この記事で判断できること:海外勤務中に国内の不動産所得がある場合の申告
国税庁タックスアンサーの「No.1926 海外勤務中に不動産所得などがある場合」について解説します。
解説動画
海外赴任で非居住者になった人が日本に残した自宅を貸している場合、「海外にいるから日本の申告は関係ない」とはなりません。国内の不動産の貸付けの所得は国内源泉所得として日本で課税され、納税管理人を通じた確定申告が必要です。国税庁タックスアンサー No.1926 を、「何が申告の対象か」「納税管理人の届出の時期で何が変わるか」「所得控除はどこまで使えるか」の3点に絞って整理します。納税管理人の手続は No.1923 で扱っています。
この記事の結論
1年以上の予定で海外に転勤した人は非居住者になりますが、国内の不動産の貸付けや国内資産の譲渡などの国内源泉所得は総合課税の対象で、納税管理人を通じて日本で確定申告が必要です。出国の時までに納税管理人を届け出れば翌年の申告1回で済み、届け出ずに出国すると出国の時までに準確定申告をしたうえで翌年にも申告します。
海外にいるので国内の家賃収入は日本で申告しなくてよい
国内源泉所得。日本で確定申告が必要
出国の時までに納税管理人を届け出て出国した
翌年の確定申告1回で済む
- 1国内の不動産の貸付けの対価、国内資産(不動産・一定の株式等)の譲渡、国内資産の運用・保有(源泉徴収されない取引)、国内の営業所で締結した保険契約の一時金は総合課税で確定申告します。
- 2出国した年は居住者期間のすべての所得と非居住者期間の国内源泉所得の合計額を翌年2月16日〜3月15日に申告します。翌年以後も、国内源泉所得が所得控除の合計額を超える年は申告します。
- 3所得控除は3グループ。医療費・生命保険料などは居住者期間の支払額で、配偶者控除・扶養控除などは届出の有無で判定日が変わり、雑損(国内資産のみ)・寄附金・基礎控除は年を通じて非居住者でも使えます。
要点1 非居住者でも、国内の不動産所得や資産の譲渡は総合課税で申告する
国内の会社に勤める給与所得者が1年以上の予定で海外の支店などに転勤すると、一般的には国内に住所を有しない者と推定され、非居住者になります。非居住者に国内の不動産の貸付けや資産の譲渡などの国内源泉所得があるときは、その所得について納税義務が生じ、日本で確定申告が必要になる場合があります。
非居住者の課税方法は、総合課税(申告分離課税を含む)で申告するか、源泉徴収だけで完結する源泉分離課税かに分かれ、国内源泉所得の種類と恒久的施設(PE)の有無で決まります。原文が総合課税で確定申告が必要とする4つは、国内にある資産の運用・保有による所得(源泉徴収されない取引)、国内にある資産(不動産や一定の株式等)の譲渡による所得、国内にある不動産等の貸付けの対価(不動産所得)、国内の営業所等で締結した保険契約等の一時金です。確定申告が必要な場合は納税管理人(法人でも個人でも可)を定め、届出書をその非居住者の納税地の所轄税務署長に提出します。
要点2 納税管理人を「出国の時までに」届け出たかで、申告の回数と控除の判定日が変わる
年の中途で海外に転出した人が転出の時までに納税管理人を指定した場合は、1月1日から転出する日まで(居住者期間)のすべての所得と、転出した日の翌日から12月31日まで(非居住者期間)の国内源泉所得の合計額について、翌年2月16日から3月15日までに納税管理人を通じて確定申告と納税をします。
納税管理人を指定しないで「出国」する場合は、居住者期間のすべての所得について出国の時までに確定申告(準確定申告)をし、出国後に国内源泉所得が生じるときは、合計額について納税管理人を通じて翌年2月16日から3月15日までに改めて確定申告と納税をします。年を通じて海外に勤務している年は、国内源泉所得の金額が所得控除の合計額を超える場合に、原則として翌年2月16日から3月15日までに納税管理人を通じて確定申告をします。
要点3 所得控除は3グループ。賃貸料の20.42%は申告で精算する
出国した年の申告では、医療費控除、社会保険料控除、小規模企業共済等掛金控除、生命保険料控除、地震保険料控除は居住者期間内に支払った金額を基に計算します。配偶者(特別)控除、扶養控除、特定親族特別控除、障害者控除、寡婦控除、ひとり親控除、勤労学生控除は、納税管理人を指定して出国した場合は12月31日、指定しないで出国した場合は出国の日の現況で判定します。雑損控除、寄附金控除、基礎控除は年を通じて非居住者の年も適用できますが、非居住者期間の雑損控除は国内にある資産の損失に限られます。
税額控除では配当控除と外国税額控除を適用でき、住宅借入金等特別控除は転勤等のやむを得ない事情がある場合に一定の要件で適用を受けられます(No.1234)。国内にある不動産の賃貸料は、原則として支払を受ける際に20.42%の所得税と復興特別所得税(令和9年分以後は所得税、防衛特別所得税および復興特別所得税)が源泉徴収されますが、還付を受けるための申告もできます。自己または親族の居住用に借りた個人が支払う賃貸料は源泉徴収されません。非居住者期間の不動産所得の計算方法は居住者と同じです。
要点4 年を通じて非居住者の年は、基礎控除の最高額が居住者より小さい
原文は翌年以後の申告の要否を「国内源泉所得の金額が所得控除の合計額を超える場合」としています。その中心になる基礎控除は、No.1199 の注記によれば、居住者でない場合の最高額が令和7年分58万円、令和8年分以後62万円と別に定められています。年を通じて海外に勤務している年は、この金額で申告の要否を判定することになります。
令和8年分の基礎控除の規定は令和8年12月1日に施行され、同日前の適用関係は国税庁のQ&Aで確認することとされています。超えない年でも、源泉徴収税額の還付を受けるための申告はできます。
設例で確かめる
| A:出国の時までに納税管理人を届け出た | 翌年2/16〜3/15に、1〜4月の給与と5〜12月の不動産所得を合算して申告。扶養控除は12/31の現況 |
| B:届け出ずに出国した | 出国の時までに1〜4月の所得を準確定申告。翌年に合計額で再度申告。扶養控除は出国の日の現況 |
| C:5〜12月の家賃160万円(法人が借主) | 支払の際に20.42%=326,720円が源泉徴収され、申告で精算 |
| D:借主が個人で自己の居住用だった | 源泉徴収はされないが、不動産所得の申告は必要 |
| E:出国後に海外で払った生命保険料 | 生命保険料控除の対象外(居住者期間の支払額で計算) |
| F:翌年、年を通じて非居住者で不動産所得60万円 | 所得控除の合計額(基礎控除は最高62万円)以下なら申告不要。還付の申告は可能 |
AとBは申告の回数と控除の判定日が違うだけで、課税される所得の範囲は同じです。Cの源泉徴収税額は収入に対する前払いで、申告で精算されます。
例外と注意点
- 源泉徴収の対象かと、申告が必要かは別個人の居住用の借主からの家賃は源泉徴収されませんが、不動産所得の申告は必要です。
- 雑損控除は国内資産の損失に限る非居住者期間の雑損控除は、国内にある資産について生じた損失が対象です。
- 住宅ローン控除は転勤等の事情があれば一定の要件で適用引き続き居住していることが要件の一つで、転勤等の場合の取扱いは No.1234 で確認します。
- 令和9年分以後は内訳が変わる賃貸料の源泉徴収は所得税、防衛特別所得税および復興特別所得税になります。
よくある間違い
- 非居住者だから国内の家賃収入は申告しないと考えた国内の不動産の貸付けの対価は国内源泉所得で、総合課税の対象です。
- 納税管理人を届け出ずに出国し、準確定申告をしなかった届け出ずに出国する場合は、居住者期間の所得を出国の時までに準確定申告します。
- 出国後に払った生命保険料を控除に入れた生命保険料控除などは居住者期間内に支払った金額で計算します。
- 年を通じて非居住者の年に居住者の基礎控除の額で判定した居住者でない場合の最高額は令和7年分58万円、令和8年分以後62万円です(No.1199)。
- 家賃が20.42%源泉徴収されたので申告は不要と考えた源泉徴収は前払いです。申告の要否は所得と所得控除で判定します。
実務の確認手順
- 非居住者になるか、国内源泉所得があるかを確認する1年以上の予定の海外勤務なら一般に非居住者(No.2875)。国内の不動産の貸付け、国内資産の譲渡などがあれば申告の対象。
- 出国の時までに納税管理人を届け出る「所得税・消費税の納税管理人の選任・解任届出書」を非居住者の納税地の所轄税務署長へ(No.1923)。届け出ずに出国するなら準確定申告。
- 翌年2月16日〜3月15日に納税管理人を通じて申告する居住者期間のすべての所得と非居住者期間の国内源泉所得の合計額で申告。源泉徴収票・家賃の源泉徴収税額・経費の資料をそろえ、控除は3グループで整理。
- 翌年以後は毎年、申告の要否を判定する国内源泉所得が所得控除の合計額(基礎控除は居住者でない場合の最高額)を超えれば申告。還付の申告は可能。
根拠と関連記事
結論欄の評価は TaxJudge 編集部の目安です。頻出度=給与・経理の実務でこの論点に出会う頻度(★5:ほぼ毎月〜★1:まれ)。難易度=基礎:原則を知れば判断できる/標準:例外や他の制度との関係まで見る必要がある/応用:個別事情の判断や複数制度の横断が必要。
根拠:国税庁タックスアンサー No.1926 海外勤務中に不動産所得などがある場合(令和8年4月1日現在法令等。所得税法2、5、7、8、85、102、120、122、126、127、161、164〜166、212ほか)、No.1199 基礎控除(居住者でない場合の最高額)、No.1234・No.1241・No.1923(いずれも2026年10月確認)。先生とハルカは架空の人物で、会話は制度を理解するための学習用です。個別の判断は国税庁の原文と最新の法令・租税条約で確認してください。
Q&A
読んだ内容の確認用です。質問を押すと答えが開きます(全10問)。
Q1日本国内の会社員が海外の支店に1年以上の予定で転勤する場合、所得税法上は一般的にどのように区分されますか?答えを見る ▼閉じる ▲
1年以上の予定で海外に転勤すると、一般的に日本国内に住所を有しない者と推定され、所得税法上の「非居住者」となります。この区分により、課税対象となる所得の範囲や申告方法が居住者とは異なります。
Q2海外勤務者が日本国内にある不動産の貸付けによる所得(国内源泉所得)を得る場合、どのような手続きが必要になりますか?答えを見る ▼閉じる ▲
日本国内で生じた所得(国内源泉所得)があるため、原則として日本での確定申告が必要になります。その際、納税地を所轄する税務署長に対し、納税管理人を定めるための届出書を提出しなければなりません。
Q3「納税管理人」とはどのような役割を担う存在ですか?答えを見る ▼閉じる ▲
納税管理人とは、海外に居住する本人に代わって、確定申告書の提出や税金の納付などの事務手続きを行う人のことです。法人のほか、個人を充てることも可能です。
Q4海外への出発日までに納税管理人の届出をした場合、配偶者控除や扶養控除の適用判定はいつの時点の状態で行われますか?答えを見る ▼閉じる ▲
納税管理人の届出を済ませてから出国した場合は、その年の12月31日の現況によって判定されます。一方、届出をせずに出国した場合は、出国した日の現況で判定されることになります。
Q5社会保険料控除や生命保険料控除の額は、どのように計算されますか?答えを見る ▼閉じる ▲
これらの控除額は、1年間の総額ではなく、日本国内に住所を有していた「居住者期間内」に支払った金額を基にして計算されます。非居住者となった後に支払った金額は含まれません。
Q6「非居住者」の期間中に生じた雑損控除の適用について、注意すべき制限は何ですか?答えを見る ▼閉じる ▲
雑損控除は非居住者でも適用可能ですが、対象となるのは「日本国内にある資産」から生じた損失のみに限定されます。海外にある資産の損失については適用されません。
Q7住宅借入金等特別控除(住宅ローン控除)は、海外転勤中も継続して適用を受けることができますか?答えを見る ▼閉じる ▲
原則として引き続き居住していることが要件ですが、転勤等のやむを得ない事情がある場合には、一定の要件を満たすことで適用を受けることができます。詳細な要件については、関係法令の確認が必要です。
Q8出国の時までに納税管理人を指定しなかった場合、居住者期間の所得についていつまでに申告を行う必要がありますか?答えを見る ▼閉じる ▲
納税管理人を指定せずに出国する場合、居住者期間中に生じたすべての所得について、出国の日までに確定申告(準確定申告)を行う必要があります。その後、非居住者期間の所得がある場合は、改めて翌年に確定申告を行います。
Q9年を通じて海外に勤務している人が、翌年以降も確定申告を行う必要があるのはどのような場合ですか?答えを見る ▼閉じる ▲
日本国内に国内源泉所得があり、その所得の金額が所得控除の合計額を超える場合には、原則として翌年の2月16日から3月15日までの間に、納税管理人を通じて確定申告を行う必要があります。
Q10非居住者が受け取る国内不動産の賃貸料に対し、源泉徴収される税率は合計で何パーセントですか?答えを見る ▼閉じる ▲
原則として、賃貸料の支払を受ける際に20.42パーセントの税率で源泉徴収されます。内訳は所得税が20パーセント、復興特別所得税が0.42パーセントとなっており、確定申告により還付を受けられる場合もあります。
