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第12回 貸倒損失と貸倒引当金|法人税入門講座

法人税 入門講座|第12回(v5)

貸倒損失と貸倒引当金 ── 「破産した」だけでは損金にならない

取引先が倒産しても、売掛金をすぐに損金にできるとは限りません。貸倒損失の3つの型(法律上・事実上・形式上)と、まだ貸倒れとは言えない債権に使う貸倒引当金(個別評価・一括評価)を整理し、さくら食品の別表四に貸倒引当金の行を書く回です。

所要 15分前提:第4回(損金経理・留保)・第5回(貸倒れの可能性は収益の額で考えない)条文:法人税法22条3項・52条、施行令96条、租税特別措置法57条の9令和8年4月1日〜令和9年3月31日の事業年度で解説
第1章 全体像1234
第2章 益金567
第3章 損金8910111213
第4章 税額と申告141516
第5章 グループと総合演習1718
📘 用語表と、この講座の読み方(クリックで開く)
貸倒損失売掛金や貸付金などが回収できなくなったときの損失。法律上・事実上・形式上の3つの型で判定する
法律上の貸倒れ更生計画の認可、再生計画の認可、債権者集会の協議決定などで債権が切り捨てられたとき。損金経理しなくても損金
事実上の貸倒れ相手の資産状況・支払能力から、全額が回収できないことが明らかなとき。担保を処分した後で、損金経理が必要
形式上の貸倒れ相手の支払能力などが悪くなって取引を停止し、取引の停止・最後の弁済などのうち最も遅い時から1年以上たった売掛債権(担保がないもの。貸付金は対象外)など。備忘価額を残して損金経理する
貸倒引当金期末の金銭債権について、将来の貸倒れに備えて計上する引当金。中小法人等・銀行・保険会社など一定の法人が、繰入限度額まで損金にできる
個別評価金銭債権破産手続開始の申立てなど、債務者ごとに回収不能の事由がある債権
一括評価金銭債権個別評価以外の売掛金・貸付金など。法定繰入率(中小法人)か実績繰入率で計算する
法令と数字この講座は令和8年4月1日〜令和9年3月31日の事業年度に適用される法令で解説しています。数字は改正で変わることがあり、改正のたびに差し替えます

はじめに:今日のゴール

🎯
今日のゴール
貸倒損失は、法律上・事実上・形式上のどれかに当たるときだけ損金。「破産手続開始の申立て」だけでは貸倒損失にならず、個別評価の貸倒引当金(申立てがあった債権は、担保などを除いた額の50%まで)で備える。中小法人は、残りの債権に一括評価の貸倒引当金(法定繰入率)も使え、繰入限度額を超えた部分は加算(留保)――これを説明できるようになること。
シンプルな例:R社の貸倒引当金の繰入額130万円
→
個別評価と一括評価の限度額計算
→
繰入限度超過額加算・留保
さくら食品:取引先Aは破産手続が終結貸倒損失
→
取引先Bは申立て中個別評価
→
別表四に加算285,000円

※ 長期棚上げ・債務超過による個別評価、実績繰入率の計算、実質的に債権とみられない部分の控除、貸倒れの後の回収(償却債権取立益)は、名前の紹介にとどめます。

ハルカ先生、第11回で税金の行を書きました。今日は貸倒れですね。
先生そうだよ。今日は、回収できない売掛金を、いつ損金にできるかを見るんだ。
ハルカさくら食品にも、回収できない売掛金があるんですか?
先生取引先Aは破産手続が終結して全額が回収できなくなり、取引先Bは期末に申立ての段階なんだ。同じ「破産」でも、扱いが違うよ。
ハルカ段階で扱いが変わるんですね。
先生今日は、貸倒損失と貸倒引当金を、5つのステップで見ていこうか。

図で見る:貸倒損失と貸倒引当金(5ステップ)

先生最初は「シンプルな例」のR社で、5ステップを通してみよう。さくら食品や、自分で入力にも切り替えられるんだ。
ハルカ「自分で入力」で、業種を切り替えられるんですね。
先生業種で法定繰入率が変わるのを、確かめてみようか。
👆下のステップをクリックタップすると、図と会話が切り替わります← →キーでも移動できます
← 図は横にスクロールできます →
① 貸倒損失 ── 法律上・事実上・形式上の3つの型法律上の貸倒れ更生計画・再生計画の認可、債権者集会の協議決定、書面による債務免除などで切捨て→ 損金経理しなくても、切り捨てられた年の損金事実上の貸倒れ相手の資産状況・支払能力から、全額が回収できないことが明らか(担保処分後)→ 全額を貸倒損失として損金経理した年の損金形式上の貸倒れ支払能力の悪化で取引を停止し1年以上たった売掛債権(担保なし。貸付金は対象外)、取立費用の方が多い売掛債権など→ 備忘価額(1円など)を残して損金経理R社の取引先Q:更生計画の認可の決定で、債権の一部が切り捨てられた→ 法律上の貸倒れとして、700,000円が当期の損金(別表四の調整はない)
取引先Q:法律上の貸倒れ → 700,000円 が当期の損金
ハルカ取引先から代金が回収できなくなったら、損金になりますか?
先生貸倒損失として損金になるのは、法律上・事実上・形式上の3つの型のどれかに当たるときなんだ。
🤔 迷いポイント相手の業績が悪くて心配なら、早めに貸倒損失にしていい?
ハルカ危なそうなら、先に損金にしておけると思っていました。
先生業績が悪いだけでは、まだ回収できるかもしれないから、貸倒損失にならないんだ。全額が回収できないことが明らかになって、はじめて事実上の貸倒れだよ。
ハルカR社の取引先Qは、法律上の貸倒れなんですね。
先生そうだよ。切り捨てられた額は、損金経理しなくても損金なんだ。
💡 そうだったのか!貸倒損失は、法律上・事実上・形式上の3つの型。業績が悪いだけでは損金にならない。
STEP1〜5の会話をまとめて読む(文字だけ)

STEP 1 貸倒損失の3つの型

ハルカ取引先から代金が回収できなくなったら、損金になりますか?
先生貸倒損失として損金になるのは、法律上・事実上・形式上の3つの型のどれかに当たるときなんだ。
🤔 迷いポイント相手の業績が悪くて心配なら、早めに貸倒損失にしていい?
ハルカ危なそうなら、先に損金にしておけると思っていました。
先生業績が悪いだけでは、まだ回収できるかもしれないから、貸倒損失にならないんだ。全額が回収できないことが明らかになって、はじめて事実上の貸倒れだよ。
ハルカR社の取引先Qは、法律上の貸倒れなんですね。
先生そうだよ。切り捨てられた額は、損金経理しなくても損金なんだ。
💡 そうだったのか!貸倒損失は、法律上・事実上・形式上の3つの型。業績が悪いだけでは損金にならない。

取引先Q:法律上の貸倒れ → 700,000円 が当期の損金

STEP 2 申立てだけでは貸倒れでない

ハルカ取引先が破産したと聞いたら、すぐに貸倒損失ですか?
先生破産手続には、申立て、開始の決定、配当、終結の段階があるんだ。申立ての段階では、まだいくら回収できるか分からないよ。
🤔 迷いポイント「破産した」と聞いたら、売掛金は全額を貸倒損失にしていい?
ハルカ破産したら、もうお金は戻らないと思っていました。
先生配当で一部が戻ることもあるんだ。申立ての段階では貸倒損失にせず、個別評価の貸倒引当金で備えるよ。
ハルカR社の取引先Pは、まだ申立ての段階なんですね。
先生そうだよ。手続が終結して、回収できないことが明らかになれば、貸倒損失になるんだ。
💡 そうだったのか!破産手続開始の申立てだけでは貸倒損失にならない。個別評価の貸倒引当金(申立てがあった債権は、担保などを除いた額の50%まで)で備える。

取引先Pは期末現在「更生手続開始の申立て」→ 貸倒損失にならない。個別評価の貸倒引当金へ

STEP 3 貸倒引当金を使える会社

ハルカ貸倒引当金は、どの会社でも損金になりますか?
先生貸倒引当金を損金にできるのは、中小法人等や銀行・保険会社などに限られているんだ。
🤔 迷いポイント会計で貸倒引当金を計上すれば、その額がそのまま損金?
ハルカ会計の引当金は、全部費用になると思っていました。
先生損金になるのは、繰入限度額までなんだ。期末の債権を個別評価と一括評価に分けて、それぞれ限度額を計算するよ。
ハルカR社は、取引先Pの債権が個別評価、そのほかが一括評価なんですね。
先生そのとおりだね。R社も資本金1億円以下の中小法人だから、両方を使えるんだ。
💡 そうだったのか!貸倒引当金は中小法人等・銀行・保険会社などだけ。個別評価と一括評価に分けて、繰入限度額まで損金。

貸倒引当金は中小法人等・銀行・保険会社などだけ。個別評価と一括評価に分けて計算

STEP 4 個別評価の繰入限度額

ハルカ申立てがあった取引先の債権は、いくらまで繰り入れられますか?
先生申立てがあった債権は、担保などで回収できる見込みの額を引いて、50%を掛けた額が、個別評価の繰入限度額なんだ。債務超過が続いているときなどは、別の計算になるよ。
🤔 迷いポイント回収できないかもしれないから、債権の全額を繰り入れていい?
ハルカ全部回収できないかもしれないので、全額を引き当てると思っていました。
先生R社は1,000,000円を繰り入れたけど、限度額は800,000円なんだ。超えた200,000円は損金にならないよ。
ハルカ担保がある分は、回収できるから引くんですね。
先生そうだよ。相手からの買掛金のように、相殺できる額も引くんだ。
💡 そうだったのか!申立てがあった債権の個別評価の繰入限度額=(債権−担保などで回収できる見込みの額)×50%。

個別評価の繰入限度額 =(2,000,000円 − 400,000円)× 50% = 800,000円 超過 200,000円

STEP 5 一括評価と別表四

ハルカそのほかの売掛金の貸倒引当金は、どう計算するんですか?
先生中小法人は、期末の債権に法定繰入率を掛けられるんだ。R社は製造業だから1,000分の8で、限度額は240,000円だよ。
🤔 迷いポイント貸倒引当金の超過額は、会社の外に出たから「社外流出」?
ハルカ損金にならないなら、社外流出だと思っていました。
先生引当金の分のお金は、会社の財産として残っているんだ。だから留保で、翌期に戻し入れたときに減算するよ。
ハルカR社は、個別と一括を合わせて260,000円を加算するんですね。
先生そのとおりだね。
💡 そうだったのか!一括評価は期末の債権×法定繰入率(中小法人)。繰入限度超過額は加算(留保)、翌期に戻し入れたとき減算。

一括評価の限度額 240,000円 超過額の合計 260,000円 → 加算(留保)

さくら食品の「育つ別表四」── 貸倒引当金の行を書く

※ 取引先Aの売掛金(破産手続が終結して全額回収不能)は、事実上の貸倒れとして損金経理した貸倒損失なので、別表四の行はありません。前期に繰り入れた貸倒引当金(限度額以内)は当期に戻し入れて益金にしていて、調整はありません。繰入限度超過額は、翌期に戻し入れたときに減算(認容)します。

先生これが、貸倒引当金の行を書いたさくら食品の別表四だよ。
ハルカ黄色の行が、今日書いた繰入限度超過額ですね。
先生加算の理由、留保の区分、所得への影響を、下のカードにまとめておいたんだ。
ハルカ取引先Aの貸倒損失は、別表四に書かないんですね。
先生そのとおりだね。事実上の貸倒れで、会計の損失がそのまま損金になるからなんだ。

やってみよう:貸倒損失になる?(6問)

それぞれの取引先について、当期の貸倒損失として損金になるかを判定しましょう。

ハルカ貸倒損失になるかどうか、練習してみたいです。
先生左の6問で、手続の段階と担保を見ながら判定してみようか。
ハルカ申立てか終結かを、必ず確かめるようにします。
先生その違いが、いちばん大事なところだよ。

よくある間違い

① 取引先が「破産した」と聞いたら、売掛金はすぐ貸倒損失

破産手続開始の申立ての段階では、まだ回収額が分かりません。貸倒損失にはならず、個別評価の貸倒引当金(申立てがあった債権は、担保などを除いた額の50%まで)で備えます。手続が終結して全額が回収できないことが明らかになれば、事実上の貸倒れです。

② 担保があっても、相手が倒れそうなら全額を貸倒損失にできる

事実上の貸倒れは、担保を処分した後でなければ認められません。担保や保証で回収できる見込みがある部分は、貸倒損失にも個別評価の引当金にもなりません。

③ 貸倒引当金は、どの会社でも会計で計上した額が損金

貸倒引当金を損金にできるのは、中小法人等・銀行・保険会社などに限られます。損金になるのは繰入限度額までで、超えた部分は加算(留保)です。
ハルカ①の「破産した」は、段階を確かめないといけないんですね。
先生そうだね。申立ての段階なら、個別評価の貸倒引当金なんだ。
ハルカ②の担保がある債権は、処分してからなんですね。
先生担保で回収できる分は、貸倒れにも引当金にもならないよ。

ミニテスト(3問)

Q1. 取引先が破産手続開始の申立てをした。期末に売掛金をどう扱える?
Q2. 中小法人の一括評価の貸倒引当金の繰入限度額は?
Q3. 貸倒引当金の繰入限度超過額は、別表四でどうする?

おわりに ── 今日のふりかえり

1分まとめ
  1. 貸倒損失は3つの型:法律上(切捨て。損金経理は不要)、事実上(全額回収不能が明らか。担保処分後・損金経理)、形式上(支払能力の悪化などで取引を停止し、停止・最後の弁済などの最も遅い時から1年以上たった、担保のない売掛債権。備忘価額を残す)。
  2. 破産手続開始の申立てだけでは貸倒損失にならない。期末に個別評価の貸倒引当金(申立てがあった債権は、担保などを除いた額の50%まで)を繰り入れられる。
  3. 貸倒引当金を損金にできるのは中小法人等・銀行・保険会社など。個別評価と一括評価に分けて、繰入限度額まで損金。
  4. 中小法人の一括評価は、期末の債権×法定繰入率(卸売・小売業1,000分の10、製造業1,000分の8、その他1,000分の6など)か実績繰入率。
  5. 繰入限度超過額は加算(留保)。翌期に戻し入れて益金にしたとき、減算(認容)する。
先生今日のまとめだよ。貸倒損失は、法律上・事実上・形式上の3つの型のどれかに当たるときだけなんだ。
ハルカ申立てだけでは貸倒れにならず、個別評価の貸倒引当金。残りの債権は法定繰入率で一括評価。超えた分は加算・留保……ですね。
先生そのとおりだよ。1つだけ足すと、貸倒引当金を損金にできるのは、中小法人等や銀行・保険会社などに限られるんだ。
ハルカ取引先の情報は、手続の段階まで確かめます。
先生いい心がけだね。次の第13回では、賞与引当金などの引当金を見ていこうか。

参照条文・出典

参照条文:法人税法22条3項3号(損失の額)・52条(貸倒引当金)、法人税法施行令96条(貸倒引当金勘定への繰入限度額)、租税特別措置法57条の9(中小企業者等の貸倒引当金の特例)、同施行令33条の7、法人税基本通達9-6-1〜9-6-3(貸倒損失)、11-2-3(個別評価金銭債権)

参考資料:税務大学校『法人税法(基礎編)令和8年度版』第6章第5節(p.105)、第7章(pp.117〜124)(国税庁ホームページ「税務大学校講本」で公開)

本教材は、上記講本を参考に、TaxJudgeが独自に構成・解説したものです。講本の基準日は令和8年1月1日で、その後の令和8年度税制改正(少額減価償却資産の特例の見直しなど)と防衛特別法人税(令和8年4月1日以後に開始する事業年度から)は国税庁の資料で反映しています。

本教材は国税庁による監修・保証を受けたものではありません。令和8年4月1日から令和9年3月31日までの事業年度を共通事例とし、各制度の適用時期に応じた法令に基づく学習用の解説・試算です。個別の判断は税理士等にご確認ください。さくら食品などの数字は学習用に設定した仮定の数値です。

ハルカ条文で確かめたいときは、どこを見ればいいですか?
先生貸倒引当金は法人税法52条、繰入限度額は施行令96条なんだ。法人税法ラボ ↗で条文から引けるよ。
ハルカ貸倒損失の3つの型は、どこに載っていますか?
先生法人税基本通達の9-6-1から9-6-3だよ。講本の第6章と第7章にも説明があって、この教材の図はそれを参考にTaxJudgeが独自に作っているんだ。
法人税 入門講座 第12回|taxjudge.com
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