舞台の会社について(開く)
🎬 動画で見る第27話「紙に戻すか続けるか、止まったのは画面の言葉」
この話を、声と絵で見られる動画です。クリックすると再生が始まります(YouTubeで開く)
朝一つだけ、の一行
2026年11月4日、水曜。
祝日明けの朝8時45分。
部長の机の上には、月曜にハルカが作った引継ぎ確認表と、白紙の一枚が並んでいた。
ハルカが、少し早めに席に来た。
部長、一つだけ、お伝えしたいことがあります。
聞かせて。
横で見ていました。
最初の画面で、止まりました。
「令和9年分 扶養控除等申告書」という言葉のところでした。
何を聞かれているのか、分からなかったそうです。
紙に戻しても、続けても、入口で止まる人はいると思います。
だから、入口で止まる人がいる前提で、
出口の日程を組んでください。
決めるのは、部長なので。
一つだけ、と言って、本当に一つだけ置いていった。
月曜に私がしたのと、同じやり方で。
昼に、一人にだけ話を聞く。
その前に、ハルカさんの一行を聞けてよかった。
9時。ハルカと2年目の部員は、会議室で読み合わせを再開した。月曜の一日、休んだ分だった。
昼二つの会社で起きたこと
お昼にすみません。
一つだけ、伺いたいことがあって。
どうぞ。
一つだけ、というときの大野さんは、
もう半分決めていることが多いですよね。
年末調整のクラウドの導入が、
年末調整に間に合わなかった会社で、
何が起きたのかを知りたいんです。
社名は言えませんが。
途中で紙に戻した会社です。
電子で出した人と紙で出した人が混ざって、
誰が出していないのかが、
12月の半ばまで分かりませんでした。
もう一つは、導入は間に合ったのに、最初の週に、
入力を始めた人の三割が途中で閉じてしまった会社です。
人事の人には当たり前の、制度の言葉です。
家族が、申告書の名前のところで止まったと。
ただ、入力する人の言葉ではないんですよね。
ただ、どちらを選んでも、入口で止まる人は出ます。
止まる人の数を、
どこで数えるかは決めておいたほうがいいと思いますよ。
戻す、続ける、の二つで考えていた。
三つ目の問いがあった。
止まる人を、どこで数えるか。
それで、決められそうです。
……決めたら、決めた理由も一緒に残しておいてくださいね。
来年の大野さんのために。
午後続ける。ただし、入口から
午後2時。
部長は、情報システム担当と一緒に社長室に入った。
先週金曜の一枚の続きだった。
保存されていた90日分の記録に、停止した二つのアカウントのログインはなかった。
それより前は、今回の記録では分からない。
ほかの記録で確かめられるかを、情報システムが調べている。
社長は「分からない」の行で、また指を止めた。
それから、「調べ終わったら、また一枚で」と言った。
クラウドは、続ける。
稼働は11月13日、金曜を目標にする。
必要な確認が終わってから動かそう。
でも、来年また同じ判断をすることになる。
それに、途中で戻すと、
誰が出していないか分からなくなった会社があるそうだ。
でも、今から選び直すと、12月の給与に間に合わない。
替えるかどうかは、来年、選ぶ条件を決めてから考えよう。
もう一つの会社では、人が止まったのは画面の言葉だった。
ハルカさんの家族と同じだね。
一つ目、使う人の言葉で案内する。
画面の言葉はサービスで決まっていることが多いから、
案内と手引きで言い換える。
「生活費や学費などを支えている家族はいますか。
別に暮らしている家族も含みます」のように。
控除になるかは、画面の続きで確かめればいい。
変わったところだけ直せばいいようにする。
三つ目、答えによって画面を分けて、
関係のない画面は出てこないようにする。
同じですね。
四つ目、店ごとに店長を相談役にする。
止まる人の受け皿を、先に決めておく。
人事部と情報システムに確かめる。
できないところは、案内の言葉と、店長と、紙で埋める。
私たちはシステムを作る側じゃなくて、
選んだサービスを使う側だからね。
12月25日の給与で精算するには、
データを12月15日に固めたい。
だから、回収の締切は12月4日。
先生に言われたんだ。
止まる人を、どこで数えるかを決めておけって。
私が置いた一行が、部長の紙の一番下に書いてあった。
「入口で止まる人がいる前提で、出口の日程を組む」。
来週、ハルカさんのスマホで、
テスト用のアカウントと架空のデータで入力を試してほしい。
止まった画面の言葉を、集めてくれるかな。
止まった言葉と、言い換えの案を、一覧にします。
代わりに、要件の締切は一週間延ばそう。
出口の要件は、入口が見えてから書いたほうがいい。
夕方止まるのを見た人
午後5時。
部長は、判断メモの第0版を、人事部と情報システム担当に送った。
画面の言葉・去年の内容の表示・画面の分かれ方を、設定でどこまでできるか教えてください。判断メモ(第0版)を添付します。
午後5時半。
情報システム担当から、短い返事が来た。
「区分は、月曜までに案を出します。
画面の質問の言葉は、ほとんどがサービスで決まっていて変えられません。
変えられるのは、お知らせの文と補足の欄です。
一覧にします」。
二人で読む残りは、6件です。
月曜に休んだ分を、確かめておきたかったんだ。
ありがとう。
紙に戻したほうが楽だとは、思いませんでしたか。
今年だけなら、楽だった。
……でも、楽なほうを選ぶと、
来年の私がまた同じ紙の前に座る。
人が止まるのを見た人だけだと思う。
来年の担当が、それを知っているとは限らないからね。
止まるのを見た人が、言葉を直す。
……私は昨日、それを見た。
手帳入口は、使う人の言葉で
午後7時。
部長は手帳を開いた。
日曜の白いページ、月曜の一行の、次のページ。
続けるか、戻すか。
今朝は、その二つしか見えていなかった。
昼に、三つ目の問いが来た。
止まる人を、どこで数えるか。
続けるか戻すかより先に、
入口を、使う人の言葉で作る。
- 年末調整のクラウド ── 続ける。稼働は11月13日(金)の予定(見られる人・計算・紙との照合の確認が済むことが条件)。判断メモ 第0版を人事部・情報システムへ(11月4日)
- 入れてよい情報の区分と見られる人 ── 11月9日(月)までに決める(情報システムが案、部長が人事として決裁)
- 画面の言葉 ── 質問の言葉はほとんどサービスで決まっていて変えられない。変えられるのはお知らせの文と補足の欄(情報システムが一覧に)。ハルカは来週、自分のスマホで(テスト用のアカウント・架空のデータで)入力を試し、止まった言葉の「言い換え表」を作って、案内と入力の手引きに使う
- サービスを替えるか ── 今年は替えない(12月の給与に間に合わない)。来年、選ぶ条件(用語を知らなくても進めるか)を決めてから考える
- 出口の日程 ── 回収の締切12月4日(金)・データ確定12月15日(火)・12月給与12月25日(金)。提出の状況を従業員ごとに一つの一覧で照らし合わせ、止まる人の数を毎週、店ごとに数える
- 年末調整の経理側の要件 ── 締切を一週間延ばす(入口が見えてから)
- ログの確認 ── 社長へ説明(11月4日)。ほかの記録で確かめられるかを情報システムが調査中。調べ終わったら、また一枚で
- 読み合わせ ── 今日3件、二人で読む残り6件(期限11月中旬)。850の見直し・表示区分の経緯は継続
この話の、二人の反省と学び
2026年分 年末調整の進め方(判断メモ) 全文水曜の午後、部長が書き、人事部と情報システム担当に送った第0版
この物語の会社(架空)で、年末調整のクラウドの導入が遅れ、導入担当の退職も決まった週に、経理財務部長が「紙に戻すか、導入を続けるか」を決めて書いたメモです。決めたことだけでなく、比べたものと選ばなかった理由も残しています。実在の会社の文書ではありません。製品名・サービス名は書いていません。ひな形として使うときは、自社の給与日・システムの設定・従業員の構成に合わせてください。
2026年分 年末調整の進め方(判断メモ) 第0版
1 判断
- 年末調整のクラウド(人事部が選んで導入中の市販のサービス)は、続ける。ただし、入口(従業員が入力する画面のまわりの案内・手引き・相談先)を先に設計してから動かす
- 今年はサービスを替えない。替えるかどうかは、来年の選び直しのときに、選ぶ条件(7を参照)を決めてから考える
- 稼働は11月13日(金)の予定(当初11月2日。さらに11日遅らせる)。見られる人の設定・年末調整の計算・紙との照合の確認が済んでいることを条件とする
- 紙での提出を希望する人は、紙で受け付ける(電子と紙の二本立て)。紙で出た分は人事部が入力する
2 比べたもの
| 比べたこと | 紙に戻す(従来の書面と既存の給与の仕組み) | 導入を続ける(入口を設計してから) |
|---|---|---|
| 入力の手伝い | 去年と同じ。記入例と人事部への問い合わせで足りる | 入口の言葉・表示を設計する必要がある。店長を相談役にする |
| 未提出の人の把握 | 紙の束を数える。店ごとの把握は手作業 | 画面で未提出の人が分かる。紙で出た人を入力するまでは、二つの一覧を突き合わせる |
| 12月給与までの期限 | 確実に間に合う | 稼働を11月13日にすれば、回収の締切12月4日・データ確定12月15日で間に合う見込み |
| 人事部の手間(今年) | 去年と同じ | 増える(紙と電子の二本立て・紙の分の入力) |
| 来年 | また同じ判断をすることになる | 今年止まった言葉の言い換えが残り、来年のサービス選びの条件にも使える |
3 比べるときに聞いた話
- 他社の経験(先生への電話で聞いた話・社名は伏せる):①途中で紙に戻した会社では、電子と紙が混ざり、誰が出していないかが12月半ばまで分からなかった。②導入が間に合った会社でも、最初の週に入力を始めた人の三割が途中で閉じた。止まった画面のほとんどは、制度の言葉だった
- どちらを選んでも、入口で止まる人は出る。だから、止まる人をどこで数えるかを先に決める(5を参照)
4 入口の設計(五つ)
| No | 入口の設計 | ねらい | だれが確かめるか |
|---|---|---|---|
| 1 | 使う人の言葉で案内する。画面の質問の言葉はサービスで決まっていて変えられないことが多いので、お知らせの文・補足の欄・入力の手引きで言い換える(例:「扶養する人」→「生活費や学費などを支えているご家族はいますか。別居している方も含みます。控除の対象になるかは、続く質問で確認します」) | 制度の言葉を知らなくても、何を聞かれているかが分かる | 情報システム(変えられる範囲)・ハルカ(言い換え表) |
| 2 | 去年の内容を初めから表示し、変わったところだけ直せばよいようにする | 去年の控えを横に並べなくても済む | 人事部・情報システム |
| 3 | 答えによって画面を分け、関係のない画面は出さない | 自分に関係のない欄で止まらない | 情報システム |
| 4 | 店ごとに店長を相談役にする(操作の案内だけをする。入力の代わりはせず、扶養や所得など申告の中身には立ち入らない。どの画面で止まったかを聞いて人事部へつなぐ) | その場で聞ける人がいる | 人事部(店長への説明) |
| 5 | 紙での提出を希望する人は、紙で出してよい | 入口で止まった人の受け皿を先に決めておく | 人事部 |
5 日程(出口から逆算)
| 日付 | すること |
|---|---|
| 11月9日(月) | 入れてよい情報の区分と、見られる人を決める(情報システムが案、経理財務部長が人事として決裁) |
| 11月9日〜12日 | ハルカが自分のスマホで、テスト用のアカウントと架空のデータを使って入力を試し、止まった画面の言葉を集めて「言い換え表」を作る。設定で変えられない言葉は、案内文で補う |
| 11月13日(金) | 稼働。従業員と店長に案内を送る |
| 毎週金曜 | クラウドと紙の提出状況を従業員ごとに一つの一覧で照らし合わせ、未着手・入力途中・紙で受付・確認待ち・完了のどれか一つに分ける(二重に数えない・漏らさない)。その一覧から、止まる人の数を店ごとに数える(店長に相談した人は別に記録する) |
| 12月4日(金) | 回収の締切 |
| 12月15日(火) | 年末調整のデータを固める |
| 12月25日(金) | 12月の給与で過不足を精算する |
6 先に決めること
- 入れてよい情報の区分と、見られる人(11月9日まで)── 第22話で情報システムが出した条件。決まるまでは稼働しない
- サービスの設定で変えられる範囲(質問の言葉・お知らせの文・補足の欄・去年の内容の表示・画面の分け方)── 情報システムが一覧にする
- 店長への説明のしかた ── 人事部
- 令和8年12月1日に施行される税制改正(基礎控除・給与所得控除・扶養親族などの所得要件)に合わせて、2026年分の年末調整の計算ができることを稼働前に確かめる ── 人事部・情報システム
- 2026年分の年末調整の書類と、来年分(令和9年分)の扶養控除等申告書の回収を分けて管理する ── 人事部
- 年末調整の経理側の要件(12月給与の精算・源泉税の納付・源泉徴収票)── ハルカ。締切を一週間延ばす(入口が見えてから書く)
7 選ばなかった案と理由
- 紙に戻す:今年は確実に回る。ただし、来年また同じ判断をすることになり、今年止まった人の言葉が残らない。途中で戻すと、未提出の人の把握がかえって難しくなった例がある
- 別のサービスに替える:今から選び直すと、12月の給与に間に合わない。来年、選ぶ条件に「用語を知らなくても進めるか」「去年の内容を表示できるか」「お知らせの文を変えられるか」を入れて考える
- 予定どおり急いで稼働する:入口の言葉を直さないまま始めると、最初の週に止まる人が多く出る。入れてよい情報の区分も決まっていない
この話に出てきた知識・前後の話
- 年末調整の流れ(申告書の回収・12月給与での精算・源泉徴収票) ── ハルカの学習ノート ── 年末調整ラボ 基礎編
- 扶養控除等(異動)申告書・保険料控除申告書の書き方 ── ハルカの学習ノート ── 年末調整 書類の書き方ラボ
- クラウドに入れていい情報と、見られる人の決め方 ── AI・クラウド活用ガイドラインラボ
- 入口で止まる人 ── 前日の話 ── 経理財務部の物語 第26話「スマホ入力の画面の前で、母の指が止まった」
前の話:第26話(2026年11月3日)|【年末調整】スマホ入力の画面の前で、母の指が止まった / 次の話:第28話(2026年11月5日)|【人的資本】連結を回せる人は1人。去年の施策一覧にあった一行 / 記録ページ(年表・会社のいま・話数一覧) / ハルカの学習ノート
この物語は、上場企業の経理財務部の実務をモデルにしたフィクションです。登場する会社・人物・団体は架空のもので、特定の監査法人・企業・製品の手続や見解を描くものではありません。会計・税務の記述は公認会計士・税理士が監修しています。製品名・サービス名は本文に出てきません。数字・日程はすべて架空です。
