IPO準備で監査法人を選ぶとき、「どの監査法人がどのくらいの実績を持っているのか」「大手でないと上場できないのか」という相場観は、意外にまとまった形で公開されていません。近年はIPO監査の担い手が大手から準大手・中小へ広がっているといわれますが、その実態を市場横断で同じ基準で示すデータは限られます。
そこで本記事では、2021年11月以降にEDINETへ提出された有価証券届出書(新規公開時)387社分を全量集計し、監査法人のシェアと勢力図を調査しました。監査法人名は387社すべてで取得できています。元データは当サイトのIPO資本政策データベース(387社収録)で確認できます。
📈 IPO資本政策データベースβ 新規上場企業の届出書「第四部 株式公開情報」を構造化。資本政策・株式異動・新株予約権・大株主・初値を横断比較 →本稿はIPO準備会社の経営陣・管理部門と、支援する会計税務専門家向けの実例研究です。
- 監査法人シェアのランキング
- 大手・準大手・中小の構成と市場別・年別の傾向
- 監査法人選定・監査報酬・KAMなど会計実務の論点
の3つをデータで押さえます。
監査法人の優劣を論じるのではなく、IPO監査の担い手がどう分布し、どう変化しているかの視点で整理します。
結論:首位はEY新日本、2位に準大手の太陽。大手シェアは低下傾向
結論は次の4点です。
- 首位はEY新日本有限責任監査法人(78社・20.2%)
2位には準大手の太陽有限責任監査法人(59社・15.2%)が入り、大手のトーマツ(56社)・あずさ(35社)を上回ります。IPO監査は大手だけの世界ではありません。 - CPAAOB区分で大手49.6%・準大手30.7%・中小その他19.6%
準大手・中小を合わせると全体の約半分(50.4%)を占め、IPO監査の受け皿として大きな存在感を持ちます。監査法人は全体で39法人が登場しました。 - 大手のシェアは低下傾向
大手の割合は2021年(11月以降)の56.4%から、2024年47.6%・2025年48.3%へと下がり、入れ替わるように中小・その他が2021年の10.3%から2025年33.3%へ上昇しています。 - 市場によって傾向が分かれる
大型のプライム市場は大手が約8割を占める一方、件数の多いグロース・スタンダード市場では準大手・中小が半分以上を占めます。
以下、監査法人の区分、集計の中身、市場別・年別の傾向、会計実務の論点を順に整理します。
監査法人の区分──大手・準大手・中小
監査法人は規模によって、大手監査法人、準大手監査法人、それ以外の中小監査法人に区分されます(公認会計士・監査審査会〔CPAAOB〕のモニタリングレポートの区分)。
大手はEY新日本・トーマツ・あずさ・PwC Japanの4法人、準大手は太陽・仰星・三優・東陽などです。
PwCについては注意が必要です。PwCあらた有限責任監査法人(大手)とPwC京都監査法人(準大手)は、2023年12月1日にPwC Japan有限責任監査法人へ統合されました。本記事は届出書記載時点の名称で計上しつつ、CPAAOB区分に合わせ、PwCあらた・PwC Japanを「大手」、統合前のPwC京都を「準大手」に分類しています。
参考として、PwCネットワーク全体(あらた・京都・Japan=40社)を大手に含めた「4大ネットワーク系」では54.0%になります。区分は監査品質の優劣を示すものではありません。
監査法人はIPO準備の初期から関与し、上場の可否を左右する重要な役割を担います。
上場準備の初期に行われるショートレビュー(短期調査)は監査法人が実施し、その後、申請期の直前2期について準金商法監査を行うのが一般的です。
監査法人の選定は、主幹事証券の選定(姉妹記事「IPO主幹事ランキング|387社でみる代表主幹事シェアと引受スプレッドの実態」参照)と並行して、上場準備の最初期に行うのが実務です。
【387社集計】監査法人シェアランキング
調査の概要
- 調査対象:
2021年11月〜2026年7月にEDINETへ提出された新規公開時の有価証券届出書の対象候補のうち、第四部「株式公開情報」の記載がない投資法人等を除く387社。TOKYO PRO Market上場は対象外。本記事の「全量」はこの387社を指します - 集計単位:
会社(案件)単位。届出書の監査報告書に記載された監査法人を1社計上(連結・単体で同一法人のため重複なし)。監査法人名は387社すべてで取得できました - 留意事項:
機械抽出を含むため、個別はEDINET原文の確認を推奨します。監査法人名は届出書記載時点の名称で、統合・商号変更(PwC系等)は本文の注記のとおり扱っています
| 順位 | 監査法人 | 件数 | 387社中シェア |
|---|---|---|---|
| 1 | EY新日本有限責任監査法人(大手) | 78社 | 20.2% |
| 2 | 太陽有限責任監査法人(準大手) | 59社 | 15.2% |
| 3 | 有限責任監査法人トーマツ(大手) | 56社 | 14.5% |
| 4 | 有限責任あずさ監査法人(大手) | 35社 | 9.0% |
| 5 | 仰星監査法人(準大手) | 21社 | 5.4% |
| 6 | PwC京都監査法人(準大手・2023年12月統合) | 17社 | 4.4% |
| 6 | PwC Japan有限責任監査法人(大手) | 17社 | 4.4% |
| 8 | 三優監査法人(準大手) | 15社 | 3.9% |
| 9 | 監査法人A&Aパートナーズ | 12社 | 3.1% |
| 10 | ESネクスト有限責任監査法人 | 10社 | 2.6% |
| 11 | 東陽監査法人(準大手) | 7社 | 1.8% |
| 12 | PwCあらた有限責任監査法人(大手・2023年12月統合) | 6社 | 1.6% |
| — | その他(監査法人東海会計社・史彩監査法人ほか25法人) | 54社 | 14.0% |
首位はEY新日本(20.2%)ですが、注目すべきは2位に準大手の太陽有限責任監査法人(15.2%)が入り、大手のトーマツ・あずさを上回っていることです。
上場企業全体の監査では大手が圧倒的なシェアを持ちますが、IPO監査に限ると準大手・中小の存在感が大きいのが特徴です。監査法人は全体で39法人が登場し、上位に集中する主幹事証券(14社)と比べて担い手の裾野が広いことがわかります。
大手・準大手・中小の構成
| 区分(CPAAOB) | 該当法人(主なもの) | 社数 | 387社比 |
|---|---|---|---|
| 大手 | EY新日本・トーマツ・あずさ・PwC Japan(旧PwCあらた含む) | 192社 | 49.6% |
| 準大手 | 太陽・仰星・三優・東陽・(統合前の)PwC京都 | 119社 | 30.7% |
| 中小・その他(29法人) | A&Aパートナーズ・ESネクスト・東海会計社ほか | 76社 | 19.6% |
大手が約半分(49.6%)を占める一方、準大手(30.7%)と中小・その他(19.6%)を合わせると約半分(50.4%)に達します。IPO監査は大手だけで完結する世界ではなく、準大手・中小監査法人が実質的な受け皿として機能していることが、データからはっきり読み取れます。
とくに準大手の太陽が単独で15.2%を占める点は、IPO監査市場の特徴です。なお、PwCネットワーク全体(あらた・京都・Japan=40社・10.3%)を大手に含める「4大ネットワーク系」の見方では、大手系は54.0%となります。
市場別・年別でみる勢力図の変化
| 上場市場 | 社数 | 大手 | 準大手 | 中小・その他 |
|---|---|---|---|---|
| 東証グロース(旧マザーズ含む) | 283社 | 48% | 31% | 21% |
| 東証スタンダード | 63社 | 44% | 40% | 16% |
| 東証プライム | 13社 | 77% | 15% | 8% |
| その他(旧東証一部・二部・JASDAQ・地方市場等) | 28社 | 64% | 14% | 21% |
プライムは大手中心、グロース・スタンダードは準大手・中小が半分以上
規模の大きい東証プライム市場では大手が約8割を占めますが、件数の多いグロース・スタンダード市場では準大手・中小が半分以上を占めます。プライム市場では大手監査法人の割合が高く、グロース・スタンダードでは準大手・中小の割合が高い結果となりました。
企業規模、海外展開、事業の複雑性、監査法人の受嘱方針などが背景にある可能性がありますが、本調査では個別要因との因果関係までは検証していません。また対象社数が少ない市場(プライム13社等)はシェアの解釈に留意が必要です。
大手から準大手・中小へ──担い手の広がり
| 提出年 | 社数 | 大手 | 準大手 | 中小・その他 |
|---|---|---|---|---|
| 2021年(11月〜) | 39社 | 56.4% | 33.3% | 10.3% |
| 2022年 | 91社 | 53.8% | 34.1% | 12.1% |
| 2023年 | 93社 | 49.5% | 36.6% | 14.0% |
| 2024年 | 82社 | 47.6% | 29.3% | 23.2% |
| 2025年 | 60社 | 48.3% | 18.3% | 33.3% |
| 2026年(〜7月) | 22社 | 31.8% | 27.3% | 40.9% |
年別構成では、大手の割合が2021年・2022年の約54〜56%から2024年・2025年の約48%へ低下する一方、中小・その他が2021年の10.3%から2025年33.3%へ上昇しています。
IPO監査は内部管理体制や会計処理に関するリスクが相対的に高く、監査法人が受嘱を慎重に判断する傾向があります。その中で、中小監査法人によるIPO準備会社への業務提供機会が増えており、いわゆるIPO監査の需給ミスマッチを背景に、担い手が大手から準大手・中小へ広がっている実態がデータにも表れています。
ただし、2026年は7月までの部分集計で対象22社と少なく、各年のIPO社数・市場構成も異なるため、比率の変動幅の解釈には留意が必要です。
IPO準備会社・専門家のための実務チェックポイント5つ
ポイント1:監査法人の選定は上場準備の最初期に行う
監査法人はショートレビューから申請期の直前2期に係る準金商法監査まで、上場準備の長期間に関与します。
準備の初期に選定し、複数年度の監査実績を積む必要があるため、着手は早いほど有利です。
ポイント2:大手にこだわらず、自社の規模・市場に合う監査法人を検討する
本調査では準大手・中小が全体の約半分を占め、グロース・スタンダード市場では半分以上に達します。
大手だけでなく、自社の規模・業種・想定市場に実績のある準大手・中小監査法人も、先行事例のシェアから比較検討する価値があります。
ポイント3:監査法人の受嘱可否を早めに確認する
近年はIPO監査の需給ミスマッチが課題となり、監査法人が見つからないケースが指摘されています。
希望する監査法人に受嘱の余力があるか、準大手・中小を含めた複数の選択肢を早期に確認しておくことが重要です。
ポイント4:監査報酬の増加を資金計画に織り込む
IPO準備が進むと、準金商法監査への移行、連結範囲の拡大、会計論点の増加、内部管理体制の検証などにより、監査工数や監査報酬が増えることがあります。
監査法人の規模や会社の事業内容、海外拠点、システム環境等によって報酬水準は異なるため、複数年度の監査報酬を資金計画に織り込む必要があります。
ポイント5:上場後のKAM(監査上の主要な検討事項)を見据える
上場後は監査報告書に、監査人が監査上特に注意を払った事項がKAM(監査上の主要な検討事項)として記載されます。
収益認識、減損、企業結合、繰延税金資産など、自社の重要な会計論点について、監査法人とのコミュニケーションと開示資料の整備を早い段階から進めておくことが重要です。
よくある質問(FAQ)
Q1. IPOの監査法人シェアで一番多いのはどこですか?
本調査(387社)では、EY新日本有限責任監査法人が78社(20.2%)で首位でした。
次いで準大手の太陽有限責任監査法人(59社・15.2%)、有限責任監査法人トーマツ(56社・14.5%)、有限責任あずさ監査法人(35社・9.0%)と続きます。これは実績件数のシェアであり、監査法人の優劣を示すものではありません。
Q2. IPOは大手監査法人でないとできないのですか?
いいえ。
本調査ではCPAAOB区分の大手が49.6%を占める一方、準大手30.7%・中小その他19.6%で、準大手・中小を合わせると約半分(50.4%)に達します。とくにグロース・スタンダード市場では準大手・中小が半分以上を占めており、大手以外の監査法人でも多くの会社が上場しています。
Q3. 準大手・中小の監査法人が増えているのですか?
本調査では、大手の割合が2021年(11月以降)の56.4%から2025年48.3%へ低下し、中小・その他が10.3%から33.3%へ上昇しています。
IPO監査は監査リスクが相対的に高く、受嘱が慎重に判断される中で、中小監査法人によるIPO準備会社への業務提供機会が増えていることが背景にあると考えられます。ただし年ごとの社数・市場構成の違いにも留意が必要です。
Q4. PwC京都とPwC Japanは別の監査法人ですか?
PwCあらた有限責任監査法人(大手)とPwC京都監査法人(準大手)は、2023年12月1日にPwC Japan有限責任監査法人へ統合されました。
本記事では届出書記載時点の名称でランキングに計上しつつ、CPAAOB区分に合わせ、PwC京都を準大手、PwCあらた・PwC Japanを大手に分類しています。PwCネットワーク全体を合算すると40社(10.3%)です。
Q5. 監査法人はどう選べばよいですか?
実績件数だけでなく、自社の業種・規模・想定市場との適合、受嘱の可否と体制、監査報酬、上場後の継続監査の見通しなどを総合的に検討します。
本記事のシェアデータは候補を絞る比較材料の一つとして活用し、個別の選定は複数法人との面談を経て判断してください。
まとめ:IPO監査は大手・準大手・中小が分け合う市場
本記事の要点を整理します。
- 首位はEY新日本(20.2%)だが、2位に準大手の太陽(15.2%)が入り、大手のトーマツ・あずさを上回る。監査法人は全体で39法人。
- CPAAOB区分で大手49.6%・準大手30.7%・中小その他19.6%。準大手・中小で約半分(50.4%)を占める(PwCネットワーク系を大手に含める見方では大手系54.0%)。
- 大手の割合は2021年・2022年の約54〜56%から近年約48%へ低下し、中小・その他が約3割へ上昇。担い手が大手から準大手・中小へ広がっている。
- プライムは大手が約8割、グロース・スタンダードは準大手・中小が半分以上と、市場で傾向が分かれる。
次の一歩として、IPO資本政策データベースで自社(または支援先)と同じ市場・業種の会社の監査法人を確認し、監査法人選定の比較材料にしてください。387社の先行事例は、IPO監査の担い手を俯瞰する具体的な参照点になります。
📈 IPO資本政策データベースβ 新規上場企業の届出書「第四部 株式公開情報」を構造化。資本政策・株式異動・新株予約権・大株主・初値を横断比較 →参考一次情報
- 金融庁 EDINET(有価証券届出書・監査報告書の原典検索)
- 公認会計士・監査審査会(CPAAOB)モニタリングレポート(令和8年版・大手/準大手の区分、IPO監査の状況、PwC京都の区分、中小監査法人のシェア上昇)
- 日本公認会計士協会
- 日本取引所グループ 新規上場の情報

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