J-SOXラボ【設例・評価範囲編】|先生と一緒に図で学ぶ設例1〜4 重要な事業拠点・個別の追加・前年度評価・やむを得ない事情
無料の学習ツール「J-SOXラボ」の読み方ガイドです。ラボの設例タブから、評価範囲の設例(設例1〜4)を1つずつ、先生と生徒の会話形式で見ていきます。各行の図はラボの図そのものです。重要な節の最後には、ラボで30秒だけ手を動かす小さな実習を置いています。
※ 記事とラボの数値(売上高・税引前利益・発生確率など)は学習用の独自の設例です。3分の2・3勘定・5%・95%などは実施基準等に示された「例示」で、実際の評価範囲や判定は経営者が会社の状況に応じて決め、必要に応じて監査人と協議します。不備の判定で使う「影響額 × 発生確率」の計算は、基準所定の算式ではなく、ラボの学習用モデルです。
今日の事例
設例1〜4の会社:P社グループ(売上高・単位:百万円)
| P社(本社・親会社) | 40,000(50.0%) |
| S1社(国内製造) | 16,000(20.0%) |
| S2社(国内販売) | 10,000(12.5%) |
| S3社(海外販売・当期に買収) | 8,000(10.0%) |
| S4社(物流) | 4,000(5.0%) |
| S5社(小規模) | 2,000(2.5%) |
はじめに
今日の題材 ── 設例1〜4
📍 ラボの場所:設例タブ 設例1〜4
ハルカ
応用編で、3分の2は例示だと分かりました。でも実際に拠点を選ぶと、どう動くんですか。
先生
今日は設例タブの設例1〜4で、同じP社グループの評価範囲を条件を変えながら決めていくよ。設例1が基本、2は全社統制に不備、3は前年度有効の拠点、4は下期に買収した子会社なんだ。
ハルカ
同じ会社なのに、4回も評価範囲を決め直すんですね。
先生
条件が1つ変わるだけで、選ぶ拠点も報告書の書き方も変わるんだ。そこを見比べていこうか。
📘 設例1 ステップ2・3
P社 50.0% → 累計 50.0%
+S1社 20.0% → 累計 70.0%(66.7%に到達)
→ 重要な事業拠点は 2拠点
S3社は重要な事業拠点ではないが、企業結合直後で権限や指揮・命令の系統が不安定になりやすい(実施基準Ⅱ2(2)②ロa)。
拠点まるごとではなく、S3社の販売・購買など主要な業務プロセスを個別に評価対象に追加する(一部だけの追加でもよい:同d)。
設例1
上位から合算して選び、S3社のプロセスを個別に追加
📍 ラボの場所:設例タブ 設例1 ステップ2・3
ハルカ
P社とS1社で70%。重要な事業拠点は2つで決まりですね。
先生
ステップ2のとおり、売上高の大きい順に合算して、66.7%に達するまでがP社とS1社だよ。ただ、ステップ3を見て。S3社は重要な事業拠点ではないけれど、企業結合直後で、権限や指揮・命令の系統が不安定になりやすいんだ。
迷いポイント 重要な事業拠点でない会社は、評価しなくてよい?
ハルカ
S3社は選ばれなかったので、今年はお休みでいいですよね。
先生
拠点まるごとではなく、S3社の販売・購買など主要な業務プロセスを個別に評価対象に追加するんだ。一部の取引だけの追加でもいいよ。
ハルカ
転校してきたばかりの子だけ、先生が気にかけてくれる感じですね。
先生
たとえとしては近いね。新しく仲間になった拠点は、仕組みがまだ落ち着いていないことが多いんだ。
💡 そうだったのか!
量的に選んだ拠点に加えて、リスクの大きい拠点・プロセスを
個別に追加します。
📘 設例1 ステップ5
・重要な事業拠点は、各事業拠点の売上高(連結会社間取引消去後)の金額が高い拠点から合算し、連結売上高のおおむね3分の2に達している事業拠点を重要な事業拠点として選定した(P社、S1社)。
・売上高を指標とし、一定割合をおおむね3分の2とした事由:【例:当社グループの事業活動の規模を最もよく表す指標であること、全社的な内部統制の評価結果が良好であること 等】
・選定した重要な事業拠点においては、会社の事業目的に大きく関わる勘定科目として【例:売上高、売掛金及び棚卸資産】に至る業務プロセスを評価の対象とした。その事由:【自社の事業内容・収益構造から説明】
・さらに、S3社の販売・購買など主要な業務プロセス(企業結合直後の事業拠点(複雑又は不安定な権限・指揮命令の系統))を、財務報告への影響を勘案して重要性の大きい業務プロセスとして個別に評価対象に追加した。
黄色の部分は各社の事情で書き分けるところです。金融庁の有価証券報告書レビュー(令和7年度)では、この「決定した事由」の記載がない、又は不明瞭な事例が課題として挙げられています。
設例1
内部統制報告書の文案(決定した事由)
📍 ラボの場所:設例タブ 設例1 ステップ5
ハルカ
ステップ5は、報告書の文案なんですね。黄色いところがありますけど。
先生
黄色は各社の事情で書き分けるところだよ。指標と一定割合を決めた事由、勘定科目を決めた事由、個別に追加した理由の3つを、会社の言葉で埋めるんだ。
迷いポイント 文案の例をそのまま写せば、報告書になる?
ハルカ
例がここまで書いてあるなら、そのまま使えそうです。
先生
例はあくまで例だよ。有報レビューで課題とされたのは、まさにこの「決定した事由」が書かれていない、又は不明瞭な例なんだ。自社の事業内容と収益構造から説明するところだよ。
💡 そうだったのか!
文案の黄色の部分が
決定した事由です。例を写すのではなく、自社の事情で書き分けます。
📘 設例2 ステップ2・3
売上高の累計ではP社+S1社で 70.0% に達し、S2社は選ばれない。
全社的な内部統制のうち良好でない項目がある場合は、それに関連する事業拠点を評価範囲に含める(実施基準Ⅱ2(2)①(注2))。
カバー率は 70.0% → 82.5% に上がる。「3分の2に達したから終わり」ではない例。
設例2
全社統制が良好でないS2社を評価範囲に加える
📍 ラボの場所:設例タブ 設例2 ステップ2・3
ハルカ
設例2では、S2社に全社的な内部統制の良好でない項目が見つかったんですね。
先生
ステップ2のとおり、量的にはP社とS1社で70%に届いて、S2社は選ばれないよね。でもステップ3では、全社的な内部統制に良好でない項目がある場合は、それに関連する事業拠点を評価範囲に含めるんだ。
迷いポイント 3分の2に届いていれば、S2社を足す必要はない?
ハルカ
70%で目標は超えているのに、まだ足すんですか。
先生
そこが「3分の2に達したから終わり」ではない例なんだ。S2社を加えると、カバー率は 70.0% → 82.5% に上がるよ。
💡 そうだったのか!
全社統制に良好でない項目がある拠点は、量的に選ばれなくても
評価範囲に含めます。
⏱ 30秒だけラボで試す
- シミュレーションの「評価範囲」で「S2社の全社統制に不備」を読み込む
- 表の「判定」の列と、カバー率の行を見る
👀 S2社の判定が「追加(全社統制)」になり、カバー率が「量的選定 70.0% → 最終 82.5%」と出ます。
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📘 設例3 ステップ2〜4
- イ)前年度の当該拠点に係る内部統制の評価結果が有効
- ロ)当該拠点の内部統制の整備状況に重要な変更がない
- ハ)グループ内での中核会社でないなど、特に重要な事業拠点ではない
3つとも確認できれば、当年度の評価対象としないことができる(実施基準Ⅱ2(2)①(注2))。
S1社を外すとカバー率は 50.0%。基準は「結果として、売上高等の一定割合(おおむね3分の2程度)を相当程度下回ることがあり得る」としている。
設例3
前年度有効のS1社を今年は外す
📍 ラボの場所:設例タブ 設例3 ステップ2〜4
先生
ステップ2の3つの条件を見て。前年度の評価結果が有効、整備状況に重要な変更がない、中核会社でないなど特に重要な拠点ではない。3つとも確認できれば、当年度の評価対象としないことができるんだ。
迷いポイント 外した結果、3分の2を下回ったら違反?
ハルカ
ステップ3で50%になっています。3分の2より、ずいぶん下です。
先生
基準は、結果として一定割合を相当程度下回ることがあり得るとしているんだ。そのかわり、報告書には決定方法と根拠も書くよ。監査人は、特に重要な拠点以外の重要な事業拠点を、少なくとも2年に1回は評価範囲に含めているかに留意するんだ。
ハルカ
50%でも堂々としていいけど、理由は丁寧に書く。テストの点数より、答案の書き方で勝負するんですね。
💡 そうだったのか!
3条件を満たせば、前年度有効の拠点は外せます。3分の2を下回るときは、
決定方法と根拠を書きます(Q&A問104-1)。
⏱ 30秒だけラボで試す
- シミュレーションの「評価範囲」で「S1社を前年度有効で外す」を読み込む
- カバー率の行と、報告書の文案を見る
👀 カバー率が「量的選定 70.0% → 最終 50.0%」になり、文案に「評価対象とした事業拠点の割合は 50.0% となっている」の一文が加わります。
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📘 設例4 ステップ2・3
やむを得ない事情により一部を十分に評価できない場合は、除外部分以外の評価が全体として適切に実施されていること、評価できなかったことが財務報告の信頼性に重要な影響を及ぼすまでには至っていないこと(全社的な内部統制の評価や関連数値の確認で判断:Q&A問64)を前提に、その範囲を除外して評価できる(基準Ⅱ3(6))。除外した範囲と理由を報告書に書く。
🏢 内部統制報告書(経営者)の評価結果② 評価手続の一部が実施できなかったが、有効である(実施できなかった評価手続及びその理由を記載)
付記事項:該当事項なし
🔍 内部統制監査報告書(監査人)の意見無限定適正意見
内基報1 付録5の近い文例:文例3
強調事項(追記情報):やむを得ない事情により十分な評価手続を実施できなかった範囲とその理由(内基報1 第103項)
監査意見:無限定適正意見内部統制報告書が、評価の基準に準拠して全ての重要な点において適正に表示している(基準Ⅲ4(3))
事例集5-1と同じ形:「評価手続の一部が実施できなかったが有効」と記載し、監査人は無限定適正意見に範囲と理由を強調事項として追記する。
担当者の退職や書類の紛失など、企業側の責任による事情は「やむを得ない事情」に当たらない(内基報1 A213)。
設例4
下期に買収したS2社を評価範囲から除外する
📍 ラボの場所:設例タブ 設例4 ステップ2・3
ハルカ
設例4は一定割合が80%で、S2社も重要な事業拠点なんですね。でもS2社は下期に買収したばかりです。
先生
ステップ2のとおり、財務諸表を作って取締役会の承認を受けるまでの通常の期間内に十分な評価手続を実施できないなら、やむを得ない事情として範囲から除外できるんだ。除外部分以外の評価が全体として適切に行われていて、評価できなかったことが財務報告の信頼性に重要な影響を及ぼさないことが前提だよ。
迷いポイント 除外したら、監査意見に傷がつく?
ハルカ
評価していない範囲があると、監査人に叱られそうです。
先生
ステップ3を見て。経営者は「評価手続の一部が実施できなかったが、有効である」と書いて、監査人は無限定適正意見に、範囲と理由を強調事項として追記する形なんだ。事例集5-1と同じ形だよ。
ハルカ
「全部はできませんでした、でも理由はこれです」と正直に書けば、ちゃんと受け止めてもらえるんですね。私の日報にも取り入れます。
先生
日報でも大事な姿勢だね。ただ、報告書で通るのは「やむを得ない事情」がある場合だけで、担当者の退職や書類の紛失は当たらないんだ。
💡 そうだったのか!
やむを得ない事情なら、除外部分以外の評価が全体として適切に実施され、評価できなかったことが財務報告の信頼性に重要な影響を及ぼさないことを前提に、範囲を除外できます。報告書には
除外した範囲と理由を書き、監査意見は無限定適正+追記です。
⏱ 30秒だけラボで試す
- シミュレーションの「評価範囲」で「下期買収のS2社を除外(80%)」を読み込む
- 「評価できない範囲が財務報告の信頼性に及ぼす影響は重要か」を「重要」に切り替える
👀 評価結果の形が ② → ④(評価結果を表明できない)に変わり、文案にも④の場合の記載が加わります。
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今日の内容を、ラボで確かめてみませんか?
この記事の図は、すべてJ-SOXラボの画面そのものです。設例タブを開けば、同じ図を見ながら、ステップを1つずつ読み返せます。
J-SOXラボを開く ▶今日のまとめ ── 設例ごとの結論
おわりに
今日のふりかえり
先生
今日のまとめだよ。拠点は量で選んで、質で足す。前年度有効の拠点は3条件で外せて、下期の買収はやむを得ない事情として除外できるけれど、どれも理由を書くことがセットなんだ。
ハルカ
実家の猫のこむぎの予防接種、去年受けて元気だったので、今年はパスしてもいいかなって母と話していたんです。
先生
猫の健康は獣医さんに相談してね。ラボの話としては、「前年度有効」だけでなく、変化がないことなどの条件もそろって初めて外せるんだ。
ハルカ
母に聞いたら、こむぎは今年、体重が1キロ増えていました。「重要な変更あり」なので、評価範囲に戻します。
先生
いい判断だね。次の設例・不備の判定と報告編では、設例5〜9で、見つかった不備をどう判定し、どう報告するかを見ていこうか。
参考資料
企業会計審議会「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準」「同 実施基準」(令和5年4月7日改訂)/金融庁「内部統制府令ガイドライン」「内部統制報告制度に関するQ&A」「内部統制報告制度に関する事例集」(令和5年改訂)/日本公認会計士協会 財務報告内部統制監査基準報告書第1号。ラボの設例の数値は独自のものです。
このシリーズの記事:基礎編/応用編/設例・不備の判定と報告編(設例5〜9)
この記事を書いた人
TaxJudge編集部|公認会計士・税理士(実務25年)による企画・監修。会計基準・税法・裁決・有価証券報告書などの一次情報をもとに、検索できるデータベースと計算・判定・文書作成ツールを制作しています。