🎬 動画で見る第28話「連結を回せる人は1人。去年の施策一覧にあった一行」
この話を、声と絵で見られる動画です。クリックすると再生が始まります(YouTubeで開く)
朝変えられない37か所
2026年11月5日、木曜。
朝8時50分。
ハルカがパソコンを開くと、情報システム担当からのメールが一番上にあった。
このうち、会社で変えられるのは9か所(お知らせの文3・補足の欄6)で、質問の言葉そのものの37か所は変えられません。
一昨日、母が止まった言葉も、たぶんこの37の中にある。
一覧、届いたね。
多いと思った?
正直、一度ひるみました。
でも、変えられない言葉が分かったので、
手引きに書く言葉の数も分かりました。
補足の欄に入る6つは、
いちばん止まりそうな言葉に使います。
37行全部を同じ重さで書かなくていいからね。
止まった言葉から順に。
9時。ハルカと2年目の部員は、会議室で読み合わせを続けた。今日は2件。二人で読む残りは、4件になった。
午後2時から、人事部と打ち合わせがある。
経理財務部の人材戦略を作り始めるんだ。
先月の「担当不在で止まる仕事の一覧」、
月曜の引継ぎ確認表、それと、去年の施策一覧。
共有フォルダの「部の計画」にあるはずだ。
お昼までにそろえます。
部長の机の横には、紙の伝票の箱が二つ置いてあった。前々期と3期前の分。金曜までに、部長が自分で数えると決めた箱だった。
昼前去年の施策一覧
連結の補助、税務の外部研修、決算の手順書、
月に一度の勉強会。
……一番下に、手書きの一行がある。
「外部専門家による若手の育成(学習室)」。
対象、経理担当1名。
開始、2025年10月。
ハルカは、その行を二度読んだ。2025年10月は、ハルカが初めて学習室の扉を開けた月だった。
会社の研修制度だと思っていた。
誰かが申し込んで、私が選ばれたんだと思っていた。
……部長の字だ。
付箋で何度も見た、少し右に傾く字。
部長は、席で伝票の箱を開けていた。ハルカのほうは見ていなかった。
聞けば、たぶん答えてくれる。
でも、今日の打ち合わせの資料を作るのが、私の仕事だ。
ハルカは三つの資料を印刷して、クリップで留めた。去年の施策一覧は、一番下にした。
午後五つの箱と、二人目
午後2時。
会議室には、部長と、人事部の残る担当と、ハルカがいた。
最初に口を開いたのは人事部の担当だった。
「プライムを目指すなら、人的資本の記載を、CG報告書と有価証券報告書でそろえたいんです。
会社全体の計画は、経理財務部の計画を最初の一つにして作りたいと思っています」。
指標と目標。
この順につながっていないと、施策だけが並んだ一覧になる。
子会社が増えること。
そうなると、連結の締めは今より速く、
正確に回す必要がある。
担当が休むと止まる仕事が6つ。
連結を一人で回せる人は、今は私だけ。
目標は、まず1人を2人に。
人事部の担当が、手を挙げた。「二人目は、採るんですか。育てるんですか」。
比べてから決めたい。
でも、うちの連結の癖を覚えるまでに半年はかかる。
採用の費用もかかるし、今の市場で見つかるとは限らない。
教える時間は、私と部の誰かから出すことになる。
そのあいだ、止まる仕事は増えるかもしれない。
育てる、の先に誰がいるのか。
この部屋の三人は、たぶん全員分かっている。
誰も、名前を言わない。
去年の施策一覧から、
今年も続けるものを選んで写してほしい。
ハルカは、去年の一覧を一番下から取り出した。五つの施策のうち、四つを新しい表に写した。四つ目の行は、手書きの言葉のまま、開始の月も変えずに写した。
2025年10月。
直す理由は、どこにもなかった。
夕方最後の行
午後5時。
人事部の担当は、ホワイトボードの写真を撮って帰っていった。
「来週、比べる材料を待っています」。
去年の五つのうち、四つは続けていいと思います。
月に一度の勉強会は、
去年一度も開けていなかったので外しました。
部長は表を受け取ると、上から順に読んだ。最後の行のところで、一度だけ目を止めた。それから、何も言わずに次のページをめくった。
止まる仕事で比べよう。
材料は、来週の水曜までに私がそろえる。
月曜の確認表で、部の外の行も増えましたから。
……それと、言い換え表は無理をしないで。
37行を一週間で全部、とは思っていないよ。
止まった言葉から順に、ですね。
ノート扉を開けた月
夜9時。
ハルカは部屋の机で、学習室のノートを開いた。
最初のページの日付は、2025年10月だった。
去年の一覧に書いてあったのは、ハルカの名前ではなかった。
対象、経理担当1名。
開始、2025年10月。
それだけだった。
書かれていたのは、私の名前ではなく、
私が扉を開けた月だった。
- 経理財務部の人材戦略(案)第0版 ── 人事部と共有(11月5日)。会社の方向→部の課題→人材の方針→施策→指標と目標
- 指標:連結を一人で回せる人 1→2 ── 採用か育成かは、来週、時期・費用・部の負担・止まる仕事で比べて部長が決める(材料は水曜までに部長)
- 施策の欄 ── 去年の五つのうち四つを続ける(ハルカが写した。月に一度の勉強会は去年開けなかったので外す)。止まる仕事の欄は、引継ぎ確認表の部の外の行を足してハルカが直す
- 人事部から ── プライムを目指すなら、人的資本の記載をCG報告書と有価証券報告書でそろえたい。会社全体の計画は、経理財務部の計画を最初の一つに
- 年末調整 ── 画面の質問の言葉46のうち、変えられないのは37。ハルカの言い換え表は37行から。補足の欄6つは、いちばん止まりそうな言葉に
- 読み合わせ ── 今日2件、二人で読む残り4件(期限11月中旬)
- 前々期と3期前の620 ── 部長が紙の伝票で算定中(二箱・11月6日まで)
この話の、二人の反省と学び
経理財務部の人材戦略(案) 全文木曜の打ち合わせで、部長と人事部が作り始めた第0版
この物語の会社(架空)で、経理財務部長と人事部が、部の人材戦略を作り始めた日の第0版です。会社の方向から部の課題、人材の方針、施策、指標と目標までを一本の流れで書き、施策の欄は前年度の一覧から続けるものを選んで写しています。実在の会社の文書ではありません。ひな形として使うときは、自社の方向と部の課題から書き始めてください。
経理財務部の人材戦略(案) 第0版
1 流れ(会社の方向から指標まで)
| 段 | 内容(第0版) |
|---|---|
| 会社の方向 | プライム市場への移行を目指す(時期は経営会議で検討中)。子会社が増える |
| 部の課題 | 連結を一人で回せる人が1人(部長)。担当が休むと止まる仕事が6つ(先月の一覧)。人事担当の退職で、部の外にも止まる仕事が増えた(引継ぎ確認表の「未定」5つ) |
| 人材の方針 | 連結を回せる人を増やし、部長一人が抱える仕事を減らす。二人目は、採用と育成を同じ物差しで比べてから決める |
| 施策 | 下の「施策の欄」のとおり(前年度の五つのうち四つを続ける) |
| 指標と目標 | 連結を一人で回せる人:1人 → 2人(時期は、採用か育成かを決めてから置く) |
2 施策の欄
| No | 施策 | 前年度(2025年度) | 今年度(2026年度) | 担当 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 連結の補助をしながら覚える(決算のたびに一部を任せる) | 実施 | 続ける | 経理財務部長 |
| 2 | 税務の外部研修(年1回) | 実施 | 続ける | 人事部(費用) |
| 3 | 決算の手順書を作り、毎年直す | 実施 | 続ける(今年の分を追記) | 各担当 |
| 4 | 外部専門家による若手の育成(学習室) 対象:経理担当1名 | 2025年10月 開始 | 続ける | 経理財務部長 |
| 5 | 月に一度の勉強会 | 計画のみ(開催0回) | 外す | ── |
3 指標と目標
| 指標 | 定義(第0版) | 現状 | 目標 |
|---|---|---|---|
| 連結を一人で回せる人 | 連結精算表の作成から連結修正・注記の数字までを主担当として完成させ、決められた確認を経て連結決算を締められる人(部長本人を含む) | 1人 | 2人(時期は未定) |
| 担当が休むと止まる仕事(参考) | 先月の「担当不在で止まる仕事の一覧」の、二人目が「未定」の仕事の数 | 6つ | 減らす(数は来週) |
4 採用か育成か(比べる物差し)
| 比べる物差し | 採用(経験者) | 育成(部の中から) |
|---|---|---|
| 時期 | 早い。ただし、この会社の連結に慣れるまで半年ほど | 時間がかかる |
| 費用 | 採用の費用がかかる。市場で見つかるとは限らない | 研修・学習の費用。教える時間 |
| 部の負担 | 受け入れと引継ぎの時間 | 教える時間を、部長と部の誰かから出す |
| 止まる仕事 | 入社までは減らない | 育てるあいだ、一時的に増えるかもしれない |
5 比べ方の約束
- 数字(月数・金額・時間)は、来週の水曜までに経理財務部長がそろえ、そのあと部長が決める
6 開示とのつながり
- 人事部の要望:プライムを目指すなら、人的資本の記載を、コーポレート・ガバナンス報告書と有価証券報告書でそろえたい
- 有価証券報告書では、人材の育成に関する方針・社内環境整備に関する方針と、その指標の目標・実績を書いている。部の計画がその材料になる
- 有価証券報告書の開示に向けては、会社全体の人材戦略や給与の方針などとも整合させる必要がある(人事部)
- 会社全体の計画は、この部の計画を最初の一つにして作る(人事部)。部の指標を会社全体の指標にするかは、人事部と経営会議で決める
7 決めていないこと
- 二人目を採るか、育てるか ── 来週、上の物差しで比べて経理財務部長が決める
- 年明け以降、人事を誰が見るか ── 社長と相談(年内は経理財務部長の一時的な兼務)
- 指標の定義と目標の時期 ── 採用か育成かと一緒に決める
この話に出てきた知識・前後の話
- 人材戦略を「経営の方向→課題→方針→施策→指標と目標」の流れで書く ── ハルカの学習ノート ── 人的資本可視化指針ラボ 基礎編
- 指標と目標の決め方・開示との結びつき ── ハルカの学習ノート ── 人的資本可視化指針ラボ 応用編
- 連結を回せる人が一人しかいない部長の視点 ── 人的資本可視化指針ラボ【部長編①】
- 変えられない画面の言葉 ── 前日の話 ── 経理財務部の物語 第27話「紙に戻すか続けるか、止まったのは画面の言葉」
前の話:第27話(2026年11月4日)|【年末調整のクラウド化】紙に戻すか続けるか、止まったのは画面の言葉 / 次の話:第29話(2026年11月6日)|【為替換算】伝票二箱を数えたら、返品が1枚あった / 記録ページ(年表・会社のいま・話数一覧) / ハルカの学習ノート
この物語は、上場企業の経理財務部の実務をモデルにしたフィクションです。登場する会社・人物・団体は架空のもので、特定の監査法人・企業・製品の手続や見解を描くものではありません。会計・税務の記述は公認会計士・税理士が監修しています。製品名・サービス名は本文に出てきません。数字・日程はすべて架空です。
