棚卸資産ラボ【基礎編】|先生と一緒に図で学ぶ評価方法・収益性の低下・洗替え法と切放し法
無料の学習ツール「棚卸資産ラボ」の読み方ガイドです。ラボの基礎タブを上から順に、先生と生徒の会話形式で見ていきます。登場する会社と設例の数値はすべて架空の例です(原典の設例の数値は使っていません)。解説は公認会計士・税理士が監修しています。各行の図はラボの図そのものです。重要な節の最後には、ラボで30秒だけ手を動かす小さな実習を置いています。
今日の事例
導入設例の数字(P社の商品とQ社の商品)
| P社:期首の在庫 | 100個 @50(5,000) |
| P社:当期の仕入 | 200個@55、150個@60、100個@64(計 26,400) |
| P社:払出し(販売) | 380個 ×@90 = 売上 34,200 |
| P社:先入先出法の結果 | 売上原価 20,800、期末 10,600(170個) |
| Q社:商品の取得原価 | 100個 ×@80 = 8,000 |
| Q社:1年目末の正味売却価額 | (売価@70 − 販売直接経費@6)×100個 = 6,400 |
| Q社:1年目末の簿価切下額 | 1,600(売上原価) |
| Q社:2年目末の正味売却価額 | 7,200(まだ在庫) |
はじめに
今日の題材 ── 同じ商品を何回も仕入れて、期末に値下がりしたら
📍 ラボの場所:基礎タブ全体・設例・基礎1・2
ハルカ
先生、棚卸資産は毎月の仕訳で触っています。でも「期末にいくらで載せるか」をきちんと説明しろと言われると、自信がありません。
先生
今日は2つの会社で考えていこうか。P社は同じ商品を単価を変えながら3回仕入れた会社。Q社は、仕入れた商品が期末に値下がりした会社なんだ。
ハルカ
P社は「どの単価のものが売れたとみなすか」、Q社は「値下がりした分をどうするか」の話ですね。
先生
そのとおりだよ。前の半分が払出計算、後ろの半分が期末の評価。この2つがそろうと、期末の金額と売上原価が決まるんだ。
📗 基礎 0 ラボの図
営業目的で所有し売却を予定する資産と、短期に消費される事務用消耗品等(第3・28〜30項)商品・製品・半製品・原材料・仕掛品のほか、注文生産や請負の仕掛中のもの(未成工事支出金など)も含む(第31項)。
販売用不動産・開発事業等支出金も収益性の低下による簿価切下げの対象(第32項)。
事務用消耗品等は国際的な基準とは必ずしも同じではないが、従来の扱いを踏襲して含めている(第29・30項)。
基礎 0
このラボの位置づけと対象 ── 棚卸資産の範囲
📍 ラボの場所:基礎タブ 0
ハルカ
商品・製品・原材料・仕掛品は分かります。未成工事支出金、販売用不動産、事務用消耗品まで並んでいますね。
先生
棚卸資産は、営業の目的で持っていて売る予定の資産と、短い期間で使い切る事務用消耗品などなんだ(第3項)。請負工事の途中のものや、販売用の不動産も入るよ。
迷いポイント 事務用消耗品も、棚卸資産に入る?
ハルカ
コピー用紙は売らないので、棚卸資産とは別の扱いだと思っていました。
先生
この基準では入るんだ。国際的な基準とは必ずしも同じではないけれど、従来の扱いを引き継いでいるよ(第29・30項)。逆に、売買目的有価証券は別の基準によるんだ(第27項)。
💡 そうだったのか!
棚卸資産は
売る予定の資産と、短期に消費する事務用消耗品等。販売用不動産や未成工事支出金も入り、売買目的有価証券などは他の基準によります。
📗 基礎 1 ラボの図
期末の在庫をいくらにするかで、なぜ利益が変わる?
期末の棚卸資産が決まると、売上原価が差額で決まる期首 5,000+仕入 26,400 = 売上原価+期末。この設例(先入先出法)では期末 10,600、売上原価 20,800。
棚卸資産の評価方法は、期末の金額を出す方法であると同時に、売上原価を決める方法でもある(第26-2項)。
基礎 1
なぜ棚卸資産の評価が大事か ── 期末の金額が、そのまま利益を決める
📍 ラボの場所:基礎タブ 1
ハルカ
期首 5,000 と仕入 26,400 の合計 31,400 が、売上原価 20,800 と期末 10,600 に分かれています。
先生
期首+仕入=売上原価+期末、という箱の関係なんだ。期末の金額が決まれば、売上原価は差額で決まる。だから期末の評価が、そのまま利益を決めるんだよ。
ハルカ
これ、未実現利益ラボで「利益を減らすのは、期末に残った在庫の中の利益だけ」と習った話に似ています。
先生
よく覚えていたね。連結でも単体でも、期末に残った在庫の金額が利益を動かす点は同じなんだ。今日はその在庫の単価をどう決めるかを見ていくよ。
迷いポイント 期末を多めに数えても、利益が少し増えるだけ?
ハルカ
期末を少し多めに見ても、翌期に売れば同じことなので、大きな問題ではない気がします。
先生
回収できない原価を翌期に繰り越すことになるんだ。損失を先送りすることになるので、期末を高くしすぎてはいけないよ(第36項)。
ハルカ
在庫を数える日は、利益を数える日でもあるんですね。棚卸の日に急に緊張してきました。
先生
その緊張は正しい反応だよ。数量の誤りも単価の誤りも、そのまま利益の誤りになるからね。
💡 そうだったのか!
期首+仕入=売上原価+期末。
期末の金額を決めると売上原価が差額で決まるので、期末の評価がそのまま利益を決めます。
📗 基礎 2 ラボの図
5つの箱をクリック。このラボの導入設例(独自の数値)で、各段で何をするかを表示します
① 取得原価:購入代価(製造原価)に、引取費用などの付随費用を加える(第6-2項)購入品は購入代価+引取運賃・購入手数料・関税など。製品・仕掛品は原価計算で集計した製造原価。
取得原価が「売上原価」と「期末の棚卸資産」に分かれる元の金額になる。
基礎 2
5段の流れ ── 取得原価 → 払出計算 → 期末の評価 → 表示・注記 → 翌期
📍 ラボの場所:基礎タブ 2
ハルカ
①取得原価、②払出計算、③期末の評価、④表示・注記、⑤翌期。5つの箱が並んでいます。
先生
このラボは全部のタブでこの5段を使うんだ。①で元の金額を決め、②で売上原価と期末に分け、③で値下がりを反映する。④で見せ方を決めて、⑤で翌期にどう引き継ぐかを決めるよ。
迷いポイント 「評価方法」と「評価基準」は同じ意味?
ハルカ
先入先出法も、値下がりしたら切り下げるのも、まとめて「評価方法」だと思っていました。
先生
基準では分けているんだ。②の払出しの単価を決めるのが評価方法、③で正味売却価額と比べて切り下げるのが評価基準だよ。段が違うので、順番に考えるんだ。
💡 そうだったのか!
流れは
取得原価→払出計算→期末の評価→表示・注記→翌期の5段。評価方法は②、収益性の低下による切下げは③の話です。
📗 基礎 3 ラボの図
購入代価に、引取費用などの付随費用を加えたものが取得原価(第6-2項)付随費用の範囲は企業会計原則・連続意見書第四の考え方による(基準は「引取費用等」と例示)。
税務では、少額の付随費用(購入代価のおおむね3%以内)を取得価額に入れないことができる取扱いがある(税務調整タブ)。
基礎 3
取得原価 ── 購入代価・製造原価に、付随費用を加える
📍 ラボの場所:基礎タブ 3
ハルカ
購入代価 100 に、引取運賃 6、購入手数料 3、関税 5 が黄色で積み上がっています。
先生
購入代価に、引取費用などの付随費用を加えたものが取得原価なんだ(第6-2項)。自社で作った製品なら、原価計算で集計した製造原価がスタートになるよ。
迷いポイント 付随費用は、1円残らず取得原価に入れる?
ハルカ
検収や保管の人件費も、厳密には付随費用ですよね。全部配らないといけないのかと思いました。
先生
基準が認める範囲で、費用の性質や重要性を踏まえて会社が方針を決め、継続して当てはめるんだ。税務にも、買入事務や検収・保管など通達で指定された費用に限り、購入代価のおおむね3%以内なら取得価額に入れないでよい扱いがあるんだ。
💡 そうだったのか!
取得原価は
購入代価・製造原価+引取費用等の付随費用。含める範囲は、基準が認める範囲で費用の性質や重要性を踏まえて会社が方針を決め、継続して適用します。
📗 基礎 4 ラボの図
同じ仕入・同じ払出しなのに、方法を変えると期末の金額が変わる?
先入先出法:最も古く取得したものから払い出したとみなす(第6-2項(2))期末は最も新しく取得したもので構成される → 期末の金額が直近の価格水準に近い。
この設例では売上原価 20,800、期末 10,600。物価が上がる局面では、他の方法より利益が大きく出やすい。
基礎 4
評価方法 ── 個別法・先入先出法・平均原価法・売価還元法
📍 ラボの場所:基礎タブ 4
ハルカ
先入先出法だと、期末に残るのは@60 と@64 の新しい仕入なんですね。期末 10,600、売上原価 20,800 です。
先生
古いものから払い出したとみなすからね。ほかに、個別法、平均原価法(総平均法・移動平均法)、売価還元法があって、この4つから選ぶんだ(第6-2項)。
ハルカ
先入先出法は、牛乳を古い順に手前へ並べるお店の棚と同じですね。賞味期限まで面倒を見てくれる方法なんですね。
先生
賞味期限までは見てくれないよ。実際の並べ方ではなく、古いものから出したと「みなす」順番なんだ。
迷いポイント 評価方法は、品目ごとに毎年選び直せる?
ハルカ
今年は利益が出そうなので先入先出法、来年は平均法、と選べたら便利ですよね。
先生
それはできないんだ。事業の種類や棚卸資産の種類などで区分して選び、継続して適用するよ(第6-3項)。変えるなら会計方針の変更になるんだ。
💡 そうだったのか!
評価方法は
個別法・先入先出法・平均原価法・売価還元法から、区分ごとに選んで継続適用します。
⏱ 30秒だけラボで試す
- シミュレーション「評価方法の比較」で、プリセット「仕入単価が上がる局面」を選ぶ
- 3つの方法の期末の金額を見比べる
👀 期末は 先入先出法 10,600、移動平均法 10,438、総平均法 9,705。売上原価+期末は、どの方法でも 31,400 です。
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📗 基礎 5 ラボの図
仕入値が上がり続けるとき、どの方法だと利益が大きく見える?
物価上昇局面では、先入先出法の利益が大きく、後入先出法の利益が小さくなる後入先出法は払出時の価格水準で費用を計上でき、保有損益を期間損益から除くと考えられてきた(第34-5項)。
しかしB/Sの棚卸資産が古い価格で繰り越され、数量が減ると過去の保有利益がまとめて出る(第34-6・34-7項)。IAS第2号が認めないことを重視し、2008年改正で選択肢から削除した(第34-12項)。
最終仕入原価法は、期末の一部だけが実際の取得原価で、残りは時価に近い価額になるため、取得原価基準の方法としては認めない。期末の大部分が最終の仕入価格で取得されている場合や、重要性が乏しい場合に限り容認(第34-4項)。
基礎 5
物価の動きと方法の違い ── 後入先出法が削除され、最終仕入原価法は原則不可
📍 ラボの場所:基礎タブ 5
ハルカ
仕入単価が上がる局面だと、先入先出法の売上総利益 13,400 がいちばん大きくて、総平均法 12,505 が小さいですね。
先生
先入先出法は古くて安い単価が売上原価になるからね。灰色の破線は参考で、後入先出法は 2008年の改正で選択肢から削除されたんだ(第34-12項)。
迷いポイント 後入先出法は、今も選べる?
ハルカ
払出時の価格で費用を計上できるなら、理屈としては筋がよさそうです。
先生
その長所は認められていたんだ。でもB/Sの在庫が古い価格のまま残り、数量が減ると過去の保有利益がまとめて出る。国際的な基準が認めないことも重視して、削除されたんだよ。
ハルカ
最終仕入原価法は「原価法」という名前なのに、期末のほとんどが最後の単価になるんですね。名前に安心していました。
先生
期末の一部しか実際の取得原価にならないからね。重要性が乏しい場合などに限って認められているんだ(第34-4項)。
💡 そうだったのか!
物価が上がる局面では先入先出法の利益が大きく出ます。
後入先出法は削除、最終仕入原価法は
原則として認められません。
⏱ 30秒だけラボで試す
- シミュレーション「評価方法の比較」で、プリセット「仕入単価が下がる局面」を選ぶ
👀 期末は 先入先出法 8,920、総平均法 9,829 になり、売上総利益も 先入先出法 11,320、総平均法 12,229 と順番が入れ替わります。
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📗 基礎 6 ラボの図
売れば回収できる金額(正味売却価額)は、帳簿価額を上回っている?
正味売却価額が取得原価を下回ったら、正味売却価額まで切り下げる(第7項)差額は当期の費用(売上原価が原則)。
販売によってしか投資を回収できない棚卸資産では、期末の資金回収額(正味売却価額)が帳簿価額を下回れば収益性が低下したとみる(第37項)。
基礎 6
収益性の低下 ── 正味売却価額が取得原価を下回ったら切り下げる
📍 ラボの場所:基礎タブ 6
ハルカ
取得原価 80 に対して、売価 70 から販売直接経費 6 を引いた正味売却価額が 64。差の 16 を切り下げています。
先生
正味売却価額は、売価から見積追加製造原価と見積販売直接経費を引いた額なんだ(第5項)。これが取得原価を下回ったら、そこまで切り下げて差額を費用にするよ(第7項)。
ハルカ
減損会計でも「正味売却価額」が出てきましたよね。あれと同じものですか。
先生
よく覚えていたね。売ったら回収できる額、という考え方は近いんだ。ただ棚卸資産では、完成までの追加の製造原価と販売直接経費を引くところが違うよ。
迷いポイント 少し下がっただけなら、切り下げなくていい?
ハルカ
昔は「著しく下がったら」評価減でしたよね。少しの下落なら様子を見てもよい気がします。
先生
今の基準は、正味売却価額が取得原価を下回っていれば下落の大きさに関係なく切り下げるんだ。品質の低下や陳腐化も、市場の需給による下落も、同じ収益性の低下として扱うよ(第38・39項)。
💡 そうだったのか!
正味売却価額が取得原価を下回ったら、
正味売却価額まで切り下げて差額を費用にします。評価益は計上しません。
⏱ 30秒だけラボで試す
- シミュレーション「簿価切下げ」で、プリセット「商品:下落 → 回復(洗替え法)」を選ぶ
- 1年目末の売価(単価)を 70 から 85 にする
👀 正味売却価額は 7,900 になり、1年目末の簿価切下額は 1,600 から 100 に減ります。86 にすると正味売却価額が 8,000 になり、切下げはゼロです。
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📗 基礎 7 ラボの図
売価は売却市場の時価。市場価格が観察できなければ、合理的に算定された価額(第8・48項)期末前後の販売実績に基づく価額や、契約で取り決めた一定の売価も含む(第8項)。
相対取引しかない場合も含め、売手が実際に販売できると合理的に見込む価格(第34項)。
正味売却価額は本来、期末に見込む将来販売時点の価額(第41・42項)。
基礎 7
正味売却価額の見積り ── 売価の決め方
📍 ラボの場所:基礎タブ 7
ハルカ
売却市場の市場価格、期末前後の販売実績、契約で決めた売価…。売価の材料がいくつも並んでいます。
先生
棚卸資産は市場価格がないことの方が多いんだ。観察できなければ、合理的に算定した価額を売価にするよ(第8項)。複数の売却市場があるなら、実際に販売できると見込む売価なんだ(第11項)。
迷いポイント 売価は、期末日の1日の値段だけで決める?
ハルカ
期末日に特売をしていたら、その特売価格で全部評価することになるのでしょうか。
先生
期末の売価が突発的に異常な水準なら、期末付近の合理的な期間の平均売価を使えるんだ(第43項)。それに、収益性が下がっていないことが明らかなら、見積る必要もないよ(第48項)。
💡 そうだったのか!
売価は
売却市場の時価。観察できなければ販売実績や契約価格などの合理的な価額を使い、突発的な変動は期末付近の平均で均します。
📗 基礎 8 ラボの図
一定の回転期間を超えたら、規則的に帳簿価額を切り下げる(第9項(2))滞留期間が長いものほど高い率で切り下げる、という社内ルールを継続して適用する方法。
販売実績の把握さえ困難な場合、製造業の原材料等を除けば陳腐化が生じていることが多い(第49項)。
税務では、規則的な切下げ額は原則として損金にならない(税務調整タブ)。
基礎 8
代わりの方法 ── 原材料は再調達原価、滞留品は処分見込価額か規則的な切下げ
📍 ラボの場所:基礎タブ 8
ハルカ
1年超は 20%、2年超は 50%、3年超は 100%。帳簿価額 7,800 から 1,410 を切り下げて 6,390 です。
先生
正味売却価額がつかみにくい滞留品には、処分見込価額まで下げる方法と、回転期間に応じて規則的に下げる方法があるんだ(第9項)。原材料なら、再調達原価を代わりに使えることもあるよ(第10項)。
迷いポイント 滞留品の切下げ率は、会社が自由に決めてよい?
ハルカ
率は社内ルールなので、決算の様子を見ながら決めればいいのでしょうか。
先生
目的は収益性の低下の事実を適切に反映することなんだ。その目的に合う率を決めたら、毎期同じように当てはめるよ。年ごとに率を動かすと、利益の調整になってしまうからね。
💡 そうだったのか!
つかみにくいものは、
処分見込価額か
回転期間による規則的な切下げ(原材料は再調達原価)。どれも率や方法を継続して適用します。
⏱ 30秒だけラボで試す
- シミュレーション「滞留品」で、プリセット「部品在庫(回転期間ルール)」を選ぶ
- 切下げ率の「1年超」を 20 から 30 にする
👀 切下額は 1,410 から 1,530 に増え、切下げ後は 6,270 になります。率の決め方が、そのまま利益に響きます。
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📗 基礎 9 ラボの図
収益性の低下の判断と簿価切下げは、原則として個別品目ごと(第12項)投資の成果は通常、個別品目ごとに確定するため(第53項)。
品目ごとに見ると仕掛品Bだけ正味売却価額が下回るので、Bを切り下げる。
基礎 9
判定の単位 ── 原則は個別品目、適切なら複数品目を一括り
📍 ラボの場所:基礎タブ 9
ハルカ
材料Aと製品Cは正味売却価額の方が高くて、仕掛品Bだけが 800 から 650 に下がっています。
先生
判定は原則として個別品目ごとなんだ(第12項)。だからBだけを 150 切り下げるよ。投資の成果は、普通は品目ごとに確定するからね(第53項)。
迷いポイント 上がった品目と下がった品目は、相殺できる?
ハルカ
A・B・Cを合計すれば 2,400 と 2,490 で、全体では下がっていません。合計で見ればいいのでは。
先生
原則は相殺しないんだ。同じ製品に使う材料・仕掛品・製品のように、まとめる方が投資の成果を適切に示せるときに限って、継続適用を条件にグループで判定できるよ。
💡 そうだったのか!
判定の単位は
個別品目ごとが原則。補完的な関係などでまとめる方が適切なら、継続適用を条件に複数品目で判定できます。
📗 基礎 10 ラボの図
いったん切り下げた後で売価が戻ったら、帳簿価額も戻す?
正味売却価額が回復し、在庫が残っているときだけ結果が違う(第59項)洗替え法:前期の切下額 1,600 を戻し、改めて比べる → 2年目末 7,200(2年目の損益 利益 800)。
切放し法:切り下げた 6,400 が新しい帳簿価額 → 2年目末も 6,400。その分、販売した年の粗利が大きい(1,800)。
3年間の損益の合計はどちらも 200(違うのは年度の配分だけ)。
基礎 10
洗替え法と切放し法 ── 前期の切下額を戻すか
📍 ラボの場所:基礎タブ 10
ハルカ
1年目末にどちらも 6,400 まで下げて、2年目末は洗替え法が 7,200、切放し法が 6,400 のままです。
先生
洗替え法は、前期の切下額 1,600 をいったん戻して、取得原価 8,000 と正味売却価額 7,200 を比べ直すんだ。切放し法は、切り下げた 6,400 を新しい帳簿価額にするよ(第14項)。
ハルカ
減損会計では「戻入れなし」と習いました。棚卸資産も、一度下げたら戻さないんですよね。
先生
よく覚えていたね。でも棚卸資産は違うんだ。洗替え法なら戻すし、切放し法なら戻さない。種類ごとに選べるのが、減損との大きな違いだよ。
迷いポイント 切放し法の方が、利益が少なくなる?
ハルカ
戻さないのだから、切放し法の方がずっと損をしている気がします。
先生
3年間で見ると同じなんだ。切放し法は2年目の利益が出ないかわりに、販売した3年目の粗利が 1,800 と大きくなる。3期通算はどちらも 200 だよ(第59項)。
ハルカ
切放し法は、一度ついたあだ名が卒業まで消えない方式なんですね。
先生
そのあだ名は、売れた日にちゃんと粗利で返ってくるんだよ。
💡 そうだったのか!
洗替え法は
戻してから比べ直す、切放し法は
下げた額を新しい帳簿価額にする。違うのは年度の配分だけで、3期通算の損益は同じです。
⏱ 30秒だけラボで試す
- シミュレーション「簿価切下げ」で、プリセット「商品:下落 → 回復(洗替え法)」を選ぶ
- 方法を「切放し法(戻し入れない)」に切り替える
👀 2年目の損益は 利益 800 から 0 に、3年目の売上総利益は 1,000 から 1,800 に変わります。3期通算はどちらも 200 です。
ラボを開く ▶
📗 基礎 11 ラボの図
簿価切下額は売上原価(第17・62項)販売活動を行う上で不可避的に発生したものなので、売上高に対応する売上原価として扱う。
洗替え法では、前期の戻入額と当期の切下額を相殺した純額で表示し、両者を同じ区分に計上する(第17・65項)。
著しく下落したという理由で営業外費用や特別損失にはできない(従来の強制評価減の余地はない、第64項)。
基礎 11
表示と注記 ── 原則は売上原価、臨時・多額なら特別損失
📍 ラボの場所:基礎タブ 11
ハルカ
P/Lの図で、売上原価に「簿価切下額を含む」とあって、営業外費用には大きく × が付いています。
先生
簿価切下額は、販売活動で避けられないコストとして売上原価に入れるのが原則なんだ(第17項)。製造に関連して避けられないものは製造原価にするよ。金額は注記するか、内訳として独立掲記するんだ(第18項)。
迷いポイント 大きく下がったら、特別損失にできる?
ハルカ
金額が大きいと本業の利益がゆがむので、特別損失に逃がしたくなります。
先生
著しく下がったという理由だけでは、営業外費用にも特別損失にもできないんだ(第64項)。特別損失は、災害や重要な事業部門の廃止のような臨時の事象が原因で、かつ多額のときだけだよ。
💡 そうだったのか!
簿価切下額は
原則として売上原価(製造に関連すれば製造原価)。臨時の事象が原因で多額なときだけ特別損失です。
📗 基礎 12 ラボの図
時価をもって貸借対照表価額とし、帳簿価額との差額(評価差額)は当期の損益(第15項)時価は時価算定基準第5項の定義(出口価格)による(第4項ただし書き)。
購買市場と販売市場が区別されない、活発な単一の市場(例:金の取引市場)の存在が前提(第60項)。
基礎 12
トレーディング目的 ── 時価で評価し、損益は純額で売上高
📍 ラボの場所:基礎タブ 12
ハルカ
金 10単位を@500 で買って、期末は@540。評価差額 400 が利益になっています。値上がりでも利益を出すんですね。
先生
トレーディング目的の棚卸資産は、時価で評価して、差額を当期の損益にするんだ(第15項)。損益は純額で売上高に表示するよ(第19項)。売買目的有価証券と同じ考え方なんだ。
迷いポイント 金を在庫で持っていれば、すべて時価評価?
ハルカ
アクセサリーの材料として金を持っている会社も、時価で評価するのでしょうか。
先生
それは通常の販売目的の原材料なんだ。トレーディング目的は、加工や販売の努力をせずに価格の変動で利益を得る目的で、活発な単一の市場があることが前提だよ(第60項)。
💡 そうだったのか!
トレーディング目的は
時価で評価し、評価差額は当期の損益(純額で売上高)。活発な単一の市場と、価格変動で利益を得る目的が前提です。
今日の内容を、ラボで確かめてみませんか?
この記事の図は、すべて棚卸資産ラボの画面そのものです。基礎タブを開けば、同じ図を見ながら読み返せます。
棚卸資産ラボを開く ▶📝 棚卸資産ラボ【応用編】(原価差異・棚卸減耗・売価還元法・臨時の事象・税務との関係)応用編を読む ▶ 今日のまとめ ── 迷いポイント早見表
おわりに
今日のふりかえり
先生
今日のまとめだよ。期末の金額は数量×単価で、単価は評価方法で払い出しを決めてから、正味売却価額と比べて切り下げる。翌期は洗替え法か切放し法で、3期通算の損益は同じになる。この順番を持ち帰ってほしいんだ。
ハルカ
週末に行くパン屋さんの閉店前の値引きを思い出しました。お店の側から見ると、あれは正味売却価額が下がっている状態なんですね。
先生
個人の家計に会計基準は要らないけれど、身近な例で考えてみるのは、いい練習になるね。お店の帳簿なら、そういう見方になるんだ。
ハルカ
これからは閉店前のメロンパンを見るたびに、心の中で簿価切下げをしてしまいそうです。迷う時間が15分から20分に延びるかもしれません。
先生
迷う時間は損益に影響しないから、安心していいよ。次の応用編では、原価差異、棚卸減耗、売価還元法、臨時の事象、それに税務との関係を見ていこうか。
参考資料
企業会計基準第9号「棚卸資産の評価に関する会計基準」(2006年7月5日公表、2008年・2019年改正、2025年修正。参考の計算例1・2を含む)、原価計算基準、中小企業の会計に関する指針(第25〜29項)、中小企業の会計に関する基本要領(Ⅱ各論6)。基準確認日:2026年10月14日。ラボの設例は、原典の考え方と同じパターンを独自の数値で組み立てたものです(原典の計算例の数値は画面に出していません)。
シリーズ:基礎編/応用編 / 設例編:評価方法編(基礎1・5、応用4・5)・簿価切下げ編(基礎2〜4・6・7)・特別な論点編(応用1〜3・6・7) / 税務調整編 / 関連:減損会計ラボ【基礎編】(回収可能価額・戻入れなし)/未実現利益ラボ【基礎編】(期末在庫に含まれる利益)/税効果会計ラボ【基礎編】(一時差異・繰延税金資産)
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TaxJudge編集部|公認会計士・税理士(実務25年)による企画・監修。会計基準・税法・裁決・有価証券報告書などの一次情報をもとに、検索できるデータベースと計算・判定・文書作成ツールを制作しています。