モンスターラボホールディングス(証券コード5255)は、ソフトウェア・デジタルプロダクトの受託開発を国内外で手がける企業で、2023年3月28日に東証グロース市場へ上場しました。
同社の有価証券届出書には、387社中で最も多い57回号のストックオプション(SO)と、47件の第三者割当明細が記載されており、長期にわたる多段階の資本調達とインセンティブ設計を経て上場した実例として際立ちます。
※上場時の商号は「株式会社モンスターラボホールディングス」で、2025年4月1日付で「株式会社モンスターラボ」へ商号変更しています。本記事は2023年の上場時点の資本政策を扱います。
本記事はIPO準備会社のCFO・管理部門と、支援する会計税務専門家向けの実例研究です。
誰がいくら得をしたかではなく、発行体が長期にわたり資本政策をどう設計・開示したかを、有価証券届出書の記載に基づいて整理します。同社の株式移動・第三者割当・SO明細・価格推移は、当サイトのIPO資本政策データベースの個社カルテでも確認できます。
📈 IPO資本政策データベースβ 新規上場企業の届出書「第四部 株式公開情報」を構造化。資本政策・株式異動・新株予約権・大株主・初値を横断比較 →この記事でわかるのは、
- 57回号にわたるSOの設計
- VC・投資ファンド比率の高い株主構成
- 国内外同時のグローバルオファリングの構成
の3点です。
IPOサマリー
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 上場日/市場 | 2023年3月28日/東証グロース |
| 公開価格(仮条件) | 720円(仮条件660〜720円、当初想定620円) |
| 初値 | 1,050円 |
| 公開価格ベース時価総額 | 約241億円(=720円×上場時発行済33,501,950株。上場前発行済31,701,950株+公募1,800,000株) |
| 公募・売出し | 公募1,800,000株/売出し3,393,800株(引受人買取。国内1,816,200株+海外1,577,600株)/オーバーアロットメント779,000株 |
| 主幹事 | 大和証券 |
| 監査法人 | 三優監査法人 |
| 株価算定方式 | DCF法・類似会社比準方式・純資産方式 |
初値は表中の事実として記載しています(本文では論評しません)。
この会社の資本政策 3つの注目点
収録の中での特異点は次の3つです。
なお本記事の「57回」は、届出書上でSOと判定した新株予約権の回号数を数えたもので、回号番号の最大値を意味するものではありません。「47件」「69件」も、それぞれ第三者割当・株式移動の明細件数であり、必ずしも独立した47回・69回の取引を意味しません。
- SOと判定した回号数が57件と387社で最多(2位は23回、中央値は4回)
付与決議は2012年から上場直前の2023年1月まで、約11年にわたります。 - 第三者割当の記載が47件と最多
VC・投資ファンドや事業法人等を含む複数の割当先から段階的に資本を受け入れており、届出書記載時点のVC・投資ファンド比率41.9%は387社全体でも上位約15%の水準です。 - 筆頭株主は創業者ではなく投資ファンド
届出書記載時点(売出し前)の筆頭は投資ファンドで、創業者は第2位という構成です。
1株当たり価格指標の推移──株式移動価格・SO行使価額・公開価格
同社の届出書に記載された各価格を、株式分割調整後で代表的な時期について整理すると、次のとおりです。
| 時期 | 主なイベント | 1株当たり価格指標(分割調整後) |
|---|---|---|
| 2014年 | SO行使価額(この時期の回号) | 34円 |
| 2016年 | SO行使価額 | 179円 |
| 2017〜2018年 | SO行使価額 | 320〜698円 |
| 2019年 | SO行使価額 | 876円へ |
| 2020〜2022年 | 第三者割当・株式移動 | 698〜876円 |
| 2023年1月 | 株式分割(1株→50株)・後期SO・第三者割当 | 876円 |
| 2023年3月 | 公開価格(初値1,050円) | 720円 |
SOの行使価額(分割調整後)は34円から876円の範囲に分布しています。2016年以降は回号を追って切り上がり、2019年以降は876円前後で推移しました。上場準備後期(2020〜2022年)の第三者割当・株式移動も698〜876円で、公開価格720円に近い価格帯へ移行しています(2014年の34円など初期の付与は、この価格帯より低い水準です)。
※各価格は株式の種類、取引条件、評価目的、付与対象、時点等が異なるため、単純に同一条件の株価推移を示すものではありません。本表では株式分割調整後の価格指標を代表的な時期について整理しています。全回号の価格は個社カルテで確認できます。
📈 IPO資本政策データベースβ 新規上場企業の届出書「第四部 株式公開情報」を構造化。資本政策・株式異動・新株予約権・大株主・初値を横断比較 →ストックオプションの設計
同社の最大の特徴は、SOと判定した回号数が57件にのぼることです(届出書の新株予約権明細に基づく確認事実。387社中最多で、2位の23回、中央値4回を大きく上回ります)。
付与決議は2012年から2023年1月まで約11年にわたり、37の決議日に分散しています。行使価額(分割調整後)は34円から876円の範囲で、上場準備後期ほど高い傾向が確認できます。
税制適格SOでは、行使価額を付与契約時における1株当たりの価額以上に設定することが要件の一つとされています(租税特別措置法29条の2)。
もっとも、後期の回号ほど行使価額が高い傾向は確認できますが、本調査では各付与契約時の株価を直接確認していないため、企業価値の上昇や税制適格要件の充足を行使価額の推移だけから判断することはできません。税制適格として設計する場合には、各回号について付与契約時株価と行使価額の関係を確認する必要があると読むことができます。
SOの付与時期・行使価格の全体傾向は、387社のSO付与時期と価格設計の記事で扱っています。
上場前の資本政策イベント──第三者割当・株式移動
同社は上場までに47件の第三者割当明細(387社中最多)と69件の株式移動明細を届出書に記載しています。いずれも明細件数であり、複数の割当先へ同日・同価格で発行した場合などは、資金調達ラウンドとしては1回でも明細上は複数件になり得ます。
第三者割当の価格は701円から876円、株式移動の単価は34円から760円の範囲です。
件数の多さは、VC・投資ファンドや事業法人等を含む複数の割当先から段階的に資本を受け入れ、株式の移動も繰り返してきたことを反映していると読むことができます。上場前の株式移動・第三者割当の一般的な論点(移動価格と低額譲渡に伴うみなし譲渡・みなし贈与など)は、387社の株式移動・第三者割当の記事を参照してください。
売出し前の株主構成(届出書記載時点)
届出書記載時点(売出し前)の上位株主は、投資ファンド・VCの保有比率が高い構成です。
筆頭はJICベンチャー・グロース・ファンド1号(19.4%)で、創業者である役員・大株主個人(15.6%)が第2位、以下、DGベンチャーズ(6.2%)、日本郵政キャピタル(4.8%)、株式会社パソナ(3.2%)、株式会社山陰合同銀行(1.8%)、イーストベンチャーズの投資事業有限責任組合(1.6%)と続きます。
VC・投資ファンドの合計保有比率は41.9%と高い水準ですが、これは複数の独立したファンドの合計であり、共同して会社を支配していることを意味するものではありません。個人株主はダッシュボードと同一方針で属性表記に匿名化しています(法人名は実名)。
売出しにより、これらの株主の持分は上場時に変動します。
公募・売出しの構成──国内外同時のグローバルオファリング
公開にあたっては、公募(募集)1,800,000株、引受人の買取引受による売出し3,393,800株、オーバーアロットメントによる売出し779,000株(上限)が実施されました。売出し3,393,800株のうち、国内で販売される分が1,816,200株、海外で販売される分が1,577,600株で、後者は大和証券の関係会社等を通じて欧州およびアジアを中心とする海外市場(米国・カナダを除く)に販売される国内外同時のグローバルオファリングの形をとっています(訂正届出書 S100QEO9 の記載に基づく確認事実)。
売出人には、投資ファンドや事業法人(株式会社パソナ等)が含まれます。
※データベース側のoffering.saleShares(1,816,200株)は国内販売分のみを取得しているため、本記事では海外販売分を含む売出総数(引受人買取3,393,800株)を届出書原典から採用しています。
収録387社との比較(2026年7月時点)
| 指標 | モンスターラボHD | 収録387社の中央値等 | 位置づけ |
|---|---|---|---|
| SOと判定した回号数 | 57件 | 中央値4回 | 387社中で最多(1位) |
| 第三者割当の記載件数 | 47件 | — | 387社中で最多(1位) |
| VC・投資ファンド比率 | 41.9% | 中央値4.8% | 上位約15% |
| 潜在株式比率 | 10.35% | 中央値7.9% | 上位約24%(計算式:潜在3,658,750÷完全希薄化後35,360,700) |
※順位・中央値は、特記のない限り収録387社全体を対象とし、属性が確認されない会社は0%として含めています(VC・投資ファンド比率の中央値4.8%も、VC等がいない会社の0%を含む387社全体の中央値です)。基準日2026年7月。
SOと判定した回号数・第三者割当の記載件数の多さは、いずれも387社の中で突出しています。各軸での位置づけはIPO資本政策データベースで確認できます。
会計税務の視点
専門家が押さえる論点を、事実・一般論・限界の順に整理します(個別の判断は税理士・公認会計士への相談が必要です)。
まず事実として、同社は11年・57回号にわたりSOを付与し、行使価額(分割調整後)は34円から876円と回号ごとに異なります。
また株価算定にDCF法・類似会社比準方式・純資産方式の複数を用い、第三者割当・株式移動・SO行使価額といった各局面の価格が届出書に記載されています。
一般に、多数回・長期にわたるSOでは、税制適格として設計する場合に各回号の付与契約時株価と行使価額の関係を確認する運用が前提になり、各局面の価格の根拠づけと整合は、低額譲渡に伴うみなし譲渡・みなし贈与などのリスク管理の観点から論点になります。
ただし、届出書の記載だけでは各回号の適格・非適格、有償・無償の別や、各取引の課税関係の結論までは判断できず、取引条件・当事者関係・算定根拠を踏まえて個別に判断する必要があります。
まとめ
モンスターラボホールディングスの資本政策は、11年にわたり57回号のSOを付与し、47件の第三者割当明細でVC・投資ファンドや事業法人等から段階的に資本を受け入れ、最終的にVC・投資ファンド比率の高い株主構成のもとで国内外同時のグローバルオファリングにより上場した、という一連の流れとして読むことができます。
多数回・長期の資本調達を行う会社にとって、価格の根拠づけと要件確認をどう積み重ねるかの参照点になる実例です。
同社の各回号のSO行使価額や株式移動価格は、IPO資本政策データベースの個社カルテで時系列に確認できます。資本政策の型を横断的に俯瞰するにはIPO資本政策の実例387社を全量分析を、あわせてご覧ください。
出典・免責
本記事は、EDINET提出の有価証券届出書(新規公開時・訂正を含む。売出等の根拠は訂正届出書 )の記載に基づく実例研究です。株式数は完全希薄化後ベース、価格は株式分割調整後で整理しています。
個人株主はダッシュボードと同一方針で属性表記に匿名化し、法人名は実名で扱っています。特定銘柄の投資勧誘・個別の税務助言ではありません。個別の税務・会計判断は税理士または公認会計士にご相談ください。

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