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経理財務部の物語 第9話(10月17日)|数字の前に、モノがある

経理財務部の物語第9話2026年10月17日(土)・ハルカの部屋・駅前のカフェ・商業ビルの店次:第10話(10月18日)|手帳に書けたのは、十三行
この話の中心ハルカ登場ハルカ・ミキ(大学の同期。海外に店を持つアパレル大手の経理)前の話第8話(10月16日)|止まる仕事を、数える
舞台の会社について(開く)
架空の製造小売。グロース上場・3月決算・子会社3社。店舗68・賃貸借契約80件・経理財務部8人。来期(2028年3月期)から新リース会計基準が強制適用になる。年表・会社のいま・話数一覧は 経理財務部の記録 に。会計の知識は各話の末尾「この話に出てきた知識」からラボと学習ノートへ。
PART 1物語
1

土曜の朝午前中だけ、と決めていた

連結のテキスト今週のノート使用権資産帳簿の上の言葉のままミキ10月17日、土曜の朝。午前中だけ、と決めていた。

2026年10月17日、土曜。
ハルカは9時に起きて、机の上に連結のテキストと、この一週間のノートを並べた。

午前中だけ。
そう決めていた。
月曜から中間連結の締めが始まる。
部長から任された子会社一社分の連結パッケージを、せめて読める状態で迎えたい。

10/17(土)午前:連結の基本を読み直す(パッケージの様式・グループ内取引の相殺)。午後:ミキと買い物。仕事の話はしない
ハルカ
心の声
連結パッケージ。
子会社が親会社に出す、決算の報告の束。
様式は昨日もらった。
ハルカ
心の声
グループの中で売ったものは、外から見れば売れていない。
だから消す。
……ここまでは、教科書どおり。

ノートをめくる。月曜からの一週間は、契約書の言葉で埋まっていた。解約の予告、最低保証、原状回復、5年の特約。

ハルカ
心の声
使用権資産。
この一週間、何十回も書いた言葉なのに、
帳簿の上の言葉のままだ。
ハルカ
心の声
契約書は読んでいる。
でも、その先にあるモノを、私はまだ見ていない。

11時半。スマホが鳴った。ミキからだった。

✉ミキ
12時に駅前のカフェでいい?
午後はカーディガン見たい。寒くなってきた。
2

駅前のカフェ「うちでは普通のことだよ」

店を借りると、資産が増える「うちでは普通のことだよ」12時、駅前のカフェ。ミキは国際基準の会社の経理にいる。
12時。駅前のカフェ。ミキは大学の同期で、海外に店を持つアパレル大手の経理にいる。会うのは半年ぶりだった。
ミキ
ハルカ、顔が仕事してる。
土曜なのに。
ハルカ
してない。
……ちょっとだけ、朝に本を読んだだけ。
ミキ
何の本?
ハルカ
連結。
月曜から中間の締めで、
初めて子会社の分を見ることになって。
ミキ
へえ、任されたんだ。
うちは連結は本社の別のチームだから、私は店の方。
ハルカ
店の方って、何をしてるの。
ミキ
店舗の契約と、使用権資産の台帳。
新しい店ができたら、契約を読んで、
資産とリース負債を立てる。
閉めたら消す。
ハルカ
心の声
使用権資産の台帳。
うちが今、Excelかシステムかで悩んでいる、あれだ。
ハルカ
それ、もう何年もやってるの?
ミキ
うちは国際基準だから。
店を借りると資産が増えるのは、
うちでは普通のことだよ。
入社したときには、もうそうだった。

ハルカは、カップを持ったまま少し黙った。この一週間、80件の契約書を読むために会社中が動き、回付票を作り、台帳の二人目を決めていた。それが、ミキの会社では「普通のこと」だった。

ハルカ
心の声
うちは、遅れているんだろうか。
ミキ
何その顔。
ハルカ
うちは今、80件の契約書を、みんなで読んでる。
大騒ぎで。
ミキ
最初の年はうちもそうだったって、先輩が言ってた。
契約書の棚卸しから始めて、原本がない店があって、
総務と揉めて。
ハルカ
……原本がない店。
ミキ
あるある。
遅れてるんじゃなくて、順番が来ただけ。
先にやった会社も、同じところで転んでる。
土曜の駅前。
ハルカ
心の声
順番が来ただけ。
……そう思えたら、少し楽だ。
ミキ
はい、仕事の話おしまい。
そういえば、春に言ってた引っ越し、したの?
ハルカ
してない。
物件を見に行く時間がなくて。
ミキ
経理が繁忙期に物件探すの、無理だよ。
私も去年、結局いまの部屋を更新しちゃった。
ハルカ
……更新。
ミキ
ほら、また契約の顔になった。
ハルカ
なってない。
……ミキは、仕事どう? 大きい会社って、楽しい?
ミキ
人が多すぎて、
自分のやったことがどこに効いてるのか分からない。
ハルカの会社の大騒ぎ、ちょっとうらやましいよ。
ミキ
はい、本当におしまい。
カーディガン。
3

駅ビルの店場所を使う権利

棚:買ったもの?照明:契約しだい売場:使う権利建物:大家のもの棚は買ったものかもしれない。でも、この売場を使う権利は、資産で載っている。
午後1時半。駅ビルの3階。フロアの半分が、ミキの会社の店だった。
ミキ
紺か、グレーか。
ハルカは紺でしょ。
ハルカ
紺。
……ねえ、この棚って。
ミキ
また始まった。
ハルカ
ごめん。
でも、この棚も照明も、この建物も、
全部借りものなんだなって。
ミキ
全部とは限らないよ。
棚はうちが買ったものかもしれない。
でも、この売場を使う権利は、
帳簿に資産として載ってる。
ハルカ
場所を使う権利、か。
ミキ
そう。
毎日ここでお客さんを迎えてるけど、
建物はうちのものじゃない。
ハルカ
心の声
棚は買ったもの。
売場は、使う権利。
モノを見ても、契約を見ないと、
どちらかは分からない。
紺か、グレーか。駅ビルの店。
ハルカ
それで、家賃はどうなるの。
ミキ
払う家賃が同じでも、帳簿の費用の出方は変わる。
減価償却と利息に分かれて、
だいたい最初の方が多くて、後になるほど少なくなる。
ハルカ
払うお金は同じなのに、形が変わる。
ミキ
短期のリースや少額資産のリースには、例外もあるけどね。
私は2年目で慣れた。
ハルカ
心の声
払うお金は同じ。
形が変わる。
……うちの店も、来年の4月から、そう見える。
ハルカ
ミキの会社は、この店を借りたとき、何年で載せたの。
ミキ
それは言えない。
でも、「契約の年数」と「何年いるつもりか」は別、
っていう話は、うちでも毎回もめる。
ハルカ
心の声
合理的に確実。
あの言葉は、どの会社でも、人を悩ませている。

ハルカは、紺のカーディガンを一枚買った。レジで、ミキが小さく言った。

紺レシート合計 *,***円休日の買い物。
ミキ
この売上も、月末にはうちの本社の数字になる。
……って、私も仕事の顔してるね。
ハルカ
お互いさま。
4

夜数字の前に、モノがある

紺のカーディガン数字の前に、モノがある。夜8時。ノートに、一行だけ。
夜8時。部屋に戻って、買ったカーディガンを椅子にかけた。机の上のノートは、朝のまま開いていた。
ハルカ
心の声
今日、服を一枚買った。
それだけのことで、一週間分の契約書が、少し違って見える。
ハルカ
心の声
80件の契約書。
その一件一件の向こうに、店があり、倉庫があり、
そこで働く人がいる。
ハルカ
心の声
月曜に見る連結パッケージも、同じだ。
子会社の数字の後ろに、倉庫があって、トラックがあって、
人がいる。

ハルカはノートの新しいページに、一行だけ書いた。

ハルカ
心の声
数字の前に、モノがある。
ハルカ
心の声
……休みの日に仕事のことを考えるのは、
よくないんだろうか。
でも、今日のこれは、仕事じゃない気がする。

ノートを閉じて、ハルカはカーディガンを一度羽織ってみた。少し大きかった。

結び

土曜日の終わり遅れているのではなく、順番が来ただけ

契約書の一件一件の向こうに店があり、倉庫があり、そこで働く人がいる明日は日曜。大野部長は、家で何を考えているだろう。

土曜日が終わる。
ミキの会社では「普通のこと」が、ハルカの会社では、来年の4月から始まる。

遅れているのではなく、順番が来ただけ。
先にやった会社も、同じところで転んでいた。
原本がない店、総務との揉めごと、「何年いるつもりか」の議論。

数字の前に、モノがある。
契約書の一件一件の向こうで、人が働いている。

明日は日曜。
大野部長は、家で何を考えているだろう。

次の話へ持ち越したこと
  • 中間連結の締め(10月19日〜) ── ハルカが子会社のうち一社分の連結パッケージを確認。「数字の後ろにモノがある」目で見る
  • 使用権資産の台帳 ── 先にやった会社でも、契約書の棚卸し・原本のない店・「何年いるつもりか」で同じように悩んでいた(ミキの話。社内では使わない)
  • 読み取りの残り件数の確認は来週金曜(10月23日)。期限は11月中旬のまま
  • 第10話(10月18日・日)は大野部長の休日
学び

この話の学びと、ミキの言葉

ハルカの反省と学び
1数字の前に、モノがある
使用権資産は帳簿の上の言葉ではなく、「この売場を使う権利」のこと。契約書を読むときも、連結パッケージを見るときも、その後ろにある場所と人を思い浮かべる
2遅れているのではなく、順番が来ただけ
先に新しい会計を始めた会社も、契約書の棚卸しと原本のない店で転んでいた。自分の会社の大騒ぎは、珍しいことではない
3休みの日の考えごとは、仕事と少し違う
机で読む連結のテキストより、店で見た棚の方が、使用権資産を分からせてくれた。休むことと、考えないことは別
ミキの言葉(別の会社の経理から)
1店を借りると、資産が増える
国際基準の会社では何年も前からの日常。載るのは「売場を使う権利」で、棚や照明は契約しだい。家賃は「減価償却と利息」に形を変え、だいたい最初の方が多く出る(短期のリースや少額資産のリースには例外がある)
2「契約の年数」と「何年いるつもりか」は別
先に始めた会社でも、リース期間の判断は毎回もめる。「合理的に確実」は、どの会社でも人を悩ませている
3最初の年は、契約書の棚卸しから
原本がない店、総務との揉めごと。先にやった会社も同じところで転んでいた。順番が来ただけ
PART 2学ぶ世界へ・前後の話
→

この話に出てきた知識・前後の話

この話に出てきた知識(学ぶ世界へ)
経理財務部の物語|第9話|2026年10月17日(土)
前の話:第8話(10月16日)|止まる仕事を、数える / 次の話:第10話(10月18日)|手帳に書けたのは、十三行 / 記録ページ(年表・会社のいま・話数一覧) / ハルカの学習ノート(リース会計ラボの章)

この物語は、上場企業の経理財務部の実務をモデルにしたフィクションです。登場する会社・人物・団体は架空のもので、特定の監査法人・企業・製品の手続や見解を描くものではありません。会計・税務の記述は公認会計士・税理士が監修しています。製品名・サービス名は本文に出てきません。

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この記事を書いた人

TaxJudge編集部|公認会計士・税理士(実務25年)による企画・監修。会計基準・税法・裁決・有価証券報告書などの一次情報をもとに、検索できるデータベースと計算・判定・文書作成ツールを制作しています。