
やかんが鳴る前に、机の上のスマートフォンが短く震えた。
画面に、件名だけが出ていた。
木曜に事前相談があった。
宿題は六つ。
金曜は、扉を数えた。
閉め忘れた扉が、二つあった。
書こうと思えば、一ページでは足りない。
……だから、今日は書かない。
日曜の朝8時に、送ってきている。
情報システムは、一人だ。
総務と兼ねている。
金曜の夕方に頼んだことを、
週末のうちに見てくれたのだろう。
開けば、中身が気になる。
中身を読めば、返事を書きたくなる。
返事を書けば、彼はそれを読む。
……日曜に。
件名には「月曜に」と書いてあった。「急ぎ」とは、書いていなかった。
急ぎなら、電話が来る。
電話が来るように、金曜に頼んでおいた。
部長は、メールを開かずに、スマートフォンを伏せた。
月曜の朝いちばんに読む。
返事も、月曜に書く。
喫茶店六人の「いつもの」
……今日は、手帳を出さないんだね。
何も考えない日は、決めてもできない。
マスターは笑って、カップを置いた。奥の焙煎機は止まっていた。日曜の焙煎は、もう終わったあとだった。
今月いっぱいで辞めるんだ。
就職が決まって。
四年いてくれた。
……辞めるって聞いてから、あの子しか知らないことが、
案外あるって分かってね。
土曜の常連さんの、頼み方とか。
「いつもの」で通じる人が、六人いるんだ。
六人の「いつもの」。
どこにも書いていない。
一覧にしておくといいですよ、と言いかけた。
……十月の部会で、
私たちが数えた「止まる仕事」の一覧のように。
部長は、言いかけた言葉を、コーヒーと一緒に飲みこんだ。
でも、言わなかった。
わたしが覚えるんじゃなくて、娘が覚える。
……会社のことは、聞かない。
店のことに、口は出さない。
それで、ちょうどいい。
川沿いの公園後ろに立つ人が、替わった
ベンチの横の縁台で、また将棋が指されていた。先週と同じ顔ぶれだった。ただ、座っている人が違った。
盤の前には、孫が座っていた。相手は、近所の人らしい年配の男。老人は、孫の後ろに立っていた。
先週は、孫が後ろに立っていた。
今日は、老人が後ろに立っている。
孫の手が止まった。老人は、何も言わなかった。腕を組んで、盤ではなく、孫の手元を見ていた。
「黙って見てな」と言った人が、今日は自分で黙っている。
孫は長く考えて、銀を打った。先週、老人が打たなかった銀だった。
一局は、孫が負けた。駒を片づけながら、老人は孫に一つだけ聞いた。「さっきの銀、なんで打った」。
先週と同じ問いだ。
……勝ち負けではなく、理由を聞いている。
部長は、ベンチに座ったまま、ポケットに手を入れた。ペンが一本、入っていた。手帳は鞄の中にあった。今日は出さないと決めていた。
書きたい。
今のを、一行にしたい。
……書かない。
書けば、明日の朝、ハルカさんに話したくなる。
部長は、ペンから手を離した。川の上を、先週より少し冷たい風が渡っていった。
夜の手帳白いままの一ページ
今日、問いが三つ来た。
一つ目。
日曜の朝8時にメールを送ってくる人は、一人で、
どれだけ抱えているのか。
二つ目。
辞めると聞いてから見えてくる仕事が、うちの部にも、
まだあるのではないか。
三つ目。
後ろで黙って見ている人は、いつ、問いを一つだけ聞くのか。
書けば、三つとも、明日の仕事になる。
書かなければ、明日の朝には、
いくつか忘れているかもしれない。
金曜までに約束した仕事は、
手帳の前のページに全部残してある。
今日来た問いは、それとは別だ。
……それでいい。
月曜の朝まで残っていた問いから、拾う。
忘れた問いが、大事でなかったわけではない。
大事な問いなら、月曜に、もう一度やって来る。
部長は、ペンを手に取って、キャップを外さずに、また置いた。
手帳を閉じる前に、部長はもう一度だけ、白いページを見た。
白いページを見て、落ち着かないのは、私の方だ。
ページは、困っていない。
日曜日の終わり残ったものだけを、拾う
日曜日が終わる。
手帳の11月1日のページには、何も書いていない。
メールは開かなかった。
マスターの店のことに、口は出さなかった。
公園では、ペンを出さなかった。
書かない日に来た問いは、月曜の朝まで置いておく。
約束した仕事は、前のページに残してある。
明日、11月2日。
人的資本の週が始まる。
- 情報システム担当のメール(日曜 8:02)── 停止した2アカウントのログの確認。月曜の朝いちばんに読み、返事も月曜に(部長)
- 850が残った原因・「調」の列の全件見直し ── 月曜から(部長とハルカ)
- 多要素認証の導入 ── 今週、情報システムと検討。半期報告書の提出期限は11月16日
- 第22話・第23話からのその他の持ち越し(未払の表示区分の経緯・読み合わせ・抜き取り・620の伝票・止まる仕事の一覧・年末調整のクラウド)は継続
この話の学びと、マスターの言葉
この話に出てきた知識・前後の話
- 担当がいないと止まる仕事を数える ── 二人目は未定/育成中/代行可能 ── 経理財務部の物語 第8話「担当が休むと止まる仕事を数えたら、6つあった」
- 連結を回せる人を1人から2人へ ── 二人目を育てる計画と、育成中の業務の守り方 ── 人的資本可視化指針ラボ【部長編①】
- 社外から入れるシステムとアカウントを数える ── 二日前の話 ── 経理財務部の物語 第22話「経理部に、社外から入れるシステムはいくつあるか」
前の話:第23話(2026年10月31日)|【リース期間】解約できる部屋を、この春も出なかった / 次の話:第25話(2026年11月2日)|【年末調整】人事の担当が辞める。年内は経理部長が人事も見る / 記録ページ(年表・会社のいま・話数一覧) / 人的資本可視化指針ラボ【部長編①】(二人目を育てる計画)
この物語は、上場企業の経理財務部の実務をモデルにしたフィクションです。登場する会社・人物・団体は架空のもので、特定の監査法人・企業・製品の手続や見解を描くものではありません。会計・税務の記述は公認会計士・税理士が監修しています。製品名・サービス名は本文に出てきません。
