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経理財務部の物語 第16話(10月24日)|端数と呼んでいた数字

経理財務部の物語 第16話(10月24日)|端数と呼んでいた数字
経理財務部の物語第16話2026年10月24日(土)・本社 経理財務部(土曜出勤)次:第17話(近日)
この話の中心ハルカ登場ハルカ・大野部長(海外販売子会社は、換算シートと出荷台帳で)前の話第15話(10月23日)|置き場のない数字
舞台の会社について(開く)
架空の製造小売。グロース上場・3月決算・子会社3社。店舗68・賃貸借契約80件・経理財務部8人。来期(2028年3月期)から新リース会計基準が強制適用になる。年表・会社のいま・話数一覧は 経理財務部の記録 に。会計の知識は各話の末尾「この話に出てきた知識」からラボと学習ノートへ。
PART 1物語
1

土曜の朝二人だけのフロア

換算シート出荷台帳10月24日(土)土曜出勤代休:10月28日(水)今日は一つだけ「調」2行目 620島の上だけ明かりがついた、土曜のフロア。

2026年10月24日、土曜。
中間連結の作業が続いた一週間の、その週末。
最初の休日。
フロアの照明は、経理財務部の島の上だけがついていた。

土曜の出勤は、二週間前から決めてあった。
代休は来週の水曜。
残業の時間も月の上限の内側に収まるよう、部長が先に組んである。

ハルカ
おはようございます。
……静かですね、土曜のフロアって。
大野部長
おはよう。
来てくれてありがとう。
代休は水曜で、残業の時間も上限の内側に収めてあるからね。
大野部長
今日は、一つだけにしよう。
「調」の2行目、620だ。
📗 「調」の列 ── 2行目の620(為替換算の端数)中間連結精算表_2026年9月期.xlsx
シート:調(部長の形)
ABCDEF
3No区分内容科目金額状態(10月24日の朝)
41期ずれ物流 棚卸の締め日のずれ棚卸資産1,200確認済み
52端数海外販売 為替換算の端数売上原価△620未確定(換算資料と未照合)
63過去の修正の名残前期末(3月)の未達の補足棚卸資産2,600取消し
単位:千円(架空)。2行目は売上原価を620減らす一行で、理由の欄は第11話から「換算レートの丸め」のまま。状態は「未確定(換算資料と未照合)」。今日は、この一つだけを確かめる。
ハルカ
「為替換算の端数」の行ですね。
月曜に、私が「丸め方を決めれば不要?
」とメモした行です。
大野部長
そう。
私も、そうかもしれないと思った。
今日はそれを、資料で確かめる日だ。

部長は、二つのファイルを机に置いた。親会社の出荷台帳と、海外販売子会社のパッケージの換算シート。

海外販売子会社 連結パッケージ 換算シート(9月・抜粋)損益の換算の欄(子会社の立ち上げ時に部長が作った形のまま)

換算のレート:損益=期中平均 149.50円(4〜9月)/資産・負債=9月末の相場

仕入(親会社から) 1,240千ドル × 149.50 = 185,380千円

仕入(親会社以外)・販売費・その他の損益:すべて 149.50円で換算

「親会社との取引」を分ける行:なし

親会社の出荷台帳では、同じ1,240千ドルが186,000千円。差620(調の2行目)
架空の会社の社内文書(抜粋)
ハルカ
損益は、全部「期中平均 149.50円」なんですね。
大野部長
そうだね。
その換算シートは、
子会社を立ち上げたときに私が作った形のままだ。
ハルカ
心の声
部長が作った形。
……今週、この言葉を聞くのは何度目だろう。
ハルカ
子会社を立ち上げたとき、
部長は向こうに通っていたんですよね。
大野部長
半年くらい、出張でね。
現地で採った経理の担当者と、
帳簿と月次の仕組みを一緒に作った。
大野部長
パッケージの換算シートも、そのとき作った。
損益は期中平均、資産と負債は月末の相場。
それだけの、簡単な形だよ。
ハルカ
簡単な形のほうが、向こうで回しやすいですよね。
大野部長
そう思って作った。
……今日は、その簡単さのどこかに、
620が隠れているかどうかを見る日だね。
2

午前月ごとに並べる

同じ荷物(1,240千ドル)を、二つのレートで円にしている出荷 4〜9月1,240千ドル親会社の売上出荷月の社内レート(前月末の相場・148〜151円)186,000子会社の仕入6か月まとめて期中平均(149.50円)185,380186,000 − 185,380 = 620(千円) ドルは一致。差はレートから差は、丸めではなく、レートの違いから来ていた。
午前10時。ハルカは、親会社の出荷台帳を月ごとに並べた。4月から9月までの六か月。隣に、子会社の換算シートの数字を写していく。
ハルカ
まず、ドルの合計から。
親会社の出荷が1,240千ドル、
子会社の仕入も1,240千ドル。
一致しています。
大野部長
船便の未着の分は、5行目で別に直してあるからね。
ドルが合っているなら、差はレートから来ている。
ハルカ
円で並べます。
親会社は186,000、子会社は185,380。
差が620です。
ハルカ
……月ごとに分けると、4月はマイナス300、
5月はマイナス105。
6月からはプラスで、285、110、300、330です。
📗 月別の照合 ── 差は△300〜+330、月ごとに向きを変える照合_海外販売子会社_4-9月.xlsx(ハルカ作成)
シート:照合
ABCDEF
3月出荷(千ドル)社内レート(円)親会社の売上 =B×C子会社の仕入 =B×149.50差 =D−E
44月20014829,60029,900△300
55月21014931,29031,395△105
66月19015128,69028,405285
77月22015033,00032,890110
88月20015130,20029,900300
99月22015133,22032,890330
10合計1,240186,000185,380620
単位:千円(架空)。F10=SUM(F4:F9)=620。ドルの合計(B10)は親会社の出荷・子会社の仕入とも1,240千ドルで一致。月の差は△30万円〜+33万円で、4・5月はマイナス、6月からはプラス。単純な丸めでは説明できない。
ハルカ
心の声
単純な丸めでは説明できない。
月ごとの差は、数万円から数十万円。
しかも、月によって向きが変わっている。
ハルカ
部長、これ、端数じゃないです。
私の「丸め方を決めれば」は、外れました。
大野部長
外れたね。
私の「端数」という名前も、外れた。
大野部長
同じ「調」の11行目から13行目を見てごらん。
6、4、9。
明細の端数を積み上げた結果だと、確かめてある丸めの行だ。
📗 同じ「端数」という名前の行 ── 620 と 6・4・9中間連結精算表_2026年9月期.xlsx
シート:調(部長の形)
ABCDEF
3No区分内容科目金額状態(10月24日の朝)
41期ずれ物流 棚卸の締め日のずれ棚卸資産1,200確認済み
52端数海外販売 為替換算の端数売上原価△620未確定(換算資料と未照合)
63過去の修正の名残前期末(3月)の未達の補足棚卸資産2,600取消し
……(4〜10行目は期ずれ)
1411端数海外販売 換算の端数(買掛金)買掛金6確認済み(明細の端数の積み上げ)
1512端数海外販売 換算の端数(売掛金)売掛金△4確認済み(明細の端数の積み上げ)
1613端数海外販売 換算の端数(棚卸資産)棚卸資産9確認済み(明細の端数の積み上げ)
単位:千円(架空)。2行目は620千円、11〜13行目は6・4・9千円。11〜13行目は明細の端数を積み上げた結果だと確かめてある丸め。同じ名前でも、桁が二つ違う。
ハルカ
6千円と620千円。
桁が違いますね。
……同じ「端数」という名前で、並んでいました。
大野部長
名前を付けたのは、私だよ。
「端数」と書いた行は、誰も開けなかった。
私も含めて。
ハルカ
どうして、月ごとに違うんですか。
大野部長
親会社は、出荷した月の社内レートで売上を円にしている。
前月末の実際の相場をもとに、月初に一本ずつ決める。
148円から151円だ。
大野部長
子会社は、六か月の仕入を、
期中平均の149.50円でまとめて円にする。
同じ荷物に、二つのレートがかかっているんだ。
ハルカ
社内レートは、誰が決めているんですか。
大野部長
財務の担当が、月初に前月末の相場を見て一本決める。
親会社の輸出は、その月はずっとそのレートで円にする。
ハルカ
4月と5月は、社内レートが期中平均より安かった。
6月からは高かった。
だから、前半はマイナス、後半はプラス。
大野部長
そういうことだね。
円安の向きに動いた半年だったから、後半の差が大きく出て、
合計が620のプラスになった。
ハルカ
心の声
相場が逆に動いていたら、
マイナスになっていたかもしれない。
毎期「出る」のに、毎期同じ数字ではないはずだ。
ハルカ
前期の「端数」も、金額は違ったんですか。
大野部長
違ったよ。
毎期、違う金額を、毎期同じ名前で合わせていた。
……数字が違うのに名前が同じなのを、
おかしいと思わなかった。
ハルカ
心の声
同じ荷物に、二つのレート。
だから、合わない月と、合わない向きが出る。
3

昼どちらのレートに合わせるか

月別の差どちらのレートに合わせるか親会社の186,000? 子会社の185,380?土曜の昼は、コンビニのおにぎり。
正午。二人とも、コンビニのおにぎりを机で食べた。画面には、月ごとの表が開いたままだった。
ハルカ
差がレートから来ることは、分かりました。
でも、どちらのレートが正しいんでしょう。
大野部長
どちらも、間違ってはいないよ。
子会社の損益を期中平均で円にするのは、原則どおりだ。
ハルカ
……学習室で、図で見せてもらったことがあります。
親会社との取引は、親会社が使ったレートで換算する、って。
大野部長
そう。
親会社との取引の収益と費用は、
親会社が換算に使ったレートで円にする。
そこで出る差は、為替差損益にする。
ハルカ
じゃあ、子会社の仕入のうち、親会社から買った分は、
186,000に合わせるんですね。
ハルカ
子会社の帳簿を、直してもらうんですか。
火曜は、誰の帳簿が違うかで、直す場所を決めました。
大野部長
いい質問だね。
子会社のドルの帳簿は、何も間違っていない。
1,240千ドルの仕入は、そのとおりだ。
大野部長
違っているのは、円にするときのレートの選び方だ。
だから直すのは、連結の側。
換算の作業だね。
ハルカ
心の声
誰の帳簿も間違っていない差。
……火曜の問いを当てはめると、
「どちらの帳簿も方針どおり」の方だ。
ハルカ
どうして、親会社のレートに合わせるんでしょう。
大野部長
親会社の売上は、もう親会社のレートで円になっている。
グループの中の同じ取引は、同じ金額で消したいからね。
大野部長
消したあとに残る差は、
取引のあいだに為替が動いたことで出た差だ。
だから、為替差損益に置く。
追加の覚書・20店分20件受領
大野部長
消去すると、売上高も売上原価も186,000で、
ぴったり消える。
残った620は、為替差損益へ行く。
📗 消去仕訳 E7 ── 消し残りの620が0になる中間連結精算表_2026年9月期.xlsx
シート:消去仕訳(部長の形)
ABCDE
3仕訳科目これまで修正後メモ
4E7売上高(親会社の輸出)△186,000△186,000親会社の社内レート
5E7売上原価(子会社の仕入)△185,380△186,000親会社のレートに合わせる
6売上高と売上原価の消し残り(=−C4+C5)6200残る620は為替差損益へ
単位:千円(架空)。子会社の仕入を親会社の換算額186,000に合わせると、売上高と売上原価は同じ金額で消える。これまでは消し残りの620を「調」の2行目で売上原価から引いていた。
ハルカ
今は、その620を売上原価で合わせていますよね。
大野部長
「最初に一度だけ合わなくて、
それから同じ直し方を続けている」。
月曜に、私がそう言った。
その最初が、子会社を立ち上げた年だ。
大野部長
換算シートを作ったとき、
親会社との取引の行を分けなかった。
だから毎期、差が出て、毎期、私が売上原価で合わせた。
ハルカ
心の声
部長は、また自分の手に行き着いた。
昨日は前々期、今日は立ち上げの年。
ハルカ
利益の合計は、変わらないんですよね。
それなら、今のままでも……。
大野部長
合計は変わらない。
でも、どの段の利益かが変わる。
📗 620が入る行を、連結損益計算書の形で比べる比較_620の置き場所.xlsx(ハルカ作成)
シート:損益の比較(B=売上原価で合わせる/C=為替差損益にする/D=C−B)
ABCD
3科目(620に関わる増減だけ)これまでこれから差
4売上高000
5 売上原価△6200+620
6売上総利益+6200△620
7 販売費及び一般管理費000
8営業利益+6200△620
9 営業外収益(為替差益)0+620+620
10経常利益+620+620変わらない
11税金等調整前当期純利益+620+620変わらない
単位:千円(架空)。620に関わる増減だけを取り出した形で、どちらの列も620以外の数字は同じ。売上原価の△620は「原価が620少ない」こと(その分、利益が多く出る)。営業利益は620少なくなり、為替差益が620増える。経常利益・税金等調整前当期純利益は変わらない。
大野部長
売上原価で合わせると、営業利益が620多く出る。
為替差損益にすると、営業利益は620少なく、
営業外に620の益が出る。
ハルカ
当期純利益は同じで、営業利益だけが違う。
大野部長
読む人にとっては、別の数字だよ。
営業利益は、本業で稼いだ額として読まれるからね。
4

午後決めること、決めないこと

10月24日(土) 620決める① 今期の中間:620を売上原価から為替差損益へ決める② 前期以前:金額を月曜に出し、事前相談で主査に決める③ 換算シートに「親会社との取引」の行(第3四半期から)決めない④ 9月末在庫のうち親会社から仕入れた分の換算決めない⑤ 債権債務の換算④⑤はハルカの字決めることを三つ。決めないことを二つ。
午後2時。部長はホワイトボードに、今日決めることを三つ書いた。ハルカはその下に、決めないことを二つ書き足した。
大野部長
一つ目。
今期の中間は、まだ確定していない。
620は、売上原価から為替差損益へ移そう。
ハルカ
精算表の形は、中間の途中では変えないんでしたよね。
大野部長
列は変えない。
行の中身を正しくするだけだ。
「調」の2行目は「端数」から外して、
消去と換算の修正の行に置き換えよう。
ハルカ
精算表では、三つを一緒に動かすことになりますね。
ハルカ
①「調」の2行目、売上原価△620を取り消す。
②内部取引の消去の売上原価を、
△185,380から△186,000にする。
③換算の修正で、売上原価620/為替差損益620。
大野部長
そう、三つで一組だ。
①だけ、③だけを動かすと、620を二度入れたり、
消し忘れたりする。
📗 三つで一組 ── 売上原価への調整(方針・反映は来週)連結仕訳_中間_方針.xlsx(ハルカ作成)
シート:方針(10月24日)
ABCD
3売上原価への調整これまで修正後変化
4① 「調」2行目(為替換算の端数)△6200取消し
5② 内部取引の消去(E7)△185,380△186,000変更
6③ 換算の修正(相手は為替差損益620)0620新しく計上
7合計(=SUM)△186,000△185,380620増える
単位:千円(架空)。③は 借方 売上原価 620 / 貸方 為替差損益(為替差益)620。①だけ、③だけを動かすと、620を二重に入れたり消し忘れたりする。営業利益は620減り、税引前の利益・当期純利益は変わらない。正式な反映は来週の中間連結の確定のとき。
ハルカ
写しのほうでは、
「為替換算(暫定・未照合)」に置いてあります。
「照合済み」に直していいですか。
大野部長
照合したのは、ハルカさんだ。
ただ、書き方は正確にしよう。
確かめたのは、取引高の差620の原因までだね。
ハルカ
「取引高の換算差620:原因照合済み/関連する在庫・債権債務は別途確認」。
こう書きます。
ハルカ
心の声
「分類できた」と「確かめられた」は、別のこと。
そして、「確かめられた」にも範囲がある。
大野部長
二つ目。
前期まで、同じ直し方を続けてきた。
前期の金額は月曜に出して、来週の事前相談で、
850と一緒に主査に伝えよう。
ハルカ
利益の合計が変わらなくても、ですか。
大野部長
営業利益の数字が違っていた。
それが小さいかどうかを決めるのは、私一人じゃない。
昨日と同じだよ。
ハルカ
……部長。
今週、二つ目ですね。
部長が昔決めた直し方を、主査に話すのは。
大野部長
そうだね。
昨日は850、今日は620。
どちらも、私が一人で合わせてきた数字だ。
ハルカ
つらくないですか。
大野部長
つらいよ。
でも、一人で持ったまま来年を迎えるほうが、
もっとつらかったと思う。
ハルカ
心の声
部長は、笑わなかった。
でも、声は昨日より落ち着いていた。
大野部長
三つ目。
子会社の換算シートに、親会社との取引の行を足してもらう。
現地の担当者が、自分で分けられる形にしたい。
ハルカ
第3四半期から、ですか。
大野部長
そうしよう。
依頼は来週、私から出す。
仕組みは、
現地の人が自分で回せる形でないと続かないからね。
ハルカ
私のほうは、決めないことを二つ書きました。
ハルカ
子会社の9月末の在庫のうち、
親会社から仕入れた分の換算と、債権債務の換算です。
今日は、触りません。
大野部長
そうだね。
精算表では、
親会社からの仕入をそのまま売上原価として消しているけど、
9月末に売れ残った分は在庫にある。
大野部長
在庫に残った分は、未実現利益の計算ともつながる。
今日の一行に混ぜると、また分からなくなる。
ハルカ
来週以降、別に確かめます。
照合メモには、
「確かめていないこと」として書いておきます。
ハルカ
それと、期中平均の149.50円をどう出したかも、
まだ確かめていません。
その算定の根拠も、メモに残します。
大野部長
お願い。
平均の出し方が違えば、620も動くからね。
大野部長
……月曜の質問がなかったら、
この行は今年も「端数」のままだった。
ハルカ
でも、私の予想は外れました。
大野部長
外れた予想を、外れたと書ける人がいると、
表は正しくなるんだよ。
ハルカ
心の声
外れた予想を、外れたと書く。
照合メモの一行目に、そう書こう。
結び

照合メモ端数から、名前のある行へ

照合メモ 第0版(10月24日)月曜の見立て「丸め方を決めれば不要?」は、外れ差620=社内レート(148〜151)と期中平均(149.50)の差方針:「調」2行目を取消し → 消去の変更と換算の修正(反映は来週)11〜13行目(6・4・9)は、端数のまま原因照合済みは取引高の差620まで。在庫・債権債務・149.50の算定は別途作成:ハルカ / 確認:大野端数と呼んでいた数字には、二つのレートという理由があった。

午後5時半。
ハルカは照合メモの第0版を、部長に送った。
部長は画面で二度読み、確認の欄に自分の名前を入れた。

精算表の「調」の2行目を取り消し、消去と換算の修正に置き換える方針が決まった。
正式な反映は、来週の中間連結の確定のときに行う。
11行目から13行目の三つの丸めは、そのまま「端数」に残る。

フロアの照明を消すとき、部長は「明日は休もう。
私も休む」と言った。

月曜:前期の金額(売上原価で合わせた額)を出す/事前相談の説明事項に1行(620の前期以前の分)/換算シートの見直しを依頼(海外販売子会社・第3四半期から)

端数と呼んでいた数字には、二つのレートという理由があった。

次の話へ持ち越したこと
  • 「調」の2行目 620 ── 端数ではなく、親会社の出荷時の社内レート(148〜151円)と子会社の期中平均(149.50円)の差。今期の中間は、①「調」の2行目(売上原価△620)を取消し ②内部取引の消去の売上原価を△185,380から△186,000へ ③換算の修正(売上原価620/為替差損益620)の三つを一組で。売上原価は620増え、営業利益が620少なくなる。当期純利益は変わらない。中間の確定(来週)で反映
  • 前期以前も同じ直し方(売上原価で合わせる)を続けてきた ── 前期の金額を月曜に出し、来週の事前相談で850と一緒に主査に説明。重要性の判断を一人で決めない
  • 海外販売子会社の換算シートに「親会社との取引」の行を足す依頼 ── 来週、部長から。第3四半期から
  • 確かめていないこと ── 子会社の9月末在庫のうち親会社から仕入れた分の換算(未実現利益の計算とつながる)と、債権債務の換算。来週以降
  • 写しの「為替換算(暫定・未照合)」は「取引高の換算差620:原因照合済み/関連する在庫・債権債務は別途確認」に(ハルカ)
  • 中間連結の確定・監査法人との事前相談・物流の再送(月曜)・海外販売子会社の860の返事 ── 来週
第16話 おわり次の話:第17話(近日)
学び

この話の、二人の反省と学び

ハルカの反省と学び
1外れた予想を、外れたと書く
月曜の「丸め方を決めれば不要?」は外れた。外れたと照合メモに書いておけば、次に同じ行を見る人が、同じ見立てで迷わない。
2名前が同じでも、桁と向きが違えば別の数字
6・4・9(千円)と620(千円)は、同じ「端数」の名前で並んでいた。月ごとに並べて桁と向きを見ると、丸めかどうかを疑う手掛かりになる。最後は原資料と照らして確かめる。
3同じ取引に、二つのレート
親会社の売上と子会社の仕入は、同じ荷物を別のレートで円にしていた。どちらのレートに合わせるかが決まると、差の行き先も決まる。
大野部長の反省と学び
1「端数」と名付けた行は、誰も開けない
名前が理由の代わりになり、子会社を立ち上げた年から毎期、同じ直し方を続けた。名前は、確かめたあとに付ける。
2合計が同じでも、段が違えば別の数字
売上原価で合わせても、為替差損益にしても、当期純利益は同じ。でも営業利益は620違い、読む人には別の数字になる。前期以前の分も、一人で小さいと決めない。
3作った人が書き忘れた行は、現地では足せない
換算シートに親会社との取引の行がなかったのは、作った自分の書き忘れだった。現地の担当者が自分で分けられる形にして、返す。
PART 2物語に登場した社内資料(海外販売子会社との内部取引 換算差の照合メモ 第0版)
付録

海外販売子会社との内部取引 換算差の照合メモ 第0版 全文土曜の午後、ハルカが書いて部長が確認したメモ

この物語の会社(架空)で、中間連結の精算表の「調」の列に「為替換算の端数」として毎期残っていた差620千円を、ハルカが出荷台帳と換算シートで照合したメモです。端数だと思っていた差が、二つの換算レートの違いだったことと、今期の中間の処理の方針を記録しています。実在の会社の文書ではありません。金額・レート・月別の出荷は架空です。ひな形として使うときは、自社の換算の方法と連結パッケージの形に合わせてください。

海外販売子会社との内部取引 換算差の照合メモ 第0版

作成経理財務部 ハルカ(2026年10月24日・土曜出勤)確認経理財務部長 大野(同日)状態第0版・作成済み・部長確認済み(中間連結の確定と、監査法人との事前相談の前)。連結への反映は中間の確定に合わせて行う取扱い部内
⚠ このメモは、当社グループでの照合の結果と処理の方針を書いたものです。会計基準の解説ではありません。前期以前の扱い(表示の違いの重要性)と、期末在庫・債権債務の換算は、このメモでは決めていません。前期以前の扱いは、監査法人との事前相談で説明したうえで判断します。

1 照合の範囲

  • 対象:親会社 → 海外販売子会社のドル建ての輸出(2026年4月〜9月の6か月)
  • 比べたもの:親会社の出荷台帳(ドル・社内レート・円)と、子会社の連結パッケージの換算シート(仕入のドル・期中平均・円)
  • ドルの合計:親会社の出荷 1,240千ドル=子会社の仕入 1,240千ドル(一致。9月の船便の未着分は「調」の5行目で別に補正済み)

2 月別の照合(2026年4月〜9月)

月出荷(千ドル)親会社の社内レート(円)親会社の売上(千円)子会社の仕入(期中平均149.50・千円)差(千円)
4月20014829,60029,900△300
5月21014931,29031,395△105
6月19015128,69028,405+285
7月22015033,00032,890+110
8月20015130,20029,900+300
9月22015133,22032,890+330
合計1,240──186,000185,380+620

3 差の原因

  • ドルの合計は一致しているので、差は換算のレートの違いから来ている
  • 親会社は、出荷した月の社内レート(財務の担当が前月末の実際の相場をもとに月初に一本ずつ決める。148〜151円)で売上を円にしている
  • 子会社は、6か月の仕入をまとめて期中平均 149.50円で円にしている。換算シートに「親会社との取引」を分ける行はない(子会社の立ち上げ時の形のまま)
  • 月別の差は△300〜+330千円(△30万円〜+33万円)で、向きも変わる。「調」の11〜13行目(6・4・9千円。明細の端数の積み上げと確認済み)とは桁が違う。丸めではない
  • 10月19日のメモ「丸め方を決めれば不要?」(ハルカ)は外れ。丸め方を決めても、この差はなくならない

4 今期の中間の処理(部長確認済み)

  • 基準の扱い(当社グループもこれに従う):在外子会社の収益・費用は原則として期中平均で換算するが、親会社との取引による収益・費用は、親会社が換算に用いる為替相場で換算し、生じた差額は当期の為替差損益とする
  • 精算表で動かすのは次の三つで一組(どれか一つだけを動かすと、620を二重に入れたり消し忘れたりする)
  • ① 「調」の2行目(売上原価 △620・「為替換算の端数」)を取消し
  • ② 内部取引の消去(E7)の売上原価を △185,380 → △186,000 に変更(売上高 186,000 / 売上原価 186,000。差は残らない)
  • ③ 換算の修正:借方 売上原価 620 / 貸方 為替差損益(為替差益)620(子会社の親会社からの仕入 185,380 を、親会社の換算額 186,000 に合わせる)
  • 売上原価への影響の合計:従来 △186,000(△185,380+△620)→ 修正後 △185,380(△186,000+620)。売上原価は620増える。精算表の列は変えない
  • 影響:営業利益 △620千円、営業外収益(為替差益)+620千円、税引前の利益・当期純利益への影響なし
  • 写し(第0版)の「為替換算(暫定・未照合)」は「取引高の換算差620:原因照合済み/関連する在庫・債権債務は別途確認」とする
  • この精算表のモデルでは、子会社の親会社からの仕入をそのまま売上原価として消去している(簡略化)。9月末の在庫に残った分の売上原価と棚卸資産への影響は、7の①で別途確かめる

5 前期以前の扱い(相談事項)

  • 子会社の立ち上げの年から、毎期同じ直し方(差を売上原価で合わせる)を続けてきた
  • 前期の金額は10月26日(月)に集計する。当期純利益への影響はない見込みだが、営業利益と営業外の表示が違っていた
  • 重要性の判断は経理財務部だけで決めず、来週の監査法人との事前相談で、前々期からの二重計上(850千円)と合わせて説明し、相談する

6 換算シートの見直し(依頼予定)

  • 海外販売子会社の換算シートに「親会社との取引」の行を足し、ドルの金額と親会社の換算額(円)を子会社の担当者が自分で分けて書ける形にする
  • 依頼は来週、経理財務部長から。適用は第3四半期の連結パッケージから
  • 親会社の社内レートの表(月ごと)を、毎月の出荷台帳と一緒に子会社へ送る

7 確かめていないこと

  • ① 子会社の9月末在庫のうち、親会社から仕入れた分の換算(未実現利益の計算とつながる)
  • ② 債権債務の換算(親会社の売掛金と子会社の買掛金)
  • ③ 期中平均 149.50円の算定方法(月次の相場の単純平均か、取引量で重みを付けるか)の確認
変更履歴
第0版(2026年10月24日):「調」の2行目「為替換算の端数」620千円を、出荷台帳と換算シートで月別に照合。差は換算のレートの違いと判明。今期の中間の処理の方針を部長が確認。前期以前の扱いは事前相談の前
PART 3学ぶ世界へ・前後の話
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この話に出てきた知識・前後の話

この話に出てきた知識(学ぶ世界へ)
経理財務部の物語|第16話|2026年10月24日(土)
前の話:第15話(10月23日)|置き場のない数字 / 次の話:第17話(近日) / 記録ページ(年表・会社のいま・話数一覧) / ハルカの学習ノート

この物語は、上場企業の経理財務部の実務をモデルにしたフィクションです。登場する会社・人物・団体は架空のもので、特定の監査法人・企業・製品の手続や見解を描くものではありません。会計・税務の記述は公認会計士・税理士が監修しています。製品名・サービス名は本文に出てきません。数字はすべて架空です。

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この記事を書いた人

TaxJudge編集部|公認会計士・税理士(実務25年)による企画・監修。会計基準・税法・裁決・有価証券報告書などの一次情報をもとに、検索できるデータベースと計算・判定・文書作成ツールを制作しています。