IPO企業のストックオプション比率は平均何%?387社の潜在株式比率を全量調査

「IPO企業のストックオプション比率は平均どのくらいか」
「潜在株式比率は何%が目安か」

──IPO準備資本政策を設計する際、必ず問題になるのがストックオプション(SO)の付与量です。しかし、各社が実際にIPO時点でどの程度の潜在株式を抱えているのか、その「相場観」を示すデータはほとんど公開されていません。

そこで本記事では、2021年11月以降にEDINETへ提出された有価証券届出書(新規公開時)387社分を全量集計し、IPO時点(新規公開時の届出書記載ベース)の潜在株式比率を調査しました。元データは当サイトのIPO資本政策データベース(387社収録)で確認できます。

📈 IPO資本政策データベースβ 新規上場企業の届出書「第四部 株式公開情報」を構造化。資本政策・株式異動・新株予約権・大株主・初値を横断比較

※本記事では、一般に「ストックオプション比率」として参照される指標に近いものとして、SOを含む新株予約権等による潜在株式数を用いています。資金調達目的や社外協力者向けなどSO以外の新株予約権を含む場合があるため、厳密には「潜在株式比率」の集計です。

本記事はIPO準備会社のCFO・管理部門と、支援する会計税務専門家向けの実例研究です。

  • 潜在株式比率の分布と平均・中央値
  • 市場別・年別・SO設計別の傾向
  • 税制適格・有償SO・信託型SOの税務論点

の3つをデータで押さえます。

SOで誰がいくら得をするかではなく、発行体が希薄化をどう設計・開示しているかの視点で整理します。

目次

結論:潜在株式比率は中央値7.9%・平均7.4%、5%以上10%未満が最多

結論は次の4点です。

  • IPO時点の潜在株式比率は中央値7.9%(正確には7.85%)、平均7.4%
    4分の1が約3.9%以下、4分の3が約10.3%以下で、最も多い区分は5%以上10%未満です。
  • 分布の山は「5%以上10%未満」で387社中166社(42.9%)
    10%以上15%未満が81社、15%以上は22社にとどまります。一方、潜在株式比率が0%(IPO時点で潜在株式がない)の会社も48社(12.4%)あります。
  • 市場によって水準が明確に分かれる
    東証グロースは中央値8.6%に対し、スタンダードは4.6%、プライムは2.4%と、成長ステージが早い市場ほど潜在株式比率が高い傾向です。
  • 信託型SOを導入した会社は潜在株式比率が高め
    信託SOあり64社の中央値9.7%に対し、なし323社は7.1%(市場構成等を調整しない単純比較)。信託型SOの課税や有償SOの会計処理など、SO設計は税務・会計論点と直結します。

以下、潜在株式比率の意味、集計の中身、届出書の実例、専門家が押さえる論点を順に整理します。

潜在株式比率とは何か──希薄化を測る指標

潜在株式比率とは、ストックオプション(新株予約権)などの潜在株式が、完全希薄化後の株式数(発行済株式+潜在株式)に占める割合です。

本記事では「潜在株式数÷(発行済株式数+潜在株式数)」で算定しています。

対象となる新株予約権等がすべて行使され、潜在株式が株式化されたと仮定した場合に、既存株主の持分がどの程度希薄化するかを示す指標で、IPO準備では「インセンティブとして十分か」と「希薄化が過大でないか」のバランスを測る物差しになります。

潜在株式の大半は役員・従業員へのインセンティブSOですが、資金調達目的の新株予約権や、社外協力者向けの新株予約権も含まれます。この点で、本記事の潜在株式比率は俗に言う「SO比率」より広い概念です。

SOの発行状況(発行回数・行使価額・付与対象)は届出書の新株予約権の注記に記載され、本記事の集計はこれを構造化したものです。SO自体の税制(税制適格の要件)は、姉妹記事税制適格ストックオプションの解説で詳しく扱っています。

【387社集計】IPO時点の潜在株式比率の分布

調査の概要

  • 調査対象
    2021年11月〜2026年7月にEDINETへ提出された新規公開時の有価証券届出書の対象候補のうち、第四部「株式公開情報」の記載がない投資法人等を除く387社。TOKYO PRO Market上場は対象外。本記事の「全量」はこの387社を指します
  • 指標の定義
    潜在株式比率=潜在株式数÷完全希薄化後株式数(発行済株式数+潜在株式数)。新規公開時の最終届出書記載ベースの値(提出後の行使・失効等は反映しません)
  • 市場区分
    上場時の市場表記を基準に、旧マザーズはグロースに含め、東証スタンダード・東証プライムはそのまま、旧東証一部・二部・JASDAQ・地方市場等は「その他」に分類
  • 留意事項
    機械抽出・分類を含むため、個別案件の判断ではEDINET原文の確認を推奨します。潜在株式には新株予約権全般を含み、SO以外の新株予約権がある場合も合算しています

なお、SOの記載がある会社は387社中338社です。潜在株式比率との関係を整理すると、潜在株式比率が0%を超える339社のうち、332社はSOを含む新株予約権によるもので、7社はSO以外の新株予約権のみが確認されました。

逆に、SOの記載はあるがIPO時点で潜在株式が実質的に残っていない会社が6社あります。このように「SOの記載社数(338社)」と「潜在株式比率が0%超の社数(339社)」は一致しません。これも、本記事の指標がSOに限らない潜在株式ベースであることの表れです。

潜在株式比率の区分会社数387社比
0%(IPO時点で潜在株式なし)48社12.4%
0%超〜5%未満70社18.1%
5%以上〜10%未満166社42.9%
10%以上〜15%未満81社20.9%
15%以上22社5.7%

代表値でみると、中央値7.85%、平均7.4%、25%点3.85%、75%点10.29%、90%点13.0%、最大は21.74%です。

「5%以上10%未満」が最も多く、全体の4割を占めます。

潜在株式比率10%は本調査の75%点付近に当たり、収録企業の中では比較的高めの水準です。実務で「10%前後」が一つの目安として言及されることがありますが、一律の適正値を意味するものではなく、成長段階・市場・採用方針・既存株主への希薄化などを踏まえて検討する必要があります。

0%の会社が12.4%ある点も含め、適正水準は一律ではなく、成長ステージ・市場・インセンティブ方針によって幅があることがデータから読み取れます。

市場別・年別でみる潜在株式比率

上場市場社数潜在株式比率の中央値
東証グロース(旧マザーズ含む)283社8.6%
東証スタンダード63社4.6%
東証プライム13社2.4%
その他(旧東証一部・二部・JASDAQ・地方市場等)28社4.4%

グロースは高く、スタンダード・プライムは低い

成長段階が早く、人材獲得のためにSOを厚めに設計する会社が多いグロース市場では、潜在株式比率の中央値が8.6%と高くなります。

一方、業歴が長く既存株主の持分が固まっているスタンダード・プライム市場では、中央値が4.6%・2.4%と低い水準です。

ただしこれは市場別の記載傾向を示すもので、市場区分が潜在株式比率を決めるという因果関係を検証したものではありません。

年別では7〜9%台で安定、明確なトレンドはない

提出年別の中央値は、2021年8.2%、2022年7.4%、2023年7.9%、2024年7.4%、2025年8.3%、2026年8.9%で、おおむね7〜9%台で安定しています。

なお、2021年は11月以降、2026年は7月までの部分集計です。各年の上場市場構成も異なるため、時系列的な上昇・低下トレンドを示すものとまでは言えません。

SOの発行回数・信託型SO・有償SO

SOの記載がある338社を対象に、SOの発行回数(データベース上SOと判定した新株予約権の回号数)を集計すると、中央値4回、平均5.1回で、上場までに複数回にわけて段階的に付与する会社が主流です。最多では57回にわたって発行した会社もありました。

SOの設計別にみると、信託型SO(信託を通じて新株予約権を取得・管理し、後に受益者〔付与対象者〕を指定することを可能にする仕組み)を導入した会社は64社有償SO(付与対象者が新株予約権の払込金額を支払って取得するSO)を発行した会社は94社ありました。

信託型SOを導入した会社の潜在株式比率の中央値は9.7%と、導入していない会社(7.1%)より高い水準です。

ただしこれは市場区分・企業年齢・業種等を調整していない単純比較であり、信託型SOの導入が潜在株式比率を高めるという因果関係を示すものではありません。また、信託型SO64社と有償SO94社には両方に該当する会社(40社)が含まれ、各社数は重複を含みます。

実例でみる潜在株式比率とSO設計(データベース収録事例から)

代表的な事例を紹介します。数値は届出書記載に基づき、EDINET原文を確認できます。各社のSO明細・資本政策の全体像はIPO資本政策データベースの個社カルテで確認できます。

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潜在株式比率が高い会社(15%以上・22社)

IPO時点の潜在株式比率が20%前後に達する会社もあります。

ジャパンワランティサポート(7386)は約20.6%で有償SOを、株式会社ABEJA(5574)は約19.8%で信託型SOと有償SOの双方を活用しています。エコナビスタ(5585)は約20.5%でした。

潜在株式比率が高い会社は、SO設計を人材獲得の中核に据える一方、株式価値の希薄化や上場後の株式需給・株価形成への影響について適切に説明・開示することがより重要になります。

潜在株式比率が0%の会社(48社)

IPO時点で潜在株式がない会社も48社(12.4%)あります。

創業者・オーナーの持分が厚くSOに依存しない資本政策の会社や、上場前にSOがすべて行使・消却された会社などが含まれる可能性があります(48社を個別に確認したものではありません)。

潜在株式比率は「高いほど良い/低いほど良い」という指標ではなく、インセンティブ方針と希薄化管理の結果として理解すべきものです。

税務・会計の論点──SO設計は課税関係と直結する

潜在株式比率の背後にあるSO設計は、税務・会計の取扱いと不可分です。専門家が押さえるべき論点を整理します。いずれも一般論であり、個別の判断は税理士・会計士への相談が必要です。

論点1:税制適格ストックオプションの要件

税制適格SOでは、権利行使時に課税されず、株式譲渡時まで課税が繰り延べられます。

要件の一つが、権利行使価額を付与契約時の1株当たりの価額以上に設定することです(租税特別措置法29条の2)。非上場株式の契約時の価額の算定は、国税庁「ストックオプションに対する課税(Q&A)」の解説を参照してください。

要件全体の充足は税制適格SOの要件判定ツールで一次チェックでき、個別の適格性判断は税理士への相談が必要です。行使価額の設定と株価算定の関係は、姉妹記事未上場株式の株価算定方法でも扱っています。

論点2:信託型ストックオプションの課税

信託型SOは、付与のタイミングや対象者を後から柔軟に決められる設計として広がりました。

この点について、2023年に国税庁が税制非適格型の課税関係をQ&Aで明確化し、発行会社等の役職員が労務の対価として取得する場合には、権利行使時の経済的利益が給与所得として課税されることが示されました。

一方、一定の要件を満たす信託型SOは税制適格SOとして扱われる場合があり、また税制非適格型でも、請負等の役務提供の対価として取得する場合には事業所得・雑所得となる場合があります。

したがって、「信託型」であることだけから給与課税の有無を判断することはできず、付与対象者、信託契約、付与決議、行使条件などの確認が必要です。本調査で信託型SOの導入が確認された64社についても、課税関係は個社ごとの確認を要します。

論点3:有償ストックオプションの会計処理

有償SO(付与対象者が新株予約権の払込金額を支払って取得するSO)のうち、従業員等を付与対象とし、勤務条件や業績条件等が付された権利確定条件付き有償新株予約権については、実務対応報告第36号の適用対象となる可能性があります。

対象となる場合には、従業員等から受けるサービスの対価ではないことを企業が立証できない限り、ストック・オプションとして扱い、サービス取得に応じた費用を計上します。

本調査の94社は届出書上「有償SO」と判定された会社数であり、94社すべてについて費用計上が必要であることを意味しません。個別の該当性は権利確定条件の内容に応じて判断します。

IPO準備会社・専門家のための実務チェックポイント5つ

ポイント1:自社の潜在株式比率を先行387社の分布の中に置く

潜在株式比率の中央値は7.85%、4分の3が約10.3%以下です。

自社の比率が分布のどこに位置するかを確認し、過大・過小の説明材料にしてください。市場別(グロース8.6%・スタンダード4.6%)の水準差も踏まえる必要があります。

ポイント2:SOの付与は「IPO時点の希薄化」から逆算して設計する

SOは記載のある会社で中央値4回にわたり段階的に付与されます。

各回の付与量が積み上がった結果がIPO時点の潜在株式比率になるため、初期に付与しすぎると後の調整が難しくなります。上場時の目標比率から逆算した付与計画が重要です。

ポイント3:税制適格要件は付与のたびに確認する

税制適格SOの行使価額要件は付与契約時の株価に紐づきます。

株価が上昇する局面では、後の回号ほど行使価額を高く設定する必要があります。付与のたびに株価算定と要件充足を確認してください。

ポイント4:信託型SOは最新の課税取扱いを前提に設計する

信託型SO2023年の国税庁Q&Aによって課税上の取扱いが明確化されました。

既存の信託型SOを保有する場合・新規に設計する場合とも、付与対象者や契約内容に応じた課税関係(給与所得となる場合を含む)を、最新の取扱いを前提に確認してください。

ポイント5:潜在株式比率の開示は「公開される前提」で整える

新株予約権目的行使条件など、潜在株式と希薄化に関する情報は届出書に記載されます。

これらの情報から潜在株式比率も算出できるため、比率の高さ・低さについて合理的な説明ができる状態にしておくことが重要です。同市場・同業種の先行事例の水準はIPO資本政策データベースで参照・比較できます。

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よくある質問(FAQ)

Q1. IPO企業のストックオプション比率の平均は何%ですか?

本調査(387社)では、IPO時点の潜在株式比率は中央値7.85%、平均7.4%でした。

最も多い区分は「5%以上10%未満」で全体の42.9%を占めます。ただし市場によって水準が分かれ、東証グロースの中央値8.6%に対し、スタンダードは4.6%、プライムは2.4%です。なお、この指標はSOに限らず新株予約権全般による潜在株式を含みます。

Q2. 潜在株式比率は何%が目安ですか?

一律の正解はありません。

本調査では4分の3の会社約10.3%以下、4分の1が約3.9%以下でした。10%は本調査の75%点付近で、収録企業の中では比較的高めの水準です。0%の会社も12.4%あります。インセンティブ方針・成長ステージ・想定市場を踏まえて設計し、先行事例の分布を比較材料にするのが実務的です。

Q3. 潜在株式比率が高いと上場審査で不利になりますか?

比率が高いこと自体が直ちに問題になるわけではありませんが、既存株主の希薄化上場後の株式需給・株価形成への影響について合理的な説明・開示が求められます。

SOの付与目的・付与対象・行使条件が整合的に説明できることが重要です。

Q4. 信託型SOと有償SOはどのくらいの会社が使っていますか?

本調査では、信託型SOの導入が確認された会社は64社、有償SOを発行した会社は94社でした(両方に該当する40社を含みます)。

信託型SOを導入した会社の潜在株式比率の中央値は9.7%で、導入していない会社(7.1%)より高い傾向ですが、市場・企業年齢等を調整しない単純比較です。信託型SO2023年の国税庁Q&Aにより課税上の取扱いが明確化されているため、設計時に最新の取扱いの確認が必要です。

Q5. 税制適格SOかどうかは届出書でわかりますか?

届出書には新株予約権の発行数・行使価額・行使期間などが記載されますが、税制適格か非適格かが一律に明記されるわけではありません。

本記事でも適格割合の集計は行っていません。適格性は行使価額と付与契約時株価の関係など要件に照らして個別に判断する必要があり、要件判定ツールや税理士への相談で確認してください。

まとめ:潜在株式比率は「先行387社の分布」と税務の両面で設計する

本記事の要点を整理します。

  • IPO時点の潜在株式比率は中央値7.85%・平均7.4%。最も多いのは「5%以上10%未満」で42.9%、0%の会社も12.4%ある。
  • 市場別の中央値はグロース8.6%・スタンダード4.6%・プライム2.4%と、成長ステージが早い市場ほど高い。年別では7〜9%台で安定。
  • SOは記載のある338社で中央値4回にわたり段階的に付与。信託型SO導入64社の中央値は9.7%と高め(単純比較)、有償SOは94社(信託型との重複40社を含む)。
  • 税制適格の行使価額要件、信託型SOの課税(2023年の国税庁Q&Aによる明確化)、有償SOの会計処理は、SO設計と不可分の論点。

次の一歩として、IPO資本政策データベースで自社(または支援先)と同じ市場・業種の会社の潜在株式比率とSO明細を確認し、自社のインセンティブ設計と希薄化管理の比較材料にしてください。387社の先行事例は、SO設計の最も具体的な参照点になります。

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参考一次情報

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