企業結合というと「のれん(プラスの差額)が出るもの」というイメージがありますが、実際には逆に「負ののれん発生益」——買った会社の時価純資産が取得原価を上回った、いわば“安く買えた差益”——が生じるケースも少なくありません。
日本基準では原則として特別利益に一度で計上されるため、業績インパクトが大きく、利益の質が問われやすい項目です。
本記事は、有価証券報告書の企業結合注記を横断集計し、負ののれんがどれくらいの割合で、どの業種で計上されているかを、分母をそろえた比率で示します。
結論:記載あり2,122社のうち、少なくとも352社(16.6%)が計上
企業結合注記に実質的な記載がある上場企業2,122社のうち、負ののれん発生益を金額とともに計上していたことが確認できたのは、少なくとも352社(16.6%)でした(有価証券報告書433本、期末2021年6月期〜2026年3月期。2026年7月時点・当サイト集計)。「例外的な特殊事例」と呼ぶには多く、かといって過半でもない——おおむね6社に1社が期間中のどこかで負ののれんを計上している、というのが実態です。
この16.6%が何を指す数字かを、先に明確にしておきます。これは「2021〜2026年のいずれかの年度に一度以上計上した会社の割合(会社ベース・期間通算)」であって、単年度の発生率でも、M&A1件あたりの発生確率でもありません。
単年度で見ると、その年に企業結合注記を記載した会社の7.8〜10.3%にあたります(通年収録の2022〜2025年度)。複数年を通算すれば会社が積み上がるため、通算16.6%、単年7.8〜10.3%といったイメージとなります。
また、本記事の数値は注記本文に対する検出の結果です。「負ののれん」「負ののれん発生益」「割安購入益」「バーゲンパーチェス」のいずれかの語が出てくる会社は382社ありましたが、そのうち「発生しておりません」等の否定文脈しか確認できない会社を除いた352社を分析対象としています。表形式の注記など、機械判定では金額を拾いきれない開示もあるため、352社は下限値と考えてください(詳細は「集計方法とデータの限界」)。
▶ ダッシュボードで確かめる:
「企業結合注記ナビゲーター」の結合類型フィルタで「負ののれん」を選ぶと、該当する会社の一覧と注記原文を確認できます。
負ののれんとは:なぜ「安く買える」ことが起きるのか
負ののれんは、取得原価<受け入れた純資産の時価となったときに、その差額として生じます。通常はのれん(プラス)が出るはずのところ、逆転して差益になる現象です。背景には典型的なパターンがあります。
売り手が価格よりも早期・確実な売却を優先した(事業再編・撤退・後継者難など)、対象企業が業績不振や将来リスクを抱えており価格に織り込まれた、対象企業が保有する資産の時価が簿価を大きく上回っていた、といったケースです。
会計基準上は、負ののれんが生じると見込まれる場合、まず資産・負債の把握や取得原価の配分に誤りがないかを見直したうえで、なお残る差額を発生した事業年度の利益として認識します(企業会計基準第21号第33項)。
表示は原則として特別利益です(同第48項)。
数字で見る:負ののれんはどう計算されるか(日本基準の設例)
受け入れた純資産の時価が60億円の会社を取得した場合で、プラスののれんと対比します。
以下は日本基準(企業会計基準第21号)を前提に、対象会社の議決権を100%取得したケースを単純化した設例です。税効果、取得関連費用、非支配株主持分は考慮していません(部分取得の場合は、取得原価と純資産の総額を単純に比較することはできません)。
| 取得原価 | 受入純資産の時価(100%相当) | 差額 | 会計処理(日本基準) |
|---|---|---|---|
| 80億円 | 60億円 | +20億円 | のれん20億円を資産計上し、20年以内で規則償却 |
| 60億円 | 60億円 | 0 | のれんも負ののれんも生じない |
| 45億円 | 60億円 | △15億円 | 負ののれん発生益15億円を当期の特別利益に計上 |
取得原価が純資産の時価を15億円下回った分が、そのまま当期の利益になります。
プラスののれんは資産として計上され何年もかけて費用化されるのに対し、負ののれんは一度に利益へ計上される——この非対称性が、業績インパクトと“利益の質”の論点を生みます。
なお、「20年以内で規則償却」は日本基準特有の扱いで、IFRSではのれんを償却しません(後述)。
参考:のれん(正)と負ののれんの対比
| 項目 | のれん(正) | 負ののれん |
|---|---|---|
| 発生条件 | 取得原価>純資産の時価 | 取得原価<純資産の時価 |
| B/Sでの扱い | 無形固定資産に計上 | 資産にも負債にも残らない(利益へ) |
| P/Lでの扱い | 毎期の償却費(日本基準)/減損のみ(IFRS) | 発生年度に一括で利益 |
| その後 | 減損の可能性 | —(一度きり) |
| 利益への向き | 費用(利益を減らす) | 収益(利益を増やす) |
実測①:業種別の「計上率」で見る
「どの業種で出やすいか」を言うには、開示社数そのものではなく分母をそろえた比率が必要です。単に社数を並べると、企業結合注記を出している会社が多い業種(サービス業・情報通信業など)が自動的に上位に来てしまうためです。
ここでは負ののれんを計上した会社数 ÷ その業種の企業結合注記記載あり社数を計上率として算出しました。分母が小さいと率が振れやすいため、記載あり社数が30社以上の業種に限定しています(東証33業種分類のうち15業種を掲載。残る18業種は分母30社未満のため非掲載です)。
| 業種 | 負ののれん計上会社数 | 企業結合注記 記載あり社数(分母) | 計上率 |
|---|---|---|---|
| 銀行業 | 14 | 39 | 36% |
| 陸運業 | 12 | 35 | 34% |
| 輸送用機器 | 13 | 42 | 31% |
| 金属製品 | 13 | 44 | 30% |
| 不動産業 | 18 | 78 | 23% |
| 卸売業 | 41 | 187 | 22% |
| 建設業 | 14 | 70 | 20% |
| 電気機器 | 23 | 123 | 19% |
| 小売業 | 32 | 176 | 18% |
| 化学 | 17 | 95 | 18% |
| 機械 | 18 | 108 | 17% |
| その他製品 | 9 | 58 | 16% |
| 食料品 | 9 | 66 | 14% |
| サービス業 | 43 | 362 | 12% |
| 情報・通信業 | 23 | 373 | 6% |
| 掲載15業種 小計 | 299 | 1,856 | 16% |
| 全体(33業種計) | 352 | 2,122 | 16.6% |
計上率で見ると、順位は社数で見た場合と大きく入れ替わります。
計上会社数の上位を占めるサービス業(43社)と情報・通信業(23社)は、計上率では12%・6%と全体平均を下回る最下位グループです。この2業種はそもそも企業結合の記載社数が多い(362社・373社)ため、社数だけを見ると「出やすい業種」に見えてしまいます。
逆に、銀行業(36%)、陸運業(34%)、輸送用機器(31%)、金属製品(30%)は、記載あり社数のうち3割前後が負ののれんを計上しており、全体平均16.6%を大きく上回ります。
この差がなぜ生じるのかについては、本集計からは直接検証できません。以下はあくまで仮説として読んでください。
第一に、銀行業・不動産業のように保有資産(貸出金・有価証券・不動産など)の時価と簿価の差が大きくなりやすい業種では、企業結合で資産を時価評価し直したときに純資産の時価が膨らみ、取得原価を上回りやすくなるのではないか。
第二に、陸運業・金属製品・輸送用機器のように、地域・系列単位の中堅企業が多く事業承継や再編に伴う取得が起きやすい業種では、価格が純資産を下回りやすいのではないか。
第三に、情報・通信業やサービス業のM&Aは、無形の技術・人材・顧客基盤を狙った取得が中心で、純資産の時価を大きく上回る価格になりやすく、負ののれんは生じにくいのではないか。
いずれも検証には、取得対象の資産構成や取得価格の水準といった追加データが必要です。
また、上位業種は分母が35〜44社と小さく、1〜2社の増減で率が2〜4ポイント動きます。順位そのものを断定的に扱うのは避け、「全体平均より高い/低いグループ」という粒度で読むのが安全です。
実測②:年度別の計上率に一貫した増加傾向はない
「M&Aが増えているから負ののれんも増えている」という説明を見かけますが、当サイトの集計では計上率に一貫した増加傾向は読み取れません。
各年度に企業結合注記を記載した会社のうち、負ののれんを計上した会社の割合は次のとおりです。
| 期末年度 | 負ののれん計上会社数 | 企業結合注記 記載あり社数 | 計上率 |
|---|---|---|---|
| 2022年 | 85 | 826 | 10.3% |
| 2023年 | 83 | 858 | 9.7% |
| 2024年 | 72 | 920 | 7.8% |
| 2025年 | 92 | 1,027 | 9.0% |
※ 通年で収録できている2022〜2025年度のみを掲載しています。2021年度(20社/257社=7.8%)と2026年度(81社/689社=11.8%)は年度の一部しか収録されていないため、他年度と同列には比較できません。
計上会社数は85社→83社→72社→92社、計上率は10.3%→9.7%→7.8%→9.0%と上下しており、実数・比率のいずれにも一貫した増加傾向は確認できません。
4年分のデータで方向性を断定することはできませんが、少なくとも「M&Aが増えたぶん負ののれんも増えている」という説明は本データからは支持されません。
実測③:同じ有報の中で、どの類型と一緒に出るか
負ののれんを計上した有価証券報告書433本について、同一の有報の中で併存していたタグを集計しました。
| 同一有報内で併存していたタグ | 該当有報数(433本中) | 割合 |
|---|---|---|
| 取得(パーチェス) | 318 | 73% |
| 暫定的な会計処理 | 88 | 20% |
| 事業分離・譲渡 | 87 | 20% |
| 段階取得 | 84 | 19% |
| 共通支配下 | 80 | 18% |
| 合併 | 51 | 12% |
| 株式交換・株式移転 | 45 | 10% |
| 会社分割 | 31 | 7% |
この表の読み方(重要):
これは「同じ有価証券報告書の企業結合注記の中に、両方の語が出てきた」ことを示すだけで、負ののれんとそのタグが同一の取引で結びついていることを示すものではありません。企業結合注記には1年度分の複数の取引がまとめて記載されるため、A社の取得で負ののれんが生じ、B事業の分離が別に記載されている、という並存が普通に起こります。取引単位での紐付けは、注記原文を読んで判断してください。
そのうえで読み取れるのは、負ののれんの大半(73%)が通常の「取得(パーチェス法)」の記載を伴うことです。
負ののれんは特殊な組織再編に固有の現象ではなく、ごく普通の子会社取得の会計処理の結果として出てきます。また20%で「暫定的な会計処理」が併存している点も実務的には重要で、取得原価の配分が確定していない段階では、確定時に負ののれんの金額が変動する可能性があります。
誤解しやすい点:
日本基準の共通支配下の取引からは、新たなのれんも負ののれん発生益も原則として生じません。共通支配下の取引(親子会社間・兄弟会社間などグループ内の再編)では、移転する資産・負債は原則として移転直前の適正な帳簿価額により計上され(企業会計基準第21号第41項)、移転された資産と負債の差額は純資産として処理されます(同第42項)。損益には出てきません。
上表で「共通支配下」が18%の有報に併存しているのは、同じ年度にグループ内再編と外部からの取得が別々に行われ、両方が同じ注記に記載されているためです。共通支配下だから負ののれんが出た、と読まないでください。
会計処理:見直しを尽くしてから、一度に利益へ
日本基準は、負ののれんが生じると見込まれる場合にすぐ利益計上することを認めていません。
手順は、
- 取得原価の測定
- 受け入れた資産・負債の把握と時価評価
- 取得原価の配分
——これらに誤りや漏れがないかを再検討し、それでもなお残る差額を発生年度の利益とする、というものです(企業会計基準第21号第33項)。
ただし、この見直しには重要性の例外があります。
同項ただし書きは、取得原価が配分後の純額を下回る額に重要性が乏しい場合には、見直しを行わずに当期の利益として処理できるとしています。少額の負ののれんについてまで再配分作業を求めるものではない、という趣旨です。したがって「負ののれんが計上されている=必ず全面的な見直しを経ている」とまでは言い切れず、金額規模とセットで見る必要があります。
見直しの局面で論点になりやすいのが、
認識すべき負債を漏らしていないか
です。
日本基準では、取得後に発生することが予測される特定の事象に対応した費用または損失であって、その発生の可能性が取得の対価の算定に反映されている場合、「企業結合に係る特定勘定」として負債に計上します(同第30項)。将来のリストラ費用や偶発的な損失が価格に織り込まれているのに負債計上されていなければ、負ののれんが過大になります。
一方でIFRSの扱いは異なります。
IFRS第3号では、取得日時点で負債の定義を満たすもの(=取得日における現在の債務)だけを認識します。取得企業が取得後に実施を予定しているリストラや事業撤退の費用は、取得日に債務が存在しない限り取得日の負債として認識されず、取得後の費用として処理されます。「買収後にリストラ費用がかかるから、その分を負債に積んで負ののれんを圧縮する」という処理は、IFRSでは認められません。
日本基準とIFRSの違い
| 項目 | 日本基準(企業会計基準第21号) | IFRS(IFRS第3号) |
|---|---|---|
| 呼称 | 負ののれん発生益 | 割安購入益(バーゲンパーチェスによる利得) |
| 計上時期 | 発生した事業年度の利益 | 取得日に純損益で認識 |
| 表示 | 原則として特別利益(第48項) | 純損益で認識し、認識した金額と表示科目を開示(B64(n))。特別損益の区分はない |
| 計上前の手続 | 資産・負債の把握と取得原価の配分を見直す(第33項)。重要性が乏しい場合は省略可 | 識別可能資産・負債、非支配持分、対価等を再検討する |
| 取得後のリストラ費用 | 対価に反映されていれば「企業結合に係る特定勘定」として負債計上(第30項) | 取得日に現在の債務でなければ負債計上しない |
| 共通支配下の企業結合 | 第41〜44項で規定(帳簿価額処理・差額は純資産) | IFRS第3号の適用範囲外 |
| プラスののれん | 20年以内で規則償却+減損 | 償却せず、毎期減損テスト |
負ののれん(割安購入益)を「取得日に一度で損益に計上する」という骨格は日本基準とIFRSで共通ですが、表示と取得後のリストラ費用の扱いが異なります。
日本基準の連結損益計算書では特別利益に区分表示されるため一過性であることが読み取りやすいのに対し、IFRSには特別損益の区分がありません。
IFRS第3号は割安購入益の金額とそれを認識した表示科目の開示を求めているため、注記まで確認しないと発生益の所在を見落としやすい点に注意してください。
なお、IFRS適用会社の損益計算書の表示は、2027年1月1日以後開始する事業年度からIFRS第18号「財務諸表における表示及び開示」が適用され、営業・投資・財務のカテゴリー区分が導入されます(早期適用も認められています)。同基準は、営業カテゴリーの収益・費用を生む資産を含む企業結合から生じた割安購入益を、営業カテゴリーに分類する例を挙げています(第B49項(f))。
つまり一過性の割安購入益が営業カテゴリーの利益に含まれる場合があるということであり、IFRS第18号適用後の利益分析では、営業カテゴリーの中身を注記で別途確認する必要があります。
当サイトの集計対象352社のうち、日本基準を適用していた年度の有価証券報告書で負ののれんを計上していたのは322社、IFRSを適用していた年度で計上していたのは30社で、両方に該当する会社はありませんでした(重複0社。322+30=352社)。有報単位では日本基準382本・IFRS 51本です。
決算での読み方:利益の質と、注記のどこを見るか
負ののれん発生益は、「今期の利益にどれだけ一過性要因が含まれるか」を測る材料になります。営業利益は堅調でも、当期純利益が負ののれん発生益で大きく膨らんでいる場合、翌期は反動が出ます。
分析実務では、当期純利益から一過性要因を除いた「実力ベースの利益」を意識することが一般的です。ただしこの種の調整後利益は会計基準に定義のない非GAAP指標であり、何を一過性とみなすかは作成者の判断に依存します。他社比較や時系列比較に使う場合は、調整項目を明示したうえで、監査済みの当期純利益と併記するのが前提です。
確認すべき注記は、企業結合注記のうち「発生した負ののれん発生益の金額及び発生原因」の項目です(企業会計基準第21号第49項)。ここに金額と、なぜ生じたか(例:受け入れた純資産の時価が取得原価を上回ったため)が説明されます。
あわせて損益計算書の特別利益と金額の整合を確認できます。読むときのポイントは3つです。
- 金額規模
当期純利益に対してどの程度かを見ます。 - 発生原因の具体性
「時価が取得原価を上回ったため」とだけ書かれている場合と、事業再生案件である旨や資産の含み益が具体的に説明されている場合とでは、読み手が得られる情報量が違います。 - 暫定的な会計処理かどうか
確定時に金額が変動する可能性があります。
特に注意したいのが事業再生型のM&Aです。
業績不振や債務超過に近い企業を、将来リスクを織り込んだ低い価格で取得して立て直す戦略では、負ののれんが戦略の結果として生じます。この場合、発生益は「割安に取得できた」ことの表れであると同時に、取得後には再建コストや追加投資が必要になることが多く、発生益だけを見て収益力を評価するのは早計です。
逆に、恒常的にM&Aを繰り返して毎期のように負ののれんを計上する会社では、それが事業モデルの一部になっているケースもあり、継続性の観点で評価します。
開示・IRの側から見ると、発生益で最終利益が過去最高になったような場合には、その内訳と継続性を丁寧に説明することが信頼につながります。監査の観点では、資産・負債の把握と取得原価の配分の見直しを尽くしたか、認識すべき負債(特定勘定・偶発債務など)を漏れなく計上したかが重点的に確認されます。
集計方法とデータの限界
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| データ源 | 金融庁EDINETの有価証券報告書「注記事項(企業結合等関係)」本文 |
| 対象期間 | 期末2021年6月30日〜2026年3月31日(2026年7月時点の収録分。2021年・2026年は年度の一部のみ) |
| 母集団(分母) | 企業結合注記に実質的な記載がある2,122社・有報4,579本 |
| 検出手順 | ①注記本文に「負ののれん」「負ののれん発生益」「割安購入益」「バーゲンパーチェス」のいずれかを含む有報を抽出(473本・382社)。 ②各出現箇所の前後を見て、「発生しておりません」等の否定文脈を除外し、金額表記が近接するものを「計上あり」と判定(自動判定:計上あり421本・否定文脈のみ39本・残余13本)。 ③自動判定で残った13本は注記原文を目視で確認し、金額の記載がある12本を計上ありとして追加(残る1本は将来の計上予定を述べたのみで除外)。 ④以上により計上あり433本・否定文脈のみ39本・除外1本、対応する352社を本記事の分析対象とした |
| 指標の定義 | 本記事の「計上率」=負ののれんを計上した会社数 ÷ 企業結合注記の記載あり社数。会社ベース・期間通算(同一社の複数年度は1社)。M&A1件あたりの発生確率ではありません |
| 集計単位 | 業種別・年度別の計上率は会社単位(重複排除)。類型併存表は有報単位。両者を足し合わせないこと |
| 会計基準の判定 | 同一社でも年度により基準が変わり得るため会社単位では「その年度の基準」で集計。 日本基準年度322社・IFRS年度30社・両方に該当する会社0社 |
| 検索語の範囲 | 「負ののれん」「負ののれん発生益」に加え、IFRSで用いられる「割安購入益」「バーゲンパーチェス」を検索語に含めています。記載あり2,122社のうち「割安購入益」「バーゲンパーチェス」の語を含むのは4社で、うち3社(ゼロ・日本製鉄・三菱商事)は「負ののれん」の語を含まないため、検索語の拡張により新たに捕捉されました |
| 業種分類 | 東証33業種。計上率は記載あり社数30社以上の15業種のみ掲載(残る18業種は分母が小さく率が振れやすいため非掲載)。全体行は33業種すべてを含みます |
| 金額の非集計 | 本記事では発生益の金額は集計していません。会社数ベースの比率であり、金額規模の大小は反映されていません |
| 通算と単年の違い | 352社/2,122社=16.6%は5年通算の値。単年度の計上率は7.8〜10.3%(通年収録の2022〜2025年度)で、両者は母集団の取り方が異なります |
本記事の352社は「少なくともこれだけは確認できた」という下限値としてお読みください。
また、企業結合注記には前年度に取得した案件の確定情報や比較開示も記載されるため、年度別の会社数には前年度取引の再掲が含まれる場合があります。個別企業の判断に用いる場合は、必ず有価証券報告書の原本で該当箇所をご確認ください。
よくある質問(FAQ)
Q1. 負ののれんは償却しますか?
いいえ。負ののれんは償却せず、発生した年度に一括して利益として計上します。
プラスののれんが日本基準で20年以内に償却されるのと対照的で、貸借対照表に資産・負債として残ることもありません。
Q2. なぜ「安く買える」ことが起きるのですか?
売り手が価格より早期・確実な売却を優先した、対象企業の業績不振や将来リスクが価格に織り込まれた、対象企業の保有資産の時価が簿価を大きく上回っていた——といった事情が考えられます。
業種別の計上率で銀行業・不動産業が上位に来る理由として、保有資産の時価と簿価の差が大きい業種特性を挙げることができますが、これは一つの仮説であり、本記事の集計から直接検証したものではありません。
Q3. 負ののれん発生益は良いことですか?
一時的に利益を押し上げますが、本業の収益力とは別の一過性利益です。
翌期は同じ発生益が出ない前提で、反動を織り込んで見るのが実務的です。事業再生型の取得では、取得後の再建コストが後から効いてきます。
Q4. 負ののれんが出たら必ず利益計上ですか?
まず取得原価の配分や資産・負債の把握に誤りがないか見直し、それでも残る差額を利益計上します。
ただし、下回る額に重要性が乏しい場合には、この見直しを行わずに当期の利益として処理できるとされています(企業会計基準第21号第33項ただし書き)。
Q5. IFRSでも同じですか?
骨格は共通で、IFRS第3号でも割安購入益は再検討のうえ取得日に純損益で認識します。
違いは表示です。日本基準では原則として特別利益に区分表示されますが、IFRSには特別損益の区分がないため、金額と表示科目が注記で開示されます(B64(n))。また、取得後に予定しているリストラ費用は、IFRSでは取得日の負債として認識できません。
Q6. 負ののれん発生益は営業利益に入りますか?
日本基準では原則として特別利益に表示されるため、営業利益には含まれません(企業会計基準第21号第48項)。
IFRSでは特別損益の区分がないため、どの表示科目に含まれているかを注記(B64(n))で確認する必要があります。なお2027年1月1日以後開始する事業年度からはIFRS第18号により損益計算書のカテゴリー区分が導入され、営業カテゴリーの収益・費用を生む資産を含む企業結合から生じた割安購入益は営業カテゴリーに分類されます(第B49項(f))。
一過性の利益が営業カテゴリーに含まれ得る点に注意が必要です。いずれの基準でも、本業の収益力とは切り分けて評価するのが適切です。
Q7. 共通支配下の再編でも負ののれんは出ますか?
日本基準の共通支配下の取引では、新たなのれん・負ののれん発生益は原則として認識しません。
個別財務諸表では移転直前の適正な帳簿価額を基礎に処理し(第41項)、移転された資産と負債の差額は純資産として処理され(第42項)、連結財務諸表では内部取引として消去されます(第44項)。
なお、IFRSでは共通支配下の企業結合はIFRS第3号の適用範囲外です。負ののれんの注記と共通支配下の記載が同じ有報に併存していても、それは同じ年度に別々の取引が記載されているためです。
Q8. 負ののれんが出た会社は「お買い得」だったのですか?
会計上は割安な取得ですが、業績不振企業の取得や事業再生案件では取得後の再建コストがかかることも多く、発生益だけで買収の巧拙は判断できません。
発生原因と買収の狙いを併せて評価します。
まとめ
負ののれん発生益は、企業結合注記に記載のある2,122社のうち少なくとも352社(16.6%、単年度では7.8〜10.3%)が計上しており、特殊な例外とは言い切れません。
業種別に分母をそろえて見ると、計上会社数で上位のサービス業・情報通信業はむしろ計上率が最も低く、銀行業・陸運業・輸送用機器・金属製品で3割前後と高くなります。年度別に見ると、計上会社数は85社→83社→72社→92社、計上率は10.3%→9.7%→7.8%→9.0%と上下しており、実数・比率のいずれにも一貫した増加傾向は確認できません。
会計処理としては、見直しを尽くしたうえで(重要性が乏しい場合を除く)発生年度に一度だけ利益計上されるため、利益の質を見るうえで金額規模と発生原因の確認が欠かせません。
実際にどの会社がどんな原因で計上したかは、ダッシュボードで注記原文まで辿って確認できます。
🤝 企業結合注記ナビゲーターβ 有報「企業結合等関係」注記2,122社分を横断検索。のれん償却年数・取得対価をベンチマーク →▶ 企業結合注記ナビゲーターで、負ののれんの発生原因を原文で確認する
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- PPAで識別される無形資産
出典・注記
- 会社数・業種別計上率・年度別計上率・類型併存の集計は、金融庁EDINETの有価証券報告書「注記事項(企業結合等関係)」を当サイトが抽出・集計した参考値です(2026年7月時点)。
- キーワードと正規表現による検出のため、取りこぼし・過検出があり得ます。
- 正確な内容は各社の有価証券報告書原本をご確認ください。
- 会計処理の定めは企業会計基準第21号「企業結合に関する会計基準」・同適用指針第10号、及びIFRS第3号「企業結合」・IFRS第18号「財務諸表における表示及び開示」によります(項番・条文は公開前に最新版をご確認ください)。
- 本記事は一般的な情報提供であり、個別の会計処理は監査人・専門家にご相談ください。
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