引当金 ── 会計と税務がずれる論点
会計では、将来の支出に備えて引当金を計上します。しかし税法では、まだ債務が確定していない見積りの費用は、原則として損金になりません。賞与引当金の「当期は加算、翌期は減算」の往復と、要件を満たす未払使用人賞与との違いを整理し、評価損と圧縮記帳も紹介します。さくら食品の別表四に2行を書く回です。
📘 用語表と、この講座の読み方(クリックで開く)
| 債務確定基準 | 償却費以外の費用は、期末までに債務が確定したものだけが損金になる、という考え方(22条3項2号) |
| 賞与引当金 | 翌期に払う賞与の見込額を、当期の費用として計上する引当金。税法では損金にならない |
| 認容 | 前期以前に加算した額が、当期に損金になること。別表四で減算する |
| 未払使用人賞与 | 同時期に支給を受けるすべての使用人に、期末までに各人別の支給額を通知し、期末の翌日から1か月以内に払った使用人賞与。当期に損金経理すれば当期の損金(ほかに、就業規則などで決めた支給予定日が来た賞与の扱いもある) |
| 評価損 | 資産の帳簿価額を時価まで下げたときの損失。災害による著しい損傷など特別な事実があるときだけ損金 |
| 圧縮記帳 | 国庫補助金などで取得した資産の帳簿価額を減らし、その分を損金にする方法。課税を将来に繰り延べる |
| 法令と数字 | この講座は令和8年4月1日〜令和9年3月31日の事業年度に適用される法令で解説しています。数字は改正で変わることがあり、改正のたびに差し替えます |
はじめに:今日のゴール
税法では、償却費以外の費用は期末までに債務が確定したものだけが損金。賞与引当金のような見積りは損金にならず、当期に加算(留保)、実際に払った翌期に減算(認容)する。支給額の通知などの要件を満たす未払使用人賞与は当期の損金。評価損と圧縮記帳の位置づけも言えるようになること。
※ 退職給付引当金も同じく損金になりません。評価損と圧縮記帳は、この回では小さな設例1つずつにとどめ、さくら食品の計算には入れません。
図で見る:引当金と、会計・税務のずれ(5ステップ)
STEP1〜5の会話をまとめて読む(文字だけ)
STEP 1 費用は債務確定まで
償却費以外の費用は債務が確定したものだけ損金。見積りの引当金は損金不算入(貸倒引当金を除く)
STEP 2 賞与引当金の往復
当期:加算 1,300,000円(留保) 前期分:減算 1,000,000円(認容・留保)→ 差し引き +300,000円
STEP 3 未払使用人賞与との違い
U社:賞与引当金(見込額) → 当期は損金不算入
STEP 4 評価損
評価損は原則損金不算入。災害による著しい損傷など特別な事実+損金経理なら損金
STEP 5 圧縮記帳と別表四
圧縮記帳:受贈益と同額の圧縮損で課税を繰り延べる。賞与:差し引き +300,000円
さくら食品の「育つ別表四」── 賞与引当金の2行を書く
※ 当期の加算と前期分の減算は、どちらも「留保」です。別表五(一)の賞与引当金の行は、期首の前期分が減り、期末の当期分が増えます(第16回)。
やってみよう:当期の損金になる?(6問)
3月決算の会社です。使用人への賞与と、資産の評価についての処理です。
よくある間違い
① 会計で計上した引当金は、すべて損金
税法で損金になる引当金は、貸倒引当金(中小法人等など。第12回)に限られます。賞与引当金・退職給付引当金などの見積りは、債務が確定していないので損金になりません。② 加算した賞与引当金は、二度と損金にならない
翌期に実際に賞与を払ったとき、その事業年度の損金になります。別表四で減算(認容)するので、2年を通すと、損金になる時期がずれるだけです。③ 「未払賞与」という科目なら、期末に計上すれば損金
未払使用人賞与が損金になるのは、期末までに、同時期に支給を受けるすべての使用人に各人別の支給額を通知し、期末の翌日から1か月以内に払い、当期に損金経理したときなどです(就業規則などで決めた支給予定日が来た賞与の扱いもあります)。要件を満たさなければ、払った事業年度の損金です。ミニテスト(3問)
おわりに ── 今日のふりかえり
- 償却費以外の費用は、期末までに債務が確定したものだけが損金(債務確定基準。22条3項2号)。
- 賞与引当金・退職給付引当金などの見積りは損金にならない。当期は加算(留保)、払った翌期に減算(認容)。
- 未払使用人賞与は、同時期に支給を受けるすべての使用人に各人別の支給額を通知・期末の翌日から1か月以内に支払・当期に損金経理、の3つを満たす場合などに当期の損金(施行令72条の3)。
- 評価損は原則として損金にならない。災害による著しい損傷など特別な事実があるときだけ損金(33条)。
- 圧縮記帳は、補助金などの益金と同じ額の圧縮損を計上して、課税を将来に繰り延べる制度(42条など)。
参照条文・出典
参照条文:法人税法22条3項2号(債務確定基準)、33条(資産の評価損)、42条〜50条(圧縮記帳)、52条(貸倒引当金)、法人税法施行令68条(評価損の特別な事実)、72条の3(使用人賞与の損金算入時期)、法人税基本通達2-2-12(債務の確定の判定)、9-1-1〜9-1-19
参考資料:税務大学校『法人税法(基礎編)令和8年度版』第3章第3節(債務確定基準)、第6章第1節7(未払使用人賞与)、第6章第7節・第8節(評価損・圧縮記帳)(国税庁ホームページ「税務大学校講本」で公開)
本教材は、上記講本を参考に、TaxJudgeが独自に構成・解説したものです。講本の基準日は令和8年1月1日で、その後の令和8年度税制改正(少額減価償却資産の特例の見直しなど)と防衛特別法人税(令和8年4月1日以後に開始する事業年度から)は国税庁の資料で反映しています。
本教材は国税庁による監修・保証を受けたものではありません。令和8年4月1日から令和9年3月31日までの事業年度を共通事例とし、各制度の適用時期に応じた法令に基づく学習用の解説・試算です。個別の判断は税理士等にご確認ください。さくら食品などの数字は学習用に設定した仮定の数値です。