舞台の会社について(開く)
🎬 動画で見る第26話「スマホ入力の画面の前で、母の指が止まった」
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祝日の朝書きかけの一行
2026年11月3日、火曜。
文化の日。
ハルカは8時に起きて、机の上のノートを見ないようにして、顔を洗った。
ノートには、昨日の夜に書きかけた一行が残っていた。
「年末調整 経理側の要件(出口)」。
その下は、まだ白かった。
今日は書かない。
祝日くらいは、ノートを閉じておく。
人事部は、二人が一人になる。
年末調整のクラウドを入れようとしていた人が、辞める。
私が頼まれたのは、出口の側だ。
12月の給与で精算して、源泉税を納めて、
源泉徴収票と法定調書を作る。
スマホが鳴った。母からだった。「お昼、何時ごろ? ちょっと聞きたいこともあるの」。
聞きたいこと。
……嫌な予感はしない。
たぶん、こむぎの爪切りのことだ。
ハルカは、ノートを机の引き出しにしまって、家を出た。
実家の居間「いないから、出さなくていい?」
こむぎ、まだあなたの顔を覚えてないのかしらね。
……聞きたいことって、爪切り?
これなの。
お店から、今年から年末調整はスマホで入れてくださいって。
母は、近所の店でパートをしている。差し出されたスマホの画面には、見慣れない入力の画面が開いていた。
……年末調整の、入口の画面だ。
去年の控えを見ながら、同じように書けばよかったの。
「令和9年分 扶養控除等申告書」って書いてあるの。
扶養する人はいないから、出さなくていいのよね?
扶養する人がいなくても、
来年分の扶養控除等申告書は出すんだよ。
今年の年末調整の書類とは、別のものなんだ。
出さないと、来年のお給料から引かれる税金が、
高い方の計算になっちゃう。
お母さんは、今のお店だけで働いてるよね。
ほかでは働いてないわ。
「いない」を選んで、その先に進めばいいんだと思う。
会社の名前を出さなくても、制度の話ならできる。
……ここまでなら、言っていい。
母は、画面の「いない」を押した。次の画面に進んだ。
一時間紙の控えを横に並べて
代わりに入れれば、五分で終わる。
……でも、来年もお母さんはこの画面を開く。
って意味じゃないかな。
ただ、来年分の申告に関係することで、
去年と変わったことがないかは確かめよう。
去年の控え、ある?
引き出しに。
……紙なら、これを見ながら書けたのにね。
母は引き出しから去年の控えを出して、スマホの横に並べた。紙と画面を、指で行ったり来たりした。
紙の控えがあるから、画面が読める。
紙をやめても、紙が要らなくなるわけじゃない。
紙で届いたのをお店に持っていけって書いてあるわ。
これは、今日はやめておく。
証明書が手元にそろってからでいいと思う。
気がつくと、2時を過ぎていた。こむぎがソファの下から出てきて、去年の控えの上に座った。
同じところで止まってるわよ。
店長に聞く人もいるし、閉じちゃう人もいる。
締切の前の日にまた開くの。
私も、あなたが来なかったらそうしてた。
うちの会社にも、店がたくさんある。
店で働く人の多くは、パートの人だ。
入口で閉じた人の分は、出口に届かない。
12月の給与で精算する人の数が、
締切の前の日まで決まらない。
……でも、それを今、お母さんに言うことはできない。
明日、部長に言えるのも、一つだけだ。
夜のノート入口の側から
今日は書かないつもりだった。
……一行だけ、書く。
出口の要件を書く前に、
入口で止まる人がいることを書いておきたい。
紙に戻すか、導入を続けるか。
決めるのは部長だ。
私が決めることじゃない。
でも、どちらに決まっても、入口で止まる人はいる。
紙なら書き方で止まり、スマホなら画面で止まる。
明日、部長に一つだけ言おう。
「入口で止まる人がいる前提で、
出口の日程を組んでください」。
スマホが鳴った。母からだった。「こむぎの爪切り、聞き忘れた」。
……そうだった。
結局、それも聞きたかったんだ。
ハルカは笑って、「次に帰ったとき、一緒に切ろう」と返した。
祝日の終わり入口で止まる指
祝日が終わる。
母の申告書は、半分だけ進んだ。
保険の証明書の分は、まだ残っている。
ハルカが頼まれていたのは、出口の側だった。
その向こうに、スマホの画面の前で止まる指があった。
出口の要件を書く前に、
入口で止まる人を数えておく。
明日、11月4日。
部長が、紙に戻すか、遅れた導入を続けるかを決める日。
- 年末調整 ── 部長が明日(11月4日)、紙に戻すか、遅れた導入を続けるかを決める。ハルカは「入口で止まる人がいる前提で、出口の日程を組んでください」と一つだけ伝える
- 年末調整の経理側の要件(12月給与の精算・源泉税の納付・源泉徴収票・法定調書)── ハルカ。ノートは一行目まで
- 母の申告書 ── 扶養控除等申告書は入力済み。保険料の控除は、証明書がそろってから
- 第25話からの持ち越し(人事担当の退職と引継ぎ確認表・ログの確認と社長への説明・読み合わせの再開・850の見直し・表示区分の経緯)は継続
この話の学びと、母の言葉
この話に出てきた知識・前後の話
- 年末調整の流れ(申告書の回収・12月給与での精算・源泉徴収票) ── ハルカの学習ノート ── 年末調整ラボ 基礎編
- 扶養控除等(異動)申告書・保険料控除申告書の書き方 ── ハルカの学習ノート ── 年末調整 書類の書き方ラボ
- 人事担当の退職と、引継ぎ確認表 ── 前日の話 ── 経理財務部の物語 第25話「人事の担当が辞める。年内は経理部長が人事も見る」
前の話:第25話(2026年11月2日)|【年末調整】人事の担当が辞める。年内は経理部長が人事も見る / 次の話:第27話(2026年11月4日)|【年末調整のクラウド化】紙に戻すか続けるか、止まったのは画面の言葉 / 記録ページ(年表・会社のいま・話数一覧) / ハルカの学習ノート ── 年末調整ラボ 基礎編
この物語は、上場企業の経理財務部の実務をモデルにしたフィクションです。登場する会社・人物・団体は架空のもので、特定の監査法人・企業・製品の手続や見解を描くものではありません。会計・税務の記述は公認会計士・税理士が監修しています。製品名・サービス名は本文に出てきません。年末調整の個別の取扱いは、勤務先や税務署にご確認ください。
