この記事で判断できること:遡って給与を改定したときの差額分の税額計算
国税庁タックスアンサーの「No.2529 給与の改訂差額に対する税額の計算」について解説します。
解説動画
ベースアップが4月に遡って決まり、10月に差額をまとめて支給する。この差額の源泉所得税は、過去の各月に戻して計算し直すのか、10月の給与に足すのか。国税庁タックスアンサー No.2529 の内容を、「差額はいつの収入か」「通常の給与と合計する方法」「賞与として計算する方法」の3点に絞って整理します。年分の考え方の全体は No.2509 給与所得の収入すべき時期 の記事で扱っています。
この記事の結論
ベースアップを過去に遡って実施した差額は、労働協約等で定めた支給日(定めがなければ労働協約等の効力が生じた日)の収入です。源泉徴収税額は、支給月の通常の給与と合計して税額表で求めるか、差額を賞与として計算するか、どちらかの方法によります。
差額を過去の各月に割り戻し、月ごとに税額を計算し直す
2つの方法のどちらでもない
支給月の給与と合計するか、賞与として計算するか
どちらかを選ぶ
- 1差額の収入すべき時期は、労働協約等で定めた支給日。支給日の定めがなければ、その労働協約等の効力が生じた日です。
- 2方法(1)は、支給日(効力発生日)の属する月に支給する通常の給与と差額を合計し、「給与所得の源泉徴収税額表」で税額を求めます。
- 3方法(2)は、差額を賞与として、賞与に対する源泉徴収税額の計算方法(No.2523)で税額を求めます。
要点1 差額は「支給日」の収入。定めがなければ効力発生日
給与規程の改訂によるベースアップが過去に遡って実施されると、改訂前の給与と改訂後の給与との間に差額が生じます。この差額を一括して支給する場合の収入すべき時期は、ベースアップを取り決めた労働協約等で支給日が定められていればその支給日、支給日が定められていなければ、その労働協約等の効力が生じた日です。差額の対象となった4月や5月に戻るのではありません。
年をまたぐときに、この違いがはっきり出ます。たとえば令和8年4月に遡るベースアップの差額を、労働協約等で令和9年1月の支給日に支払うと定めていれば、その差額は令和9年分の収入です。令和8年分の年末調整をやり直すことにはなりません。一方、本来の支給日に払うべきだった残業手当の未払分を後から払う場合は、本来の各支給日の年分になり、扱いが違います(No.2509)。差額が出た理由が「規程を遡って改訂したから」なのかを、まず確かめます。
要点2 方法(1)通常の給与と合計して税額表で求める
1つ目の方法は、定められた支給日または効力が生じた日の属する月に支給する通常の給与と、差額分の給与を合計した金額について、「給与所得の源泉徴収税額表」を用いて税額を求めるものです。10月に差額を支給するなら、10月の通常の給与に差額を足し、その合計額で税額表を引きます。
この方法は、給与計算の中で1回の計算に収まるので手順が単純です。その反面、差額の分だけその月の給与が大きくなるので、税額表の上の段に当てはまり、その月の源泉徴収税額が普段より大きくなることがあります。従業員から「今月だけ税金が多い」と問い合わせを受けたときは、差額を合算した月であることを説明できるようにしておきます。
要点3 方法(2)差額を賞与として計算する
2つ目の方法は、差額分の給与を賞与として、賞与に対する源泉徴収税額の計算方法により税額を求めるものです。通常の給与の税額はいつもどおり計算し、差額だけを別に計算します。
賞与に対する源泉徴収税額の計算は、No.2523 によると、扶養控除等申告書を提出している人なら次の順番です。前月の給与から社会保険料等を差し引き、その金額と扶養親族等の数から「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」の甲欄で率を求めます。そして、賞与(ここでは差額)から社会保険料等を差し引いた金額にその率を掛けます。申告書を提出していない人は乙欄を使います。差額を通常の給与と合算しないので、その月の通常の給与の税額は普段と変わりません。
要点4 賞与として計算するなら、月額表に切り替わる2つの場面に注意
方法(2)を選ぶと、賞与の計算ルールがそのまま当てはまります。No.2523 には、算出率の表ではなく月額表を使う場面が2つあります。1つは、前月の給与(社会保険料等控除後)の10倍を超える賞与(社会保険料等控除後)を支払う場合です。賞与の金額を6(賞与の計算期間が6か月を超えるときは12)で割り、前月の給与と合計して月額表で税額を求め、前月の給与に対する税額を差し引き、6(または12)を掛けます。
もう1つは、前月に給与の支払がない場合です。賞与の金額を6(または12)で割って月額表で税額を求め、6(または12)を掛けます。休職などで前月に給与を支払っていない人に差額を支払うときは、この計算に当たります。また、No.2523 は令和9年分以後の算出率の表と月額表が改正されていることにも注意を促しています。差額を支払う時期によって、使う表の年版を確認します。
設例で確かめる
| 収入すべき時期 | 労働協約等で定めた支給日の令和8年10月25日 |
| 方法(1)で計算する場合 | 10月の通常の給与+差額30,000円の合計額に給与所得の源泉徴収税額表を当てはめる |
| 方法(2)で計算する場合 | 9月の給与(社会保険料等控除後)で算出率の表の率を求め、(30,000円−社会保険料等)× 率 |
| 前月(9月)に給与の支払がない人 | 方法(2)なら、No.2523 の「前月に給与の支払がない場合」の計算(月額表) |
| 支給日を令和9年1月と定めた場合 | 令和9年分の収入。令和8年分の年末調整はやり直さない |
どちらの方法でも、差額を過去の4月から9月に割り戻して各月の税額を計算し直すことはしません。方法(1)は10月の税額が一時的に大きくなり、方法(2)は10月の通常の給与の税額が普段どおりで、差額の税額が別に出ます。支給日を年明けにすれば、差額はその年の収入として、その年の年末調整で精算されます。
例外と注意点
よくある間違い
- 差額を過去の各月に割り戻して計算し直しているNo.2529 の方法は、支給月の給与と合計するか、賞与として計算するかの2つです。
- 差額をすべて差額の対象期間の年分にしている収入すべき時期は支給日(定めがなければ効力発生日)です。年をまたぐと年分が変わります。
- 残業手当の未払分を改訂差額と同じに扱っている本来払うべきだった未払分は、本来の各支給日の年分です(No.2509)。
- 賞与として計算するのに、差額の金額で率を引いている率を決めるのは前月の給与(社会保険料等控除後)と扶養親族等の数です。
- 前月に給与がない人にも算出率の表を使っている前月に給与の支払がなければ、6(または12)で割って月額表で計算します(No.2523)。
実務の確認手順
- 差額が出た理由を確認したか給与規程の遡及改訂(ベースアップ)による差額か、本来払うべきだった未払分かを確認する。
- 支給日の定めを確認したか労働協約等で差額の支給日を定めているか確認し、定めがなければ効力が生じた日を確認する。
- 計算方法を決めたか通常の給与と合計して税額表で求めるか、差額を賞与として計算するかを決める。
- 賞与として計算する場合の前提を確認したか前月の給与の有無、前月の給与の10倍を超えるかどうか、計算期間(6か月超かどうか)を確認する(No.2523)。
- 源泉徴収の時期と税額表の年版を確認したか実際に支払う際に源泉徴収し(No.2526)、令和9年分以後は改正後の表を使っているか確認する。
根拠と関連記事
結論欄の評価は TaxJudge 編集部の目安です。頻出度=給与・経理の実務でこの論点に出会う頻度(★5:ほぼ毎月〜★1:まれ)。難易度=基礎:原則を知れば判断できる/標準:例外や他の制度との関係まで見る必要がある/応用:個別事情の判断や複数制度の横断が必要。
根拠:国税庁タックスアンサー No.2529 給与の改訂差額に対する税額の計算(令和8年4月1日現在法令等。所得税基本通達36-9、183~193共-5)、国税庁タックスアンサー No.2523 賞与に対する源泉徴収(令和8年4月1日現在法令等)、No.2509 給与所得の収入金額の収入すべき時期、No.2526 給与が一部未払の場合の源泉徴収(いずれも2026年10月確認)。先生とハルカは架空の人物で、会話は制度を理解するための学習用です。個別の判断は国税庁の原文と最新の法令で確認してください。
Q&A
読んだ内容の確認用です。質問を押すと答えが開きます(全10問)。
Q1給与の改訂差額とは、どのような状況で発生するものですか?答えを見る ▼閉じる ▲
給与規程の改訂によりベースアップが過去に遡って実施される場合に発生します。この際、改訂前の旧給与と改訂後の新給与との間に生じる差額のことを指します。
Q2この学習内容が対象としている税目は何ですか?答えを見る ▼閉じる ▲
この資料が対象としているのは「源泉所得税」です。給与の支払い主体が、受給者に代わって徴収し納付する税額の計算について規定しています。
Q3労働協約等において支給日が定められている場合、改訂差額の「収入すべき時期」はいつになりますか?答えを見る ▼閉じる ▲
ベースアップを取り決めた労働協約等において支給日が定められている場合は、その定められた支給日が収入すべき時期となります。
Q4労働協約等において支給日が定められていない場合、収入すべき時期はどのように判定されますか?答えを見る ▼閉じる ▲
労働協約等に具体的な支給日の定めがない場合には、その労働協約等の効力が生じた日が収入すべき時期として扱われます。
Q5改訂差額に対する源泉徴収税額の計算方法には、大きく分けて何通りの方法がありますか?答えを見る ▼閉じる ▲
源泉徴収税額の計算方法には、2つの方法が定められています。一つは通常の給与に合算する方法、もう一つは賞与として計算する方法です。
Q6「通常の給与」と合算して計算する方法について、具体的にどのような手順で行うか説明してください。答えを見る ▼閉じる ▲
支給日または効力が生じた日の属する月に支払われる通常の給与に、差額分の給与を合算します。その合計額に対し「給与所得の源泉徴収税額表」を適用して税額を求めます。
Q7差額分を「賞与」として扱う計算方法を選択した場合、どのような基準で税額を求めますか?答えを見る ▼閉じる ▲
差額分の給与を賞与とみなして処理します。この場合、賞与に対する源泉徴収税額の計算方法を適用して、該当する税額を算出することになります。
Q8改訂差額の計算に使用される主要な表の名称を記述してください。答えを見る ▼閉じる ▲
主に「給与所得の源泉徴収税額表」が使用されます。また、賞与として扱う場合には賞与用の計算方法が用いられます。
Q9この税務処理の根拠となっている法令や通達は何ですか?答えを見る ▼閉じる ▲
所得税基本通達(所基通)36-9、および183~193共-5がこの処理の根拠法令等として挙げられています。
Q10税務上の具体的な相談が必要な場合、どのような公的機関の窓口を利用すべきですか?答えを見る ▼閉じる ▲
国税局の電話相談センターなどで相談を受け付けています。国税庁ウェブサイトの「税についての相談窓口」から詳細を確認し、電話相談等を利用することが推奨されています。
