貸倒損失と貸倒引当金 ── 「破産した」だけでは損金にならない
取引先が倒産しても、売掛金をすぐに損金にできるとは限りません。貸倒損失の3つの型(法律上・事実上・形式上)と、まだ貸倒れとは言えない債権に使う貸倒引当金(個別評価・一括評価)を整理し、さくら食品の別表四に貸倒引当金の行を書く回です。
📘 用語表と、この講座の読み方(クリックで開く)
| 貸倒損失 | 売掛金や貸付金などが回収できなくなったときの損失。法律上・事実上・形式上の3つの型で判定する |
| 法律上の貸倒れ | 更生計画の認可、再生計画の認可、債権者集会の協議決定などで債権が切り捨てられたとき。損金経理しなくても損金 |
| 事実上の貸倒れ | 相手の資産状況・支払能力から、全額が回収できないことが明らかなとき。担保を処分した後で、損金経理が必要 |
| 形式上の貸倒れ | 相手の支払能力などが悪くなって取引を停止し、取引の停止・最後の弁済などのうち最も遅い時から1年以上たった売掛債権(担保がないもの。貸付金は対象外)など。備忘価額を残して損金経理する |
| 貸倒引当金 | 期末の金銭債権について、将来の貸倒れに備えて計上する引当金。中小法人等・銀行・保険会社など一定の法人が、繰入限度額まで損金にできる |
| 個別評価金銭債権 | 破産手続開始の申立てなど、債務者ごとに回収不能の事由がある債権 |
| 一括評価金銭債権 | 個別評価以外の売掛金・貸付金など。法定繰入率(中小法人)か実績繰入率で計算する |
| 法令と数字 | この講座は令和8年4月1日〜令和9年3月31日の事業年度に適用される法令で解説しています。数字は改正で変わることがあり、改正のたびに差し替えます |
はじめに:今日のゴール
貸倒損失は、法律上・事実上・形式上のどれかに当たるときだけ損金。「破産手続開始の申立て」だけでは貸倒損失にならず、個別評価の貸倒引当金(申立てがあった債権は、担保などを除いた額の50%まで)で備える。中小法人は、残りの債権に一括評価の貸倒引当金(法定繰入率)も使え、繰入限度額を超えた部分は加算(留保)――これを説明できるようになること。
※ 長期棚上げ・債務超過による個別評価、実績繰入率の計算、実質的に債権とみられない部分の控除、貸倒れの後の回収(償却債権取立益)は、名前の紹介にとどめます。
図で見る:貸倒損失と貸倒引当金(5ステップ)
STEP1〜5の会話をまとめて読む(文字だけ)
STEP 1 貸倒損失の3つの型
取引先Q:法律上の貸倒れ → 700,000円 が当期の損金
STEP 2 申立てだけでは貸倒れでない
取引先Pは期末現在「更生手続開始の申立て」→ 貸倒損失にならない。個別評価の貸倒引当金へ
STEP 3 貸倒引当金を使える会社
貸倒引当金は中小法人等・銀行・保険会社などだけ。個別評価と一括評価に分けて計算
STEP 4 個別評価の繰入限度額
個別評価の繰入限度額 =(2,000,000円 − 400,000円)× 50% = 800,000円 超過 200,000円
STEP 5 一括評価と別表四
一括評価の限度額 240,000円 超過額の合計 260,000円 → 加算(留保)
さくら食品の「育つ別表四」── 貸倒引当金の行を書く
※ 取引先Aの売掛金(破産手続が終結して全額回収不能)は、事実上の貸倒れとして損金経理した貸倒損失なので、別表四の行はありません。前期に繰り入れた貸倒引当金(限度額以内)は当期に戻し入れて益金にしていて、調整はありません。繰入限度超過額は、翌期に戻し入れたときに減算(認容)します。
やってみよう:貸倒損失になる?(6問)
それぞれの取引先について、当期の貸倒損失として損金になるかを判定しましょう。
よくある間違い
① 取引先が「破産した」と聞いたら、売掛金はすぐ貸倒損失
破産手続開始の申立ての段階では、まだ回収額が分かりません。貸倒損失にはならず、個別評価の貸倒引当金(申立てがあった債権は、担保などを除いた額の50%まで)で備えます。手続が終結して全額が回収できないことが明らかになれば、事実上の貸倒れです。② 担保があっても、相手が倒れそうなら全額を貸倒損失にできる
事実上の貸倒れは、担保を処分した後でなければ認められません。担保や保証で回収できる見込みがある部分は、貸倒損失にも個別評価の引当金にもなりません。③ 貸倒引当金は、どの会社でも会計で計上した額が損金
貸倒引当金を損金にできるのは、中小法人等・銀行・保険会社などに限られます。損金になるのは繰入限度額までで、超えた部分は加算(留保)です。ミニテスト(3問)
おわりに ── 今日のふりかえり
- 貸倒損失は3つの型:法律上(切捨て。損金経理は不要)、事実上(全額回収不能が明らか。担保処分後・損金経理)、形式上(支払能力の悪化などで取引を停止し、停止・最後の弁済などの最も遅い時から1年以上たった、担保のない売掛債権。備忘価額を残す)。
- 破産手続開始の申立てだけでは貸倒損失にならない。期末に個別評価の貸倒引当金(申立てがあった債権は、担保などを除いた額の50%まで)を繰り入れられる。
- 貸倒引当金を損金にできるのは中小法人等・銀行・保険会社など。個別評価と一括評価に分けて、繰入限度額まで損金。
- 中小法人の一括評価は、期末の債権×法定繰入率(卸売・小売業1,000分の10、製造業1,000分の8、その他1,000分の6など)か実績繰入率。
- 繰入限度超過額は加算(留保)。翌期に戻し入れて益金にしたとき、減算(認容)する。
参照条文・出典
参照条文:法人税法22条3項3号(損失の額)・52条(貸倒引当金)、法人税法施行令96条(貸倒引当金勘定への繰入限度額)、租税特別措置法57条の9(中小企業者等の貸倒引当金の特例)、同施行令33条の7、法人税基本通達9-6-1〜9-6-3(貸倒損失)、11-2-3(個別評価金銭債権)
参考資料:税務大学校『法人税法(基礎編)令和8年度版』第6章第5節(p.105)、第7章(pp.117〜124)(国税庁ホームページ「税務大学校講本」で公開)
本教材は、上記講本を参考に、TaxJudgeが独自に構成・解説したものです。講本の基準日は令和8年1月1日で、その後の令和8年度税制改正(少額減価償却資産の特例の見直しなど)と防衛特別法人税(令和8年4月1日以後に開始する事業年度から)は国税庁の資料で反映しています。
本教材は国税庁による監修・保証を受けたものではありません。令和8年4月1日から令和9年3月31日までの事業年度を共通事例とし、各制度の適用時期に応じた法令に基づく学習用の解説・試算です。個別の判断は税理士等にご確認ください。さくら食品などの数字は学習用に設定した仮定の数値です。