未消化有給休暇の引当金|IFRS初度適用47社の調整額を実額で検証

未消化の有給休暇について、日本基準では一般に引当金が計上されていない一方、IFRSでは累積型の有給休暇について負債を認識する。この差異は制度解説として広く知られていますが、では実際に移行日の調整額はいくらだったのでしょうか。金額を並べた資料はほとんど見つかりません。

結論を先に言えば、

日本でIFRSを初度適用し、有給休暇を明示した調整項目を個別に開示した47社は47社すべてが資本を減らす方向でした。

合計△1,308億円、中央値△4億円です。最大はパーソルホールディングスの△359億円で、同社の日本基準純資産の17.6%に相当します。

この記事では、有価証券報告書のIFRS第1号「初度適用」注記=資本の調整表から47社の金額を集計します。手元に残るのは、

  • 移行日の調整額の分布
  • 日本基準純資産の何%という規模感の目安
  • 自社の影響額を見積もる手順

の3点です。

目次

解説動画

スライド解説

結論:有給休暇を明示した調整項目を開示した47社は、47社すべてが資本を減らす方向でした

全体像を示します。

  • 本調査64社のうち、有給休暇を明示する調整項目を個別開示した47社は、47社すべてが資本を減らす方向でした
    プラスの会社もゼロの会社も1社もありません。合計△1,308億円、中央値△4億円、単純平均△28億円です。母集団は本調査で収録した初度適用64社(日本基準からの移行60社/米国基準からの移行4社)です。
  • 未消化有給休暇は、本調査64社の分類のなかで最も開示社数が多い調整項目です
    税効果の36社、有形固定資産と金融商品の各33社、退職給付の26社を上回ります。
  • 金額の分布は極端に偏っています
    中央値△4億円に対して単純平均は△28億円で、人材サービスや輸送用機器の大手が合計を押し上げています。

47社が同じ方向に出た背景は、この項目の会計上の位置づけから素直に説明できます。ただしこれはあくまで本調査で確認できた範囲の観測結果であり、すべての会社で必ずマイナスになると保証するものではありません。順に見ていきます。

先に前提:本記事の「実額」が何を指すか

本記事でいう「実額」は、各社の初度適用注記において有給休暇関連の項目として個別表示された、移行日の利益剰余金(資本)に対する調整額です。財政状態計算書に表示される有給休暇負債の残高とは必ずしも一致しません。

また、会社により税効果控除前・控除後が混在し、一部には有給休暇以外の従業員給付が含まれています。合計△1,308億円や中央値△4億円は各社開示ベースの参考集計であり、税効果の前後を統一した厳密な横比較値ではありません。

原文を確認した範囲では、次のような違いがあります。

  • 集計対象の判定……
    項目名または注記の説明で有給休暇が明示されている調整項目だけを集計しました。有給休暇に触れず「その他の長期従業員給付」とのみ説明されている項目は、一次資料から有給休暇の金額と特定できないため除外しています(ワコールホールディングスの「その他の長期従業員給付債務の認識に係る調整」△2.9億円、愛知製鋼の「その他の長期従業員給付の認識」△4.4億円の2件。ワコールホールディングスは他に有給休暇の項目がないため、社数からも外れます)。

    この結果、集計対象は47社・47項目で、いずれも日本基準からの移行です。
  • 税効果を別行に表示している会社(項目別の金額は税効果控除前)……
    パーソルホールディングス、ヤマハ発動機、資生堂
  • 項目別の金額が税効果控除後の会社……
    スズキ、大同特殊鋼、いすゞ自動車。大同特殊鋼は注記に「各項目の調整額については、税効果反映後の値となっております」と明記されています。
  • 有給休暇以外を含む項目名……
    大同特殊鋼(一定の勤務年数を条件として付与される報奨品等を含む)、いすゞ自動車(その他の長期従業員給付を含む)。

    なおヤマハ発動機の項目名は「従業員給付(退職給付を除く)に対する調整」と広い一方、注記の説明は未消化有給休暇のみを理由としています。

なぜIFRSでは未消化有給休暇が負債になるのか

IAS第19号「従業員給付」は、有給休暇従業員給付として扱います。

ポイントは累積型(未消化分が翌期に繰り越される型)かどうかです。

累積型の場合、従業員が将来の有給休暇の権利を生じさせる勤務を提供した時点で債務が発生していると考え、休暇を取得した期ではなく勤務を提供した期に費用と負債を認識します。

測定は、報告期間末日時点で累積した未使用の権利の結果として、企業が追加的に支払うと見込まれる額によります(第13項〜第16項、IFRS Foundation|IAS 19 Employee Benefits)。

残日数の全量に日額単価を掛けることを求める規定ではない点は、最初に押さえておくべきところです。

なお実務では「有給休暇引当金」という呼称が一般的ですが、IFRS上はIAS第37号の引当金ではなく、IAS第19号に基づく従業員給付に係る負債です。日本基準の引当金の議論とそのまま重なるわけではありません。

日本の年次有給休暇労働基準法第39条に基づく制度で、未消化分の翌年度への繰越しが認められています(請求権の消滅時効は同法第115条により2年で、繰り越されるのは前年度分のみです)。つまり日本企業の有給休暇は基本的に累積型に当たり、IAS第19号の下では負債の認識が必要になります。

日本基準では明文の規定がないという状態

一方の日本基準には、有給休暇引当金を正面から定めた会計基準が存在しません。

企業会計基準委員会(ASBJ)が2009年9月に公表した「引当金に関する論点の整理」第43項は、有給休暇について「これまで我が国においては、一般的に有給休暇引当金は計上されてこなかったが、我が国における労務制度や慣行の実態を考慮しつつ、国際的な会計基準とのコンバージェンスも勘案して取扱いを検討する必要があるものと考えられる」と述べています(ASBJ|引当金に関する論点の整理)。

これは論点の整理であって最終的な会計基準ではなく、その後に基準化はされていません。

移行日に一度だけ、まとめて資本に落ちる

移行前の基準で負債を認識していなかった会社では、その差額が移行日利益剰余金から控除されるため、資本の調整表にマイナスとして現れます。移行前にすでに何らかの負債を認識していた場合や、他の従業員給付と合算して表示している場合は、この限りではありません。

そして初度適用の調整表は、原則として最初のIFRS財務諸表(適用初年度の有価証券報告書)に掲載されます

IFRS第1号は適用初年度の期中報告についても一定の開示を求めていますが、通年の金額をまとめて確認できるのは、会社ごとに事実上一度きりです(IFRS Foundation|IFRS 1 First-time Adoption)。

【実額】有給休暇関連の調整額が大きかった6社

47社のうち金額が大きかった上位6社です。有報では百万円単位の開示ですが、ここでは億円に換算しました。原文の項目名は会社ごとにばらつくため、そのまま併記します。

冒頭で触れたとおり税効果の前後と対象範囲が揃っていないため、金額を単純に横比較することはできません。

会社(証券コード)業種適用初年度調整額有報の原文項目名税効果と対象範囲
パーソルホールディングス(2181)サービス業2024年3月期△359億円未払有給休暇税効果は別行(控除前)
スズキ(7269)輸送用機器2025年3月期△144億円未払有給休暇に対する調整税効果控除後
ヤマハ発動機(7272)輸送用機器2024年12月期△133億円従業員給付(退職給付を除く)に対する調整税効果は別行(控除前)/注記の説明は未消化有給休暇
資生堂(4911)化学2022年12月期△118億円未払有給休暇の調整税効果は別行(控除前)
いすゞ自動車(7202)輸送用機器2025年3月期△101億円未消化の有給休暇及びその他の長期従業員給付税効果控除後/その他の長期従業員給付を含む
大同特殊鋼(5471)鉄鋼2024年3月期△60億円未払有給休暇等に対する調整税効果控除後/勤務年数を条件とする報奨品等を含む

出典はいずれも各社の適用初年度の有価証券報告書、注記「初度適用」の資本に対する調整表です。EDINETで原文を確認する場合の書類は次のとおりです(括弧内は書類管理番号)。

原文項目名がばらつくため検索では拾いきれません

目立つのは項目名の不統一です。同じ内容が「未払有給休暇」「未消化の有給休暇」「従業員給付(退職給付を除く)に対する調整」と三通りに表現されています。

いすゞ自動車や大同特殊鋼のように他の従業員給付を合算した項目名の会社では、金額に有給休暇以外の要素が含まれています。逆にヤマハ発動機のように、項目名は広くても注記の説明は有給休暇だけという会社もあります。

項目名だけで機械的に集計すると、拾い漏れと過大計上の両方が起きるため、注記の説明文まで読む必要があります。

上位は人材サービスと輸送用機器に集まっています

金額上位6社のうち3社が輸送用機器で、首位は人材サービスのパーソルホールディングスです。

従業員数が多く賃金単価も低くない業種で金額が大きくなる、という素直な結果です。ただし絶対額は会社の規模に引きずられるため、自社に当てはめるには次の比率のほうが役に立ちます。

【規模感】日本基準純資産の何%になるのか

自社に当てはめるときに欲しいのは、絶対額よりも「純資産に対してどれくらいか」という目安です。日本基準純資産に対する比率が大きかった上位6社を挙げます。

会社(証券コード)業種調整額日本基準純資産に対する比率
INEST(3390)卸売業△1億円41.9%
パーソルホールディングス(2181)サービス業△359億円17.6%
夢真ビーネックスグループ(2154)サービス業△11億円7.2%
LITALICO(7366)サービス業△4億円7.1%
日本工営(1954)サービス業△31億円5.2%
BIPROGY(8056)情報・通信業△57億円4.7%

EDINETで原文を確認する場合の書類は次のとおりです。

人的サービスへの依存度が高い業種で比率が跳ね上がります

上位6社のうち4社がサービス業、1社が情報・通信業です。人材派遣、建設コンサルタント、システムインテグレーターと、人的サービスへの依存度が高い業種が並びます。

共通するのは従業員数に対して純資産が薄い構造です。有給休暇に係る債務の金額は従業員数、賃金単価、未消化日数、将来の取得・失効見込みなどに左右される一方、純資産の厚みは事業モデルで違うため、労働集約型では比率が上がります。

ただし多数派は中央値△4億円の世界です

47社の中央値△4億円は、単純平均の△28億円と大きく離れています。

INESTの41.9%という比率も、調整額そのものは△1億円です。つまり比率が大きく出るのは純資産が小さい会社であって、金額としては軽いケースが含まれます。有給休暇に係る負債の認識でIFRS移行の判断が揺らぐ水準になるのは、あくまで一部の会社ですと考えられます。

なお本調査は64社を収録していますが、うち1社は資本の調整表の金額が未収録のため、資本増減の集計対象は63社です。63社の資本増減率の中央値は△1.7%で、増加20社、減少43社という分布です。未消化有給休暇はその減少側を押す常設要因の一つという位置づけになります。

47社分の内訳はIFRS移行影響ナビで会社別・項目別に確認できます。

他の調整項目と比べたときの特異性

「全社マイナス」がどれほど珍しいのか、主な項目と並べて確認します。

調整項目開示社数マイナス/プラス/ゼロ合計中央値
未消化有給休暇等(有給休暇を明示した調整項目)47社47社/0社/0社△1,308億円△4億円
税効果36社12社/24社/0社△21,282億円1億円
有形固定資産33社15社/18社/0社1,596億円0億円
金融商品33社8社/24社/1社8,124億円1億円
退職給付26社21社/5社/0社△5,261億円△20億円
リース23社14社/8社/1社△49億円△0億円
のれん・無形資産17社14社/3社/0社△2,351億円△6億円
収益認識14社10社/4社/0社△174億円△0億円
賦課金11社11社/0社/0社△175億円△10億円
株式に基づく報酬10社10社/0社/0社△105億円△2億円

有形固定資産や金融商品は、みなし原価の適用や公正価値測定の方向によってプラスにもマイナスにも振れます。退職給付も21社がマイナスである一方、5社はプラスでした。

本調査で方向が例外なく一つに揃っているのは有給休暇を明示した調整項目、賦課金株式に基づく報酬の3項目ですが、賦課金は11社、株式に基づく報酬は10社にとどまります。47社という広い母数で例外がゼロだったのは、有給休暇を明示した調整項目だけです

実務的には見積りの当たりを付けやすいという意味を持ちます。他の項目が「どちらに出るか会社次第」であるのに対し、本調査の47社では方向が一方向に揃っていたため、まずは金額の桁を詰める作業から入りやすい項目だと言えます。

【個社】調整額全体の中で有給休暇はどの位置にあるか

有給休暇が資本の増減に占める重みは会社ごとに大きく違います。8社を並べます。各社の内訳は税効果の扱いが揃っていないため、同じ行の中での大小関係の把握に使ってください。

会社日本基準の純資産IFRSの資本資本の増減額うち有給休暇有給休暇以外の最大項目
パーソルホールディングス2,044億円1,775億円△269億円△359億円繰延税金資産・負債 +98億円
BIPROGY1,226億円1,042億円△184億円△57億円退職給付に係る調整 △144億円
日本工営602億円652億円+50億円△31億円有形固定資産の計上額の調整 +88億円
ヤマハ発動機10,497億円10,146億円△351億円△133億円棚卸資産に対する調整 △334億円
資生堂5,066億円4,913億円△153億円△118億円退職後給付の調整 △185億円
いすゞ自動車15,102億円14,344億円△758億円△101億円開発資産の計上 +221億円
ニトリホールディングス8,181億円7,568億円△613億円△28億円のれん及び非金融資産の減損 △327億円
メルカリ377億円382億円+6億円△13億円株式報酬 △19億円

EDINETで原文を確認する場合の書類は次のとおりです。

パーソルホールディングスは有給休暇だけで資本減少額を超えています

同社の資本減少額は△269億円ですが、未払有給休暇の調整は△359億円です。

有給休暇単独の影響が資本減少額より大きく、繰延税金資産・負債の+98億円や無形資産の償却取消の+24億円がそれを一部戻している構図です。資本の減少要因が実質的に一項目に集中している点で、47社の中でも特異な例と言えます。

資本が増えた会社でも有給休暇はマイナスです

日本工営は資本が602億円から652億円へ50億円増えていますが、未払有給休暇の調整は△31億円です。有形固定資産の調整+88億円が全体を押し上げた結果、資本は増加に転じました。

メルカリも資本は+6億円ですが、未払有給休暇は△13億円です。資本が増えた会社でも有給休暇はマイナスに出る、という47社の結果がここに現れています。

税効果との関係をどう押さえるか

有給休暇に係る負債は、計上した時点では日本の税務上の損金になりません
法人税法上、販売費・一般管理費等は債務が確定していることが損金算入の要件とされているためです(国税庁|No.5387 販売費、一般管理費その他の費用における債務確定の判定)。

将来において損金算入される部分については将来減算一時差異となり、回収可能性を満たす範囲繰延税金資産を認識することになります(IFRS Foundation|IAS 12 Income Taxes)。

ただし、初度適用注記から「有給休暇に対応する繰延税金資産がいくらか」を直接読み取ることはできません。開示されている税効果の行は、有給休暇を含む複数の移行調整に係る税効果や、繰延税金資産の回収可能性の再検討等を集約したものだからです。

参考として、有給休暇の金額が大きかった会社の税効果の行は、資生堂が+168億円、パーソルホールディングスが+98億円、ヤマハ発動機が+87億円です。これらの金額や符号を、有給休暇単独の税効果と解釈することはできません。

さらに厄介なのが、内訳表の税効果の扱いが会社によって違う点です。

項目別の金額を税効果控除前で示して税効果を一行に集約する会社(パーソルホールディングス、ヤマハ発動機、資生堂など)と、各項目を税効果控除後で示す会社(スズキ、大同特殊鋼、いすゞ自動車など)があります。複数社の金額を横に並べるときは、税効果前後のどちらのベースかを必ず確認してください

自社の影響額を見積もる5ステップ

IFRS移行を検討している会社、日本基準で計上の必要性を検討している会社が手を動かす順序です。

ステップ1:人事システムから3つの数字を取り出す

必要なのは期末時点の
①付与日数
②取得日数
③繰越日数

です。

多くの勤怠システムは従業員別の残日数を保持しているため、まずその合計を出します。残日数と平均日額を掛けるだけの粗い試算は上限側の目安ですが、億円単位なのか数千万円単位なのかを判断するには十分です。

実際の測定はステップ2以降で絞り込みます。

ステップ2:単価の定義を先に決める

日額単価の置き方で金額が動きます。基準内賃金だけで計算するのか、法定福利費の会社負担分を上乗せするのか、賞与相当を含めるのかという論点です。

IAS第19号は「未使用の権利が累積した結果として企業が追加的に支払うと見込まれる額」で測定することを求めているため、休暇の取得に伴って企業が追加的に負担する金額に当たるかどうかで、含める・含めないを判断します

一律に法定福利費を含める、賞与相当を含めるといった決まりがあるわけではありません。

ステップ3:将来の取得・失効の見込みを検討する

金額に効くのは消化率だけではありません。次の各点を整理してから金額に落とします。

繰越しと失効の条件(日本では繰り越されるのは前年度分のみで、請求権の消滅時効は2年)
・休暇を取得したときに、当年度の付与分と繰越分のどちらから充当する運用になっているか
・退職までに消化されず権利が失われる可能性
・過去の取得実績と、取得促進の施策による将来の取得率の変化
対象となる賃金の範囲と、法定福利費など企業が追加的に負担する費用
短期従業員給付とその他の長期従業員給付のどちらに当たるか(後者では割引計算の要否も検討します)

過去実績をそのまま将来に当てるのが妥当かは、取得促進の施策の状況を踏まえて検討が必要です。制度の内容は厚生労働省|確かめよう労働条件(年次有給休暇権の時効)で確認できます。

ステップ4:連結の範囲と対象者を確定する

見落としやすいのが対象範囲です。

連結対象会社で累積型の休暇の権利を持つ従業員が対象になり、雇用形態だけで除外することはできません。国内の正社員に限らず、有期契約社員、パート、時間単位年休の利用者、海外子会社の現地従業員についても、それぞれの制度が累積型に当たるかを確認したうえで対象範囲を確定します。

海外子会社では法定の年次有給休暇制度そのものが国ごとに違うため、現地制度を踏まえた把握が必要です。登録スタッフを多数抱える人材サービスでは、この範囲の広さが金額を押し上げると考えられます。

ステップ5:税効果と開示の設計まで通す

金額が固まったら、対応する一時差異繰延税金資産の回収可能性を検討します。

あわせて資本の調整表でこの項目をどの名称で開示するか、税効果控除前と控除後のどちらのベースで内訳を示すかも決めます。実際の開示名称とベースはばらついているため、読み手に伝わる設計を選ぶ余地があります。

他社の開示例はIFRS移行影響ナビで原文の注記まで参照できます。

よくある質問(FAQ)

Q1. 日本基準でも有給休暇引当金を計上する必要がありますか

日本基準には有給休暇引当金を正面から定めた会計基準がなく、計上していない会社が大多数です。

ASBJの「引当金に関する論点の整理」(2009年9月)第43項も「これまで我が国においては、一般的に有給休暇引当金は計上されてこなかった」としたうえで、国際的な会計基準とのコンバージェンスを勘案して取扱いを検討する必要があると述べるにとどまり、その後の基準化には至っていません。

「計上してはならない」という規定があるわけではないため、個別の判断は監査人および税理士・公認会計士にご相談ください。

Q2. 有給休暇に係る負債は流動負債と非流動負債のどちらになりますか

流動負債となる例が多いものの、一律ではありません

IAS第19号の短期従業員給付/その他の長期従業員給付という測定上の分類は、関連する勤務が提供された年次報告期間の末日後12か月以内に全体が決済されると見込まれるかで判定します。一方、財政状態計算書上の流動・非流動の区分はIAS第1号第69項〜第70項に従い、正常営業循環期間なども考慮して決まります。両者は同じ判定ではありません。

実際の開示も分かれています。

レゾナック・ホールディングスは「有給休暇費用(流動負債)の認識」という項目名で△27億円を開示している一方、パーソルホールディングスは未払有給休暇を「その他の流動負債」と「その他の非流動負債」の両方に含めて表示していると注記しています。いすゞ自動車も「その他の流動負債」又は「その他の非流動負債」として計上している旨を記載しています。

実際の区分は、取得・失効の見込み正常営業循環期間会社の休暇制度等を踏まえて判断することになります。

Q3. 消化率の見積りが監査で論点になりやすいのはなぜですか

金額に直接効く仮定でありながら、客観的な裏付けを取りにくいからです。

過去の取得実績が出発点になりますが、取得促進が進む局面では将来の取得率が過去実績を上回る可能性があります。単価の定義と並んで、監査人と早い段階で認識を合わせておくべき箇所です。

Q4. 自社の影響額はどの程度と考えておけばよいですか

47社の中央値は△4億円、単純平均は△28億円です。日本基準純資産に対する比率では上位6社が4.7%から41.9%の範囲に入っていますが、これは上位層の値であって標準的なレンジではありません

労働集約型で従業員数の割に純資産が薄い会社では純資産の5%を超え得る一方、多くの会社はより小さい水準にとどまると読むのが妥当です。自社の金額は従業員数、平均賃金、残日数、取得・失効の見込みで決まります。

Q5. 移行後の各年度では有給休暇の影響はどのように出ますか

移行日に一括計上された後は、期中の動きが分解されて出ます。

勤務の提供により権利が増えた分は費用として認識され、休暇の取得は認識済みの負債の使用として処理されます。これに失効や見積りの変更による調整が加わるため、単純に「残高が増えれば費用、減れば戻し」と言い切れる構造ではありません。

また、製造活動に従事する従業員に係る部分など、他のIFRSにより棚卸資産などの資産の原価に算入される場合もあります。それでも従業員数や賃金水準が安定していれば、移行後の年間の損益影響は移行日の金額よりはるかに小さくなると考えられます。逆に従業員数が急増している会社では、毎期の増加分が継続的な費用として乗ってきます。

まとめ:本調査では方向が揃った項目、だからこそ桁を先に掴む

未消化有給休暇に係る調整は、本調査64社の分類のなかで最も開示社数が多く、方向が例外なく一つに揃っていた項目です。分布を押さえておくと、自社の検討の出発点がはっきりします。

  • 有給休暇を明示した調整項目を個別開示した47社は47社すべてがマイナスで、合計△1,308億円、中央値△4億円、単純平均△28億円でした(各社開示ベースの参考集計)。
  • 集計しているのは初度適用注記に個別表示された利益剰余金への調整額であり、有給休暇負債の残高とは一致せず、税効果控除前・控除後も混在します。有給休暇に触れず「その他の長期従業員給付」とのみ説明されている項目は集計から除いています。
  • 金額最大はパーソルホールディングスの△359億円で、同社の資本減少額△269億円を単独で上回っています。
  • 純資産に対する比率が大きいのは人的サービスへの依存度が高い業種で、上位6社は4.7%から41.9%の範囲です(上位層の値であり標準的なレンジではありません)。
  • 本調査で方向が全社一致した項目は他に賦課金11社と株式に基づく報酬10社がありますが、47社という母数で例外がゼロだったのは有給休暇を明示した調整項目だけです。
  • 税効果の行は複数の移行調整に係る税効果や回収可能性の再検討等を集約したもので、有給休暇単独の繰延税金資産は注記から読み取れません。

次の一歩として、勤怠システムから期末の残日数の合計を取り出し、平均日額を掛けて桁を確認してみてください。他社の金額と並べたい場合は、IFRS移行影響ナビから会社別・項目別に絞り込めます。

参考一次情報

最終更新日:2026年8月10日
※本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の税務・会計判断は税理士または公認会計士にご相談ください。

関連記事

このテーマで、まだ知りたいことはありませんか?
他社事例、自社の場合の迷い、追加で見たいデータなどを教えてください。多くの実務家に共通する課題は、データ・記事・ツールの形で調査し公開します。
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

目次