この記事で判断できること:退職後に支給する給与・賞与の源泉徴収(乙欄・申告書の有無)
国税庁タックスアンサーの「No.2739 退職後に支給される給与等の源泉徴収」について解説します。
解説動画
3月末に退職した人に、4月25日の支給日に3月分の給与を払う。退職後に払う給与は退職金になるのか、源泉徴収税額表は甲欄と乙欄のどちらを使うのか。国税庁タックスアンサー No.2739 の内容を、「給与等か退職手当等か」「原則は乙欄」「甲欄でもよい例外」の3点に絞って整理します。税額表の甲欄・乙欄の基本は No.2511 税額表の種類と使い方 の記事で扱っています。
この記事の結論
退職後に支払う給与でも、在職者に支払われるものと同性質なら退職手当等ではなく給与等として源泉徴収します。扶養控除等申告書は退職で効力を失うので、原則は税額表の乙欄。退職後その年中の支給で、ほかの支払者を経由して申告書を出していないことが明らかなら甲欄でも差し支えありません。
退職後の給与も、在職中と同じ甲欄で当然に計算する
原則は乙欄
その年中の支給で、ほかで申告書を出していないことが明らか
甲欄でも差し支えない
- 1退職後に支給期が到来する給与や在職中の給与の追加払は、在職者と同性質なら給与等。退職したことに基因するものではないので、退職手当等には当たりません。
- 2扶養控除等申告書は、提出の際に経由した支払者のもとを退職したときに効力を失うので、原則として乙欄で税額を求めます。
- 3退職後その年中の支給で、退職者がほかの支払者を経由して申告書を提出していないことが明らかなら、申告書が引き続き効力を有するものとして甲欄で求めても差し支えありません。
要点1 在職者と同性質なら「給与等」。退職手当等ではない
退職者に対しては、退職後に支給期が到来する給与等を支払う場合や、在職中の給与等の追加払を行う場合などがあります。No.2739 は、それが在職者に支払われるものと同性質のものであれば、退職したことに基因して支払われるものではないので、退職手当等には該当せず、給与等として源泉徴収を行うとしています。
典型は、締め日や支給日の関係で、在職期間の最後の給与が退職日の後の支給日に支払われる場合です。給与の計算期間が在職中で、在職者にも同じ基準で支払われる給与なら、支払が退職後でも給与等です。退職所得として計算したり、退職金とまとめて扱ったりはしません。判断の分かれ目は「退職後に払ったか」ではなく、「在職者に払うものと同じ性質か」です。退職を理由に一時に支払うものは退職手当等として別の扱いになります。
要点2 申告書は退職で効力を失う。だから原則は乙欄
給与所得者の扶養控除等申告書は、その給与所得者が提出の際に経由した給与等の支払者のもとを退職したときに、その効力を失うものとされています。甲欄は、扶養控除等申告書を提出している人に使う欄です。退職によって申告書の効力がなくなるので、退職者に退職後に支給期が到来する給与等を支払う場合には、原則として給与所得の源泉徴収税額表の乙欄により源泉徴収税額を求めます。
乙欄は、申告書を提出していない人に使う欄で、一般に甲欄より税額が大きくなります。退職後に支払うものが賞与であれば、賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表でも、申告書を提出していない人は乙欄を使います(No.2523)。
要点3 甲欄でもよいのは「その年中」で「出していないことが明らか」なとき
ただし、退職後その年中に給与等の支給をする時において、その退職した者がほかの給与等の支払者を経由して扶養控除等申告書を提出していないことが明らかな場合には、退職後も申告書が引き続き効力を有するものとして、甲欄により源泉徴収税額を求めても差し支えありません。
この例外には条件が2つあります。1つは、支給が退職後その年中であることです。12月に退職し、翌年1月の支給日に最後の給与を支払う場合は、その年中の支給ではないので、この例外の対象外で乙欄になります。もう1つは、退職者がほかの支払者を経由して申告書を提出していないことが「明らか」であることです。再就職先に申告書を提出していれば、二か所から甲欄で源泉徴収を受けることになるので、例外は使えません。原文は確認の方法までは定めていないので、支払の時点で何をもとに判断したかを記録に残すと説明しやすくなります。
要点4 退職した人の年末調整と、その後の精算
乙欄で源泉徴収した税額は、どこで精算されるのか。国税庁タックスアンサー No.2665 によると、年の中途で行う年末調整の対象は、死亡によって退職した人、著しい心身の障害のために退職した人、12月に支給されるべき給与等の支払を受けた後に退職した人などに限られ、これらに当たらない年の中途の退職者は年末調整の対象となりません。
その後、年の中途で再就職した人は、再就職先の年末調整の対象になります。No.2674 によると、ほかの会社などに扶養控除等申告書を提出して支払を受けた給与がある人は、それらの給与を含めて年末調整を行い、その金額や税額は前の会社の源泉徴収票などで確認します。確認できないときは年末調整を行うことができず、本人が確定申告で精算します。所得税基本通達190-2(3)により、前の会社の給与で通算するのは甲欄の給与です(その年、申告書の提出を受ける前に乙欄等で支払った給与を含む)。そのため、退職後に前の会社から乙欄で源泉徴収された給与は、原則として再就職先の年末調整には含めず、本人が確定申告で他の給与と合わせて精算します。同じ支払者の乙欄と甲欄の通算などの例外も同通達にあります。
設例で確かめる
| A:3月分の給与(在職者と同じ基準) | 退職手当等ではなく給与等として源泉徴収 |
| B:4月25日時点で再就職しておらず、ほかで申告書を出していないことが明らか | 退職後その年中の支給なので甲欄でも差し支えない |
| C:4月1日に再就職し、再就職先に申告書を提出している | 例外は使えない → 乙欄 |
| D:ほかで申告書を出しているか分からない | 「明らか」とはいえない → 原則どおり乙欄 |
| E:12月20日に退職し、最後の給与を翌年1月の支給日に支払う | その年中の支給ではない → 乙欄 |
Aは支払が退職後でも在職者と同性質の給与なので給与等です。BとCの違いは、ほかの支払者に申告書を出しているかどうかです。Dのように確かめられないときは、例外の条件である「明らか」を満たさないので原則の乙欄になります。Eは年をまたぐので、条件を確かめるまでもなく乙欄です。
例外と注意点
- 退職手当等に当たるもの退職したことに基因して一時に支払われるものは、給与等ではなく退職手当等として扱います。この記事の対象外です。
- 賞与を退職後に支払う場合在職者と同性質なら給与等で、原則は算出率の表(申告書の効力がなければ乙欄)です。ただし、前月に給与の支払がない場合や、前月の給与(社会保険料等控除後)の10倍を超える場合は、算出率の表ではなく月額表を使う特別な計算になります(No.2523)。
- 翌年に支払う場合甲欄の例外は「退職後その年中」の支給に限られます。年をまたいだ支給は乙欄です。
よくある間違い
- 退職後に払う給与を退職金と合わせて退職所得にしている在職者と同性質なら給与等です。支払の時期ではなく性質で区分します。
- 退職後の給与も、在職中と同じ甲欄で計算している申告書は退職で効力を失うので、原則は乙欄です。
- 本人に確かめないまま、甲欄の例外を使っている例外は、ほかで申告書を出していないことが「明らか」な場合に限られます。
- 翌年1月に支払う最後の給与に甲欄を使っている例外は退職後その年中の支給に限られます。
- 中途退職者の年末調整を、退職した会社で行っている年の中途の退職者は、死亡退職など一定の場合を除き年末調整の対象外です(No.2665)。
実務の確認手順
- 支払うものの性質を確認したか在職者に支払われるものと同性質の給与・賞与・追加払か、退職を理由とするものかを確認する。
- 退職日と支給日を確認したか支給日が退職日の後か、退職した年中か翌年かを確認する。
- ほかの支払者への申告書の提出を確認したか支払の時点で、再就職先などに扶養控除等申告書を出していないことが明らかかを確認し、判断の根拠を残す。
- 使う欄を決めたか原則は乙欄。退職後その年中で、出していないことが明らかなら甲欄でも差し支えない。
- 精算の場面を確認したか年の中途の退職者は原則として年末調整の対象外(No.2665)。再就職先の年末調整では、前の会社の源泉徴収票などで金額を確認する(No.2674)。退職後に乙欄で支払った給与は、原則として通算しない(所得税基本通達190-2)。
根拠と関連記事
結論欄の評価は TaxJudge 編集部の目安です。頻出度=給与・経理の実務でこの論点に出会う頻度(★5:ほぼ毎月〜★1:まれ)。難易度=基礎:原則を知れば判断できる/標準:例外や他の制度との関係まで見る必要がある/応用:個別事情の判断や複数制度の横断が必要。
根拠:国税庁タックスアンサー No.2739 退職後に支給される給与等の源泉徴収(令和8年4月1日現在法令等。所得税法30、185、186、194、所得税基本通達30-1、194・195-6)、国税庁タックスアンサー No.2665 年末調整の対象となる人、No.2674 中途就職者の年末調整、No.2523 賞与に対する源泉徴収(いずれも令和8年4月1日現在法令等)、所得税基本通達190-2(その年中に支払うべきことが確定した給与等の計算)(2026年10月確認)。先生とハルカは架空の人物で、会話は制度を理解するための学習用です。個別の判断は国税庁の原文と最新の法令で確認してください。
Q&A
読んだ内容の確認用です。質問を押すと答えが開きます(全10問)。
Q1退職後に支払われる給与が「退職手当等」に該当しないのはどのような場合ですか?答えを見る ▼閉じる ▲
支払われる給与等が、在職者に支払われるものと同性質である場合です。この場合、退職したことに基因して支払われるものではないと判断されるため、退職手当等には該当しません。
Q2退職した従業員が以前提出した「給与所得者の扶養控除等申告書」の効力は、退職後にどうなりますか?答えを見る ▼閉じる ▲
その申告書は、給与所得者が支払者のもとを退職したときにその効力を失うものとされています。そのため、退職後の支払いについては原則として申告書がないものとして扱われます。
Q3退職後に支給期が到来する給与を支払う際、原則として使用すべき源泉徴収税額表の区分は何ですか?答えを見る ▼閉じる ▲
原則として、給与所得の源泉徴収税額表の「乙欄」を使用して税額を求めます。これは、退職によって扶養控除等申告書の効力が失われているためです。
Q4退職後の給与支払いにおいて、例外的に「甲欄」を適用できるのはどのような状況ですか?答えを見る ▼閉じる ▲
退職者がその年中に他の給与支払者へ申告書を提出していないことが明らかな場合です。この時に限り、退職後も元の申告書が引き続き効力を有するものとして甲欄を適用できます。
Q5在職中の給与の追加払いが発生した場合、税務上はどのように分類されますか?答えを見る ▼閉じる ▲
在職者に支払われるものと同性質であれば、「給与等」として分類されます。退職手当等ではなく給与等として源泉徴収を行う必要があります。
Q6退職後に支給される金員が「退職に基因するもの」ではないと判断される基準は何ですか?答えを見る ▼閉じる ▲
その支払いが、在職者に支払われるものと同性質であるかどうかが基準となります。在職者と同じ性質であれば、退職という事象に直接起因するものではないとみなされます。
Q7源泉徴収税額を決定する際、支払者が確認すべき「退職者の現状」に関する事項は何ですか?答えを見る ▼閉じる ▲
退職者が他の給与の支払者を経由して「給与所得者の扶養控除等申告書」を提出しているかどうかを確認する必要があります。これにより、甲欄か乙欄かの適用が判断されます。
Q8この規定の対象となる税目は何ですか?答えを見る ▼閉じる ▲
対象となる税目は「源泉所得税」です。給与や退職金に関連する所得税の源泉徴収手続きについて規定されています。
Q9本ガイドの情報の根拠となっている主な法令等は何ですか?答えを見る ▼閉じる ▲
所得税法(所法)30条、185条、186条、194条、および所得税基本通達(所基通)などが根拠となっています。
Q10国税に関する具体的な相談を行いたい場合、国税庁はどのような手段を推奨していますか?答えを見る ▼閉じる ▲
国税局電話相談センター等での電話相談を推奨しています。具体的な窓口については「税についての相談窓口」を確認するよう案内されています。
