部会の前仕事は消えない。持つ人が動くだけ
2026年10月16日、金曜。
部会は午後2時から。
午前中、ハルカと固定資産担当は、今週の宿題を一枚ずつ机に並べていた。
回付票の案、台帳の要件書、読み取りの手順。
そこへ、店舗開発部の担当からメールが届いた。
正直、10項目は更新が重なる月には書ききれません。
契約期間・解約の予告・賃料・最低保証・原状回復・原本の場所。この6つなら、5営業日以内に書けます。
相手方とか、敷金とか。
書く人の手間が減った分、読む人の手間が増える。
まあ、どこかが持つしかないです。
仕事は消えない。
誰が持つかが、動くだけだ。
「担当不在で止まる仕事」って、何をするんですかね。
……たぶん、終わった後が長い。
2件だけでも。
……あ、この店も末尾に覚書がホチキスで留めてある。
最初に一式を確かめる、と決めたのは正解でしたね。
昨日決めた手順が、今日もう一度、誰かを助けている。
今週の宿題回付票・要件書・読み取りの手順
回付票は、店舗開発部が出してくれた6項目にします。
残りの4項目は、経理が写しから読む。
部員の一人が「読む人を増やすんですか」と聞いた。部長は「増やさない。読み取りの手順に入れる」と答えた。
月曜は「全部書くんですか」と言っていたのに。
それなら、続くと思う。
回ってこない覚書を見つけることは別の話です。
押印申請簿と支払の突き合わせ、
それに所管の部署への確認は、続けます。
固定資産担当から出た、
使用権資産の償却を固定資産システムに載せるか。
情報システムの方の時間も見積もります。
読み取りの手順は、昨日の第0版をそのまま第1版にします。
一式の確認と、重要4項目の読み合わせ。
入社2年目の部員が、メモから顔を上げた。「一式の確認って、どこまで見ればいいんですか。別紙の図面もですか」
原状回復の範囲が、図面にしか書いていないことがあるから。
逆向きの特約を一つ見つけました。
特約が見つかった2店は、
リース期間の再判断を続けています。
四つ目、台帳の二人目は、固定資産担当にお願いしました。
……ただ、その話は五つ目と一緒にさせてください。
止まる仕事数えてみたら、六つ
そういう仕事を、遠慮しないで全部挙げてください。
最初は誰も口を開かなかった。やがて、財務担当が「資金繰り表と支払データは、私だけです」と言った。そこから、少しずつ声が出た。
私だけです。
子会社3社の月次の回収、短信と半期報告書の作成。それぞれ、一人ずつの名前が書かれた。
税金の計算と税効果。
この二つは、私です。
ホワイトボードに、六つの行が並んだ。二つの行に、部長の名前があった。
部員の一人が、小さく言った。「数えても、人は増えないですよね」
だから、数えるんです。
どこから二人目を作るかを、決めるために。
でも、一人で一度回したことがなければ、休んだ日に止まる。
だから二人目の欄は、三つに分けて書こう。
一人で回せたと確かめるまでは、
名前を書いても「育成中」です。
名前を書いただけで、安心しないようにしよう。
新リースの台帳。
期首から回し始めたら、作った私しか分からない。
……七つ目は、私だ。
もう一つあります。
来年の4月からですけど、新リースの台帳も、
今のままだと私だけです。
固定資産担当に、二人目として育ってもらう。
今日の欄は「育成中」だね。
ただ、その分、固定資産の締めを誰かに覚えてもらわないと、
私が回りません。
11月から固定資産の締めを一緒にやってもらいます。
償却資産の申告は、1月に横で見てもらう。
経費精算のチェックは、しばらく私が引き取ります。
支払データを作る財務担当には、回さないでおこう。
人が足りない。
今は、この二つだけ。
部長は、マーカーを持ったまま、少し黙った。それから、二人目の欄に「未定」と書いた。
来週の中間連結一つ外して、一つ足す
私も、書きながら気になっていた。
来週から中間連結の締めが始まる。
子会社のうち一社の連結パッケージの確認を、
ハルカさんにお願いできないかな。
読み取りの一人目は、来週から入社2年目の部員に替える。
ハルカさんは二人目に回って、重要項目の読み合わせだけ。
中間連結とも重なります。
来週の金曜に、残りの件数を見て確かめよう。
間に合わないと分かったら、進み具合と対応の方針を、
監査法人に相談する。
一つ外して、一つ足す。
今日の部会で、何度も見た形だ。
パッケージの数字が子会社の試算表と合っているか、
グループ内の取引が相手の会社と合っているか。
そこからだね。
どちらが正しいかを決めるのは、そのあと。
来週、たぶん一度は合わないよ。
正直に言うと、精算表を人に見せるのは、少し怖いんだ。
何年も、私しか触っていなかったから。
部長が「怖い」と言うのを、初めて聞いた。
議事メモ代わりに回せる仕事は、まだゼロ
部会の議事メモは、その夜、ハルカがまとめた。
最後に、ホワイトボードの写真を貼った。
六つの行と、あとから足した一つの行。
二人目の育成を始める仕事が、二つ決まった。
残りの五つには「未定」とある。
そのうち二つは、部長の字だった。
そして、今日の時点で、本当に代わりに回せる人がいる仕事は、まだ一つもなかった。
月曜から、中間連結の締めが始まる。
数えても、人は増えない。
でも、数えなければ、どこから始めるかも決められない。
- 中間連結の締め(10月19日〜) ── ハルカが子会社のうち一社分の連結パッケージを確認。精算表は「最初は見るだけ」
- 担当不在で止まる仕事 ── 6つ+新リースの台帳。二人目の育成を始めたのは、新リースの台帳(固定資産担当)と固定資産の締め(入社2年目の部員・11月から)。代わりに回せる人がいる仕事は、まだゼロ
- 入社2年目の部員 ── 読み取りの一人目と固定資産の締めが加わる。経費精算のチェックは当面、部長が引き取る(支払データを作る財務担当には回さない)
- 連結と税金 ── 二人目は「未定」(部長)
- 回付票 ── 10項目から6項目へ。残りの4項目は経理が写しから読む
- 要件書 ── 使用権資産の償却を固定資産システムに載せるかを追加。情報システムの工数を見積もる
- 読み取りの手順 ── 第1版で運用開始。一人目は入社2年目の部員、ハルカは読み合わせの二人目に。期限の11月中旬は変えず、来週金曜に残りの件数を確認(間に合わなければ監査法人に進捗と方針を相談)
- 特約が見つかった2店 ── リース期間の再判断を継続。回ってこない覚書は、押印申請簿・支払の突き合わせ・所管部署への確認で探し続ける
この話の、二人の反省と学び
部会の議事メモと、担当不在で止まる仕事の一覧(第1版)全文ハルカが部会の夜にまとめた
この物語の会社(架空)で、ハルカが部会の夜にまとめた議事メモです。後半の「担当不在で止まる仕事の一覧」は、「一週間休んだら、その仕事が止まる。他の人では回せない」仕事を部員全員で挙げたものです。実在の会社の文書ではありません。ひな形として使うときは、部署の人数・決算日程・業務の分け方に合わせて変えてください。
経理財務部 部会 議事メモ(2026年10月16日)/担当不在で止まる仕事の一覧 第1版
1 決定事項
| No | 議題 | 決まったこと | 担当・期限 |
|---|---|---|---|
| 1 | 回付票の項目 | 店舗開発部の担当から提案のあった6項目(契約期間・解約の予告・賃料・最低保証・原状回復・原本の場所)に絞る。残りの4項目(相手方・物件・敷金・改定条件の詳細)は、経理が写しから読み取る。回付されない覚書を見つける手続は、回付票とは別に続ける(押印申請簿・支払との突き合わせ。賃料が変わらない覚書は支払では見つからないため、所管部署への四半期ごとの確認も組み合わせる) | 部長が店舗開発部長に回答(10月19日) |
| 2 | 新リース台帳の要件書 | 第0版に「使用権資産の償却を固定資産システムに載せるか」を追加。載せる場合は、固定資産システム側の設定と情報システムの工数を見積もる | ハルカ・固定資産担当(10月末) |
| 3 | 読み取りの手順 | 第0版をそのまま第1版として運用開始(契約書一式の確認、重要4項目の読み合わせ、原本ページの記録)。来週から、一人目は入社2年目の部員、読み合わせの二人目はハルカ・固定資産担当。期限(11月中旬)は変えず、10月23日に残りの件数で確認する。間に合わない場合は、進捗と対応方針を監査法人に相談する。特約が見つかった2店のリース期間の再判断は継続 | 部長(抜き取りは継続) |
| 4 | 新リース台帳の二人目 | 固定資産担当を二人目として育成(育成中)。その代わり、固定資産の締めを入社2年目の部員に11月から移し始める(育成中)。入社2年目の部員の経費精算のチェックは、当面、部長が引き取る(支払データを作成する財務担当には回さず、作成と確認を分ける) | 固定資産担当・入社2年目の部員・部長 |
| 5 | 担当不在で止まる仕事 | 一覧(下記)を作成。二人目は「未定/育成中/代行可能」で書く。今は2つだけ育成を始め、残りは「未定」のまま表に残す。現時点で「代行可能」は0。四半期ごとに見直す | 部長(次回 1月) |
2 担当不在で止まる仕事の一覧(第1版)
| No | 仕事 | 主担当 | 止まると何が起きるか | 次の山場 | 二人目 | 着手 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 連結の精算表 | 部長 | 連結決算が組めない(四半期・期末) | 10月19日〜 中間連結 | 未定 | 中間連結で、子会社のうち一社分の連結パッケージの確認をハルカが担当(精算表は見るだけ) |
| 2 | 税金の計算・税効果 | 部長 | 税金費用・繰延税金資産が計上できない | 中間決算・期末 | 未定 | ― |
| 3 | 固定資産の締め・償却資産の申告 | 固定資産担当 | 減価償却費が計上できない/1月の申告が出せない | 毎月・1月 | 育成中:入社2年目の部員 | 11月から締めを一緒に。申告は1月に横で見る |
| 4 | 資金繰り表・支払データ | 財務担当 | 支払が止まる/資金の見通しが立たない | 毎週 | 未定 | ― |
| 5 | 子会社3社の月次の回収 | 子会社の担当 | 子会社の数字が集まらない | 毎月・中間連結 | 未定 | 子会社の様式をそろえることが先 |
| 6 | 短信・半期報告書の作成 | 開示の担当 | 開示の期限に間に合わない | 11月 中間決算の開示 | 未定 | ― |
| 7 | 新リースの台帳(2027年4月〜) | ハルカ(予定) | 使用権資産・リース負債が計上できない | 2027年4月 期首 | 育成中:固定資産担当 | 10月下旬の試作から二人で |
3 補足
- ① 6つ(+新リース1つ)のうち、育成中は2つ、代行可能は0。人が増えないので、全部には今は手を付けない
- ② 一つを足すときは、その人から何を外すかを決める(台帳の二人目を引き受けた固定資産担当から固定資産の締めを少しずつ外し、それを受ける入社2年目の部員からは経費精算のチェックを外す。外した仕事は、支払の作成と確認が同じ人に集まらないように部長が引き取る)
- ③ 部長の2行(連結・税金)は「未定」。中間連結で、連結の一部をハルカに渡し始める
- ④ この一覧は、11月の人材戦略(人事部と作る経理財務部の育成計画)の材料にする
この話に出てきた知識・前後の話
- 連結決算の流れ(連結パッケージ・グループ内取引の照合) ── 連結決算ラボ(準備中)
- 連結を回せる人が一人しかいない ── 二人目を育てる計画と人的資本の開示 ── 人的資本可視化指針ラボ【部長編①】
- 使用権資産の償却と固定資産の台帳 ── リース会計ラボ(図解・設例・シミュレーション)
- 判断基準書(会計方針の文書化) ── 会計方針書ジェネレーターβ
- 80件の判断を組織でそろえる(リース期間の判断基準・役割分担) ── リース会計ラボ【部長編①】80件のリース期間を、担当ごとにばらつかせない
前の話:第7話(10月15日)|二人で読む / 次の話:第9話(10月17日)|数字の前に、モノがある / 記録ページ(年表・会社のいま・話数一覧) / ハルカの学習ノート(リース会計ラボの章)
この物語は、上場企業の経理財務部の実務をモデルにしたフィクションです。登場する会社・人物・団体は架空のもので、特定の監査法人・企業・製品の手続や見解を描くものではありません。会計・税務の記述は公認会計士・税理士が監修しています。製品名・サービス名は本文に出てきません。
