収益認識ラボ②【設例・値引きの配分編】|先生と一緒に図で学ぶ設例15 第71項と残余アプローチ
無料の学習ツール「収益認識ラボ②」の読み方ガイドです。ラボの設例タブから、値引きの配分と残余アプローチの設例(設例15-1〜15-3)を1つずつ、先生と生徒の会話形式で見ていきます。各行の図はラボの図そのものです。重要な節の最後には、ラボで30秒だけ手を動かす小さな実習を置いています。
📘 設例・基礎4 ラボの画面
前提条件(独自の数値・設定)
- A社は製品X・Y・Zを通常それぞれ単独で販売しており、独立販売価格は X 50、Y 60、Z 40(合計 150)。
- また、通常、製品YとZを組み合わせて 70 で販売している。
- A社は製品X・Y・Zを 120 で販売する契約をB社と締結。それぞれの履行義務は異なる時点で充足する。
はじめに
設例15 ── 値引きをどこに配るか
📍 ラボの場所:設例・基礎タブ 基礎4 ステップ1
ハルカ
先生、今日は値引きの配分ですね。X・Y・Zの3つの製品を 120 で売る契約です。
先生
そうだよ。独立販売価格の合計は 150 だから、値引きは 30 なんだ。設例15-1でその 30 をどこに配るか、15-2と15-3で製品Wが加わったときの残余アプローチを見るよ。
ハルカ
契約全体の売上は、どの方法でも 120 なんですよね。
先生
そう。変わるのは各製品の売上、つまり、どの期にいくら売上が立つかなんだ。そこを意識して読んでいこうか。
設例・基礎タブの基礎4を開きながら読むと分かりやすいですラボで開く ▶
📘 設例・基礎4 ラボの画面
値引き = 150 − 120 = 30
X:120 × 50 ÷ 150 = 40、Y:48、Z:32
独立販売価格の合計が取引価格を超えるので、束に対する値引き 30 があります。原則はすべての履行義務に比例配分です(第70項)。
○
(1) それぞれを通常単独で販売X・Y・Zとも単独で販売している
○
(2) 一部の束を通常値引きして販売YとZの束を 70(独立販売価格の合計 100 から 30 引き)で販売している
○
(3) 束の値引きが契約の値引きとほぼ同額束の値引き 30 = 契約の値引き 30。値引きがY・Zに対するものという観察可能な証拠がある
値引き 30 は製品Y・Zを移転する約束だけに配分する(第71項)
設例15-1
原則は比例配分、証拠があれば第71項
📍 ラボの場所:設例・基礎タブ 基礎4 ステップ2・3
ハルカ
原則どおり比例配分すると、X 40、Y 48、Z 32 ですね。
先生
そう、値引き 30 を全部の製品に比率で配るのが第70項の原則なんだ。ただこの会社は、YとZをいつも 70 で組み合わせて売っているよ。束の値引き 30 が、契約の値引き 30 と同じなんだ。
ハルカ
①編の設例1で、セットの値引きは比率で全部に配るのが原則と習いました。今日はその例外ですね。
先生
よく覚えていたね。原則は同じで、例外に入るための3つの要件をここで確かめるんだ。
迷いポイント YとZをセットで売っていれば、それだけで第71項?
ハルカ
YとZのセット販売があるなら、値引きはY・Zに寄せていいですよね。
先生
ステップ3の判定のとおり、(1)それぞれを通常単独で売っている、(2)束を通常値引きして売っている、(3)束の値引きが契約の値引きとほぼ同じ、の3つがそろって初めて寄せられるんだ。この設例は3つとも○だから、Xは 50 のまま、値引き 30 はY・Zだけに配るよ。
ハルカ
Xだけ値引きされないなんて、Xが少しうらやましいです。
先生
Xは、値引きの証拠がないから正価で入るだけなんだよ。
💡 そうだったのか!
値引きは原則
比例配分。第71項の
3要件がそろい、値引きの行き先に証拠があるときだけ、一部の製品に寄せます。
⏱ 30秒だけラボで試す
- リンクから「値引きの配分」のシミュレーションを開く(基礎4の数字)
- 右の「契約の取引価格」を 120 から 110 に変える
👀 第71項の要件が 「満たさない」 に変わり、Xへの配分が 50 → 37 に。束の値引き 30 と契約の値引き 40 が一致しないので、全部に比例配分します。
ラボを開く ▶
📘 設例・基礎4 ラボの画面
X = 50(独立販売価格どおり)
Y・Zの合計 = 70 → Y:70 × 60 ÷ 100 = 42、Z:70 × 40 ÷ 100 = 28
YとZを同じ時点で移転するなら、実務上、YとZを単一の履行義務として 70 の収益を同時に認識できます(設例15-1の2.(2))。
異なる時点で移転するなら、70 をYとZの独立販売価格の比率で配分します(第66項)。
製品Xの引渡時| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|
| 売掛金 | 50 | 売上高 | 50 |
製品Yの引渡時| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|
| 売掛金 | 42 | 売上高 | 42 |
製品Zの引渡時| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|
| 売掛金 | 28 | 売上高 | 28 |
契約全体の収益 120 はどちらでも同じ。違うのは、Xを先に引き渡したときの収益(40 か 50 か)=各期の収益のタイミングです。
設例15-1
Y 42・Z 28 ── 違うのは収益のタイミング
📍 ラボの場所:設例・基礎タブ 基礎4 ステップ4・5
ハルカ
Y・Zの 70 は、YとZにどう分けるんですか。
先生
YとZの独立販売価格の比率 60:40 で、Y 42、Z 28 なんだ。YとZを同じ時点で渡すなら、1つの履行義務として 70 を同時に収益にしてもいいよ。別々の時点なら、比率で分けるんだ。
迷いポイント どちらの方法でも、合計は 120。何が違う?
ハルカ
第70項でも第71項でも合計は 120 なら、どちらでも同じですよね。
先生
Xを先に渡したとき、その期の売上が第70項なら 40、第71項なら 50 になるんだ。合計は同じでも、各期の収益のタイミングが変わるよ。だから要件を確かめる意味があるんだ。
💡 そうだったのか!
配分の方法で変わるのは
各期の収益。契約全体の収益 120 はどの方法でも同じです。
📕 設例・応用4 ラボの画面
○
適用指針第31項(3)①同一の財を幅広い価格帯(25〜50)で販売しており、典型的な独立販売価格を識別できない
○
先に値引きを配分する(第33項)X・Y・Zについては基礎4と同じ証拠がある → 値引き 30 はY・Zに配分
X・Y・Zに 120(X 50 + Y・Z 70)を配分した後、残りをWの独立販売価格とする
Wの独立販売価格(残余) = 160 − (50 + 70) = 40
○
観察可能な価格帯の範囲内か40 は 25〜50 の範囲内 → 配分の目的(第65項)と整合的
W に 40 を配分(残余アプローチ)
| 製品 | 独立販売価格 | 方法 | 配分額 |
|---|
| X | 50 | 直接観察可能 | 50 |
| Y | 60 | 値引き後の束 70 を比率で | 42 |
| Z | 40 | 同上 | 28 |
| W | 25〜50 | 残余アプローチ | 40 |
| 合計 | | | 160 |
製品Wの引渡時| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|
| 売掛金 | 40 | 売上高 | 40 |
もし先に残余アプローチを使うと、Wは 160 − 150 = 10 となり、値引きがすべてWに寄ってしまいます。順序が結論を左右します(適用指針第33項)。
設例15-2
製品Wが加わる ── 第71項が先、残余アプローチが後
📍 ラボの場所:設例・応用タブ 応用4 ステップ2・3・4
ハルカ
製品Wが加わって、取引価格は 160 ですね。Wはいろいろな値段で売っていて、独立販売価格が決まりません。
先生
同じ財を幅広い価格帯で売っていて典型的な価格が分からないから、残余アプローチの前提に当たるんだ(適用指針第31項(3))。先にX・Y・Zに 120 を配って、残りの 40 をWの独立販売価格にするよ。40 は価格帯 25〜50 の中に入るね。
迷いポイント 残余アプローチを先に使っても、結果は同じ?
ハルカ
計算の順番を変えても、足し算と引き算だから結果は同じですよね。
先生
ステップ4の注意書きを見てごらん。先に残余アプローチを使うと、Wは 160 − 150 = 10 になって、値引きが全部Wに寄ってしまうんだ。だから適用指針第33項で、第71項の配分が先と決まっているよ。
ハルカ
正直に言うと、順番なんて電卓のボタンを押す順番くらいにしか思っていませんでした。
先生
電卓なら順番を変えても答えは同じだけど、配分はそうはいかないんだよ。
💡 そうだったのか!
残余アプローチは
値引きを配分した後で使います。順番を逆にすると、値引きが残余の製品に寄ってしまいます。
⏱ 30秒だけラボで試す
- リンクから「値引きの配分」のシミュレーションを開く(応用4の数字)
- 右の「契約の取引価格」を 160 から 130 に変える
👀 残余が 40 → 10 になり、判定が「満たす」→ 「残余が範囲外」 に。Wを見積り 38 で比率配分するので、Xへの配分が 50 → 35 に変わります。
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📕 設例・応用5 ラボの画面
残余 = 130 − (50 + 70) = 10
×
観察可能な価格帯に近似するか10 は 25〜50 に近似していない → Wの履行義務と交換に権利を得る対価の額を適切に描写しない(配分の目的:第65項)
残余アプローチは使えない(設例15-3)
販売や利益に関する報告書など観察可能なデータを確認し、他の適切な方法(調整した市場評価アプローチ等)でWの独立販売価格を見積ります。ここでは学習上の仮定として、価格帯の中点((25+50)÷2=37.5)を整数に丸めた 38 をWの独立販売価格とします(取引データから求めた統計上の中央値ではありません)。
その上で、取引価格 130 を X・Y・Z・W の独立販売価格の比率で配分します(第66〜69項・適用指針第31・32項)。
合計 = 50 + 60 + 40 + 38 = 188
X:130 × 50 ÷ 188 = 35、Y:41、Z:28、W:26
| 製品 | 応用4(取引価格 160) | 応用5(取引価格 130) |
|---|
| X | 50 | 35 |
| Y | 42 | 41 |
| Z | 28 | 28 |
| W | 40(残余) | 26(比率) |
| 合計 | 160 | 130 |
取引価格が小さいと、残余がWの価格帯から外れて残余アプローチが使えなくなります。
この場合、YとZへの値引きの配分(第71項)も維持されず、全体を比率で配分するのが原典の結論です。
設例15-3
残余 10 は価格帯に近くない ── 他の方法で見積って全体を比率配分
📍 ラボの場所:設例・応用タブ 応用5 ステップ2・3・4
ハルカ
取引価格が 130 だと、残余は 10。Wの価格帯 25〜50 からだいぶ離れていますね。
先生
10 は観察できる価格帯に近いとはいえないから、Wの対価の額を適切に描写しないんだ(第65項)。だから残余アプローチは使えず、市場の情報などの他の方法でWの独立販売価格を見積るよ。ラボでは、学習上の仮定として価格帯の中点 37.5 を丸めた 38 を使っているんだ。
迷いポイント 残余が使えなくても、第71項の配分は残る?
ハルカ
残余アプローチが使えないだけなら、Y・Zへの値引きの配分はそのまま残りますよね。
先生
この設例の結論は、全体を比率で配分し直すなんだ。独立販売価格の合計 188 に対して取引価格 130 だから、X 35、Y 41、Z 28、W 26 になるよ。応用4と比べると、Xの売上が 50 から 35 に下がっているね。
ハルカ
中点 37.5 を丸めて 38。その 0.5 のために、会議が1回開けそうです。
先生
会議で話し合うのは丸め方ではなく、見積りの根拠の方なんだよ。
💡 そうだったのか!
残余が配分の目的に合わなければ、
他の方法で見積り、全体を比率配分します。範囲内なら可とするのは、ラボの簡易判定です。
⏱ 30秒だけラボで試す
- リンクから「値引きの配分」のシミュレーションを開く(応用5の数字)
- 右の「残余アプローチを使わない場合のWの独立販売価格」を 38 から 45 に変える
👀 Wの見積りを大きくすると、契約の値引きが 58 → 65 に、Xへの配分が 35 → 33 に変わります。見積りの根拠が、各製品の売上を左右します。
ラボを開く ▶
今日の内容を、ラボで確かめてみませんか?
この記事の図は、すべて収益認識ラボ②の画面そのものです。設例タブを開けば、同じ図を見ながら、ステップを1つずつ読み返せます。
収益認識ラボ②を開く ▶今日のまとめ ── 設例ごとの結論
おわりに
今日のふりかえり
先生
今日のまとめだよ。値引きは原則比例配分で、第71項の3要件がそろえば一部に寄せる。残余アプローチは値引きの配分の後で使い、残余が配分の目的に合わなければ他の方法で見積る。そして、方法で変わるのは各期の収益だということ。この3つを持ち帰ってほしいんだ。
ハルカ
②編を全部読んで、取引価格は「決める」ものではなく「見積って、確かめて、配る」ものだと分かりました。前は、請求書の金額を写すのが売上だと思っていたのに。
先生
①編から続けてここまで来たから、その違いを自分の言葉で言えるようになったんだよ。
ハルカ
では次に契約書を見たら、まず「これは取引価格ではないかもしれない」と疑うところから始めます。契約書の方がびっくりしそうです。
先生
疑うのは大事だよ。ほどほどにね。基礎編から読み返すと、図の見え方がきっと変わるよ。
参考資料
企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」(第65〜71項)/企業会計基準適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」(第31〜33項、設例15-1〜15-3)(いずれも企業会計基準委員会)。ラボの設例は、適用指針の設例と同じパターンを独自の数値で組み立てたものです。残余アプローチの可否を「価格帯の範囲内なら可」とするのは、ラボの簡易判定です。基準確認日:2026年10月1日。
サイト内の関連:【早見表】収益認識基準・適用指針/収益認識ラボ①【設例・5ステップと契約変更編】(設例1のセット値引き)
このシリーズの記事:基礎編/応用編/設例・変動対価と制限編(設例10〜13)/設例・顧客への支払と金融要素編(設例14・金融要素)
この記事を書いた人
TaxJudge編集部|公認会計士・税理士(実務25年)による企画・監修。会計基準・税法・裁決・有価証券報告書などの一次情報をもとに、検索できるデータベースと計算・判定・文書作成ツールを制作しています。