決めること
登場人物は学習用のキャラクターで、解説内容は公認会計士・税理士が監修しています。製品名・サービス名は本文に出てきません(選び方は末尾の選定ガイドへ)。
3日で8件。80件なら30日
2026年10月中旬。第2四半期決算の数字を固めている机の端に、来期から始まる新リース基準の契約一覧がある。80件。
大野部長は決算の合間に、自分で1件目から読み始めた。3日で8件。80件なら30日分。その30日を部長が一人で抱えれば、決算と資金繰りという本来の仕事が止まる。
本当は春に始めているはずだった。「中間が終わってから」と言っているうちに、10月になっていた。
この記事でわかること
- 新リース対応で時間がかかるのは計算ではなく、契約を集めること・リース期間を判断すること・翌期も回る仕組みにすること。10月着手なら試算・監査法人との事前協議・取締役会への説明は年内に置く
- 「Excelか専用システムか」は契約件数では決まらない。6要素で見る
- AIは契約書からの抽出には使えるが、「延長が合理的に確実か」は人が判断する。未承認のまま外部に入れたら、その場で止めて確認する
結論 ── 時間がかかるのは計算ではない
7工程の対応計画表・役割分担表・判断シートは④実務のまとめに。Excelテンプレートも同じ場所からダウンロードできます。
現場で起きたこと ── 任せて間違っていたら、結局自分が直す
3日で8件進めた間に、子会社からの月次の回収が遅れ、財務担当から「部長、資金繰り表の確認がまだです」と声がかかった。部下に任せる案は頭にある。だが口から出るのは「任せて間違っていたら、結局自分が直す」だった。
ハルカは先月、リース会計ラボの会話記事8本を終えたばかりだ。部長はそれを知っている。
問い1 80件を、誰に何か月でやらせるか
だから試算と取締役会は年内に。それでも遅いくらいだと思っています。
担当に全件任せると、店舗ごとに判断がばらつく。
外部に委託すると、判断の理由が社内に残りません。
問い2 Excelで回すか、専用システムか
複雑さは中程度、変動リース料の店舗は少ない。
入力する組織は今は経理1か所、ただ子会社が増えます。
証跡は監査法人に求められる。
会計システムとの連携は手作業。維持は担当1人に依存。費用は未調査です。
問い3 契約書80件の読み取りに、AIを使うか
決める
私は戦略店舗と、建設協力金のある店と、経過措置編”>サブリースを見て、通常案件も毎週何件か抜き取って見ます。
社長向けの一枚は、私が自分で作ります。
部長は返事をしなかった。社長への説明の順番を、頭の中で組み替えていた。
仕事を振る
ハルカは一瞬だけ顔を上げた。部長はそれ以上何も言わず、次の契約書に目を落とした。
着手は遅れている。試算・監査法人との事前協議・取締役会への説明は年内に終える。
- 期限(年内)
- 判断基準書:部長が10日で書く
- 80件への当てはめ:ハルカ、11月末
- 影響額の試算:財務担当、12月10日
- 監査法人との協議:12月中旬
- 取締役会:12月下旬(社長向けの一枚は部長が自分で作る)
- 体制:契約の収集と、賃貸借以外の契約(物流委託など)の洗い出しは店舗開発部・物流子会社と(社長から一言)。部長が見るのは例外店舗(戦略店舗・建設協力金あり・サブリース)と、通常案件の抜き取り
- Excelかシステムか:計算と台帳は今期はテンプレートとExcel。承認・変更履歴・子会社からの収集は要件として今月中に書き出す。要件が強ければ11月中にシステムの結論、弱ければ初年度はExcelで迎え、翌期導入の前提で取締役会へ
- AI:契約書からの抽出に使う。未承認で入れた分は止めて総務・情報システムに報告し、利用履歴・送信内容・保存状況を確認して記録を残してから削除等を判断。入れていい文書の範囲とサービスを部として決め、抽出結果は全件を契約書と突き合わせる
実務のまとめ ── 対応計画・役割分担・判断シート(Excel)
以下はすべて架空の会社の記入例です。Excelテンプレートでは空欄にしてあり、自社の状況に差し替えて使います。
7工程の対応計画 ── 年内に4〜6まで
| 工程 | 何をするか | いつまで | 主担当 |
|---|---|---|---|
| 1 契約の収集と洗い出し | 把握済みの80件(店舗68+本社・倉庫・車両・複合機)の契約書・更新履歴・造作の有無・口頭合意を集める。あわせて、賃貸借という名前ではない契約(物流委託・設備利用・保守・クラウド)にリースが含まれていないかを洗い出す。社長から店舗開発部へ一言 | 10月末(2週間) | 店舗開発部・物流子会社。経理は一覧表(台帳の母体)を作る |
| 2 判断基準書 | 識別・リース期間・簡便的取扱い・割引率の「会社としての考え方」を先に文書化。1と並行 | 10月25日 | 部長(10日) |
| 3 識別とリース期間 | 基準書を80件に当てはめる。AIで抽出→全件突き合わせ→店舗ごとの要因(造作・戦略店舗・出店計画・閉店可能性)。例外は週1回まとめて部長へ | 11月末 | 経理担当(ハルカ)+店舗開発部の確認。部長は例外だけ |
| 4 割引率・影響額試算 | 追加借入利子率の見積り。使用権資産・リース負債・営業利益・EBITDA・自己資本比率への影響。3と並行して先行分から | 12月10日 | 財務担当。計算は台帳テンプレートで一括 |
| 5 監査法人との事前協議 | 期間・割引率・簡便的取扱い・経過措置の判断を、取締役会の前に揃える | 12月中旬 | 部長+経理担当 |
| 6 取締役会への説明 | 影響額と方針を一枚で。来期予算への反映、財務制限条項の確認結果、Excelか専用システムかの結論(専用システムが要ると分かった時点で前倒し。初年度はExcelで迎え翌期に導入する選択肢も) | 12月下旬 | 部長 |
| 7 仕組み化と期首残高 | 翌期以降の運用(新規・更新・変更時の見直し、承認、履歴)、経過措置の選択、期首残高の暫定試算と運用テスト。3月期決算では未適用基準の注記を準備(影響額を合理的に見積もれる場合は定量情報を記載)。4月に適用開始日時点の契約状況を確認し、期首残高を確定 | 1〜3月(確定は4月) | 経理担当。4月に本番 |
役割分担表(担当/確認/情報提供)
| 工程 | 部長 | 経理担当 | 財務担当 | 店舗開発部 | 情報システム | 監査法人 | 社長・取締役会 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 契約の収集 | 確認 | 担当(一覧表) | — | 情報提供(契約・造作・口頭合意) | — | — | 一言(協力依頼) |
| 2 判断基準書 | 担当 | 確認 | 確認(割引率) | 情報提供(出店計画) | — | 情報提供(論点) | — |
| 3 識別とリース期間 | 例外+抜き取り確認 | 担当 | — | 確認(店舗ごとの要因) | — | — | — |
| 4 割引率・影響額試算 | 確認 | 情報提供 | 担当 | — | — | — | — |
| 5 監査法人との事前協議 | 担当 | 担当 | 情報提供(割引率) | — | — | 協議 | — |
| 6 取締役会への説明 | 担当 | 情報提供 | 情報提供(財務制限条項) | — | 確認(システム要否) | — | 判断 |
| 7 仕組み化と期首残高 | 確認 | 担当 | 確認 | 情報提供 | 確認(AI利用範囲・連携) | 確認 | — |
Excelか専用システムかの判断シート(6要素)
| 要素 | 見るところ | この会社の状況(部長の記入例) | 読み |
|---|---|---|---|
| 契約の複雑さ | 更新オプション・変動リース料・契約変更の頻度 | 中程度。変動リース料の店舗は少ない | Excelで可 |
| 入力する組織の数 | 店舗開発部・子会社・複数担当が入力するか | 今は経理1か所。子会社が増える | 要件が強ければ11月中に結論 |
| 内部統制の証跡 | 変更履歴・承認・レビューの記録 | 監査法人に求められる | 要件として明記 |
| 既存システムとの連携 | 会計・固定資産台帳・連結とつながるか | 手作業 | 要件として明記 |
| 翌期以降の維持 | 新規・更新・変更を継続管理できるか | 担当1人に依存 | 基準書と手順で補う |
| 費用対効果 | 初期費・運用費・社内工数 | 未調査 | 要件が固まってから調査 |
件数だけでは決まらない、というのがこの表の結論です。「Excelで可」が多くても、証跡・連携・維持のどれかが要件として残れば、その要件を文書にしておき、製品を見るときはその要件で見ます。
社長に聞かれる3つの質問(答えの型と、数字の出どころ)
| 質問 | 答えの型 | 数字の出どころ |
|---|---|---|
| 営業利益はどう動くか | 従来オペレーティング・リースだった契約では、支払リース料(販管費)が、使用権資産の減価償却費(販管費)と支払利息(営業外)に置き換わる。償却を定額とし利息法を使う一般的なケースでは、営業利益・EBITDAは増える方向、経常利益は初年度ほど減る方向。償却方法や簡便的取扱いの選択で変わるので、前提を添えて説明する。 | 台帳テンプレートの影響額試算(工程4・12月10日) |
| 自己資本比率は下がらないか。銀行の財務制限条項に触れないか | 使用権資産(リース負債に前払リース料・付随費用・原状回復費用の見積りなどを加えた額)とリース負債が同時に載るので、総資産が増えて自己資本比率は下がる方向。借入契約の財務制限条項(自己資本比率・純資産額など)の定義を先に確認する。 | 財務担当が借入契約を確認。必要なら銀行に事前相談(工程6の前・12月) |
| 出店の判断は変わるか | 会計処理が変わっても、店舗のキャッシュ・フローは変わらない。ただし、新規出店の契約期間・更新条項の設計には影響する(長く借りるほど負債が大きく載る)。 | 店舗開発部と経営企画に、出店時の判断基準書を共有(工程2・7) |
部長の独白と、先生の一言
一次情報・ラボ・前後の回
一次情報
- 企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」等の公表(企業会計基準委員会、2024年9月13日)。適用時期は基準第58項。
- 企業会計基準適用指針第33号「リースに関する会計基準の適用指針」(企業会計基準委員会)。
- 未適用の会計基準等に関する注記:企業会計基準適用指針第24号「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準の適用指針」第12-2項(影響額を合理的に見積もれない場合は定性的な記述・「評価中」の旨でよい)。適用指針一覧(企業会計基準委員会)。
ラボ・ツール
ハルカが同じテーマを学んだ回(会話記事)
選定ガイド(近日公開)
「新リース対応はExcelで十分?専用システムが必要になる条件」── この回の6要素を、自社に当てはめるためのガイドです。製品名はそちらで扱います。
