IPO準備で主幹事証券を選ぶとき、「どの証券会社がどのくらいの実績を持っているのか」「自社の規模・市場ではどこが多いのか」という相場観は、意外にまとまった形で公開されていません。証券会社各社は自社の主幹事実績を公表しますが、市場横断で誰でも同じ基準で比較できるデータは限られます。
そこで本記事では、2021年11月以降にEDINETへ提出された有価証券届出書(新規公開時)387社分を全量集計し、代表主幹事のシェアと引受の実態を調査しました。387社を母集団とし、代表主幹事シェアは抽出できた375社、引受スプレッドは算出できた384社を集計しています。元データは当サイトのIPO資本政策データベース(387社収録)で確認できます。
📈 IPO資本政策データベースβ 新規上場企業の届出書「第四部 株式公開情報」を構造化。資本政策・株式異動・新株予約権・大株主・初値を横断比較 →本稿はIPO準備会社の経営陣・管理部門と、支援する会計税務専門家向けの実例研究です。
- 代表主幹事シェアのランキングと上位集中度
- 市場別・年別の傾向と共同主幹事の実態
- 引受スプレッド(引受証券会社の引受対価に相当)と手取りへの影響
の3つをデータで押さえます。主幹事の優劣を論じるのではなく、発行体が主幹事体制をどう組み、引受条件がどう開示されているかの視点で整理します。
結論:代表主幹事は上位5社で86.4%、引受スプレッドは384社中82%が8.0%
結論は次の4点です。
- 代表主幹事はSMBC日興・みずほ・大和・野村・SBIの上位5社に集中
代表主幹事を抽出できた375社のうち、この5社で324社(86.4%)を占めます。首位はSMBC日興証券(80社・21.3%)です。 - 市場によって首位が入れ替わる
件数の多い東証グロースではSMBC日興が首位ですが、東証スタンダードでは野村證券が約3割で首位に立つなど、市場ごとに代表主幹事の強みが分かれます。 - 単独の代表主幹事が多数で、共同主幹事は少数
主幹事団の構成を抽出できた286社のうち、共同主幹事を伴う案件は19社(6.6%)にとどまり、多くは代表主幹事1社の体制です(共同主幹事は大型・海外案件でみられます)。 - 引受スプレッドは公開価格の8.0%が標準
公開価格と引受価額の差(証券会社の引受対価に相当)は、384社中315社(82.0%)がちょうど8.0%でした。これは発行会社・売出人の手取りに直接影響します。
以下、主幹事の役割、集計の中身、引受スプレッドの実態、実務の観点を順に整理します。
代表主幹事とは何か──引受・価格決定・審査の中心
主幹事証券は、IPOにおいて引受シンジケート団の中心となり、上場準備に関する助言、資本政策や申請書類の確認、引受審査、公開価格の設定(ブックビルディング)、株式の引受・販売などで中心的な役割を担う証券会社です。
届出書では「引受人」として記載され、複数の主幹事を立てる場合は「共同主幹事会社」「ジョイント・グローバル・コーディネーター」「共同ブックランナー」などと記載されます。なお、上場準備の初期に行われるショートレビューは、主幹事ではなく監査法人が実施するものです。
本記事の「代表主幹事」とは、各案件の筆頭の引受証券会社(トップレフト、届出書の引受人の筆頭格)を指します。シェアは1案件につき代表主幹事1社を計上したもので、共同主幹事を各社に重複計上する「主幹事件数」ベースの集計とは異なります。
代表主幹事を抽出できた375社を対象とし、残る12社は集計外としています。
【387社集計】代表主幹事シェアランキング
調査の概要
- 調査対象:
2021年11月〜2026年7月にEDINETへ提出された新規公開時の有価証券届出書の対象候補のうち、第四部「株式公開情報」の記載がない投資法人等を除く387社。TOKYO PRO Market上場は対象外。うち代表主幹事が抽出できた375社をシェア集計の対象とします - 集計単位:
会社(案件)単位。1案件につき代表主幹事1社を計上(共同主幹事の状況は別途集計)。共同主幹事を重複計上する主幹事件数ベースの集計ではありません - 留意事項:
機械抽出・分類を含むため、個別案件はEDINET原文の確認を推奨します。証券会社名は届出書記載時点の名称で、代表主幹事に登場する14社には同一法人の名称重複が見られなかったため名寄せは行っていません
| 代表主幹事証券 | 件数 | 375社中シェア |
|---|---|---|
| SMBC日興証券 | 80社 | 21.3% |
| みずほ証券 | 69社 | 18.4% |
| 大和証券 | 60社 | 16.0% |
| 野村證券 | 60社 | 16.0% |
| SBI証券 | 55社 | 14.7% |
| 岡三証券 | 14社 | 3.7% |
| 東海東京証券 | 13社 | 3.5% |
| 三菱UFJモルガン・スタンレー証券 | 12社 | 3.2% |
| その他(いちよし証券・Jトラストグローバル証券ほか4社) | 12社 | 3.2% |
代表主幹事はSMBC日興・みずほ・大和・野村・SBIの上位5社で86.4%を占め、大手証券に集中しています。
首位はSMBC日興証券(21.3%)。ネット証券のSBI証券が5位(14.7%)に入り、対面大手と並ぶ実績を持つ点が近年の特徴です。代表主幹事を務めた証券会社は全体で14社にとどまり、IPOの主幹事市場は少数の証券会社で構成されていることがわかります。
市場別・年別でみる代表主幹事の勢力図
| 上場市場 | 対象社数 | 首位の代表主幹事(シェア) | 2位・3位 |
|---|---|---|---|
| 東証グロース(旧マザーズ含む) | 279社 | SMBC日興(23%) | 大和(19%)/みずほ(18%) |
| 東証スタンダード | 57社 | 野村證券(32%) | みずほ(23%)/SMBC日興(14%) |
| 東証プライム | 11社 | SMBC日興(45%) | 野村證券(27%) |
| その他(旧東証一部・二部・JASDAQ・地方市場等) | 28社 | みずほ(25%) | SMBC日興・東海東京(各11%) |
市場ごとに代表主幹事の強みが分かれる
件数の多いグロース市場ではSMBC日興が首位ですが、スタンダード市場では野村證券が約3割で首位に立ちます。プライム市場(対象11社と少数)ではSMBC日興が高いシェアを示します。
市場の規模・性格によって代表主幹事の強みが分かれることがうかがえますが、対象社数が少ない市場(プライム等)はシェアの解釈に留意が必要です。
年別の代表主幹事シェア(件数)
| 提出年 | 母集団社数 | 代表主幹事 抽出社数 | SMBC日興 | みずほ | 大和 | 野村 | SBI |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 2021年(11月〜) | 39社 | 39 | 9 | 9 | 5 | 6 | 6 |
| 2022年 | 91社 | 91 | 24 | 17 | 16 | 10 | 13 |
| 2023年 | 93社 | 93 | 15 | 17 | 18 | 17 | 14 |
| 2024年 | 82社 | 77 | 20 | 14 | 8 | 12 | 12 |
| 2025年 | 60社 | 53 | 9 | 10 | 12 | 9 | 5 |
| 2026年(〜7月) | 22社 | 22 | 3 | 2 | 1 | 6 | 5 |
※証券会社別件数は、各年の母集団のうち代表主幹事を抽出できた案件のみを集計しています。母集団社数には代表主幹事を抽出できなかった案件が含まれるため、母集団社数を直接分母とするシェアとは一致しません。
年別にみても上位5社が大半を占める構図は共通していますが、年次の首位は入れ替わっています。
2021年11月以降はSMBC日興証券とみずほ証券が同数、2022年・2024年はSMBC日興証券、2023年・2025年は大和証券、2026年(7月まで)は野村證券が最多でした。調査期間全体では上位5社への集中が続く一方、各年の案件構成によって証券会社別の件数は変動しています。なお、2021年は11月以降、2026年は7月までの部分集計です。
共同主幹事は少数──大型・海外案件でみられる体制
IPOでは代表主幹事を1社に絞る場合と、複数の証券会社を共同主幹事として並べる場合があります。本調査で主幹事団の構成を抽出できた286社のうち、共同主幹事を伴う案件は19社(6.6%)にとどまり、267社は代表主幹事1社の体制でした(残る101社は主幹事団の構成が抽出できず集計外)。
本調査で確認された共同主幹事案件には、大型案件や海外売出しを伴う案件が含まれています。こうした案件では、引受能力や販売網、海外投資家へのアクセスなどを踏まえ、複数の証券会社が共同主幹事・共同ブックランナーとして関与する例があります。
なお、共同主幹事を各証券会社に重複計上する「主幹事件数」ベースのランキングは、本データでは主幹事団の抽出精度が十分でないため掲載していません。本記事のシェアは、あくまで各案件の代表主幹事1社を計上した「代表主幹事シェア」です。
引受スプレッドの実態と手取りへの影響
会計税務の観点で見逃せないのが、引受スプレッドです。
引受スプレッドは、投資家が支払う公開価格と、発行会社または売出人が受け取る基礎となる引受価額との差額で、この差額が引受証券会社の引受対価に相当します。届出書の引受価額の記載から算出できます。
公開価格と引受価額の双方が取得できた384社で集計すると、分布は次のとおりです。
| 引受スプレッド率((公開価格−引受価額)÷公開価格) | 社数 | 384社比 |
|---|---|---|
| 8.0%(ちょうど) | 315社 | 82.0% |
| 7%以上〜8%未満 | 38社 | 9.9% |
| 5%以上〜7%未満 | 22社 | 5.7% |
| 5%未満 | 9社 | 2.3% |
384社中315社(82.0%)がちょうど8.0%で、日本のIPOでは引受スプレッドが公開価格の8.0%で慣行的に設定されていることが、データからも確認できます。8%を超える案件は確認されませんでした。
このスプレッドは、発行会社・売出人の手取りに直接影響します。
公募株式では引受価額を基礎に発行会社へ、売出株式では売出人へ資金が入ります。オーバーアロットメント(OA)による売出しは、通常、発行会社の資金調達にはなりません。さらに発行会社の最終手取額は、引受価額ベースの受取額から発行諸費用等を差し引いたものです。
したがって、公開価格ベースの募集・売出規模(吸収額)と、引受価額ベースの発行会社・売出人の受取額は区別する必要があります。公募・売出しの構成や吸収額の考え方は、姉妹記事「上場前の株式移動・第三者割当」や個社カルテとあわせて確認してください。
IPO準備会社・専門家のための実務チェックポイント5つ
ポイント1:自社の規模・市場に実績のある代表主幹事を候補にする
代表主幹事は上位5社に集中していますが、市場によって首位が入れ替わります。
自社が想定する市場(グロース/スタンダード等)で実績の厚い証券会社を、先行事例のシェアから確認してください。
ポイント2:共同主幹事の要否を案件規模から検討する
本調査では共同主幹事を伴う案件は少数(19社)で、単独の代表主幹事が多数でした。
ただし海外売出しや大型調達を想定する場合は、共同主幹事・共同ブックランナーの体制を早期に検討する必要があります。
ポイント3:引受スプレッドを手取りベースで試算する
引受スプレッドは公開価格の8.0%が標準です。
調達額・手取りの試算は、公開価格ベースの吸収額ではなく引受価額ベースの受取額で行い、8%のスプレッドと発行諸費用を織り込んでください。
ポイント4:主幹事の引受審査は上場準備の初期から関与する
主幹事は上場準備の初期から引受審査で関与します(財務・内部管理体制の初期評価であるショートレビューは監査法人が担います)。
資本政策・内部管理体制の整備は主幹事の選定と並行して進めるのが実務的です。
ポイント5:引受条件は「公開される前提」で確認する
引受人・引受価額・スプレッドは届出書で開示され、公開後に誰でも参照できます。
375社の代表主幹事情報と384社の引受スプレッドが参照できる以上、自社の条件が先行事例と大きく異ならないかを確認しておくべきです。
よくある質問(FAQ)
Q1. IPOの代表主幹事シェアで一番多いのはどこですか?
本調査(代表主幹事が抽出できた375社)では、SMBC日興証券が80社(21.3%)で首位でした。次いでみずほ証券(18.4%)、大和証券・野村證券(各16.0%)、SBI証券(14.7%)と続き、この上位5社で86.4%を占めます。
ここでの「代表主幹事」は各案件の筆頭引受証券(トップレフト)1社で、共同主幹事を重複計上した件数シェアではありません。また実績件数のシェアであり、主幹事の優劣を示すものではありません。
Q2. 市場によって主幹事は違いますか?
はい。件数の多い東証グロースではSMBC日興が首位ですが、東証スタンダードでは野村證券が約3割で首位に立つなど、市場ごとに代表主幹事の強みが分かれます。
自社が想定する市場の先行事例を確認するのが実務的です。
Q3. 主幹事は1社ですか、複数ですか?
本調査で主幹事団の構成を抽出できた286社では、代表主幹事1社の体制が267社と多数で、共同主幹事を伴う案件は19社(6.6%)にとどまりました。
共同主幹事は少数ですが、海外売出しや大型調達を伴う案件で採用される例があります(残る101社は主幹事団の構成を抽出できず集計外)。
Q4. IPOの引受スプレッドはどのくらいですか?
公開価格と引受価額の差である引受スプレッドは、本調査(384社)で384社中315社(82.0%)がちょうど8.0%でした。
日本のIPOでは公開価格の8.0%が慣行的な水準です。このスプレッドは発行会社・売出人の手取りに直接影響するため、手取りの試算では引受価額ベースで考える必要があります。
Q5. 主幹事はどう選べばよいですか?
実績件数だけでなく、自社の業種・規模・想定市場との適合、引受審査の体制、海外投資家へのアクセス、上場後のカバレッジなどを総合的に検討します。
本記事のシェアデータは候補を絞る比較材料の一つとして活用し、個別の選定は複数社との面談を経て判断してください。
まとめ:代表主幹事は上位5社に集中、引受条件はデータで比較できる
本記事の要点を整理します。
- 代表主幹事はSMBC日興・みずほ・大和・野村・SBIの上位5社で86.4%を占め、首位はSMBC日興(21.3%)。代表主幹事を務めた証券会社は全体で14社。
- 市場によって首位が入れ替わり、スタンダードでは野村證券が約3割で首位。単独の代表主幹事が多数で、共同主幹事は少数(19社、大型・海外案件でみられる)。
- 引受スプレッドは384社中82.0%がちょうど8.0%で、発行会社・売出人の手取りに直接影響する。
- 引受人・引受価額は届出書で開示されるため、自社の主幹事体制・引受条件を先行387社と比較できる。
次の一歩として、IPO資本政策データベースで自社(または支援先)と同じ市場・業種の会社の主幹事体制と引受条件を確認し、主幹事選定・引受条件の比較材料にしてください。387社の先行事例は、主幹事体制の最も具体的な参照点になります。
📈 IPO資本政策データベースβ 新規上場企業の届出書「第四部 株式公開情報」を構造化。資本政策・株式異動・新株予約権・大株主・初値を横断比較 →参考一次情報
- 金融庁 EDINET(有価証券届出書の原典検索)
- 日本取引所グループ 新規上場の情報
- 日本取引所グループ 有価証券上場規程・同施行規則
- 日本証券業協会(引受・募集等の自主規制、代表主幹事会員・共同主幹事会員の区分)

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