棚卸資産と売上原価 ── 期末の評価で所得が変わる
売上原価は「期首+仕入−期末」。期末の棚卸資産をいくらと評価するかで、売上原価も所得も変わります。取得価額・評価方法(原価法・低価法)・届出と、届け出なかったときの法定評価方法を学ぶ回です。
📘 用語表と、この講座の読み方(クリックで開く)
| 棚卸資産 | 商品・製品・半製品・仕掛品・原材料など、棚卸しをすべき資産。有価証券は含まない |
| 売上原価 | 期首の棚卸高+当期の仕入高−期末の棚卸高。その事業年度の収益に対応する原価 |
| 取得価額 | 購入の代価+引取運賃・荷役費・運送保険料・購入手数料・関税など、購入のために要した費用など |
| 原価法 | 取得価額で評価する方法。個別法・先入先出法・総平均法・移動平均法・最終仕入原価法・売価還元法の6つ |
| 低価法 | 原価法で出した額と、期末の時価の、低い方で評価する方法 |
| 法定評価方法 | 評価方法を届け出なかったときなどに使う方法。最終仕入原価法による原価法 |
| 法令と数字 | この講座は令和8年4月1日〜令和9年3月31日の事業年度に適用される法令で解説しています。数字は改正で変わることがあり、改正のたびに差し替えます |
はじめに:今日のゴール
売上原価=期首+仕入−期末なので、期末の棚卸資産の評価額が売上原価と所得を決める。取得価額には付随費用を含め、評価は原価法(6つ)か低価法から選んで届け出る。届け出なければ最終仕入原価法――これを説明できるようになること。
※ 特別な評価方法(税務署長の承認を受けるもの)、売価還元法・移動平均法のくわしい計算、製造業の原価計算、評価損(第13回で紹介)は扱いません。
図で見る:棚卸資産と売上原価(5ステップ)
STEP1〜5の会話をまとめて読む(文字だけ)
STEP 1 売上原価の式
期首 10,000円 + 仕入 58,000円 − 期末 29,400円 = 売上原価 38,600円
STEP 2 棚卸資産と取得価額
取得価額 = 購入の代価 + 購入のために要した費用(引取運賃・荷役費・手数料・関税など)
STEP 3 評価方法
先入先出法(期末120個)→ 期末の評価額 29,400円
STEP 4 期末の評価と所得
期末 ↑ → 売上原価 ↓ → 所得 ↑
STEP 5 選定・届出・法定評価方法
評価方法を届け出なければ 最終仕入原価法(法定評価方法)
さくら食品で確かめる
※ さくら食品は評価方法を届け出ていないので、法定評価方法の最終仕入原価法で評価しています。会計も同じ方法で計算しているので、別表四に足す行はありません。
やってみよう:期末評価と売上原価(5問)
期首・仕入・期末から、売上原価や評価額を判断しましょう。
よくある間違い
① 当期に仕入れた額が、そのまま当期の売上原価
売上原価は期首+当期の仕入−期末です。売れ残った期末の在庫の分は、当期の原価ではなく、翌期に繰り越します。② 取得価額は、仕入先に払った代金だけ
引取運賃・荷役費・運送保険料・購入手数料・関税など、購入のために要した費用も取得価額に含めます。③ 評価方法は、毎年好きな方法を選べる
評価方法は選んで届け出て、続けて使います。変えるときは、変えたい事業年度が始まる日の前日までに変更の承認申請が要ります。届け出なければ最終仕入原価法です。ミニテスト(3問)
おわりに ── 今日のふりかえり
- 売上原価=期首の棚卸高+当期の仕入高−期末の棚卸高。期末の評価額が売上原価と所得を決める。
- 期末を高く評価すると売上原価は小さくなり、所得は大きくなる(逆も同じ)。
- 取得価額は、購入の代価に引取運賃・荷役費・購入手数料・関税など、購入のために要した費用を加える。
- 評価方法は原価法(個別法・先入先出法・総平均法・移動平均法・最終仕入原価法・売価還元法)と低価法。事業の種類・資産の区分ごとに選んで届け出る。
- 届け出なかったときは最終仕入原価法(法定評価方法)。変更は、変えたい事業年度の開始の日の前日までに承認申請。
参照条文・出典
参照条文:法人税法2条20号(棚卸資産)、22条3項1号(売上原価)、29条(棚卸資産の売上原価等の計算及びその評価の方法)、法人税法施行令10条(棚卸資産の範囲)、28条(評価の方法)、28条の2(特別な評価の方法)、29条(評価の方法の選定)、30条(評価の方法の変更)、31条(法定評価方法)、32条(取得価額)、法人税基本通達5-2-9〜5-2-13、5-4-1
参考資料:税務大学校『法人税法(基礎編)令和8年度版』第5章第1節(pp.45〜51)(国税庁ホームページ「税務大学校講本」で公開)
本教材は、上記講本を参考に、TaxJudgeが独自に構成・解説したものです。講本の基準日は令和8年1月1日で、その後の令和8年度税制改正(少額減価償却資産の特例の見直しなど)と防衛特別法人税(令和8年4月1日以後に開始する事業年度から)は国税庁の資料で反映しています。
本教材は国税庁による監修・保証を受けたものではありません。令和8年4月1日から令和9年3月31日までの事業年度を共通事例とし、各制度の適用時期に応じた法令に基づく学習用の解説・試算です。個別の判断は税理士等にご確認ください。さくら食品などの数字は学習用に設定した仮定の数値です。