収益認識ラボ④【設例・工事契約編】|先生と一緒に図で学ぶ設例32 工事損失引当金・原価回収基準
無料の学習ツール「収益認識ラボ④」の読み方ガイドです。ラボの設例タブから、工事契約の設例(設例32と、応用5の原価回収基準)を1つずつ、先生と生徒の会話形式で見ていきます。各行の図はラボの図そのものです。重要な節の最後には、ラボで30秒だけ手を動かす小さな実習を置いています。
📘 設例・基礎1 ラボの画面
前提条件(独自の数値・設定)
- A社(建設業)は、X1年度の期首に倉庫の建設契約を締結。工事収益総額は 8,000(契約金額の見直しはない)。工事原価総額の当初見積額は 7,600、工期は3年。
- 工事は一定の期間にわたり充足される履行義務(基準第38項)。進捗度は原価比例法で見積る。
- 工事原価総額の見積額は、X1年度末 7,700、X2年度末 8,400 に増えた。発生原価は X1 1,925・X2 4,123・X3 2,352。
- 請求は X1 2,400・X2 2,400・X3 3,200(合計は工事収益総額と同じ)。
工事収益総額8,000
X1年度末の見積額7,700
X2年度末の見積額8,400
工期3年
はじめに
設例32と原価回収基準 ── 工事の損益を年度ごとに追う
📍 ラボの場所:設例・基礎タブ 基礎1 ステップ1
ハルカ
先生、今日は工事契約の設例ですね。基礎編で、損益が 75、▲475、0 になる理由を聞きました。
先生
そうだよ。今日は設例32と同じパターンの基礎1を、年度ごとにステップで追うんだ。後半は、進捗度を見積れない初期段階の扱い(応用5)を見るよ。どちらも、3年間の合計の損益は同じなのに、年度の出方が変わるのが見どころなんだ。
ハルカ
前提の表を見ると、工事収益総額 8,000、見積額は 7,600 → 7,700 → 8,400 と2回増えています。
先生
その2回の増加が、どの年度の損益にどう効くかを、ラボのステップで1つずつ確かめていこうか。
設例・基礎タブの基礎1を開きながら読むと分かりやすいですラボで開く ▶
📘 設例・基礎1 ラボの画面
進捗度 = 1,925 ÷ 7,700 = 25%
工事収益 = 8,000 × 25% = 2,000 工事原価 1,925 → 工事利益 75
見積った工事損益は 8,000 − 7,700 = 300(利益)。工事損失は見込まれないので、引当金は計上しない。
請求 2,400 が収益 2,000 を上回るので、期末は契約負債 400。
設例32 ①
X1年度・X2年度 ── 累計の進捗度で、当期の収益を出す
📍 ラボの場所:設例・基礎タブ 基礎1 ステップ2・3
ハルカ
X1年度は 1,925 ÷ 7,700 で 25%、収益 2,000、原価 1,925 で利益 75 ですね。
先生
そうだよ。X1年度末の見積りでは工事全体で 300 の利益だから、工事損失は見込まれず、引当金は計上しないんだ。請求 2,400 が収益より先なので、期末は契約負債 400 になるよ。
迷いポイント X2年度の収益は、X2年度の原価 ÷ 見積額で出す?
ハルカ
X2年度は 4,123 ÷ 8,400 で 49% くらい、収益は 3,927 ですか。
先生
当期の原価だけで割るのではなく、累計で計算するんだ。累計原価 6,048 ÷ 8,400 で 72%、累計の収益 5,760 から X1年度の 2,000 を引いて、当期は 3,760 だよ。見積りが変わった影響は、この累計の計算の中で当期に入るんだ(基準第43項)。
ハルカ
当期の分だけ割り算していたら、3年たっても売上が 8,000 にならないところでした。大事故です。
先生
累計で計算すれば、最後の年に必ず工事収益総額にそろうよ。
💡 そうだったのか!
当期の収益は
累計の進捗度 × 工事収益総額 − 前期までの収益。X2年度は 5,760 − 2,000 = 3,760 です。
📘 設例・基礎1 ラボの画面
見込まれる工事損失 400(工事原価総額の見積額 8,400 − 工事収益総額 8,000)
− 計上済みの累計損失 288(X1年度 75、X2年度 ▲363)
= 工事損失引当金 112
工事損失のうち、既に計上した損益を除いた残額を、損失が見込まれた期の損失として処理し、工事損失引当金を計上する(適用指針第90項)。
繰入額は売上原価に含め、引当金は流動負債に表示する(第106項)。X2年度の損益は ▲363 − 112 = ▲475。
🧾 仕訳で確認(X2年度)
X2年度:工事損失引当金の繰入(適用指針第90項)| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|
| 売上原価 | 112 | 工事損失引当金 | 112 |
設例32 ②
X2年度 ── 工事損失 400 のうち、112 を引当金に
📍 ラボの場所:設例・基礎タブ 基礎1 ステップ4
ハルカ
X2年度末に見積額が 8,400 になり、工事全体で 400 の損失です。X2年度の工事損益は 3,760 − 4,123 = ▲363 です。
先生
判定の式を見てほしいんだ。この事例には販売直接経費がないので、見込まれる工事損失は 400(工事原価総額の見積額 8,400 − 工事収益総額 8,000)。計上済みの累計損失は、X1年度の利益 75 と X2年度の損失 363 の差し引きで 288。だから、まだ計上していない 112 を工事損失引当金にするよ(適用指針第90項)。
迷いポイント 引当金は、工事損失 400 の全額?
ハルカ
損失が 400 なら、引当金も 400 ですよね。
先生
全額にすると、X1年度・X2年度に計上済みの分と二重になるんだ。引当金は「まだ損益に出ていない残り」だけだよ。X2年度の損益は ▲363 − 112 = ▲475、X1年度の 75 と合わせて、累計で ▲400 になっているね。
ハルカ
112 は、まだ発生していない損失なのに、X2年度に先回りして顔を出すんですね。せっかちな損失です。
先生
見込まれた時点で知らせるのが、引当金の仕事なんだ。
💡 そうだったのか!
引当金 =
見込まれる工事損失 400 − 計上済みの累計損失 288 = 112。全額ではなく、まだ損益に出ていない残りだけです。
⏱ 30秒だけラボで試す
- リンクから「工事契約」のシミュレーションを開く(基礎1の数字)
- 右の「X2年度末の工事原価総額の見積額」を 8,400 から 8,800 に変える
👀 進捗度が 72% → 68.7% に下がり、工事損失引当金が 112 → 250、損益は X2 ▲875/X3 400 になります。実際の原価合計は 8,400 のままなので、見積りを大きくしすぎた分が X3年度に利益として戻ります(合計 ▲400 は同じ)。
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📘 設例・基礎1 ラボの画面
工事収益 = 8,000 − 5,760 = 2,240 工事原価 2,352 → 工事損益 ▲112
工事損失引当金の取崩し 112 → X3年度の損益 0
X3年度に生じた工事損失 ▲112 は、X2年度に引当金として計上済み。引当金を取り崩して売上原価から控除するので、X3年度の損益はゼロになる。
3年間の損益の合計は 75 + ▲475 + 0 = ▲400。損失は全額、見込まれたX2年度に計上されている。
貸借対照表:工事損失引当金 112(X2年度末)は流動負債に表示する。同じ工事の棚卸資産(未成工事支出金など)があれば、相殺して表示することもできる(適用指針第106項)。
損益計算書:繰入額 112 は売上原価に含める(第106項)。
注記:当期の工事損失引当金繰入額 112。棚卸資産と両建てか相殺かと、その額も注記する(第106-9項)。
設例32 ③
X3年度と表示 ── 取崩しで損益ゼロ、引当金は流動負債
📍 ラボの場所:設例・基礎タブ 基礎1 ステップ5・7
ハルカ
X3年度は収益 2,240、原価 2,352 で、112 の損失が出ます。
先生
その 112 は、X2年度に引当金として計上済みなんだ。X3年度に引当金を取り崩して売上原価から引くので、X3年度の損益はゼロになるよ。
迷いポイント 引当金の繰入は、販管費や特別損失に表示する?
ハルカ
工事損失引当金の繰入は、特別損失のような気がします。
先生
繰入額は売上原価に含めるんだ。引当金は流動負債に表示し、同じ工事の棚卸資産があれば相殺して表示することもできるよ(第106項)。注記では、当期の繰入額 112 と、棚卸資産との相殺の状況を書くんだ(第106-9項)。
💡 そうだったのか!
X3年度は
取崩しで損益ゼロ。繰入額は売上原価、引当金は流動負債で、繰入額と相殺の状況を注記します。
📕 設例・応用5 ラボの画面
工事収益 = 回収が見込まれる発生原価 900 工事原価 900 → 損益 0
進捗度を合理的に見積れないが、発生費用の回収が見込まれる場合は、進捗度を合理的に見積れるようになるまで原価回収基準で収益を認識する(基準第45項)。
代替的な取扱い(適用指針第99項)は、詳細な予算が編成される前など、発生した費用に重要性が乏しい契約の初期段階に限って、収益を認識しないことを認めるもの(第172項)。この設例で X1年度の原価 900 を費用処理する前提で第99項を選ぶと、X1年度は収益ゼロ・原価 900 で損失に見える。
応用5
原価回収基準 ── 進捗度を見積れない X1年度は、利益ゼロ
📍 ラボの場所:設例・応用タブ 応用5 ステップ1・2
ハルカ
応用5は、工事収益総額 6,000、X1年度は設計段階で全体の原価が見積れない、という設定ですね。
先生
そうだよ。進捗度を合理的に見積れないけれど、発生した原価 900 は回収できると見込める。だから原価回収基準で、収益も 900、損益はゼロにするんだ(基準第45項)。
ハルカ
①編の応用編で「見積れない間は原価回収基準、利益ゼロ」と習いました。今日はそれを数字で見るんですね。
先生
よく覚えていたね。④編で加わるのは、詳細な予算が編成される前など、発生した費用に重要性が乏しい契約の初期段階に限って、収益を認識しないことができる代替的な取扱い(適用指針第99・172項)だよ。この設例で X1年度の原価 900 を費用処理する前提で第99項を選ぶと、X1年度は収益ゼロ・原価 900 で損失に見えるんだ。
迷いポイント 原価回収基準をやめた年は、どう計算する?
ハルカ
X2年度に見積れるようになったら、X2年度の分だけ進捗度で計算するんですか。
先生
累計の進捗度で計算するんだ。X2年度末は 3,500 ÷ 5,000 で 70%、累計の収益 4,200 から X1年度の 900 を引いて、当期は 3,300。X1年度に出なかった利益は、X2年度にまとめて出るよ。
ハルカ
X1年度の利益ゼロを見て、上司に「この工事、もうからないの?」と聞かれる場面が目に浮かんで、胃が痛くなりました。
先生
そのときは「見積れるまで利益を後ろに送っているだけ」と説明すればいいんだ。
💡 そうだったのか!
原価回収基準は、発生費用の
回収を見込めるときに、回収が見込まれる費用の額で収益にする方法。この事例は全額の回収を見込むので利益ゼロ。見積れるようになったら累計の進捗度で計算し、利益は後の年度に出ます。
⏱ 30秒だけラボで試す
- リンクから「工事契約」のシミュレーションを開く(応用5の数字)
- 右の「X1年度に進捗度を合理的に見積れるか」を 「見積れる(原価比例法)」 に変える
👀 損益が X1 0 → 180、X2 700 → 520、X3 300 のまま(合計 1,000 は同じ)。X1年度の収益は 900 → 1,080(進捗度 18%)になります。
ラボを開く ▶
今日の内容を、ラボで確かめてみませんか?
この記事の図は、すべて収益認識ラボ④の画面そのものです。設例タブを開けば、同じ図を見ながら、ステップを1つずつ読み返せます。
収益認識ラボ④を開く ▶今日のまとめ ── 設例ごとの結論
おわりに
今日のふりかえり
先生
今日のまとめだよ。工事の収益は累計の進捗度で計算し、見積りの変更は当期で受け止める。工事損失は、まだ損益に出ていない残りだけを引当金にする。原価回収基準は、見積れるまで利益を後ろに送る方法なんだ。
ハルカ
設例32と応用5は、どちらも3年間の合計は同じで、年度の出方だけが違いました。前は「合計が合っていればいい」と思っていたかもしれません。今日は、読む人がどの年度にどんな情報を受け取るかを考えるようになりました。
先生
そこに気づけたのは大きいね。年度ごとの損益は、経営者や投資家がその年の判断に使う数字なんだ。
ハルカ
では私の作業日報も、見積れない日は「原価回収基準により成果ゼロ」と書いて…いえ、やめておきます。
先生
日報は正直が一番だよ。次の設例・契約資産と債権編では、設例27〜29と有償支給で、受け取るお金がどの科目に入るかを見ていこうか。
参考資料
企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」(第38・41・43〜45項)/企業会計基準適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」(第90・99・106・106-9項、設例32)(いずれも企業会計基準委員会)。ラボの設例は、適用指針の設例と同じパターンを独自の数値で組み立てたものです(応用5の原価回収基準は原典に設例がなく独自)。基準確認日:2026年10月2日。
サイト内の関連:【早見表】収益認識基準・適用指針/収益認識ラボ①【応用編】(進捗度の見直しと原価回収基準・代替的な取扱い)
このシリーズの記事:基礎編/応用編/設例・契約資産と債権編(設例27〜29・有償支給)/設例・注記編(開示例1〜3)
この記事を書いた人
TaxJudge編集部|公認会計士・税理士(実務25年)による企画・監修。会計基準・税法・裁決・有価証券報告書などの一次情報をもとに、検索できるデータベースと計算・判定・文書作成ツールを制作しています。